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秋田県の家電リサイクルの現状について

1 はじめに

(1)秋田県北部エコタウン計画について
 秋田県では、廃棄物を活用しつつ、環境と調和したまちづくりを進めることを目的に県北地域へリサイクル産業を育成する「秋田県北部エコタウン計画」に取り組んでいる。
 同計画における事業内容は、
① 鉱山関連技術を活用した「家電リサイクル事業」ならびに「リサイクル製錬拠点形成事業」
② 廃プラスチックと廃木材を活用した「廃プラスチック利用新建材製造事業」
③ 石炭灰と廃プラスチックを活用した「石炭灰・廃プラスチック活用二次製品製造事業」
④ 事業系一般ゴミや天然ゼオライトを活用した「コンポストセンター整備事業」
⑤ 「大規模風力発電事業」
⑥ 「リサイクルプラザ整備事業」
となっており、本稿では①「家電リサイクル(以下、「リサイクル」)事業」に着目して進めていきたい。

(2)リサイクル事業における鉱山技術の活用
 リサイクル事業において、重要なポイントのひとつが製錬業である。家電製品に含有されている金属等をリサイクルするには、使用済家電を中間処理施設で分解・破砕・選別し、鉄・アルミや不純物などをまず取り除かなければならない。そのうえで、溶融が必要な基板や非鉄金属原料等は製錬所で処理する。溶融後は、硫酸や硝酸、塩酸、混合酸等の化学薬品を用いて電解精製を行い純度の高い単一の金属を生成という工程を経る。
 秋田県北部では、古くから鉱業が盛んで、鉱石の採掘や製錬を通じて優れた鉱山技術が開発されていた。同地域で採れる鉱石は黒鉱と言われ世界的に有名な複雑硫化鉱である。銅製錬における一般的な原材料である黄銅鉱に比べて、黒鉱は銅の品位が低い反面、金や銀、鉛、亜鉛などの金属含有量が多い。そのため、多種多様な金属を分離していくことが課題となり、同地域の製錬所である小坂製錬(株)では長年にわたる作業を通じて様々な金属を分離し回収する技術の蓄積がはかられていった。
 製錬炉に関しても、小坂製錬(株)における高い技術力がある。平成19年、同社はリサイクル原料のみで稼働できる国内初のリサイクル型炉(TSL炉)を導入。この新型炉は、リサイクル原料だけでなく、DOWAグループの各事業所から発生する幅広いリサイクル可能な有用金属にも対応している。加えてTSL炉の導入に伴い工程がコンパクトになり、大幅な効率化を実現している。この製錬工程における優れた技術をベースに、中間処理等を行う関連施設が集積し、リサイクルコンビナートを形成していることが、秋田県北部における家電リサイクル事業の大きな基盤となっている。

2 全国の動き

(1)家電製品の各リサイクル制度の概要
 家電製品のリサイクルに関する制度は、「家電リサイクル」「PCリサイクル」「小型家電リサイクル」の3種類ある。
a 家電リサイクル制度
 平成13年より始まった「家電リサイクル」は、テレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機の家電4品目が対象となっており、消費者がリサイクルに関わる費用を負担し、小売店が使用済製品を引き取ることで、製造業者等に回収される点が大きな特徴である。平成24年度における全国での引取台数は約1,120万台。業界では、実態の製品回収率は50%前後で、リサイクル制度としては高い数値と認識している。
b PCリサイクル制度
 平成3年より実施されている「PCリサイクル」に関しては、資源有効利用促進法によりメーカーがパソコン等を自主的に回収することと定められており、消費者が製品の購入時にリサイクル費用を前払いにて支払うことで、円滑な収集がなされている。(社)パソコン3R推進協会によると、平成24年度における回収台数は家庭用パソコンが約446千台、事業用パソコンが約397千台となっている。ただ、メーカーが直接回収していることもあり、回収後の処理に関する詳細なデータは公表されていない。
c 小型家電リサイクル制度
 本年4月に始まった「小型家電リサイクル制度」については、収集対象品目は一般の消費者が通常の生活に用いる家電製品で、家電リサイクル法対象の4品目を除いたものとなっている。政令により28分類が指定されており、携帯電話からゲーム機、フイルムカメラ、調理器具まで対象範囲は広い。ただ、実際に収集の対象となる廃棄物は28分類のなかから、各自治体が保有設備(破砕機や焼却炉など)や人員・予算等を考慮しながら、その実情に合ったものを選ぶこととしている。また、同法は環境大臣と経済産業大臣が策定する「使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する基本方針」のもと、各自治体や消費者が小型家電のリサイクルに協力するよう要請するものだが、特定の人物・団体に義務や費用負担を課さないタイプの制度として設計されたことが家電リサイクルおよびPCリサイクルと大きく異なる点である。

