トップ機関誌「あきた経済」トップ本県シニアマーケットの現状

機関誌「あきた経済」

本県シニアマーケットの現状

 人口が減少し、県全体の消費規模縮小が予想される一方で、総人口に占める高齢者の割合が上昇し、消費全体に占めるシニア消費の割合が高まることは確実である。全国のシニア消費市場規模は、2012年に100兆円に達し、2030年には111兆円となり、家計消費市場全体に占める割合も、49.3%となる見込みである。本稿では、シニアマーケットを支えるシニアの家計状況や、県内のシニアを対象としたサービスについてレポートする。

1 シニアマーケットとは

 「高齢者」に厳密な定義はないが、一般的に65歳以上を高齢者と呼んでいる。
 本稿においても、人口区分や高齢者雇用の現状、年金給付開始年齢などから、65歳以上を高齢者(以下、「シニア」)とし、シニアを対象とする市場を「シニアマーケット」とした。

2 とりまく環境の変化

(1)人口減少と高齢化率の上昇
 秋田県の人口は、昭和57年以降、32年連続で減少しており、ピーク時(昭和31年)の 135万人から、平成24年(106.3万人)までの57年間で、約29万人減少した(減少率21.3%)。一方、高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は上昇が続いている。昭和45年に7.3%であった高齢化率は、平成24年には30.6%となり、全国平均(24.1%)を6.5ポイントも上回った。直近の平成25年7月1日現在の高齢化率は31.4%で、高齢化率は更に上昇が続いている。また、国立社会保障・人口問題研究所の将来予測によると、秋田県の人口は2040年(平成52年)に70万人(平成24年比34.1%減少)にまで減少し、高齢化率は、2035年(平成47年)には41.0%に達するとされている。
 人口が減少し、県全体の消費規模縮小が予想される一方で、高齢化率の上昇が続き、消費全体に占めるシニア消費の割合が高まることは確実である。
 ただし、本県の65歳以上人口は、2025年に減少に転じ、以降、減少が続くとされている。したがって、それまでに後述するシニア向けサービスを確立、拡充し、広く県外に売り込むことも必要となろう。
(2)高齢者の雇用環境の変化
 厚生労働省では、平成18年度より、65歳まで高年齢者の雇用を確保するため、企業に「定年の定めの廃止」、「定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置を講じるよう義務付けている。高年齢者雇用確保措置の義務年齢は、年金の支給開始年齢の引き上げに合わせて段階的に引き上げられ、平成25年3月31日までは64歳、25年4月1日からは65歳となった。
 秋田労働局によると、県内高年齢者の雇用状況(平成24年)は、希望者全員が65歳以上まで働ける制度を設けている企業割合は61.2%(前年比2.4ポイント上昇)で、全国平均(48.8%)を12.4ポイント上回り、全国順位は1位となった。
 こうした高齢者の雇用環境の変化や年金などの社会保障給付制度が、高齢者の収入や消費、貯蓄に影響を与えている。
(3)購買意欲が増大
 内閣府「高齢者の経済生活に関する意識調査」(平成23年度)によると、シニアが今後、優先的にお金を使いたいものは「健康維持や医療介護のための支出」が最も多く42.8%を占めた。次いで「旅行」(38.2%)、「子どもや孫のための支出」(33.4%)、「住宅の新築・増改築・修繕」(27.3%)となった。
 5年前の平成18年度調査との比較では、各回答項目の割合が上昇した一方、「使いたくない」(18年度17.5%→23年度10.0%)、「わからない」(同3.5%→同2.5%)と回答した割合が低下したことから、シニアの消費意欲が増している様子がうかがえる。また、自動車や家電、衣料品、家具等の「モノ」の購買意欲に比べ、健康・医療や旅行、自己啓発等の「コト」への支出意欲が強いこともわかる。

