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2015年農林業センサスからみる秋田県農業

 本県農業は、法人化以外の経営体や就業人口の減少と高齢化の進展、稲作偏重と米価下落の影響を受け東北最下位に低迷する農業産出額、厳しい経営状態を要因として増加の一途を辿る耕作放棄地など、長年多くの課題を抱えてきた。一方で、TPP(環太平洋経済連携協定)への対応等、農業経営は今、大きな変革期を迎えている。こうした状況下、農林水産省が5年ごとに実施している農林業センサスが、平成27年2月1日現在で実施され、同年11月に調査結果の概数値が公表されている。本稿では、その「2015年農林業センサス 秋田県結果の概要(概数値)」に基づき、本県農業の全体的な構図の変化と、今後目指すべき方向性等を考察する。

1 はじめに

 農林業センサスは、わが国の農林業の生産構造や就業構造、農山村地域における土地資源など農林業・農山村の基本構造の実態とその変化を明らかにし、農林業施策の企画・立案・推進のための基礎資料となる統計を作成し、提供することを目的に、農林水産省が農林業を営む全国のすべての農林業経営体等を対象として5年ごとに実施している基幹統計調査であり、言わば「農林業の国勢調査」ともいえる調査である。
 なお、「センサス」とは、古代ローマで「センソール」という職の役人が5年ごとに行っていた市民の数などの調査の名称に由来する。
 「2015年農林業センサス」は昨年2月1日現在で実施され、11月27日に概数値が公表された。本稿では、この概数値をもとに過去の数値と比較しながら秋田県農業について概観する。
 なお、確定値は本年3月中旬以降に公表される見通しとなっている。

2 農業経営体数と農業就業人口

○ 農業経営体 ⇒20.0%減
 本県の農林業経営体は39,631経営体で、うち農業経営体が38,826、林業経営体が2,705で、農業経営体の97%に当たる37,810経営体が家族経営となっている。これは、いずれも全国の約2.8%、東北の16%程度のシェアに相当する。
 農業経営体を5年前の平成22年調査(以下、「前回調査」)と比較すると、この5年間で9,695経営体(20.0%)減少している。農業経営体の内訳別構成比では、法人化していない経営体が98%強と圧倒的に多いが、前回調査と比較すると9,894経営体(20.6%)減と全減少数を上回る。一方、法人化している経営体は603経営体と構成比(1.6%)こそ小さいものの、前回調査比53.0%の増加となっており、農業経営の法人化への流れが確実に進展していることが分かる。

○ 農家数 ⇒18.4%減
 本県の総農家数は48,933戸で前回調査からの5年間で18.4%、11,038戸の減少となった。このうち販売農家が約8割を占める構図に大きな変化はないが、その構成比は徐々に減少傾向を辿っている。
 販売農家を専業・兼業別でみると、専業は9,424戸で前回調査から231戸(2.5%)増加し、構成比でも上昇している反面、兼業農家は28,253戸で前回調査から9,852戸(25.9%)減少している。中でも、農業所得より他の勤労所得等が主である第2種兼業農家の減少の影響が大きい。
 主業・副業別では、主業農家は7,720戸(構成比20.5%)と前回調査から23.4%減少したが、全体に占める割合は前回調査に続いて20%台を維持している。準主業農家(9,558戸、同25.4%)は戸数では前回調査比34.4%減と大きく減少し、構成割合も30%を割り込んだ。最も戸数の多いのが副業的農家(20,399戸、同54.1%)で、構成割合も前回調査から増加している。以上から、農家数が減少している中にあって、農業以外に主な所得を求める農家が8割近くを占めている状況に変わりはないものの、農業を主な所得源とする主業農家の割合がある程度下げ止まっている様子がみて取れる。

