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社会資本(インフラ)の老朽化への課題と対応

 昨年末の中央自動車道笹子トンネル事故を受けて、老朽化した社会資本(インフラ)の維持管理に向けた課題が浮き彫りとなった。
 高度成長期以降に整備、建設されたインフラが一斉に高齢化を迎え、今後20年間で、建設後50年以上経過する割合が加速度的に高くなる。例えば、道路橋のその割合は、平成24年3月の約16%から、10年後には約40%、20年後には約60%と急増する(国土交通省)。自治体による補修計画策定は進みつつあるが、予算や人材の不足などで対応が進まない現状にもあり、今年4月時点で補修が必要な橋(全国で6万8,800か所)のうち85%で補修が終わっていない。
 高齢化・老朽化が加速するインフラの維持管理・更新の体制をどうつくっていくのか、人材の確保・育成、費用の確保、新技術の取込み等、課題は多く、国民の理解・合意を得ながら、インフラの選択と集中・集約化の観点も含めた戦略的なマネージメントが求められている。
 小稿では、国土交通省所管の社会資本を中心に老朽化の現状と課題・対応について紹介する。

1 はじめに

(1) 社会資本とは、国民福祉の向上と国民経済の発展に必要な公共施設をいい、道路、港湾、工業用地などの産業関連社会資本と、上下水道、公営住宅、病院、学校などの生活関連社会資本に大別される。
 なお、内閣府の社会資本ストック推計の対象となっている主な社会資本は次の17部門であるが、管理すべき対象は広範囲にわたる。

 道路 港湾 航空 鉄道 公共賃貸住宅 下水道 廃棄物処理 水道 都市公園 文教施設 治水 治山 海岸 農林漁業 郵便 国有林 工業用水道

(2) 社会資本ストックの推計
 内閣府では、社会資本の現状を把握するために5年ごとに社会資本ストックの推計を行っている。平成24年に公表された平成21年度の推計は次のとおりである。国家予算の9倍近い規模である。

粗資本ストック: 全 国 768兆円       秋田県  11兆円
純資本ストック: 全 国 369~462兆円   秋田県 5~7兆円

(注)1 粗資本:現存する固定資産を評価時点で新品として調達する価格で評価した価値
2 純資本:粗資本ストックから供用年数に応じた減価を控除した価値。減価を定額法、定率法、割引現在価値化による手法により差が生ずる。

2 老朽化の現状

(1)  国土交通省(以下「国交省」)では、中央道笹子トンネル事故等を踏まえて、この3月に「社会資本の維持管理・更新に関し当面講ずべき措置」をとりまとめた。
 その中で、建設後50年以上経過する施設の割合の例が次のとおり示されている。

[建設後50年以上経過する施設の割合の例]
道路橋:
 H24年3月 約16%   10年後 約40%   20年後 約65%
河川施設:
 H24年3月 約18%   10年後 約30%   20年後 約45%
トンネル:
 H24年3月 約24%   10年後 約40%   20年後 約62%
港湾岸壁:
 H24年3月 約7%    10年後 約29%   20年後 約56%

(注)道路橋:2m以上
   河川施設:水門等
   港湾岸壁:水深―4.5m以深

 なお、このほかに記録が確認できない建設年度不明の橋梁が約30万橋、トンネルが約250本、港湾施設が約9,200施設あることが報告されている。
 ちなみに天井が崩落した笹子トンネルは築35年であり、全国約1万のトンネルのうち3割強は築40年以上と笹子トンネルより古い。

(2) 橋梁の現状
 社会資本の代表例として、橋梁(橋長15m以上)の現状と笹子トンネル事故等を受けた対応についてみてみる。(国交省「道路橋の長寿命化に関する取組状況について」25.7.2公表資料より)

①通行規制等の状況(25年4月時点。以下同じ)
 全国では国道を含めると1,381橋で、5年前に比べて1.7倍となっている。また、通行規制等が実施されている橋梁のうち47%が築後50年以上経過したものである。
②点検実施状況
③長寿命化計画策定状況
④長寿命化計画に基づく修繕実施状況

 点検結果を踏まえた長寿命化計画の策定は着実に進展しているが、計画に基づく修繕は都道府県レベルでも20%台であり、市町村では5%と、まだまだこれからという状況にある。

