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「買い物弱者」を支える地域の取組みについて

 大型店の郊外への集積、インターネット取引の拡大など、買い物環境が多様化する一方、こうした環境の変化によって、日常の買い物に困難を感じる「買い物弱者」と呼ばれる人が増えている。農林水産省の研究機関・農林水産政策研究所の推計によると、秋田県の「買い物弱者」は9.7万人で、このうち65歳以上が半数を占めた。
 買い物弱者対策については、行政の支援をきっかけに、県内でも様々な取組みがあり、広がりをみせている。対策には福祉的な要素も求められており、運営面、採算面では課題が残るものの、地域住民と事業者、行政とが連携して、地域の実情に応じた対策を立て、事業を継続・発展させることが、将来的には地域の活性化に繋がると期待される。

1 「買い物弱者」とは

 「買い物弱者」とは、住んでいる地域で食料品や生活用品など日常の買い物のほか、生活に必要なサービスを受けるのに困難を感じている人のことである。
 農林水産政策研究所では、自宅からスーパーなど生鮮食料品店までの直線距離が500メートル以上離れ、車を持っていない人を「買い物弱者」と定めている。
 全国的にはこれまでも、中山間地など高齢者が多く暮らす過疎地で、その対策が課題となっていたが、最近では、都市部の住宅街や市街地でも買い物弱者が増えつつある。

2 買い物弱者の推計値

(1)全国の買い物弱者は910万人
 農林水産政策研究所(平成24年3月調査)によると、買い物弱者は全国で910.0万人となり、総人口に占める割合は7.1%であった。
 都道府県別にみると、人口に占める割合が最も高かったのが長崎(10.6%)で、次いで北海道(10.0%)、兵庫(9.9%)となった。一方、割合が最も低かったのは東京(4.1%)で、次いで山形(4.9%)、沖縄(5.1%)となった。

(2)秋田県の買い物弱者は9.7万人
 同調査における秋田県内の買い物弱者は、県人口の8.4%にあたる9.7万人であった。本県は青森、熊本と同じ割合で、全国で13番目に高くなっている。このうち、65歳以上が4.9万人と、全体の半数を占めており、高齢層を中心に、対策問題は特に深刻化している。

3 買い物弱者が生じる背景

 買い物弱者が生じる理由としては、
・住民の高齢化による車を運転できない、車を持たない人の増加
・郊外型の大型店の進出
・競争激化に伴う地元小売店の廃業・閉店
・定期バス路線等公共交通機関の廃止などが挙げられ、いくつかの要因が重なり合って発生している。
 平成22年国勢調査(総務省)によると、本県の65歳以上人口の割合は29.6%で、全国で最も高くなった。全国平均(23.0%)を6.6ポイント上回っているほか、平成17年調査(以下、前回調査)と比べて2.7ポイント上昇するなど、高齢化が進行している。
 また、直近の商業統計調査(経済産業省)によると、県内の小売業の事業所数は、平成6年の18,484事業所から、19年の13,009事業所へ、29.6%(5,475事業所)減少した。従業者50人以上の店舗は増加する一方で、従業者1~4人の小規模店舗の減少が著しく、同期間で36.9%(5,425事業所)減少している。なお、経済センサス(総務省)によると、平成18年10月から21年7月までの約3年間で、小売業の事業所数は1,849事業所減少した。
 近隣商店街の身近な店舗が閉店してしまうと、車を運転できない高齢者は手軽に買い物できる場所を失い、日々の生活を支える食品の買い物さえ苦労することになる。
 買い物弱者の都道府県別の推計値は、平成17年国勢調査と平成19年商業統計を基に推計されたものであるが、高齢化が進み、小規模店舗の減少が続いている本県においては、年々、買い物弱者が増加していると考えられる。

4 経済産業省の補助金で活発化する支援策

 経済産業省では、日常生活に不可欠な「地域生活インフラ(※1)」が弱体化する地域住民のニーズに応えるため、流通事業者や地方自治体等が連携して支援事業を実施することが重要としている。
(※1)「地域生活インフラ」とは、地域で安全・安心・快適な生活を送る上で欠かせない基盤となる、衣食住や交通・医療・金融等のサービスの総称
 同省が作成した「買い物弱者応援マニュアル」では、支援の方法として、
 ①身近な場所に「店を作る」
 ②家まで「商品を届ける」
 ③家から「出かけやすくする」
 を挙げており、買い物弱者が増加傾向にある地域では、この3点が大きな課題イコール対策となっている。
 同省では平成22年度以降、買い物弱者支援事業を公募し、採択された事業に対し費用の3分の2(100万円~1億円)の補助を行う事業を実施している。24年度に採択された全国の事業内訳と本県の支援事業は以下の通りである。

[平成24年度買い物弱者対策関連事業の内訳]

