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県内集落営農組織の現状と課題

 我が国のTPP(環太平洋経済連携協定)参加には、賛否両論が高まっている。特に、国内農業は壊滅的な影響を受けるとの試算もなされているが、影響を最小限に食い止めるためには、大規模・集約化を進めることで生産性を高め、攻めの農業への転換が不可欠との認識で、識者の意見はほぼ一致している。しかしながら、これはここにきて初めて言われたことではなく、じり貧状態にある我が国農業の再生のため、早期に解決すべき課題として、以前から訴えられてきたことである。政府の成長戦略でも農地の集約化を打ち出しているほか、当研究所でも、本県農業の生き残り策として、大規模・集約化の必要性を繰り返し提言しており、そのひとつに、集落営農組織の組成と、法人化がある。本稿では、農林水産省が平成17年から毎年行っている「集落営農実態調査」の結果を元に、本県の集落営農組織の現状と課題を探る。

1 はじめに―集落営農とは―

 農林水産省の「食料・農業・農村白書」などによると、「集落営農」とは、集落等地縁的にまとまりのある一定の地域内の農家が農業生産を共同して行う営農活動をいう。しかし、その活動内容は、①転作田の団地化、②共同購入した機械の共同利用、③担い手が中心となって取り組む生産から販売までの共同化等、地域の実情に応じてその形態や取り組み内容は多様である。農作業に関する一定の取り決めのもと、地域ぐるみで農作業の共同化や機械の共同利用を行うことによって、経営の効率化を目指す取り組みであり、高齢化や担い手不足が進行している地域において、小規模農家や兼業農家の参加を促し、農業、農村を維持する有効な形態として全国に拡大している。
 また、最近では国が法人化に対するメリット措置を実施していること等から、集落営農組織の法人化も進展している。

2 本県における集落営農組織の生成

 昭和47年当時の本県では、「著しく稲作に偏重した農業生産」であり、「農地の規模拡大による生産性の向上が不可欠の要件」だった。一方で、「生産を担う中核農家の規模拡大が進まず、経営の安定化や、後継者の確保等の面からも大きな課題」となっており、「集落内での話し合いを通じて、合意のうえでの農地利用と、規模拡大が強く望まれ」ていた。(秋田県農政部「集落農場化のあゆみ」昭和58年3月)
 まさに、40年一日のごとく現在と同じ課題を抱えていたわけである。この課題を解決すべく、県が強力に音頭をとって、昭和47年から平成2年にかけて、「1集落1農場」の掛け声のもと、「集落を単位に農家の自主性と創意工夫に基づき、稲作の省力化と経営の複合化を推進」する「集落農場化育成対策」事業をスタートさせた。開始11年で1,602、最終的(平成2年)には約1,750の集落が指定されている。(秋田県農政部「秋田県戦後農政史年表」平成8年12月)名称こそ異なれ、集落営農と同様の取り組みが本県でもなされていたのである。しかし、任意集団での組成だったことから、事業の終了とともに、集落の高齢化や、県の強力な後押しがなければ組織維持のメリットが感じられない、国が認定農業者制度など個別経営体を伸ばそうとした等、様々な事情から離脱する農家が増え、解散に追い込まれる集落農場が相次いだ。
 こうしたなか、平成19年から国の「品目横断的経営安定対策(現「水田・畑作経営所得安定対策」)」が導入された。これは、全農家を対象に品目ごとに補助金を一律支給してきた従来の経営安定対策を見直し、対象となる担い手を明確にしたうえで、担い手の経営全体に着目した対策に転換する新たな助成制度であった。一定規模以上の担い手に支援を集中するため、作付面積を助成金交付の要件とし、原則として認定農業者の場合は経営耕地面積が4ha以上、経理の一元化や法人化計画の5年以内の作成などの条件を備える集落営農組織の場合で20ha以上の経営体にのみ助成金を交付するものである。しかし、本県は零細な兼業農家が多く、個人では要件を満たすことができず、助成の対象となるには、集落営農組織を作る必要があった。
 そこで、全県的に集落営農化を促進するため、県が各地域振興局に複数の推進担当者を置いたほか、市町村、JAと共に、知事参加の14回のあぜ道ミーティングを始め、危機感を持って組織化に取り組んだ結果、スタート時で助成対象となる500近い集落営農組織を組成した。  一方で、その内実は、県等の強力な指導でとりあえず組織を立ち上げたという例が大多数であり、県および組織自体でも、器はできたが自立的に経営を継続するシステムや営農基盤の確立はこれからが勝負という認識にあった。特に、大半が任意組織であり、組織化としては緒についたばかりという状況から、高齢化が進んでいる本県農業者にとっては、法人移行が大きな課題となっていた。
 以下では、このように始まった本県の集落営農組織の現状と、スタート時点の課題がどのようになっているかを、農林水産省の「集落営農実態調査結果」をもとに概観する。