○ 就業人口・平均年齢 ⇒平均年齢66.7歳
 農業就業人口(自営農業のみ、または主に自営農業に従事した農家世帯員数)は54,642人で、前回調査に比べて17,163人(23.9%)の減少となっている。男女別では、女性の減少が目立つ。また、年齢別にみてみると、就業人口自体は全年齢層で前回調査から減少しているものの、構成比では60歳以上の高齢者層が上昇している一方、59歳以下の働き盛り層のほとんどで低下している。特に65歳以上は、前回調査で構成割合が初めて6割を超え、今回さらに3.4ポイント割合が上昇している。この結果、平均年齢も66.7歳と、前回調査から1.1歳上昇するなど、農家における高齢化の進行は依然として続いている。

3 耕地面積

○ 経営耕地と経営体 ⇒20.0%減
 農業経営体のうち、耕地面積のあるものは38,405経営体(全体の98.9%)と、前回調査と比べて9,593経営体(20.0%)減少しており、農業経営体全体の減少とほぼ連動している。経営耕地面積は123,666haと、前回調査から4,981ha(3.9%)減少しているが、経営体数が大きく落ち込んだにもかかわらず、経営耕地面積の減少は少ない。この結果、一経営体当りの面積では逆に前回調査比20.1%増加し、3.22haとなった。農地の集約化がある程度進んだものと捉えられる。

〇 農地の集約化の状況
 農地の集約化を経営耕地の規模別でみてみると、経営耕地なしを含めた1.0ha未満が29.6%と経営体全体の約3割を占め、2.0ha未満までで約6割を占めるなど、小規模農家が本県農業経営体の大多数を占めている(図表8)。しかし、前回調査との比較でみると、2.0ha未満の農業経営体の占める割合が減少傾向にあるのに対し、2.0ha以上の耕地面積を持つ農業経営体の割合が着実に増加している。
 また、経営体数実数でみても、総体の農業経営体数が減少しているなかで、10.0haまでの各階層区分すべてにおいて前回調査よりも経営体数が減少している反面、10.0ha以上の経営耕地を有する経営体数は増加しており、その構成割合も着実に上昇するなど、東北や全国と比べても大規模農家の占める割合は高く、本県において農地の集約化が進んでいることを示している。
 面積規模別の集積割合からみても、5.0ha未満では各面積区分とも前回調査より構成割合が低下している反面、5.0ha以上の構成割合は前回調査の46.3%から55.0%へ8.7ポイント上昇しており、5.0ha以上へ農地がシフトしている状況を裏付けている。

○ 経営耕地の種別と借入耕地
 耕地種別では、田が113,945haで前回調査から3,457ha(2.9%)減少、畑が8,000haで同1,272ha(13.7%)減少、樹園地が1,721haで同253ha(12.8%)減少となっている。いずれも前回調査より減少しているが、減少率は田が最も小さく、畑と樹園地は二桁の減少率となっている。
 また、借入耕地があるのは13,017経営体で、前回調査より2,162経営体(14.2%)減少しているが、面積は逆に3,457ha(9.1%)増加しており、耕地の借入により規模を拡大している経営体があることが窺える。

○ 耕作放棄地 ⇒29.4%増
 耕作放棄地は9,590haで、潟上市の面積にほぼ匹敵し、前回調査から2,179ha(29.4%)も増加している。これは東北(18.3%増)および全国(7.1%)の増加率を大きく上回っている。農家の種類別には、前回調査で耕作放棄地が約1割減少していた販売農家が25.5%増と再び増加に転じたほか、自給的農家および土地持ち非農家の耕作放棄地もいずれも二桁の増加率となっており、依然として、耕作放棄地の増加に歯止めがかかっていない。
 政府は、集約化による農地面積の拡大を企図し、平成26年度に「農地中間管理機構(農地バンク)」を創設した。これは、機構が農地の出し手である離農や規模縮小する農家から農地を借り入れ、担い手となる受け手へ貸し付けを行うものである。本県では、公益社団法人秋田県農業公社が機構の指定を受け、26年4月1日より当該業務を行っており、初年度の貸付面積は計画目標の1,000haを超える1,049haと、全国7位の実績であった。
 また、全国的な耕作放棄地の大幅増加を受けて、政府は28年度税制改正において、保有農地を農地バンクへ貸し付けた場合、所有者の固定資産税を最大で5年間半減する優遇策を導入するとともに、耕作放棄地の固定資産税は1.8倍に引き上げる課税強化策を実施する方針としている。
 これら施策の効果により、耕作放棄地の拡大に歯止めをかけるとともに、農地の集積化を促進することが急務となっている。

