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国際教養大学が地域に及ぼす経済波及効果~経済波及効果は約40億円~

 当研究所では、国際教養大学が県内にもたらす経済波及効果について推計を行った。その結果、①教育・研究活動による効果(828百万円)、②教職員・学生の消費による効果(2,225百万円)、③その他の活動による効果(224百万円)、④施設整備による効果(739百万円)を合わせると、合計で4,015百万円となった。本稿では、国際教養大学が地域に及ぼす経済波及効果について推計した結果をまとめた。

1 はじめに

 平成16年4月、秋田市雄和に開学した国際教養大学は今年で10年目を迎える。同大学は「国際教養」という新しい教学理念のもと、グローバル時代に対応した人材づくりを目指しており、すべての講義を英語で行い、1年間の海外留学を学生に義務付けるなど、特色ある教育方針を打ち出している。また、ここ数年は、就職率の高さなどから様々なマスメディアに取り上げられ、全国的な注目を集めている。
 当研究所は、国際教養大学から同大学の地域貢献度や存在意義を定量的に検証することを目的として、同大学が地域に及ぼす経済波及効果に係る調査の委託を受けた。本レポートは、国際教養大学の許可を得て、同調査の結果をまとめたものである。

2 大学がもたらす経済波及効果とは

 大学は教育・研究、人材育成、社会貢献など様々な活動を行っているが、大学が立地することによって、その地域に多様な社会的・経済的な効果が生じているものと考えられる。
 本調査は、地域経済への効果という視点から、産業連関分析による経済波及効果の検証を行った。大学の様々な活動によって地域経済に新たな需要を生み出しているものとして、大きく次の4つの活動が挙げられ、これらの需要がもたらす経済波及効果を推計した。
 なお、本調査における推計方法は、文部科学省が実施した「地方大学が地域に及ぼす経済波及効果分析」(調査研究機関:一般財団法人日本経済研究所、平成19年3月)を参考にした。

(1)教育・研究活動による効果
 大学が実施している教育・研究活動において、教科書や研究資材等の購入費、研究機器や事務機器等の使用料、大学施設の維持管理費等様々な経費を支出している。こうした大学運営にかかる支出が地域産業へ新たな需要を生み出し、この需要を満たすために新たな生産が誘発される。

(2)教職員・学生の消費による効果
 大学が立地することにより、多くの教職員が働き、学生が集まる。教職員やその家族、学生がその地域で生活することにより、消費が生まれ、地域経済に新たな需要を生み出す。この需要を満たすために新たな生産が誘発される。

(3)その他の活動による効果
 大学は教育・研究の成果の発表の場として、また社会貢献・地域貢献の場として、学会や講演会、公開講座など外部に開かれた催しを行っている。また、高校生・受験生向けにはオープンキャンパスや入試説明会等を行っているほか、図書館等の大学の施設を一般開放し、外部からの利用者も受け入れている。こうした様々な催しや施設の開放を通じて、大学は外部からの来訪者を受け入れているが、これらの来訪者による消費が発生することにより、地域に新たな需要を生み出す。この需要を満たすために新たな生産が誘発される。

(4)施設整備による効果
 大学は広いキャンパスと多数の施設を有しているが、時間の経過に伴い、新しい校舎等の新築や既存施設の改修、修繕等の施設整備が発生する。こうした施設整備事業は地域の建設業を中心に新たな需要を生み出し、生産を誘発することになる。

3 経済波及効果の計算方法

 経済波及効果の計算方法は、国際教養大学の平成24年度会計財務諸表および大学からの各種資料などに基づき、最新版の「平成17年秋田県産業連関表」を用いて行い、上記4つの活動によって秋田県内にもたらされる生産誘発額および雇用創出数を算出した。

(1)生産誘発額
 国際教養大学の各活動で発生する経費支出や消費支出のなかで、秋田県内に支出される金額を県内最終需要増加額といい、この需要増加額が直接的に県内産業の生産を誘発する。この県内最終需要増加額を直接効果という。
 この直接効果が県内に支出されると、関連する産業に次々と生産が波及していく。この生産誘発額を一次波及効果という。
 直接効果、一次波及効果によって生産が増加すると、雇用者の所得増加に結び付き、その増加分の一部が消費支出に回ることによって、さらに生産が誘発されていく。この生産誘発額を二次波及効果という。
 これらの直接効果、一次波及効果、二次波及効果である生産誘発額の合計が総合効果となる。

(2)雇用創出数
 国際教養大学の各活動による生産誘発を賄うために創出される雇用者数の増加を雇用創出効果という。(1)で求めた直接効果、一次波及効果、二次波及効果の生産誘発額に産業連関表の雇用係数を乗じて雇用創出数を算出した。

4 国際教養大学の概要

 国際教養大学は平成16年4月に開学した「国際教養学部」1学部のみの単科大学である。現在、学生数は875人、海外からの留学生を含めると約千人に上る。  また、平成17年2月に地域環境研究センター、24年1月には東アジア調査研究センターをそれぞれ設立し、自然環境や伝統文化に関する学術調査や、東アジア地域の経済活力を本県経済の活性化に活かす取組みの調査・研究を行っている。

