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秋田県のビルメンテナンス業の現状と課題

 総務省の「経済センサス」によると、平成24年の県内ビルメンテナンス業は、事業所数が159か所、従業者数が6,949人となっている。本業界は県経済の発展につれ、昭和から平成の初めにかけて、順調な発展の途をたどってきた。しかし、その後の経済停滞や競争激化等により、事業環境が一変、事業所数は平成13年をピークに減少に転じ、従業者数も平成18年から横ばい傾向となっている。業界では新規受注の獲得や収益改善等に努めているが、一方で、新築物件の減少や顧客による清掃管理業務の自賄い化、建築設備の高度化への対応など、抱える課題も多い。
 本稿では、県内のビルメンテナンス業の現状と課題を、今後の方向性を交えてまとめた。

1 全国の概況

 ビルメンテナンス業の定義は、日本標準産業分類によると、「ビルを対象として清掃,保守,機器の運転を一括して請負い,これらのサービスを提供する事業所」となっている。ただし、一般的にビルメンテナンス業と言われるものは、上記の定義よりも広く、一括請負に加えて清掃や建物・設備管理などの単一業務も加えたものとなっている。
 全国の概況をみると、後者の範囲での平成24年のビルメンテナンス業は、事業所数が26,997か所、従業者数が968,764人となっている。事業所数はビルの数とともに長年にわたって増加基調で推移してきたが、平成21年に約2.9万か所とピークに達した後、落ち込むこととなった。一方、従業者数に関しては増加傾向にあり、平成21年以降は横ばいないし若干プラスの状況となっている。なお、売上金額は平成24年に4兆7,770億円(経済センサス)、市場成長率は1.8%(24年・ビルメンテナンス協会調べ)で、事業所数、従業者数同様、最近は伸び悩み傾向となっている。
 なお、ビルメンテナンス業の業務内容は、次ページの図表のとおりとなっている。業務別の売上構成比は大きく分けて、一般清掃関連が62.9%と最も高く、次いで設備管理が17.3%、警備業務が7.9%と続き、その他が12.0%となっている。

2 県内の概況

(1)事業所数と従業者数の推移
 県内の概況をみると、平成24年は事業所数が159か所、従業者数が6,949人となっている。事業所数は平成13年までは一貫して増加してきたが、同年の176事業所を最多として、それ以降は概ね減少傾向で推移している。一方、従業者数は18年(6,872人)にかけて増加し、それ以降は概ね横ばいである。
 事業所数が減少傾向に転じた背景には、長引く不況と競争激化などから経営環境が悪化し、小規模事業者の廃業が続いていることがある。一方、従業者数については採算が悪化するなかにあっても、新規・関連業務分野への進出やコスト削減等の企業努力により現状水準が概ね維持されている。
 なお、県内の事業所数と従業者数を規模別にみると、事業所数で最も多いのが「10~19人」の39事業所となっているが、従業者数では「100人以上」の17事業所が従業者数全体の62.7%を雇用しており、大規模事業所への人的集中が顕著である。

(2)業界の特徴
 業界の特徴としては全国の傾向と同様、業務に多くの人員を要する労働集約的な色彩の濃いことのほか、労働力の多くを女性が占めていること(約6割)、比較的高齢の労働者も多いこと等が挙げられる。また、事業所の多くが秋田市をはじめとする都市部に集中しており、その中で大手は多くの業務分野をカバーする総合的なビル管理業、一方、小規模事業所は清掃等の単一業務に特化という具合に、事業の方向が二分する傾向にある。このほか、県内では、中央資本のビルメンテナンス会社が強力な営業力を有しており、同じく中央資本のスーパーなどのメンテナンス業務を全国一括管理という形で集中的に抱え、その下で地元業者が地区割りの下請けに入るというケースも多くみられる。

3 県内業界の課題

(1)受注単価の落ち込み
 業界の最大の課題は、平成5年頃より顕著になっている受注単価の落ち込みへの対応である。これは、厳しい経済環境の下、ビルのオーナー側からの単価見直しの要請が絶えないことに多くが起因する。特に清掃部門は、コストカットの対象とされやすいうえ、近年では清掃作業そのものを自社社員で行う自賄いの取引先も多く、受注契約額の縮小とともに単価下落に拍車をかけている。
 また、県内企業同士の競争激化による収益率低下への対策も大きな課題となっている。特に、本県では、受注先として大きなウエイトを占める官公庁の一般競争入札化により、価格競争に激しさを増した部分もある。加えて、中央大手が管理している大型商業施設等に関しても、県内下請け企業間の単価競争が激しく、取引関係維持を図るため、利幅の薄い契約も地元企業は一定程度確保せざるを得ない状況となっている。