(3) 学校施設の現状
 学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議が本年3月に「学校施設の老朽化対策について」~学校施設における長寿命化の推進~報告をとりまとめている。それによると、約半数の自治体において、保有している公立小中学校施設の平均築年数が30年を上回り、建築後25年以上を経過した施設が全体の約7割を占めている。
 なお、文部科学省では、平成18年の告示により、平成27年度までの早い時期に完了させる方針で耐震化対策に最優先で取り組んできた。
 文教施設(校舎・体育館)を含む「防災拠点」の耐震化状況(耐震化率―平成23年度末)は全国で79.3%、秋田県では拠点数2,499棟に対し74.2%である(消防庁調査)。
 秋田県では、平成19年に策定した「秋田県耐震改修促進計画」に基づき、県所有建築物(学校、病院、庁舎、公営住宅等)について平成27年度までの耐震化率100%を目標とし、鋭意耐震化を進めているところである。

3 課題

 (社会資本10分野を所管する)国交省の「社会資本整備審議会・交通政策審議会」は、本年5月に「今後の社会資本の維持管理・更新のあり方について」(中間答申)を答申した。
 その中で地公体における維持管理・更新の実施状況に関する課題について、地公体へのアンケート結果から、「体制面、技術面、マネジメント面」及び「国からの支援を期待する事項」に分け、次のとおりとりまとめている。
(1) 体制面、技術面、マネジメント面
a 担当職員の不足
 維持管理・更新にかかる担当職員は、都道府県や政令市では一定数の職員が勤務しているものの、その他の市町村、中でも町村において職員数が少ない。特に技術職員が少なく、市町村によっては、技術職員が全くいないところもある。
 このため、道路の巡視・点検状況をみると、その他市町村では「巡視、点検両方行っている」ところが半数(50.7%)で、巡視のみ(38.0%)・点検のみ(5.9%)・両方とも行っていない(5.5%)計が約半数と、心許ない状況にある。
b 維持管理・更新費用の把握状況
 維持管理・更新に必要となる費用の把握状況は、都道府県及び政令市で約4割、その他の市町村では約7割が必要費用を把握していない状況にある。
 その理由としては、費用の把握、推計に必要なデータの蓄積が不足しているとの回答が多い。このことは、担当職員の不足にも起因する。
c 予防保全の取組
 都道府県や政令市ではほとんどが何らかの取組を行っているが、その他の市町村では約4割が特に取組を行っていない。上記理由もあるが、「危機感が不足しているところも想定される」と指摘されている。
d 技術的ノウハウ
 日々の維持管理・更新にあたり、限られた人員と予算の中で、効率的・効果的に実施するため、技術的ノウハウを着実に蓄積し、継承することが必要である。

(2) 国からの支援を期待する事項
 財政支援のほか、効率的な維持管理・更新のための基準・マニュアル等の策定、職員の技術力向上に向けた研修等の実施、予防保全的管理の導入のための支援を期待する割合が高い。

[維持管理・更新費用について]1
 「国土交通白書2012(平成23年度年次報告)」において、国交省所管の社会資本を対象に、過去の投資実績等を基に今後の維持管理・更新費を推計した結果、投資総額が平成22年度以降±0%で、維持管理・更新に従来どおりの費用支出を継続すると仮定した場合、①平成49年度には維持管理・更新費が投資総額を上回り、新規投資の余裕がなくなる②平成23年度から72年度までの50年間に必要な更新費(約190兆円)のうち、約30兆円(全体必要額の16%)の更新ができない、必要な更新費用すら賄えない、と試算している。なお、維持修繕工事額は、平成12年度以降13兆円前後で推移しているが、建設投資額が減る中、建設投資に占める維持修繕工事比率は、上昇傾向にあり、23年度は29.8%に達し、うち公共工事では28.4%、民間工事では30.3%と、ともに3割前後を占めている(国交省「建設工事施行統計」)。

[維持管理・更新費用について]2
 高速道路各社は、大規模な修繕や更新に7兆円から12兆円かかると試算している。このため、債務返済完了後の平成62年(2050年)以降は料金を無料にする民営化時の計画の見直しは必至である(国土交通省の高速道路作業部会は、6月にこれまで平成62年までとしていた有料期間を10~15年延ばして最長で平成77年までとする案を示した)。