3 本県集落営農組織の現状と課題

(1) 集落営農数の推移
 平成25年調査(概数値)による組織数では、721組織と宮城県(876組織、全国1位)に次いで東北2位、全国5位と上位にある。法人化組織数では173で東北では2位の宮城県(97)を大きく引き離してトップ、全国でも新潟県(298)、富山県(239)、広島県(221)に次いで4位となっている。法人化割合も東北他県の10%前後に対し、24.0%と引き離している。
 本調査が始まった17年には組織数、法人数、法人化割合ともに東北3位だったのとは、様変わりであり、特に20年から22年の3年間の組織化および20年以降の法人化の伸びが大きい。
(2)法人化の内容
 本県で法人化している173組織の形態をみると、25年では農事組合法人が圧倒的に多数を占めて153組織となっている。残り20組織は全て株式会社形態をとっている。これは、全国的にも同様の傾向であり、合名・合資会社などその他の法人形態は極めて少ない。
 調査初年の17年と比較すると、有限会社が18年5月の会社法施行に伴って株式会社に移行したとみられるほかは、農事組合法人の増加が際立っている。これは、品目横断的経営安定対策の条件である集落営農開始後原則5年間での法人化を求める国の要請に従うべく、法人化にあたって、会社組織に比して比較的設立が簡便で経理事務等も簡易な農事組合法人を選択する組織が多かったことを示している。
 なお、本県では、法人化していない548組織のうちおよそ8割に当たる439組織が既に今後の法人化計画を策定し、法人化に向けて準備を進めており、東北(54.0%)・全国平均(43.6%)と比較して法人化への取り組みは進んでいる。
(3)設立年次
 本表からは全国的には11年以降、東北では少し遅れて16年以降、急速に集落営農の設立が進んだことがみてとれ、本県は特に顕著である。16年以降に設立された組織は721中606組織と84.0%を占めており、東北(72.3%)全国(62.3%)と比べて突出している。「旧・品目横断的経営安定対策」への対応としての設立がいかに多かったかが、ここからも分る。
(4)国の制度への加入状況
 それでは、現在の「水田・畑作経営所得安定対策」への加入状況はどうなっているのだろうか。本県の加入率は78.8%とおよそ8割に迫っており、東北(55.3%)全国(45.5%)を大きく上回り、前述の経緯が裏付けられている。
 一方で、「経営所得安定対策(旧「農業者戸別所得補償制度」)」については、83.9%と山形県、福島県を除いた東北各県とほぼ同水準である。
(5)集積面積、構成農家数等
 集落営農組織が営農する耕地面積は、この項目が調査対象となった18年対比で大幅に増加し、特に、東北は全国の増加率を大きく上回っている。本県の集落営農組織が営農している耕地面積は2万6千haだが、そのうち4分の3は自組織が経営(所有もしくは賃借等)する耕地である。農作業を受託しているのは23%程度であり、この割合は東北、全国平均ともほぼ同じである。ただ、本県で特徴的なのは、18年と比べて経営耕地面積、構成農家数ともに大幅に増加しているのに対し、農作業を受託している面積が6.2%増と増加幅が比較的小さいことである。以下、本項目について詳しくみてみる。
 なお、集落営農を構成する農業集落数は978集落あるが、2010年農林業センサスによると本県で耕地のある農業集落は2,678集落で、これに対する組織率は36.5%である。しかし、集落面積の30%以上を耕地が占める農業集落1,190では組織率が82.2%と8割を超え、40%以上の農業集落949に関しては全ての集落で集落営農組織が存在するという状況にある。
a 本県の集落営農組織が何戸の農家から組織されているかをみると、10戸以上19戸以下で作られている組織が291組織(40.4%)と最も多くなっており、9戸以下を合わせた19戸以下で約6割、29戸以下では約8割を占めている。東北、全国平均とも19戸以下で約4割、29戸以下で約6割という状況に比べると、比較的小さな組織が多いといえる。特に10~19戸の占める割合(40.4%)は東北のなかでも、また全国平均と比較しても突出して多くなっている。本県では小集落が多いことと、後述する構成集落が少ないこととも符合する。
b 集落内の農家がどれくらいの割合で集落営農に参加しているかをみてみると、全体としては集落内の半分以下の農家しか参加していないケースが最も多いが、全国平均では集落の全ての農家が参加している割合も4分の1を超えており、両極端の現象が現れている。東北では全農家参加割合が50%を超えている福島県を除くと、各県ともほぼ同じような形態となっているが、本県では100%を含めた90%以上が参加している割合が他県と比較して少なく、集落営農への参加率としては、数字上では若干見劣りしている。しかし、これは集落内に単独で大規模営農を行える強い担い手が存在し、集落営農組織とは別の活動を行っている例が多いともいえる。
c 本県では(営農活動を中核的に担う)主たる従事者がいない集落営農組織は3.2%と極めて少なく、大多数の組織で主たる従事者が存在している。しかし、東北平均で約1割、全国平均では約2割の組織に主たる従事者がおらず、兼業農家のみで集落営農組織を構成し、有給休暇等を調整しながら交代で営農している例もあるとみられる。ただし、本県では、主たる従事者が5人以上の組織は27.7%と東北平均、全国平均をともに下回り、比較的小規模な組織の多いこととも関係している。
d 集落営農組織がどれだけの集落の集まりによって構成されているかをみると、全国的に一つの集落で営農組織を作っている割合が高い(4分の3 約75%)が、本県(84.0%)は特に顕著である。近隣集落がまとまって組織化するというよりは、集落営農の基本である一集落での、あるいはより繋がりの濃い集落との間で組織化しようという傾向がみられる。
e 集積面積を面積規模別でみると、20ha以上の組織が76.3%と4分の3を占めており、東北(68.3%)や全国(52.4%)と比べて比較的規模の大きい組織が多い。しかしながら、100ha以上を耕作している組織の割合は3%に届かず、全国、東北と比べて見劣りしている。最も多い規模は「20~50ha未満」の階層で6割近くとなっており、大規模というよりは中規模営農組織が多い実態にある。
f 更に、自組織が所有・賃借している経営耕地面積では、集落営農が目指す大規模化には届かない10ha未満という組織が、本県でも20.2%ある。しかし、東北、全国では、より高い比率で小規模営農組織が多く、特に、全国平均では10ha未満が4割を占めており、集落営農が比較的小規模な農家の集まりによって構成されている結果といえる。一方で、東北では50ha以上の大規模営農も17.7%と2割近くあるなど2極化もみられるが、本県に関しては、50ha以上、特に100ha以上の組織が僅かに1%と極めて少ない状況にある。
g 農作業を受託している面積では、大規模受託を行っている組織は更に少なくなっている。(図表12)10ha未満が8割近くを占めているのは東北、全国と本県もほぼ同様である。自組織所有の経営耕地だけでは大規模営農が難しい組織が、農作業を受託することで、全体として規模の拡大を図っている姿が読み取れる。
h 集落内の総耕地のどれくらいを集落営農組織で集積しているかをみてみると、東北全体としては、全国と比べて、50%未満しか集積していない割合が高い一方で、集落内の全ての耕地を集積している100%の割合が全国の半分程度に過ぎないほか、殆どの階層で全国を下回っており、集落営農組織への集積度は低いという特徴がみられる。これは、集落営農組織に属さなくとも単独で大規模化を図っている担い手が比較的多いという東北地方独特の特徴の裏返しともいえる。そうしたなか、本県では、100%こそ東北平均並みだが、50%~70%未満を除く全ての階層で東北平均を下回っている。50%以下という極端に集積率の低い組織が少ない一方で、集積率の高い組織も多くないという状況にある。
(6)活動内容別特徴
 農産物等の生産・販売を共同で行っている組織の割合は全国で73.7%、東北で81.8%、本県は84.5%である。宮城県(98.2%)と福島県(40.6%)を除くとほぼ東北他県並みといえる。
 内訳としては、水稲の生産・販売が78%、約8割と突出しているのは本県の稲作県としての特徴が良く現れている。農産加工品の生産・販売を行っている組織はごく僅かであり、近時、6次産業化が声高にいわれているにしては、全国的に取り組みが少ない。
 それ以外の活動では、機械の共同所有・利用が最も多く、宮城県を除くとほぼ農産物の生産・販売活動を行っている割合に匹敵している。全国的には歴史的にみても、機械の共同利用という取り組みから始まった組織が圧倒的に多いことの表れでもある。