(2)主要な電子機器の推定排出量
 家電関連リサイクルにより収集可能となっている廃家電の数量を確認すると、平成22年における主要な電気電子機器の排出重量(排出台数×製品重量)139万トンに対して、家電リサイクル法対象の4品目(エアコン、冷蔵庫、テレビ、洗濯機)が89.3万トン、パソコンが8.2万トン、計97.5万トン(70.1%)に達しており、大部分の家電製品が既にリサイクル対象となっている。残る41.5万トン(29.9%)は、これから本格的に始まる小型家電リサイクル制度の収集対象品目となってくる。

(3)家電リサイクルの再商品化量の推移
 「家電リサイクル」における鉄や非鉄金属などの再商品化(注)量の推移をみてみると、基調としては、平成13年度以降、大幅に増えており、エコポイント制度により買換えが進められた22年度には著しく増加している。その後、エコポイント制度の終了に伴い、再商品化量も落ち着いてきている。内訳をみると、大部分が鉄であり、平成24年度では全体の41.5%を占める。なお、「PCリサイクル」に関しては、業界団体におけるデータの公表は引取台数のみで、個別の金属回収量は公表されていない。
(注)家電リサイクル法の対象製品の製造業者等は、消費者から家電廃棄物を引き取った後、鉄や銅等の素材を回収するなど再商品化を義務付けられている。再商品化とは、対象機器の廃棄物から部品及び材料を分離し、製品の原材料、部品または燃料として、利用または譲渡できる状態にすること。

3 県内の動き

(1)リサイクル産業の育成の経緯
 県北部にリサイクル産業が育成された背景には、以下のような経緯がある。昭和60年9月のプラザ合意に端を発する当時の急激な円高(60年9月:1ドル=235円→61年9月:1ドル=150円)で、国内産鉱石は海外産に比べて価格競争力が大幅に低下し、県内の鉱山は数度の人員削減を経て、平成6年に全て閉山を余儀なくされる事態となった。国勢調査によれば、北秋・鹿角地域における鉱業の就業者数は3,001人(昭和60年)から199人(平成7年)に激減、地域における影響の凄まじさが窺える。
 このため、地域における雇用の確保が大きな課題となり、当時の通産省が音頭を取る形でリサイクルマインパーク構想を策定し、新産業の育成に着手した。その後、秋田県も推進委員会を立ち上げ、使用済家電製品の収集や金属の回収量の調査などの実証試験を積み重ね、その後の家電リサイクル制度の創設を踏まえてリサイクル産業を育成することが適当との結論に達した。そこで、それまでの経緯や結果をもとに今後の方向性をまとめた計画として、平成11年、秋田県北部エコタウン計画が策定された。リサイクル事業における中核的な機能をもつ家電リサイクル工場や製錬拠点施設等はこの計画に基づき、家電リサイクル法の制度開始に合わせた平成12年から13年の時期に完成・操業開始している。
 新産業の育成という目的があったため、小型家電リサイクルに関しても、県内の動きは先駆的で、平成18年12月から大館市で収集試験を開始した後、20年10月からは県全域で回収事業が実施されている。小型家電リサイクルのモデル事業に採択された地域は全国各地で多数あるが、都道府県単位で回収事業の実績があるところは秋田県のみである。