3 シニアマーケットの現状

(1)市場規模は拡大傾向
 ニッセイ基礎研究所の試算によると、全国のシニア消費市場規模は、2012年に100兆円に達し、2030年には111兆円まで増加し、家計消費市場全体に占める割合は49.3%となる見込みである。この推計は、消費性向は不変のまま、人口と世帯構造の変化だけをあてはめて試算したものであるが、今後、シニアが求める商品サービスの提供が充実すれば、更なる市場規模の拡大が期待できる。
(2)シニアマーケットを支えるシニアの家計
 総務省「家計調査」(平成24年)から、マーケットを支えるシニアの家計状況についてみてみる。
【貯蓄と負債】
 貯蓄額についてみると、勤労者世帯では全国が1,233万円、秋田市で848万円であるのに対し、シニア世帯のうち、世帯主が65歳以上の無職世帯(以下、「65歳以上世帯」)では2,120万円、世帯主が75歳以上の無職世帯(以下、「75歳以上世帯」)では2,177万円となった。65歳以上世帯の貯蓄額は勤労者世帯の1.7倍で、約900万円の開きがある。
 また、負債額についてみると、勤労者世帯では全国が695万円、秋田市が667万円となったが、シニア世帯のうち、65歳以上世帯では52万円、75歳以上世帯では43万円となった。
 シニア世帯では、勤労者世帯に比べ貯蓄額が高く、負債額が低いことが分かる。
【家計収支】
 家計収支(1世帯当たり1か月間)をみると、勤労者世帯は全国、東北、秋田市ともに実収入が実支出を上回っている。シニア世帯についてみると、65歳以上世帯の実収入は22.2万円、実支出(生活費などの消費支出と税金などの非消費支出の合計)は27.0万円で、家計収支は4.9万円の不足となっている。また、75歳以上世帯についても2.4万円の不足となっている。
 シニア世帯の収入は、勤労者世帯の4~5割程度に低下しているが、支出は6~7割程度の低下にとどまっている。また、65歳以上世帯に比べ、75歳以上世帯の実支出金額が少なくなっており、不足額も減少しているが、いずれも実収入の範囲内で消費をまかなうことができず、不足分は主に預貯金など金融資産の取り崩しで賄われていると推測できる。
 実収入の構成をみると、勤労者世帯では、全国、東北、秋田市ともに世帯主の収入が70~80%を占めているのに対し、65歳以上世帯では87.1%が、75歳以上世帯では89.4%が公的年金などの社会保障給付となっている。その他は、世帯主の配偶者や他の世帯員の収入、仕送り金などとなっている。
 年金という安定した収入に加え、豊富な金融資産を有し、負債も少なく、貯蓄の取り崩しが可能なことが市場規模拡大の背景となっている。
【消費】
 シニア世帯の消費支出(全年齢平均の費目別支出金額を1とした場合)について費目別にみると、授業料や補習教育費といった「教育」関係支出がほとんど不要であることから65歳以上世帯は0.13、75歳以上世帯では0.15となったほか、「住居」、「被服及び履物」、「交通・通信」、「教養・娯楽」への支出が低くなった。一方、「保健医療」は、65歳以上世帯が1.34、75歳以上世帯では1.37と高くなったほか、「食料」は65歳以上世帯で1.06、75歳以上世帯で1.02となり、全年齢平均をわずかに上回った。
 65歳以上世帯と75歳以上世帯では、ほぼ同様の傾向がみられたが、「家具・家事用品」、「被服及び履物」への支出については、75歳以上世帯で支出割合が低くなった。また、こづかい、仕送り、交際費などから構成される「その他消費支出」は、65歳以上世帯では1.05と平均を上回ったが、75歳以上世帯では0.99と平均を下回った。世帯主の年齢が上がるにつれて、「保健医療」や「食料」への支出が増える一方で、「家具・家事用品」、「被服及び履物」などのモノへの支出や交際費等の支出が減少しており、支出の変化から生活スタイルの変化を読み取れる。
(3)高齢化による本県マーケットへの影響
 世帯主の年齢階級別家計状況については、都道府県別のデータがないため、秋田県「秋田県の商業」から、本県小売業(細分類別)の年間販売額の変化についてみた。
 昭和54年から平成19年までの28年間で、年間販売額が減少したのは、酒、食肉、鮮魚、米穀類などの飲食料品小売業のほか、衣服・靴・身の回り品などを含む「織物・衣服・身の回り品小売業」、「家具・じゅう器・家庭用機械器具小売業」となった。一方、年間販売額が増加したのは「医薬品・化粧品小売業」、「書籍・文房具小売業」、「スポーツ用品・がん具・娯楽用品・楽器小売業」のほか、花、植木、ペット用品、骨董品などを含む「他に分類されない小売業」であった。
 年間販売額に関するデータは、県全体の消費規模を示すものであるが、(2)でみた全国の傾向と同様に、衣服や家具などモノへの支出が減少し、医薬品のほか、書籍やスポーツ用品など趣味への支出が増加しており、全国の中でもトップクラスで進む高齢化による消費の影響も大きいものとみてとれる。
 なお、平成21年商業統計調査は、経済センサスの創設に伴い中止となった。平成24年実施の経済センサス活動調査には、商業に関する調査事項が盛り込まれているが、詳細編については、11月公表予定となっている。