5 国際教養大学の経済波及効果

(1)教育・研究活動による効果
 国際教養大学の平成24年度会計財務諸表より経費の概要について整理すると、経常費用並びに科学研究費補助金等の競争的資金の合計額は2,050百万円となり、このうち人件費に相当する費用1,242百万円は教職員・学生の消費の対象費用へ、それ以外の奨学費、租税公課、減価償却費等を除いた費用719百万円が教育・研究活動の対象費用となる。
 次に国際教養大学の教育・研究活動の対象費用719百万円について、大学からの支払状況調べにより県内・県外支払の別を整理すると、県内支払分が561百万円となり、これが県内最終需要増加額(直接効果)となる。
 この直接効果561百万円を産業連関表に投入し、生産誘発額を算出すると、一次波及効果が179百万円、二次波及効果が88百万円となった。
 この結果、大学の教育・研究活動による経済波及効果(総合効果)は、合計828百万円となり、直接効果に対する総合効果の波及倍率は1.48倍となった。また、雇用創出数は52人となった。

(2)教職員・学生の消費による効果
 役員・教職員の人件費や諸謝金などの人件費に相当する費用は、前項でみたように1,242百万円となるが、このうち役員・教職員の人件費(1,204百万円)については、居住地別人数で按分し、県外在住者分の所得額を除いた1,067百万円を年間消費額の対象とした。
 これにより秋田県内に発生する役員・教職員等の所得額は合計1,105百万円となり、これに総務省「家計調査(平成24年)」による秋田市の消費転換率を乗じた689百万円を年間消費額として設定した。

 一方、学生による年間消費額は、(独)日本学生支援機構による「平成22年度学生生活調査結果」を参考にして居住形態別に年間の学生1人当たりの消費単価を設定し、この消費単価に居住形態別学生数を乗じた933百万円を年間消費額として設定した。

 次に役員・教職員等および学生による年間消費額のうち、県内で発生する最終需要増加額を求めるため、「平成23年度秋田県買い物動向調査報告書」(秋田県産業労働部商業貿易課)を参考にして秋田市の地元購買率を設定した(後掲図表8)。それぞれの年間消費額に地元購買率を乗じた1,532百万円が県内最終需要増加額(直接効果)となる。

 この直接効果1,532百万円を産業連関表に投入し、生産誘発額を算出すると、一次波及効果が481百万円、二次波及効果が213百万円となった。
 この結果、教職員・学生の消費による経済波及効果(総合効果)は、合計2,225百万円となり、直接効果に対する総合効果の波及倍率は1.45倍となった。また、雇用創出数は144人となった。

(3)その他の活動による効果
 国際教養大学を視察や入試等で訪れる来訪者による消費額は、「平成24年秋田県観光統計」(秋田県観光文化スポーツ部観光戦略課)を参考にして消費単価を設定し、この消費単価に来訪者数(約1万1200人)を乗じた192百万円を来訪者による消費額として設定した。

 この来訪者による消費額192百万円のうち、県外客の交通費を除き、すべてを県内需要とみなした。なお、県外客の交通費は50%を県内需要とした。これにより県内最終需要増加額(直接効果)は137百万円となった。
 この直接効果137百万円を産業連関表に投入し、生産誘発額を算出すると、一次波及効果が59百万円、二次波及効果が28百万円となった。
 この結果、その他の活動による経済波及効果(総合効果)は、合計224百万円となり、直接効果に対する総合効果の波及倍率は1.64倍となった。また、雇用創出数は18人となった。

(4)施設整備による効果
 国際教養大学においては最近5年間で講義棟や学生宿舎などの建設工事が行われているが、その施設整備費は10百万円~1,085百万円と年度によって変動がある。このため、県内最終需要増加額(直接効果)は県内支払額の年度平均をとった481百万円とした。
 なお、ここで対象としている施設整備費は、会計財務諸表に計上されていない資本的経費の新築・改修工事費としており、会計財務諸表に計上されている修繕費については、教育・研究活動による効果に含まれている。

 この直接効果481百万円を産業連関表に投入し、生産誘発額を算出すると、一次波及効果が146百万円、二次波及効果が111百万円となった。
 この結果、施設整備による経済波及効果(総合効果)は、合計739百万円となり、直接効果に対する総合効果の波及倍率は1.54倍となった。また、雇用創出数は60人となった。

(5)大学全体の効果
 国際教養大学が立地することに起因した各消費および投資活動が秋田県内にもたらす1年間の直接効果は、合計2,710百万円となる。
 この直接効果2,710百万円を産業連関表に投入し、生産誘発額を算出すると、一次波及効果が866百万円、二次波及効果が440百万円となった。
 この結果、大学全体の経済波及効果(総合効果)は、合計4,015百万円となり、直接効果に対する総合効果の波及倍率は1.48倍となった。また、雇用創出数は273人となった。

 また、大学全体の経済波及効果を産業別にみると、商業342百万円(構成比8.5%)、不動産643百万円(同16.0%)、対個人サービス374百万円(同9.3%)など消費により大きな波及効果が現れる業種や、大学施設の新築・修繕により大きな波及効果が現れる建設業636百万円(同15.8%)に多額の生産誘発効果がもたらされている。

6 まとめ

 今回の特別調査は、国際教養大学の様々な活動によって秋田県内にもたらされる経済波及効果を算出したものである。大学全体の効果は約40億円となったが、この効果は大学が立地することによって継続的かつ安定的に生ずるものであり、今後も本県経済に大きな効果をもたらすものと考えられる。
 また、大学の経済波及効果の他にも、大学本来の役割である研究活動による成果、県内企業との連携、地域社会との交流活動などを考慮すると、地域への貢献度は極めて大きい。同大学では県内の小・中・高等学校等と年間200回を超える国際交流活動を実施しているほか、東アジア調査研究センターでは、海外展開に意欲的な県内企業に対して、海外ビジネス支援なども行っている。また、最近は就職率の高さなどからマスメディアに取り上げられる機会も多く、本県のイメージアップにも繋がっている。
 国際教養大学によるこうした様々な活動が、県内経済の発展や地域社会への貢献により一層寄与することを期待したい。

(山崎 要)

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