(2)家電製品廃棄物の収集量の推移
 家電リサイクルにおける引取実績をみると、平成24年度における北東北の引取台数(青森県、岩手県、秋田県)は305千台、うち秋田県は86千台となっている。引取台数は家電エコポイント制度(平成21年5月15日~23年3月31日)などの消費動向に左右される面が非常に強い。家電リサイクル制度は、製造業者等を2グループ(A・B)に集約して流通体制を構築しており、県内のリサイクル工場は北東北限定でBグループの使用済家電製品を収集することとなっている。
 また、県内の小型家電リサイクルの収集量をみる。数値は制度本格導入前の実証試験のデータであるが、大館市から県北6市町村、県内25市町村と対象エリアの拡大に伴い収集量は増加している。特に平成23年度はピックアップ回収(注)の実施地域の拡大で、大幅増となっている。ただ、収集量は増加したものの、有価性の高い携帯電話やゲーム機が大幅に増加した訳ではなく、生活器具などの有価性の低い物が大部分であったとみられているほか、収集量の増加などから、人件費などのコストも増加している。
(注)従来の一般廃棄物の分別区分にそって回収し、回収した一般廃棄物から使用済小型家電を選別する方式。

4 今後の課題

(1)家電リサイクルにおける課題
 家電リサイクル制度は、対象となる品目数が4品目と少ないことに加え、消費者がリサイクル費用を負担して小売業者が引き取ることで円滑な収集を実現するなど、役割分担が明確で実効性の伴ったリサイクル制度である。ただ、そのなかにおいても、課題は存在している。
a 収集量の増加
 事業の採算性を向上させるための大きな課題は、原料となる使用済製品の収集量増加である。県内の製錬所においては、炉に投入されるリサイクル原料は海外のものが大勢となっており、国内および県内等のリサイクル原料は多いとは言い難い。増加の阻害要因には、不用品回収業者による無許可の廃棄物収集が挙げられる。
 前述のとおり、業界では家電リサイクル制度に基づく回収率は実態で50%との認識であり、半数は非正規のリサイクルルート等で処理されているとみている。例えば、現在問題となっている廃家電の海外流出については、製品中に含まれる金属のスクラップ価格を日本国内よりも高値で引き取る業者が海外に居り、無許可の収集業者等が海外向けに廃家電を売却していることに起因する。
 家電製品はモノによってヒ素や鉛等の有害物質やフロンを含むため、使い終わった後は適切に処理する必要があり、小売業者等を通じて適切なリサイクルルートに乗せることが法律上の消費者の義務である。なお、事業者が一般廃棄物収集運搬業の許可又は市町村の委託を受けずに処理費を徴収して使用済家電製品を引き取ることは廃棄物処理法に抵触し、懲役又は罰金となる。
 業界ならびに行政では、消費者の認知度を向上させて正規ルートでの回収を促すほか、無許可の事業者への罰則および家電リサイクル券の運用に関する監督を厳格化することで対処している現状である。国内でのリサイクル原料を確保する観点からも、認知度の向上や制度運用の厳格化を通じて、有価性の高い家電廃棄物の回収量増加を図ることが必要であると言える。
b 電気料金の値上げの影響
 電気料金の値上げの影響は大きい。これはリサイクル事業のみならず、鉄鋼や非鉄金属業界を筆頭に製造業全体の大きな課題である。
 製錬業は溶融や電解精製の工程で大量の電力を消費するため、値上げは採算面に大きく影響する。加えて、製錬所が生産する非鉄金属は国際市場において価格が決定されるため、単純に製造コストの増加を価格転嫁できない状況に置かれている。本年6月、国内非鉄金属の業界団体が鉄鋼業界団体とともに提出した緊急要望にあるように、電気料金の値上げは国内における事業存続にも係る問題となりつつある。