4 県内のシニア向けサービスの事例

 県内には、シニアをターゲットとした様々なサービスがある。本稿では、サービスの種類を(1)生活充実サービスと(2)生活支援サービスの2つに分類し、それぞれのサービスについて、県内の取組み事例を紹介する。
(1)生活充実サービス
 「生活充実サービス」とは、要介護・要支援の認定を受けておらず、余暇や趣味など生活の充実を目指すシニアを対象としたサービスである。平成23年度の本県の要介護・要支援認定者数は6.6万人で、65歳以上人口に占める割合は20.6%である。シニア層の約8割は要介護・要支援認定を受けておらず、体力、時間、経済の各面で余裕があり、余暇や趣味を楽しむ環境にある。
a 健康に関するサービス
 健康意識の高まりを背景に、ヘルシーな調理を気軽に楽しめる家電や特定保健用食品など、健康をキーワードにした商品が多く発売され注目を集めている。また、健康維持のため、習慣的にウォーキングやジョギングを楽しむシニアが増加している。
 スポーツ用品店では、シニア向けのウォーキングや山歩きなどのイベントを企画している。イベントがきっかけとなり道具選びの相談に訪れる人が多いが、シニア層は、多少高くてもこだわりたい分野にはお金をかける傾向があるほか、流行や豪華さなどではなく、購入する際の説明やアフターサービスなどを重視する傾向があることから、道具の修理やメンテナンスなどを充実させることでリピーターが定着している。
 フィットネスクラブやスポーツクラブでは、シニア向けに運動不足解消や生活習慣病の予防・改善、腰痛改善などのレッスンを設けている。シニア層は子供や若年層の利用が少ない日中の利用が可能なことから、同時間帯の利用料を一般会員よりも安価に設定しているほか、運動後に温泉を利用できるようにするなどして、利用客の少ない時間帯の集客に成功している。
b 旅に関するサービス
 全国的には、シニアをターゲットにした海外旅行の販売や、個々人の希望に合った旅行をオーダーメイドするサービスなどがみられる。
 県内旅行業者によると、シニア向けの旅行商品としては、全体の日程をゆったり組んだり、移動時間に余裕を持たせた商品が多いという。インターネットで情報を得て旅先を決定し、予約する人も一部にみられるものの、店頭には、旅先の選定を含めた相談に訪れる人が多い。そのため、歴史や花、写真など趣味と関連性のあるテーマ別のパンフレットを季節ごとに作成して、シニア層が興味を抱き、旅先を選びやすいよう工夫している。また、定期的に人気の旅先をピックアップした勉強会を開催するなど、積極的な情報提供も行っている。また、交通機関の乗り継ぎや食事先の選定に不安を抱く人に対しては、事前に細かな情報提供を行うよう心掛けている。担当制を設けることで、利用者が相談しやすくなるうえ、利用者の家族構成や趣味、好みなどを知った上でアドバイスしやすくなるなどのメリットがあり、手厚いサービスがリピート率の上昇に繋がっている。
(2)生活支援サービス
 「生活支援サービス」とは、介護をはじめ、家事支援、食や住宅など、日常生活の支援を必要とするシニアを対象としたサービスである。
 平成12年4月の介護保険制度開始時に3.3万人であった本県の要介護・要支援者数は、16年に5万人を超え、23年には6.6万人にまで増加している。これまでは、地域の繋がりや近所付き合いで解決してきたことでも、企業などが提供するサービスに頼らなければならない場合が多くなってきている。
a 食に関するサービス
 スーパーでは、地域住民の高齢化に合わせ、シニアが1回の食事で食べきれる量の小分け総菜を増やしたり、かつては各家庭で手作りしていた地域の伝統料理や菓子などを販売している。また、鍋用の肉は1人前50gの小さなパックを、野菜は2分の1や4分の1カットでの販売を増やすなどしている。店舗では、通路を広めにし、棚を低くするなどして、高齢者が買い物しやすい環境を整えている。また、宅配システムを導入し、店舗で購入した商品のほか、電話で注文を受けた商品の当日宅配を行っている。特に、米や水など、持ち運びに苦労する商品の配達は、車を持たない高齢者や、近隣にスーパーがなく買い物場所に困っている、いわゆる「買い物弱者」を中心に好評を得ている。宅配サービスの利用はシニア層にとどまらず、子育て世代や共働き世帯などにも広がりをみせており、商圏の拡大と売上上昇に繋がっている。
b 住宅に関するサービス
 国の医療・介護体制が、施設中心から、住み慣れた場所で必要なサービスを受ける在宅介護に切替わりつつあり、高齢化に対応した住宅の必要性が高まっていることから、自宅のリフォームを希望するシニア層が増加傾向にある。
 主なリフォーム内容は、手すりの取り付けや段差の解消など小規模なリフォームから、浴室やトイレのバリアフリー化、エレベーター設置など大規模なものまで、そのニーズは多岐にわたる。また、昨年、一昨年の大雪の影響から、冬場の雪かきに不安を抱くシニア世帯が多く、玄関前や駐車場などの融雪システム導入への問い合わせが多いという。
 最近では、大手家電量販店のリフォーム市場への参入がみられるが、県内事業者では、市町村が実施するリフォーム支援事業の紹介のほか、価格を明確化したパンフレットを作成するなどして、積極的な情報発信を行っている。
c 家事支援サービス
 シニア世帯においては、一般的に体力面、健康面において日常生活や家事等に支障をきたしている人も多いことから、介護保険制度の対象外となるサービスへの需要が増加している。サービスの代表的なものとしては「炊事、洗濯、掃除などの日常的な家事支援」、「買い物代行」、「ハウスクリーニング」などが挙げられる。
 シニア世帯においては、希望場所の掃除や洗濯、買い物、アイロンがけなどの家事代行を週1、2回程度、定期的に利用する世帯が多いという。また、食料品や日用雑貨等の買い物代行を行う事業者は数多いが、注文商品の配達に加え、配達後に電球の交換や玄関先の除雪など、高齢者の希望するプラスαのサービスを行うなどして、他社との差別化をはかる事業者もある。配達スタッフの訪問を楽しみに待つ高齢者もおり、周辺住民や遠方で暮らす家族からは、安否確認の見守り効果もあると好評を得ている。