買い物バス・移動支援関連 113事業
宅配事業(買い物代行含む)支援関連 52事業
移動販売事業支援関連 35事業
ミニ店舗開設支援関連 23事業
生活支援サービス関連 35事業
商店街活性化関連 32事業
配食サービス関連 11事業

資料:経済産業省「平成24年度買い物弱者対策関連事業予算(国、地方公共団体)のとりまとめについて」

[平成24年度地方公共団体における買い物弱者支援関連制度一覧(秋田県分)]

自治体名称 支援事業の名称 平成24年度
予算額
概要
秋田県 社会を支える高齢者支援システム構築事業 5,216千円 高齢者の社会参加を支えるため生活基盤の形成を支援するシステム確立のため、23年度に選定したモデル地区に対し、23年度の検討を踏まえた先導的実証モデル事業の実施経費の一部を補助する
成熟型社会対応サービス産業支援事業 4,289千円 今後成長が見込まれる分野における新規事業、あるいは高齢者等を取り巻く社会課題に対する新たな取組に対して経費の一部を補助する
にかほ市 にかほ出前商店街開催事業補助金 200千円 高齢者をはじめとする買い物(交通)弱者の買い物不便の解消のために、商店が少なくなった集落を巡回する(平成22年度から開始)。
羽後町 地域公共交通運行事業 9,000千円 路線バス廃止地域において、高齢者等の交通弱者の通院や買い物などの移動手段を確保するため、タクシー会社が行う予約制乗合タクシー運行事業に対する補助(買い物弱者に限定した支援ではない)。

資料:経済産業省「地方自治体の支援制度一覧ファイル」

 全国的には、宅配サービスや買い物代行に安否確認が附随されている事業が多いほか、空き店舗を活用したミニスーパー、外出支援タクシーの運行など、サービス内容は多岐にわたる。
 求められるサービスが多様化しているほか、地域によって、必要とされるサービスには違いがあるが、この補助事業によって、各地域の買い物弱者支援策が活発化しているといえる。

5 買い物弱者に対する県内の取組み事例

 現在、県内のスーパーやコンビニエンスストアでは、シニア層に向けた売り場づくりや宅配サービス、移動販売車の導入など、買い物弱者に対する支援サービスを積極的に展開している。
 また、インターネットを活用した「ネットスーパー」を運営する事業者も増加傾向にあるが、秋田県が実施した「秋田県買い物動向調査」(平成23年7~8月調査)によると、県内のインターネット利用割合は全体で45.5%、65歳以上のみの世帯ではわずか9.1%であった。そのため、本県の買い物弱者の半数を占める65歳以上の高齢者は、インターネットによる宅配サービスを十分に活用できていないと考えられる。
 今回の調査では、インターネットを利用しない買い物支援サービスへの取組みについて取材し、その一例を紹介する。
(1)身近な場所に「店を作る」
 出前商店街~にかほ市商工会
 にかほ市商工会(佐藤作内会長)では、商店が減少している地区の高齢者や買い物弱者を対象に、平成22年から、その地区の自治会館などを利用して、臨時の移動商店街を作り、買い物を楽しんでもらう取組み「おらほのふれあいべんり市~にかほ出前商店街」(以下、「出前商店街」)を実施している。実施にあたっては「にかほ出前商店街振興会」を設立。その設立から出店に伴う準備等は商工会が事業実施主体となり、秋田県商工会連合会補助金やにかほ市の補助金による支援を受けながら運営し3年目を迎えたが、現在は、振興会が自主的に運営できるような体制づくりに努めている。
 出前商店街は市内7~8か所で開催されており、4~12月の9か月間、月2回のペースで行われている。1~3月は雪害事故等が懸念されるため、休みの期間となるが、実施回数は平成22年度が14回、23、24年度は18回、計50回となっている。出前商店街には、振興会の会員28店舗(平成25年1月現在)のうち14~15店舗が出店しており、野菜、果物、お菓子、鮮魚、種苗のほか、洋服・肌着、靴、化粧品、雑貨なども販売している。好評を得ているのが、建設会社が出店する“包丁研ぎ”で、住宅リフォームの相談にも気軽に対応している。1日2回のお楽しみ抽選会のほか、食堂も準備されている。また、警察署の高齢者安全・安心アドバイザー2名による交通安全指導、オレオレ詐欺に騙されないよう啓蒙活動を行っているほか、エコ活動として、てんぷら油の廃油の回収も同時に行っている。長時間楽しめる工夫が随所にあり、高齢者や買い物弱者の憩いの場ともなっている。
 売る側である商店が消費者のもとへ出向くことで、買い物弱者となっている高齢者の生活を支援するのがもともとの狙いであるが、この事業をきっかけに、大型店への購買力流出などから売上に影響を受けていた地元商店街も活気づいている。
 全国的には、大手チェーンに加盟している事例もあるが、にかほ市では、地元商工会が中心となって継続的な支援を行い、商店街、住民双方に大きな相乗効果が得られている好事例といえる。
(にかほ市商工会 電話 0184-38-3350)