(2)新築物件の減少
 もとよりビルメンテナンス業の経営は、新築物件の多寡にも大きく左右される。産業用建築物の新築床面積の推移をみると、平成25年は46.6万㎡と、平成元年から9年頃までの水準(平均109.6万㎡)に比べると、57.5%減の著しい減少となっている。最少だったリーマン・ショック後の経済低迷期より回復したとはいえ、水準は依然低く、業界は打開策が見つからないまま、厳しい受注環境での経営を余儀なくされている。

(3)人材・人手不足
 人材および人手不足への対応も課題である。実際、清掃や保守管理に関する技能を習得し、素早く業務を遂行できるレベルの人材育成には時間を要することから、要員数確保には各事業所とも苦労しているのが実情である。この人材・人手不足の背景には、企業の収益力が低下する中で、容易に改善を進めることのできない給与水準もある。因みに、取引先との契約条件の変更(請負作業時間、作業面積の減少等)に合わせた形で、平成8年には約52%であった全従業者に対する非正規社員の割合が、24年には約69%にまで増加している。このようなことから、業界では現在、職場環境の改善を進める傍ら、ボランティア活動等を行うことでイメージアップを図り、人材・人手が集まりやすい業界になるように努めている。

4 今後の方向

(1)生産性の向上
 まず、本業である清掃や設備保守などのスキルを高めること、及び作業の効率化等により生産性の向上を図ることが、素朴なことながら基本的な方向と思われる。特に、従業者の入れ替わり等が激しい業界であるため、機械の使用方法や作業のチェック項目などで業務手順の均一化を図るなど、業務の改善を進めることが重要になる。さらに、近年では電力・通信・OA設備など高機能化されたオフィスビルが多く建設されており、それらに多くが対応できるように従業者の育成、技能の高度化を図ることも重要であろう。

(2)収益性の向上
 次に、収益性の向上を改めて図る必要がある。特に本県に多い小規模事業所は利幅の薄い清掃業務など単一業務がメインとなっているだけに、その改善策を探る努力も重要と思われる。この点について、他県では、IT化による作業の集中管理や兼業化の促進及び本社・現場間の連絡体制強化による効率化等の対応を進めている例がみられる。また、業務の付加価値アップを積極的に図っていく観点からは、例えば、建築物環境衛生管理技術者などの資格取得を従業者に奨励し、企業としてより高いレベルの業務を請け負える体制作りに努めることも重要である。加えて、従来型の労働集約的なメンテナンス業務のみならず、自治体の文化施設やスポーツ施設等にも管理対象を広げていくため、関連するビルや施設の経営管理のノウハウを習得することも今後は必要であろう。

(3)新種のサービスでの対応
 業界では、従来業務に加え、新しいサービスの取扱いにも注力し始めている。現状では、短期・臨時的な業務が多いが、これまでと異なるタイプの業務を数多く扱うことを通じ、新しい成長分野を切り開いていくことも重要と思われる。
 例えば、県内では高齢者が多いという事情もあり、高齢者向けの家事代行サービスを始める動きがある。利幅が少なくボランティア要素も伴うが、清掃から炊事・洗濯まで幅広いサービスを提供することで、新たな需要の掘り起こしも併せて目指している。また、本県ではまだ認知度が低いものの、全国には墓石の清掃代行・墓参等のサービスを手掛ける事業者もみられる。

(4)安定的な労働力確保
 労働集約的傾向の強いビルメンテナンス業務を継続的に行っていくためには、多数の熟練した従業者を必要とする。そのため、業界では女性の活用なども含め、様々な施策を実施し、労働力の確保に努めていかなければならない。特に、家庭の主婦は実務(清掃等)の即戦力として重要であり、安定的な従業者として確保するため、勤務時間の弾力化、有給休暇の取得など労働条件の一層の改善等に努めていく必要があろう。

5 まとめ

 秋田県のビルメンテナンス業は従業者数が約7千人と、県全体の約1.7%を占め、従業者数の多い業界である。同業界は昭和から平成の初めにかけて、順調に成長を遂げてきたが、それ以降、県経済の停滞と相まって、新築物件の減少と競争の激化および受注単価の下落など、多くの対処すべき課題を抱えるに至っている。
 業界ではこれら課題を解決するため、様々な対応を進めているが、その前段部分で、本県の業界については全般的にメンテナンス作業が丁寧かつ処理レベルも高いことから、契約先の信頼度も極めて高いと言われている。従って、このような信用を基に、前述のような業務の水平展開により文字通り総合的なビルメンテナンス業への転換・拡大を図っていくことで、新たな発展の道が開かれていくものと思われる。

(片野 顕俊)

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