経営随想
ローカル鉄道は地域の宝 ―由利高原鉄道社長に就任して1年3か月―
(由利高原鉄道株式会社 代表取締役社長)
由利高原鉄道の現状
昨年6月下旬に特に縁もなかった秋田県の第3セクター鉄道「由利高原鉄道(以下「由利鉄」)の社長に就任して1年3か月が過ぎました。日本全国ローカル鉄道はどこも経営が苦しく、中小民営鉄道と第3セクター鉄道計100社弱のうち9割が年間収支は赤字となっています。中小民鉄は第3セクターほど自治体からの応援がないため、他の事業の補填や自治体の援助もむなしく力尽きてしまったのが、同じ東北地方の「十和田観光電鉄」や長野県の「長野電鉄屋代線」です(ともに本年3月末で廃止)。
私は着任する前から、ローカル鉄道の経営を健全化するには地域の活性化とセットでないと難しいと漠然と思っていました。特に秋田県は人口の減少や少子化のペースが大変早く、さらに渋滞や駐車場難とほぼ無縁の車社会が構築されており、どこへ行くのも車という文化がすでに定着しています。通称国鉄再建法が公布され全国でローカル線廃止反対運動が盛り上がった「乗って残そう○○線」の時代とはそもそも環境が大きく変わってしまったのです。由利鉄は現在でも通学のお客様がメインです。しかし、国鉄矢島線の時代4両のディーゼルカーが高校生のお客様で満員であったことを考えると、現在は都会の朝のラッシュアワーの混雑を考えれば1両でも足りるのではないかと思われます(そんなことはしませんが…)。
こちらへ来て感じたのですが、そもそも集落から遠い人も多く、親が通勤のついでに高校生を送ったりするケースもかなりあります。都会は周辺部へ行かなければ車通勤という概念がありません。さらに当鉄道は、かつて羽後本荘駅から徒歩圏内だった「本荘高校」「由利高校」「由利組合総合病院」が駅から徒歩では遠い場所に移転し、高校生のみならずそれまでお客様だった交通弱者といわれるお年寄りもマイカーやバスに奪われる結果となってしまいました。地域の方に「由利鉄にぜひ乗ってください」とお願いしても生活自体が車利用になっているので簡単にはいきません。
鉄道は何のためにあるのか
鉄道は、かつては貨物や人を運ぶためでそれこそなくてはならない公共交通機関でした。近年人を運ぶ部分が新幹線を除いてマイカーや高速バス、航空機に押され、貨物の部分は完膚なきまでトラックにやられてしまってかつての陸の王者「鉄道」は都市部を除いて見る影もありません。かくいう私も由利鉄を使っての通勤時間は車通勤の倍近くかかります。
しかし、利便性や速度だけで議論してよいものでしょうか?鉄道があるということは全国で販売されている「列車時刻表」に地名が載っていて、人の目に触れる機会は圧倒的に多いのです。鉄道があるからこそ地図や時刻表に載り、それを目当てにいらっしゃるお客様もいらっしゃるのです。万が一鉄道が消えたらこの沿線の町はさらに過疎化が進むことを断言しておきます。鉄道はあるだけで地域のシンボルになり得るし、自動車や船には生まれにくいドラマが生まれるのです。
外からのお客様を増やす
昨年来数々のイベント列車の企画を打ち出し、地元の由利本荘市や秋田県内のお客様も確かに増えましたがやはり限界はあります。私の基本的な考えは、外からお客様に来て頂いて、鉄道に乗るばかりでなく、地域にお金を落としてもらって経済の活性化や雇用の促進とセットで経営の健全化を図るというものです。一人のお客様がこの地域に宿泊したり、食事を取ったり、お土産を買ったりすれば1泊2日でも最低1万円は使ってくれるでしょう。こうした形で経済の循環と雇用を生み出すことを基本的な考えとしています。そのために私はまず営業活動に力点を置きました。鉄道だって営業しなければジリ貧です。まずマスコミ関係にお伺いして露出が増えるようお願いしました。秋田県ばかりでなく東京へも行きました。
次は旅行会社です。三十数年在職していた業界ですので仕組もわかるし多少は人脈も生きました。なかでも団体旅行主体の会社は一挙に大勢送客してもらえるし、お土産もたくさん買っていただけます。それには乗車券を旅行会社で発行した場合の「クーポン契約」が必要で手数料を10%支払わなくてはならないのですが、鉄道は満員でも空っぽでも原価は変わらないので大手旅行会社10社弱と契約しました。
首都圏や関西圏のように日帰り圏に多くの人口を抱えるローカル私鉄は、SLを運行したりJRから古い国鉄型の気動車を購入して話題になっていますが、アクセスの悪い秋田で同じことをやっても費用対効果に?がつきます。やはり正攻法で臨みます。
ただ、自社だけでは解決できない課題もたくさんあります。多人数で食事できる場所を開拓したり、トイレ休憩の場所を増やしたりすることは粘り強く商工会や自治体などに話をしなければなりません。それでもマスコミに取り上げられる回数が増え、外からのお客様が増えてくるとそれまで冷めていた人々の目も輝いてきているように感じます。
現在は鉄道そのものがブームで追い風ですが、これこそ鉄道が地域の活性化のシンボルであり、地域になくてはならない宝である証であると思います。
最後に9月中旬にホームページを全面リニューアルしました。現在はやりのTwitterやfacebookとも連動した見やすいページにしました。ぜひ訪れていただきたいと思います。
アドレスは、https://obako5.comです。
引き続き精一杯頑張りますのでぜひ「由利鉄」を様々な角度から応援いただければ幸いです。
会 社 概 要
1 社 名 | 由利高原鉄道株式会社 |
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2 代表者名 | 代表取締役社長 春田啓郎 |
3 所 在 地 | 〒015-0404 秋田県由利本荘市矢島町七日町字羽坂21-2 |
4 電話番号 | 0184-56-2736 |
5 Fax番号 | 0184-56-2850 |
6 設立年月日 | 昭和59(1984)年10月31日 |
7 資本金 | 1億円 |
8 年商 | 94,503千円 |
9 従業員数 | 34名 |
10 事業内容 | 第1種鉄道業 |
11 小史 | 昭和60年10月旧国鉄矢島線が第3セクター由利高原鉄道に転換した。当初7期は黒字もその後昨期まで連続20期赤字。昨年6月末より旅行会社経験の長い春田啓郎が公募により社長に就任し、「ロ-カル鉄道は地域の宝」を合言葉に経営健全化のために様々な施策を出して取り組んでいる。 |