(2)家まで「商品を届ける」 宅配事業と見守りサービス~あきた市民市場メイト
 秋田市では、平成24年8月、日々の買い物が困難な状況にある住民から食料品や日用雑貨等の注文を受け、市民の自宅などに配達する「買い物弱者支援ビジネスモデル構築事業」を開始した。買い物弱者の要望に応えながら、地元商店街の商機も増やそうとする試験的な事業である。運営は、公募により選ばれた「㈱あきた市民市場メイト」が市の委託を受けて行っており、県の緊急雇用創出基金も活用している。
 配達の対象は、開始当初は、秋田市西部(新屋、勝平、浜田、豊岩、下浜)、河辺、雄和の3地区であったが、秋田市中央地区からの問い合わせが多く、11月から対象地域に加えた。
 利用者は、対象地域に配布されているチラシから商品を選び、電話かファックスで注文する。正午までに注文するとその日のうちに配達されることや、購入額二千円以上で自宅への配達料が無料になること、地域の美容院やクリーニング店などの「地域パートナー」へ配達してもらい、商品を自分で受け取りに行く方法を選ぶと配達料が無料になるなど、利便性の良さから高齢者を中心に利用されている。
 受付や配達に関するマニュアルはなく、チラシに掲載していない商品でも、市場内や近隣商店で取扱いのあるものは注文を受け付けている。加えて、配達後に電球の交換や簡単な家具の移動、玄関先の除雪などを行う“10分間サービス”も実施しており、昔ながらの「御用聞き」をイメージさせる。配達スタッフの訪問を楽しみに待つ高齢者もおり、リピーターが多いのが特徴である。周辺住民や遠方で暮らす家族からは、安否確認の見守り効果もあると好評を得ている。
 宅配サービスを開始した平成24年8月1日以降の利用件数はこれまで約150件と、それ程多くない。しかし、12月以降は積雪量が多く、外出が困難な世帯からの新規利用も増えるなど、月ごとの利用数、売上金額が増加傾向にあるという。
 秋田市からの委託期間は25年3月末までとなっているが、利用者からは、今後も事業の継続を望む声が上がっている。
 (㈱あきた市民市場メイト:電話018-893-3917)

(3)家から「出かけやすくする」 地域公共交通~循環バスや乗合タクシー
 路線バス等の公共交通機関は、住民の通勤・通学、買い物、通院等の足として利用されているが、自家用車の普及等により利用者が減少し、需要の少ない路線をやむを得ず廃止する例が相次いでいる。
 地域公共交通の確保が課題となるなか、平成18年の道路運送法改正により、地域の実情に応じた乗合交通を導入しやすい制度が整備された。以降県内では、地域の病院・中心商店街等を巡る循環バスや乗合タクシーなどの導入がみられる。県内における地域公共交通の種類と路線数は次のとおりであるが、自治体がバス会社やタクシー会社に運行を委託している事例やNPO等による有償運送制度などがあり、2年間で83路線増加し、現在は142路線となっている。

県内における地域公共交通の種類と路線数

  平成22年 平成24年
市町村有償運送 11 19
過疎地有償運送 2 2
乗合バス・タクシー(路線・定期型) 0 65
乗合バス・タクシー(路線・予約型) 31 47
乗合バス・タクシー(区域・予約型) 7 8
無料バス 8 1
合計 59 142

資料:秋田県交通政策課調べ 注)数値は、各年4月1日現在

 いずれも買い物弱者に限定した運行・支援ではないが、こうした取組みによって、住民の日常的な移動手段が確保され、地域の商店街等での買い物が可能となっている。

6 まとめ

 今回紹介した事例以外にも、高齢者の買い物を支援する様々な取組みがあり、県内各地に広がりをみせている。
 しかし、各地域で実施されている支援策を、他の地域で同じように展開しても効果が得られるとは限らない。まずは、地域でどのような問題があり、何が必要とされているかを把握した上で、地域住民と事業者、行政とが連携し、効率的、効果的な対策を立てることが必要である。
 県内には9.7万人の買い物弱者がおり、潜在需要は大きいといえるが、買い物弱者支援は福祉的な要素も求められていることから、ビジネスとしては非効率な面もあり、運営面、採算面では厳しい状況にある。行政のサポートや補助金がきっかけとなり始まった支援策については、今後、事業を継続できるかどうかが重要なポイントとなる。
 どの事業も、注目を集め、利用者が増加することで運営がしやすくなる。地域住民への更なる周知を図ることのほか、補助事業が終了したのちにも自主運営できるよう、利用者が多少の負担を分け合うなどの仕組みと体制づくりが急務である。事業を継続し発展させることで、地域の商店街や小規模店舗の再生に繋がることが期待される。

(佐藤 由深子)

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