4 対応・取組

(1) 基本方針
 前記の課題は、国交省所管の社会資本に限らず、他の全ての社会資本に共通する課題である。したがって、各官庁で策定されている対策・計画においても、基本的な対応・取組もほぼ共通するものとなっている。
 前記「社会資本整備審議会・交通政策審議会」が、本年5月に中間答申した「今後の社会資本の維持管理・更新のあり方について」に掲げられている重点的に講ずべき施策については次のとおりであり、多岐にわたる。
Ⅰ 維持管理・更新への「戦略的メンテナンス思想」の導入
①予防保全管理の原則化
②安全・安心、暮らし・環境・活力のための社会資本の質の向上 ③(人口減少などの)地域・社会の構造変化等を踏まえた集約化、効率化、重点化
④新設・修繕・更新時における将来の維持管理・更新への配慮
Ⅱ 維持管理・更新をシステマチックに行うための業務プロセスの再構築
 維持管理・更新に係る一連の業務実施プロセスについてPDCAサイクルとして実施する。
Ⅲ 長期的視点に立った維持管理・更新計画の策定
Ⅳ 維持管理・更新に係る予算確保
Ⅴ 維持管理・更新に軸足を置いた組織・制度への転換と人材確保
Ⅵ 維持管理・更新の水準を高めるための取組
①効率的・効果的な維持管理・更新のための技術開発とその成果の基準化・標準化等
②分野や組織を超えた連携と多様な主体との連携
 ・複数事業間の摺り合わせ
 ・PPP(官民連携)/PFI(民間資金を活用した社会資本整備)等の活用

 本年6月に「民活空港運営法」が成立し、国や自治体が管理する空港の運営権利売却が可能となった。国や自治体が空港を所有したまま、民間企業に滑走路や空港ビルを運営する権利を売却し、運営費用をなくすもので、仙台や広島などの地方空港が実施を検討中のほか、国土交通省では福岡空港の滑走路増設に民間資金を活用する検討に入っている。
 国や自治体の財源が限られるなか、有料道路や下水道等への民間資金の活用も注目される。

③地公体等への財政的、技術的支援
・平成22年度に国交省の社会資本に係る地公体向け個別補助金を一つの交付金「社会資本整備総合交付金」に一括し、23年度に「地域自主戦略交付金」との2本化とし、25年度から(「地域自主戦略交付金」を廃止し)、a 命と暮らしを守るインフラ再構築、b 生活空間の安全確保、の取組を集中的に支援するための「防災・安全交付金」が創設された。(25年度予算10,324億円。うち秋田県分225億円)ただし、24年度の補正予算でこの交付金を先取りする形で5,498億円(うち秋田県分177億円)が交付された。

[学校施設の長寿命化対応]
 学校施設について、長寿命化改修を行わない場合、今後30年間の改修・改築経費は約38兆円と見込まれ、1年間の経費は、過去10年間の平均8千億円に対し、1兆3千億円となる。これに対し、長寿命化改修を行う場合の経費は今後30年間で約30兆円に減ずることとなり、1年間の平均経費は3千億円の軽減となる。
 これまでの、構造上危険な状態にある建物の改修費を補助する「学校施設環境改善交付金」に加え、長寿命化改修を推進するための基本計画を策定する実証事業として「学校施設老朽化対策先導事業」を本年度から3年間の予定で開始している。
 また、文部科学省では公立小中学校の長寿命化改修を推進するため、具体的手法などを体系的に整理した「学校施設の長寿命化改修の手引(仮称)」を作成し、今年度中に自治体に配付することとしている。
 
・技術面では、①点検・診断技術、②材料・施行技術等々、進めるべき技術開発は幅広い。国交省では高感度センサー技術による初期異常を把握する実証実験を年内に始めることとしているが、検査の死角をカバーする点検ロボットの開発等、民間の研究・開発も進んでおり、技術の共同開発・共有化、地公体への速やかな還元が求められる。

(2) 国土交通大臣を議長とする「社会資本の老朽化対策会議」を本年1月に設置し、3月に老朽化対策の全体像、スケジュールを明確にした工程表としてとりまとめた。当面は、この工程表に沿って着実に対応を進めていくこととなる。また、次のとおり道路法も改正されている。

[道路法の改正]
 道路の老朽化対策や防災強化を目的とした改正道路法が本年5月成立した。
 地方自治体が管理する道路のうち、大規模で構造が複雑なトンネルや橋などの修繕・改修工事を、国主導で速やかに代行できるようになった。また、予防保全を踏まえ、道路の点検を行うべきことが明確化されたもの。