4 まとめ

 本誌では、品目横断的経営安定対策が19年から始まった際に、当時の加入状況と課題について考えたが、そのなかで集落営農組織についても触れ、①更なる集落営農組織の組成、②任意組織から経営感覚を持った法人組織への移行が必要等の課題を挙げている。(「あきた経済340号」19年9月号)これまでみてきた現状からすると、県をはじめとする行政やJAなどが危機感を持って、指導・支援にあたったことに加え、本県農家の大規模化・集約化への意識の強さも相まって、集落営農組織の組成、法人化とも順調に進んでいるように思われる。
 しかしながら、そうしたなかでも、依然として中・小規模な組織にとどまっている例や、これから法人化に向かおうとしている組織の多いことも事実である。いかに集落における営農基盤を維持、継続させていくかを重視した場合、一集落一組織にこだわることなく、地域の実情を踏まえながら、担い手を中心とした組織への再編や近隣集落の法人への統合、複数の集落営農の合併なども検討すべきではないだろうか。実際に、大規模集落営農法人としての活動が注目を集めている大仙市協和の農事組合法人「たねっこ」は5集落でまとまって組織されているなどの例もある。
 地域農業の中核となる大規模集落営農組織は、耕作放棄の食い止めや放棄地の再生、若者の就農・就労の受け皿としても期待できることから、県でも地域振興局に「担い手経営班」を置き、集落営農の運営や法人化推進に積極的な支援を続けている。
 農業を成長産業としていくためにも、集落営農組織の大規模化・法人化を一層推進し、経営感覚を磨いた企業的法人組織に進化するならば、国内における産地間競争のみならず、TPPに代表されるグローバル競争にも勝ち抜くことが必ずやできると考える。

(佐々木 正)

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