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秋田県の風力発電の現状

わが国は電力の供給不足が深刻な問題となっている。3月11日に発生した東日本大震災は、地震と津波の被害だけでなく、原子力発電所の事故により放射性物質の飛散や電力不足を引き起こした。そうした中、原子力に代わるエネルギーとして再生可能な自然エネルギーの利用拡大への動きが高まっている。本稿では秋田県の風力発電の現状について調査し、本県の新エネルギー導入に向けた新たな取り組みについてまとめた。

1 はじめに

 3月11日に発生した東日本大震災は国内観測史上最大となるマグニチュード9.0を記録し、東北地方に大きな被害をもたらしたほか、福島第一原子力発電所の事故の影響により、東北地方および関東地方は電力の供給不足が深刻な問題となっている。地震発生直後の14日には、関東地方や東海地方の一部において計画停電が開始され、国民生活や企業の生産活動に大きな混乱を招いた。また、この夏には電力の需給ギャップが拡大するとして、政府は東京電力・東北電力管内の企業など大口・小口電力需要家や一般家庭の節電目標を猛暑だった昨年の電力需要を前提に一律15%程度削減する方針を示しているが、今夏の停電を回避できるかどうか予断を許さない状況が続いている。
 そうした中、国内の原子力、石油、石炭を中心としたエネルギー政策を見直し、再生可能な自然エネルギーの利用を拡大する動きが高まっている。本県においても平成21年度に策定された「ふるさと秋田元気創造プラン」の中で、地球に優しいエネルギーの導入促進と関連産業の創出・育成の方向性が示され、様々な取り組みが進められている。

2 再生可能エネルギーとは

 「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用および化石エネルギー原料の有効な利用促進に関する法律」によると、再生可能エネルギーとは、「エネルギーとして永続的に利用することができると認められるもの」として、太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、大気中の熱その他の自然界に存する熱、バイオマスが規定されている。一方、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」では、再生可能エネルギーのうち、技術的に普及段階にあるものの経済性等の面での制約から普及が進展しておらず、普及のために支援を必要とするものを「新エネルギー」と位置付けている。「再生可能エネルギー」、「新エネルギー」、「自然エネルギー」はほぼ同義で使用されているが、法律による定義があり、若干留意する必要がある。

3 国内のエネルギー需給動向

 まず国内のエネルギー需給動向から新エネルギーの現状について考察する。
(1)エネルギー消費の動向
 国内最終エネルギー消費の推移についてみると、産業部門では、1954年から73年まで19年間続いた高度経済成長期には右肩上がりでエネルギー消費量は増加したが、73年および79年の二度にわたるオイルショックを契機に産業界では省エネルギー化が進み、90年以降、近年まで概ね横這いで推移している。一方、民生部門では、第一次オイルショックがあった73年度と直近の2008年度を比較すると、2.5倍に増加している。経済成長とともに国民の生活が豊かになり、1950年代後半には電化製品の「三種の神器」と呼ばれるテレビ、洗濯機、冷蔵庫が生活必需品として急速に一般家庭に普及し、その後もライフスタイルの変化に追随するようにエネルギー消費量は増加の一途を辿っている。また運輸部門においても、一般家庭に自家用自動車が普及したことが要因となり、エネルギー消費量はほぼ倍増している。
 国内エネルギーの消費量は産業部門が概ね横這いで推移するなか、個人のライフスタイルの変化により、民生部門、運輸部門の消費が高い伸びを示していることが分かる。

(2)エネルギー供給の動向
 次に国内一次エネルギー総供給量の推移についてみると、エネルギー供給量についても消費量の増加に比例するように増え続けている。わが国では1966年に最初の商用原子力発電として茨城県東海村に東海発電所が建設されているが、原子力発電が導入される前年の65年度と2008年度を比較すると、供給量は約3.4倍に増加している。
 1965年当時は石油が国内の一次エネルギー(*1)の主力であったが、73年の第一次オイルショックにより、石油に代わるエネルギーとして原子力、天然ガス、石炭等の利用拡大が推進された。また79年の第二次オイルショック時には、新エネルギーの開発が推進され、総供給量に占める石油の割合は減少していったが、近年においても依然として総供給量の8割は化石エネルギーに依存しており、非化石エネルギーのうち新エネルギーの割合はわずか3%程度にすぎない現状にある。
(*1)「一次エネルギー」とは、石油、石炭、天然ガスなどの化石エネルギーや原子力、水力、新エネルギーなどの非化石エネルギーのことを指し、これらのエネルギーを加工して作られる電気、都市ガス、ガソリン、軽油などを「二次エネルギー」と呼ぶ。

4 風力発電の現状

 国内一次エネルギー供給量の3%を占める新エネルギーには太陽光、地熱、バイオマスなど自然環境の中から永続的かつ枯渇することのない様々なエネルギーが含まれているが、「ふるさと秋田元気創造プラン」の中で本県が注力している風力もこの中に含まれる。

 風力発電は、風の力を利用して風車を回し、ブレード(羽根)の回転運動を発動機に伝え電気エネルギーに変換する。風力エネルギーの約40%を電気エネルギーに変換することができるため効率性に優れており、太陽光や地熱など他の新エネルギーと比較しても発電コスト・CO2削減費用が低く、事業採算性も高いとされている。