5 秋田県の対応状況

(1) 平成19年8月に「本荘大橋」で腐食したトラスの斜材が破断したのは記憶に新しい。幸い点検の最中であったため、大きな事故には至らなかったが、同橋は供用後41年経過であった。また、本年4月には「きみまち大橋」が路面陥没し、通行車両に被害が発生した。同橋も35年前の架設であり、従来一般的に考えられてきた橋の寿命50年を超えていない。自然条件や交通量によって損傷の程度は異なり、一律に築後年数によって判断できないことが、このことからも明らかとなったといえる。
 道路等が、重篤な損傷で通行止めとなると、ネットワークが切断され、社会生活のみならず、物流がストップすることにより県内経済にも大きな打撃となり、その影響は広範囲に及ぶ。

(2) 県が管理している橋梁(平成21年の後記長寿命化計画策定時1,106橋)のうち、供用後50年以上経過しているのは平成22年時点では20橋(約2%)であるが、このまま年数を経ると平成42年には533橋、約半数(48%)が高齢化することとなる。全国でも同様の傾向で平成42年には47%が供用後50年以上経過となる。
 このため、県では橋梁の延命化を含む最適な維持管理の推進を図ることを目的として、平成15年から橋梁の定期点検を行い、平成21年に平成30年度までに全橋に補修・修繕(耐震補強を含む)を施す「秋田県橋梁長寿命化修繕計画」を策定した。劣化や損傷が重大になってから事後的に対策を行う「対症療法型」から、橋梁の劣化状況を早期に把握し、大きな損傷が発生する前に早めに手当てする「予防管理型」の管理手法への転換を図るものである。
 これにより、今後30年間のコストを1,248億円縮減可能と試算している。なお、それでも平成30年まで315億円を要する。

(3) その他秋田県の管理する社会資本についての長寿命化計画の策定状況は、次のとおりである。

[区分策定状況]
都市公園  :平成22年度策定済み
流域下水道:平成24年度策定済み
道路橋梁  :平成21年度策定済み
港湾     :平成22年度策定済み
公営住宅  :平成21年度策定済み
河川     :平成29年度まで策定

 なお、秋田県の河川の流路延長は3,189.4km(1・2級河川計)にも及び、総点検作業自体も多大な時間を要する。

(4) 本県における公共施設の更新費用(投資+維持管理)となる「維持補修費+普通建設事業費」は県と市町村合わせて24年度決算で約1,950億円(うち秋田県分が1,090億円)である。

6 まとめ

(1) 社会資本の老朽化問題は、高度成長期に“一斉に”建設された社会資本が、今度は“一斉に”高齢化・老朽化を迎えるという大変悩ましい厄介な問題であるが、耐震化対策とともに避けて通れない問題である。

(2) まずもって、現状の“見える化”によって、必要なヒト、モノ、カネの確定が重要である。
 そのうえで、今後の予算は、「造る」から「守る」に、「選択と集中」に重点を置かざるを得ないことについて、住民の理解・合意を得る必要がある。

(3) また、総務省「労働統計」によると、「建設業就業者数」は、平成24年は503万人で、ピークの平成9年の685万人の73%となっており、工事業者・従業者の人的インフラの確保も大きな課題である。あわせて、現状進んでいる資材・人件費等の高騰も懸念材料である。
 全国の水道管の総延長は63万km超(秋田県は7,348km)にも及ぶが、このうち7.8%に相当する約5万kmが法定耐用年数を経過した老朽管といわれる。このため、老朽化とともに漏水事故も増加している。人口減少の進展とともに、水道・下水道等、料金収入の減収も避けられず、現下の厳しい財政状況に更なる悪化要因も抱えることとなる。

(4) このため、戦略的マネジメントはもとより、社会資本・施設の集約・複合化等コンパクトシティの推進がより求められ、PPP/PFI等の活用も本格化させなければならない。

(5) 秋田県においても、人口減社会に対応し、共同で運営できる業務を洗い出し、条件が整えば実際の共同処理への移行を目指す、県と県内25市町村による「人口減社会に対応する行政運営の在り方研究会」が発足した。
 社会資本の老朽化対策の多くの課題をクリアしていくためには、この研究会の活用等により、技術・人材面での国、県と市町村の協働が何よりも求められるであろう。
 

(松渕 秀和)

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