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有効求人倍率「1倍超」の意味するところ
 ~「人材・人手不足」への対応が必須~

 本県の有効求人倍率は昨年1月に「1.0倍」を超え、7月には「1.07倍」と1963年(昭和38年)の統計開始以来、過去最高を記録した。以降も「1.0倍」を上回る倍率で推移している。
 有効求人倍率が「1倍」を超えるということは、求職者数を上回る求人数があるということであり、2009年度の平均倍率が「0.32倍」であったことを考えると、雇用情勢が大幅に改善されていると見える。
 ただし、その背景には、団塊の世代の大量退職等にともなう「人手不足」が顕在化するとともに、求人と求職のミスマッチが解消されずに継続しているという大きな問題が潜んでいる。
 本稿では、有効求人倍率の推移等によって、その問題点を明らかにしたい。

1 有効求人倍率とは

 有効求人倍率は「月間有効求人数/月間有効求職者数」で求められる。
 月間有効求人数と月間有効求職者数は、次のとおりである。

[月間有効求人数]
 前月から繰り越された有効求人数(前月末日現在において、求人票の有効期限が翌月以降にまたがっている未充足の求人数をいう。)と当月の「新規求人数」の合計をいう。

[月間有効求職者数]
 前月から繰り越された有効求職者数(前月末日現在において、求職票の有効期限が翌月以降にまたがっている就職未決定の求職者をいう。)と当月の「新規求職申込件数」の合計数をいう。

 なお、求人および求職申込の有効期限は、原則として求人票または求職票が受理された日の翌々月の末日までである。

2 有効求人倍率の推移

 有効求人倍率の年度平均の推移をみると、リーマン・ショックによる大幅な景気後退により2009年度には0.32倍と底を突いた後、徐々に上昇し、2014年度には0.94倍となり、2015年度はついに1倍を超えた。

※ 2015年3月以降の月別推移は、7月に1963年(昭和38年)の統計開始以来最高倍率「1.07倍」を記録し、8月以降もそれを上回る倍率で推移している。

 これまでは1倍に満たない倍率=求人が足りないということで、厳しい雇用情勢を表す指標として使われてきたことからすると、一見雇用情勢が大幅に改善しているとみられる。

3 有効求人倍率の中身

(1) 有効求人数と有効求職者数の推移
 有効求人数と有効求職者数の推移をみると、この4年間で有効求人数が3,971人増えているのに対し、有効求職者が7,243人も減っていることがわかる。その結果、有効求人倍率という数字(率)が跳ね上がっているのである。

(2) 職業別有効求人倍率
a 2012年(平成24年)3月と直近の本年3月の主な職業別の常用雇用(一般・パート)の有効求人倍率の詳細をみると、合計で、求人数が2,649人増に対し、求職者数は6,766人、25%近くの大幅減少となっている。
 求人増と求職者減という2つの要因が重なって、有効求人倍率が「0.63」倍から「0.97」倍へと急激に上昇しているものである。
b 求人数が増えている職業が全13職業のうち「その他のサービス」(895人増)をはじめ8職業に対し、減っている職業は5職業である。
一方、求職者数は、増加しているのは「看護師・保健師等」(27人増)と「その他のサービス」(163人増)、「保安・警備」(19人増)の3職業、「事務」(1,510人減)、「販売・営業」(1,299人減)をはじめとして10職業で軒並み減少している。
c 有効求人倍率が下がった職業は、「看護師・保健師等」(2.95倍→2.50倍)と「保安・警備」(4.13倍→3.12倍)の2職業だけで、他の職業は上がっており、「建築技術者」のように大きく上昇(1.71倍→4.08倍)している職業が多数に上る。もともと倍率の高い職業は、求人が解消されないまま、さらに高い倍率になっていく傾向があり、当該業界にとっては「雇用情勢が改善されている」とは決していえないのである。
 「福祉関連職業」とそのうちの「介護関係」の計数をみると、求人が増えている一方、求職者が減少していることに変わりはなく、有効求人倍率はそれぞれ1.52倍から1.83倍、1.63倍から1.63倍へと上昇しており、求人面での厳しさは増しているといえる。

4 新規高校卒業者就職状況

a 県内求人数等の推移
 ここ5年間の新規高校卒業者の就職状況をみると、県内就職希望者は幸い横ばいで推移しているものの、県内求人数は年々増えており、この4年間では76%増となり、県内求人倍率は本年3月末現在では2.37倍と4年前(1.36倍)に比し急上昇している。

b 主な産業別の充足状況
 新規高校卒業者への求人数に対して就職者をどれだけ確保できたかを示す充足率について、主な産業別の推移をみたのが図表6の「主な産業別の充足状況」である。
 「飲食店、宿泊業」を除いてすべて充足率が年々下がっており、本年3月末現在では「建設業」にいたっては22.2%しか求人が確保できていない。「サービス業」も厳しい状況(25.6%)であり、「医療、福祉」も37.2%しか確保できていない。

5 経営上の問題点「人材不足」

 本誌4月号で、県内企業動向調査結果を紹介し、その中で「経営上の問題点」についてもその結果を掲載しているが、最も多い回答が「人材不足(人材不足+労働力不足)」で、44.0%を占めた。また、新卒採用者数が増加した企業の増加理由の1番は「退職者増加への対応」で、52.8%と過半数を占めた。各種の同様の調査結果をみても「人材・人手不足」は深刻さを増している。また、求人情報大手の調査によると、三大都市圏(首都圏、東海、関西)のアルバイトの時給は、事務や販売といった幅広い職種で人手不足が続き、33か月連続で上昇しているように、首都圏においても人材・人手不足が深刻化している。

6 「人材・人手不足」対応が必須

(1) 有効求人倍率が1倍を超えていることは、求職者数を上回る求人があることであり、雇用情勢が好転していると捉えられがちであるが、これまで見てきたように、その内訳等を見る限り手放しで喜べる状況でないことが分かる。
 有効求人倍率の上昇は、人口増加時と人口減少時では意味合いが変わっているという認識が必要であろう。

(2) 人口減少=労働力減少に他ならない。2010年(平成22年)に約503千人だった県内の就業数は2040年(平成52年)には約281千人と推計されている(県「秋田の人口問題レポート」―2015年3月)。なお、ピークは1970年(昭和45年)の636千人である。
 生産年齢人口(15~64歳)も、2010年の約64万人が2040年には約33万5千人と、30万人強、48%近く減少すると推計されている(国立社会保障・人口問題研究所―2013年3月)。全国合計でも、同期間中に30%近くの2,387万人の減少と推計されている(同研究所―2012年1月)。
 人材の争奪戦が全国で繰り広げられることを覚悟しなければならないともいえる。

(3) 一方、求人数が増えているということは、仕事・雇用の場はあるということである。そして、それが充足されないということは商機を逸しているともいえる。“もったいない”のである。
 したがって、成長戦略、地方創生戦略とは別に、求人と求職をマッチングさせて、まず足元を固めることが喫緊の課題ともいえよう。 
 保育士、介護士の不足解消については、国主導の待遇改善が待たれるが、他の各業界でも、個々の企業と、個々の業界の待遇改善を含めた魅力アップが肝要である。
(松渕 秀和)
あきた経済

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