(1)導入量
 全国の風力発電の導入量の推移をみると、2000年代に入って総設備容量、設置基数ともに急増している。2003年4月にRPS法(電気事業者による新エネルギー等に関する特別措置法)が施行され、電気事業者は新エネルギーから発電される電気を一定割合以上利用することが義務付けられた。そのため風力発電など新エネルギーで発電された電力を電気事業者に売電することが可能になり、売電事業を目的とした設置が増加している。10年3月末現在では、約2,186千kW、1,683基設置されている。ただし、国が定めた2010年度の普及目標3,000千kWの約3分の2に過ぎない現状にある。
 地域別では風況に恵まれた北海道、東北、九州に多く設置され、なかでも北海道と青森県は大型風車を集合設置したウィンドファームの運用を開始しているため、他県と比較して突出している。本県も総設備容量では全国第5位(124千kW)、設置基数では同4位(104基)と健闘しており、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が示している風況マップでも、本県の沿岸線沿いは風力発電の設置に適していることが分かる。

(2)設置者
 県内では1997年度に秋田市向浜にある旧秋田空港跡地に㈱秋田ウインドパワー研究所が県内初となる風力発電を設置している。設置者をみると、県内企業のほか大手企業やNPO法人などもみられ、主に売電事業を目的としている。
 2002年度には潟上市天王にNPO法人北海道グリーンファンドによる市民風車(*2)が設置されている。市民風車はその後2005年度に秋田市にも設置され、県内には合計3基ある。
 また、地方自治体による風力発電も2基設置されている。大潟村にある「道の駅おおがた」では、産学官連携による地域版スマートグリッド(次世代電力網)の実証実験が行われており、道の駅で使う電力の一部を風力発電、太陽光発電、燃料電池を組み合わせた発電システムによって賄っている。発電量は最大約17kWで、自然エネルギーで発電した電力は直流で供給されるため、エネルギーロス(*3)を低減することができる。
(*2)市民からファンド形式で集めた資金で建設された風車。風力発電事業者から資金返済の後、出資者へ分配金が支払われる。
(*3)電力会社から一般家庭に送られてくる電流は交流のため、家庭で使用する電化製品の内部で交流を直流に変換して作動している。この変換時にエネルギーロスが生じる。

(3)全量固定買取制度
 2012年度から再生可能エネルギーで発電された電気について、国が定める一定期間・価格で電気事業者が全量買い取る新制度が導入される。風力発電については、買い取り期間が15~20年の範囲内、価格は15~20円/kWhの範囲内で定められる。本制度の導入に伴い、前述のRPS法は廃止され、「一定割合以上の利用」から「全量の買い取り」に制度が変わることから、今後、風力発電の建設は増加していくものと考えられる。

(4)課題
 風力発電はCO2を排出しない、夜間でも発電可能といったメリットがある一方で、環境面や技術面においての課題も多い。
・季節や天候に左右され、発電が安定しない
・電波障害
・騒音問題
・景観問題
・バードストライク(鳥が風車に衝突する事故)
・安定的な送電のための技術開発
・コストダウン
 これらの課題等に対処するため、洋上風力発電や大型蓄電池等の導入に向けた技術開発や支援が必要である。

5 新エネルギー導入に向けた新たな取組

 福島第一原子力発電所事故の影響により、原子力発電の危険性が叫ばれる中、浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の全面停止が決定したため、全国的に電力不足になる懸念がさらに広がっている。国内には現在54基の原子力発電所が設置されているが、当面、新たな設置・稼働は難しく、LNG(液化天然ガス)などの火力発電で代替対応せざるを得ない。県内においても東北電力が能代火力発電所に大量の電力が貯蔵できる大規模蓄電池「NAS電池」を導入し、世界に先駆けて年内運用を目指しているほか、秋田火力発電所の敷地内に出力33万3千kWのガスタービン発電機の建設を決定し(来年7月運転開始予定)、電力供給不足への対応を急いでいる。
 一方、大手企業による新エネルギー導入に向けた動きも活発化している。外食産業大手のワタミは、にかほ市に風力発電の建設を予定している市民風車発電(札幌市)に貸付金として資金を拠出し、来春から風力発電事業に参入する。風力発電によって得た電力とグリーン電力証書(*4)を購入し、ワタミグループで運営する介護施設で使用するとしている。
 また、ソフトバンクと本県など19の地方自治体は、自然エネルギーの普及に向けた「自然エネルギー協議会」を7月に秋田市で開催される全国知事会議の席上で設立すると発表した。全国にある休耕田や耕作放棄地を利用して大規模太陽光発電所(メガソーラー)を各地に分散して建設し、災害リスクを抑え、電力会社に依存しない仕組みづくりを目指す。本県でも沿岸部を含めてまとまった規模の県管理地を提供していくことを検討するとしている。
(*4)再生可能エネルギーによって得られた電力の環境付加価値を証券化したもの。市場で取引が可能である。

6 まとめ

 折しも県では「秋田県新エネルギー産業戦略」を策定し、風力、地熱、大規模太陽光発電(設備容量1千kW以上)の導入により、新エネルギー等供給の先進県を目指すこととしている。7月には「あきたグリーンイノベーション総合特区構想」を国に申請する予定で、その構想の一つとして男鹿市船越-秋田市向浜沿岸20キロに大型風車40~45基によるウィンドファームの建設が計画されている。
 本県は風力発電のほかにも、地熱、水力、バイオマスなどの自然エネルギーに富んだ地である。資源の少ない我が国が電力供給の約30%を占める原子力発電を直ちに廃止することは現実的に難しい。しかし、省エネ技術によって過去二度のオイルショックを克服してきたように、今こそ原子力に依存しないバランスの取れたエネルギー政策に転換させ、新エネルギーの技術革新を進めていかなければならない。そのためにも、電力送電網の分離や再生可能エネルギーの全量固定買取制度を早期に導入させ、新エネルギー分野に企業が参入しやすい環境づくりが必要である。再生可能エネルギーと省エネルギーの両面から大胆な戦略に取り組み、新エネルギー先進県の実現を目指してもらいたい。

(山崎 要)

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