5 まとめ

 今回紹介した事例以外にも、本県事業者が行うサービスのほか、大手チェーンの進出や異業種進出により、県内で提供されるシニア向けサービスは充実してきているが、本県には約32.5万人のシニアがおり、現在も増加が続いていることから、潜在需要は大きく、今後、更なる市場規模拡大のチャンスがあるといえる。
 現在、本県シニア層の約8割は要介護・要支援の認定を受けておらず、体力、時間、経済の各面で余裕があり、余暇や趣味を楽しむ環境にある。また、内閣府が60歳以上の男女を対象に調査した結果(平成21年度)によると、「高齢者とは70歳以上を指す」と回答した人が4割超となった一方、「65歳以上を指す」と回答した人は1割にとどまったことからも分かるように、若々しく、健康的に、活動的な生活を送りたいと望むシニアが多いといえる。
 シニア層は健康維持や旅行への支出意欲が強いことから、今後は、ターゲットとなるシニアの特徴を把握し、暮らしを豊かにする商品やサービスを提供することで、潜在需要を引き出すことが可能となる。
 シニアの日々の生活をサポートするサービスは、体力面、健康面で日常生活に支障をきたしている人にとっては必要不可欠なサービスである。これらのサービスが高齢者の日常を支えており、今後、これらが果たす役割はますます大きくなると考えられる。また最近は、シニアの生活全般をサポートする複合的なサービスも求められている。「衣・食・住」の生活全般に関わる包括的なサービスの提供は、企業が単独で提供することは難しいため、自治体や地元商店街、企業などが協力、提携することも、一つの方法となろう。そのためには、情報を共有し、サービスの展開を地域の発展につなげるしくみづくりが必要である。
 しかしこうした事業には、福祉的な要素も求められることから、ビジネスとしては非効率な面もあり、運営面、採算面で厳しい状況にある事業者もみられる。行政のサポートや補助金がきっかけとなり始まったサービスについては、今後、事業を継続し、安定化させることが重要となる。
 シニア向けサービスは、特殊な一部の産業分野だけが対応に迫られるのではなく、ほぼ全産業分野での対応が求められている。本県の“弱み”とされる高齢化を、“全国一ビジネスチャンスが存在する県”と捉え方を変え、経済面、雇用面で地域の発展に繋がる取組みが期待される。
 次回調査では、「秋田県消費動向調査」より、本県シニアの暮らし向きやシニアが日常生活で重視していること、老後の生活における重視点のほか、今後充実させて欲しい生活関連サービス等についてアンケート調査を行い、シニア層が求めるサービスや、その結果からみえる本県の課題についてレポートする。

(佐藤 由深子)

あきた経済

刊行物

お問い合わせ先
〒010-8655
 秋田市山王3丁目2番1号
 秋田銀行本店内
 TEL:018-863-5561
 FAX:018-863-5580
 MAIL:info@akitakeizai.or.jp