(2)小型家電リサイクルにおける課題
 小型家電リサイクル制度は本年4月より開始したばかりで、制度の定着と運用が課題である。同制度は消費者へリサイクル費用の負担を求めずに、有用金属の回収と売却のみでリサイクルのコストをまかなうよう制度設計がなされている。一方、リサイクル制度の目的は天然資源の少ない我が国において、使用済家電のなかにある有用金属をリサイクルすることで、廃棄物の違法な海外流出を防ぐと同時に金属資源を安定的に確保することにある。ゆえに、新たなコスト負担をどこでカバーするか明確でない現状にある中で制度の目的を達成するためには、次に挙げる課題を解決しつつ、実効性を高めることが必要となる。
a 市町村における取組みの違い
 小型家電リサイクルは、市町村が制度に参加することで再資源化の取組みが行われるが、義務付けによる強制参加でなく、制度への参加を促すという形をとらざるを得なかったため、参加する自治体と不参加となる自治体に分かれている。このため、両者の間に自治体のみならず住民にも負担の違いが生じる。制度に参加すれば、小型家電の分別のほか、小型家電の再資源化を実施する認定事業者への運搬コストなどが市町村の新たな経済的負担として発生する。本年5月に行われたアンケート調査結果をみると、制度への参加を前向きに検討している自治体は確かに多いが、現実に実施中ならびに実施調整中とする自治体は約37%(人口分布率約54%)にとどまっている。
b 認知度の向上と住民の理解・協力
 制度に参加した場合、従来以上にキメ細やかな分別が必要になる。これを市町村が行うか、住民にお願いするのかを決める必要がある。もし住民に依頼するとした場合、新たな負担が生じることについて、住民の理解・協力が必要不可欠となる。家電リサイクルの全国的なモデル地域である秋田県においても、小型家電リサイクルについては多数の住民に充分に周知されているとは言い難い。認知度の向上は住民協力を得るために必須で、この点に関しては掲示方法も含めてポスターや広報誌を用いた更なる取組みが必要である。
c リサイクルの採算性
 制度に参加する市町村のコストカバー・採算確保も課題である。採算確保のためには、分別方法の見直しに加え、有価性の高い製品の確実な回収が必要となる。併せて、運搬コストも採算面の大きな課題である。運搬コストは市町村から認定事業者へ使用済家電を輸送する際に掛かるのだが、本県では市町村間の距離が長く、運搬時における効率性の向上が今以上に必要となる。このため、リサイクル品目の選別に加え、例えば一回の輸送での積載量を増やすためにかさ張る機器をコンパクトに変形させるなどの工夫も重要な要素となる。県でもこの点を大きな問題と受けとめており、各自治体の小型家電リサイクルの問題点を詳細に調査し、コストの掛からない品目の選定ならびに回収方法に関して情報提供したいとしている。

5 まとめ

 今年4月に小型家電リサイクル法が施行されたが、導入当初より課題が存在している。制度運用におけるコスト負担が不明確であるため、委託業者や自治体へ負担が偏るとの懸念がある。また、制度を構築するに当たって、小型家電リサイクルの重要性を消費者に説明し、リサイクルに関する理解とコスト負担の同意を得て、制度の実効性を高めることが必要であるが、この点に、行政は最大限注力したとは言えまい。それゆえに本来、制度として明確に決めるべき点を市町村の実情に合わせ各々が決定するという形で、曖昧にしたのが実情ではないだろうか。
 リサイクル制度としては、これまでの家電リサイクル法のように、対象品目を限定し、できる製品から購入時に消費者へ負担を求めるなどコスト面での義務付けをはかって、徐々に対象品目を増やすなど柔軟かつ実効ある制度変更・運用を検討すべきと考える。
 リサイクルは、資源再利用のための仕組みをつくるという点で日本全体の経済的課題である。そして、その仕組みは消費者や事業者、市町村等がそれぞれ応分にコストを負担することで、機能する。回収量の増加など、リサイクル制度の実効性を一段と高めるには、消費者の認知度を向上させつつ、任意ではなく、全国一律の制度運用が必要と思われる。

(片野 顕俊)

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