4 農産物販売

○ 販売金額
 農産物の販売金額規模別で経営体数の構成割合をみると、販売金額100万円未満が19,096経営体(構成比49.2%)と最も多く、次いで100万円~300万円未満が11,830経営体(同30.5%)と、販売金額300万円未満の層で全体の79.7%を占めている。一方、1,000万円以上は5.3%に過ぎない。これを全国や東北と比較してみると、金額階層別の構成割合では極端な差異はないものの、東北、全国とも300万円以上の各階層で概ね前回調査より構成割合の上昇がみられるのに対し、本県では300万円以上700万円未満の中間層の構成割合が前回調査より低下している特徴がみられる。
 
○ 複合経営化への取り組み
 次に、経営組織別・農産物ごとの経営体数をみると、稲作が販売金額の8割以上を占める経営体の割合が77.0%と突出し、稲作偏重の本県の姿を如実に表している。野菜を始大きな変化は見受けられない。東北と比較しても、稲作の割合が20ポイント近く高い反面、野菜や果樹類の構成比の低さが際立っており、この傾向は前回調査結果から変わっていない。
 本県では、こうした稲作偏重から複合経営への転換を目指した取組みを長年続けているが、複合化の進展がどのようになっているかをみてみると、8割以上の販売農家が単一経営で、その殆どが稲作単一経営といっていいほど変わっていない。今後、気候変動リスクを回避し収益性を高めるためにも、より一層、複合経営への転換を促していくことが求められる。
 販売金額が1位となっている農産物をどこに出荷しているかをみてみると、農協への出荷が8割以上を占め、殆どの経営体が農協を通して出荷している構図が窺える。東北との比較でも、本県における農協への出荷割合は10ポイント程度多い。ただ、ほんのわずかずつではあるが、農協への出荷が減少傾向にあり、それ以外の集出荷団体や卸売市場、小売業者、食品製造業や外食産業、消費者に直接販売などの割合が増えてきている。
 単に生産物を農協を通じ販売するだけでなく、生産物の加工を独自に工夫したり、自ら小売する取組みを行ったり、貸農園や農家民宿・農家レストラン等を行うなど、より付加価値を高めた6次産業化への取組状況が読み取れる。

5 まとめ

 2015年農林業センサス結果からは、本県農業の長年の課題とされている稲作中心農業、高齢化の進展、農家数の減少、耕作放棄地の増加といった全体的な構図に、依然大きな変化はみられなかった。しかし、その中でも、農家の組織化・法人化は進んでおり、それにともなって大規模集約化も着実に進展している。全体に占める構成割合では未だ数%にすぎないとはいえ、農産物を農協などの既存集出荷先に出荷するだけでなく、小売業者や消費者へ直接販売しようとする動きも窺える。今後のTPP(環太平洋経済連携協定)発効を見据えると、政府の言う「攻めの農業」への転換にこれまで以上にスピード感を持って取り組んでいくことが必要であろう。
 コメ依存農業からの脱却、経営の大規模集約化や複合化、県産品の販路拡大や輸出への取組み、6次産業化の推進、メガ園芸団地を核としたサテライト団地やネットワーク団地等の展開、ICTを活用した生産性の向上等、「ふるさと秋田農林水産ビジョン」および「あきた未来総合戦略」に掲げる諸施策を強力に推進し、複合型生産構造への転換と強い担い手づくりを柱とする構造改革に取り組むことが期待される。
(工藤 修)
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