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秋田県内市町村の地方創生戦略

 政府の地方創生戦略に基づき、秋田県内の自治体において人口ビジョンおよび総合戦略を策定する取組みがなされ、平成27年度中に公表された。本稿では、県内市町村の人口ビジョンおよび総合戦略の内容について整理し、それぞれの市町村が人口減少の抑制や地域の活性化をどのような施策で実現しようとしているか、各市町村の特徴的な点などについて紹介する。

1 県内市町村の地方創生戦略

 平成26年11月に、「まち・ひと・しごと創生法」が成立し、政府による地方創生戦略が本格的にスタートした。これに基づき、秋田県内でも平成27年度において県および各市町村が人口ビジョンおよび総合戦略の策定に取り組んだ。このうち秋田県の総合戦略に関しては、本誌2015年10月号の「経済の動き」で紹介しているので、本稿では公表された県内市町村の人口ビジョンおよび総合戦略について内容を整理し、特徴などについて紹介する。

2 人口ビジョン

(1)将来人口推計および目標人口
 各自治体の人口ビジョンにおいて、国立社会保障・人口問題研究所(以下、「社人研」)の推計を基に、現状の傾向が続いた場合の将来人口の推移を記載している。
 平成72年(2060年)の社人研推計人口を平成27年人口(国勢調査)と比較すると、秋田県全体では54.2%の減少であるが、市町村で減少率が50%を下回るのは大潟村と秋田市のみであり、60~70%台の減少率となる市町村も多い。
 この推計に対し各市町村は、合計特殊出生率の向上や人口流出(社会減)の抑制のための施策を講じることを前提に、人口減少の度合いをより緩和した目標人口を設定している。その目標(平成72年)を社人研推計と比較すると、改善率(社人研推計に比べた増加率)は最低が15.0%(大潟村)、最高が93.5%(藤里町)であり、30~50%台の自治体が多い。改善率が高い自治体は社人研推計における人口減少率が高い傾向があり、高い改善率となったのは人口減少に対する危機感の表れと考えられる。全市町村が目標を達成すると、平成72年の市町村人口合計は平成27年対比で38.4%減少となり、県の目標値(同40.3%減)を上回る。

(2)合計特殊出生率、社会増減の仮定
 上記の目標人口を達成するためには、合計特殊出生率の向上、社会減の抑制が必要となる。各自治体の合計特殊出生率に関する仮定をみると、ほとんどの自治体が国や県に倣って目標を2.07(人口が維持できる水準)としているが、到達する時期は、秋田県と同じ平成62年(2050年)が10自治体、秋田県より早い時期が12自治体、秋田県より遅い時期が2自治体であり、三種町は設定値を1.80としている。
 社会増減に関する仮定で転入・転出が均衡する時期をみると、秋田県と同じ平成52年(2040年)が17自治体、もっと早い時期が2自治体で、もっと遅い時期が1自治体であり、5自治体は独自の仮定を設定している。

3 総合戦略

(1)基本目標および数値目標
 地方創生戦略の目的である人口減少の抑制を実現するためには、合計特殊出生率の向上による人口の自然減抑制や、人口流出の減少および人口流入の実現による社会減抑制のための施策が必要となる。また、もう一つの目的である各地域における活力の維持・向上のためには、人口が減少していく中で地域社会をいかに活性化させていくかという観点が不可欠である。
 秋田県および県内市町村の総合戦略においては、これらの課題に対応する目標が設定されている。秋田県の総合戦略を例にとると、次の4つの基本目標が設定されている。
・基本目標1 産業振興による仕事づくり
・基本目標2 移住・定住対策
・基本目標3 少子化対策
・基本目標4 新たな地域社会の形成
 この基本目標のうち一つ目の「産業振興による仕事づくり」は、人口減少の抑制および地域社会の活性化の両方にとって重要である。すなわち、地方における人口減少の主要な要因となっている若年層の地域外への流出は、高校、大学等を卒業した若者にとって魅力のある雇用の場が地域内にないことが最大の原因となっており、これを解決するためには産業を振興し男女を問わず若年層の能力を活かせる職場や仕事を創り出すことが何より重要である。また、産業振興は地域経済を活性化させ、地域の活力を向上させるためにも重要である。
 「移住・定住対策」は社会減抑制のための目標であり、他地域から当地域への移住を実現するための対策、若者が高校・大学等を卒業した後に地域にとどまり、地域に戻ってくるための対策が含まれる。「少子化対策」は自然減抑制のための目標であり、合計特殊出生率を向上させるための対策が主な内容である。
 そして「新たな地域社会の形成」は、考えられる対策を実施してもなお人口が減少していく中で、地域社会を維持し活性化させていくための目標である。
 県内各市町村の総合戦略をみると、それぞれ基本目標が設定されているが、秋田県の総合戦略における4つの基本目標と共通する目標を掲げる自治体が多い。
 これに対して、秋田市や東成瀬村の総合戦略は5つの基本目標を設定し、横手市、小坂町、五城目町、井川町、大潟村の総合戦略は基本目標を2つ~3つに集約している。ただし、各自治体とも基本目標設定の考え方は、人口減少の抑制や地域の活性化に関する対策であり、基本的に共通している。
 ほとんどの自治体で、基本目標に対応する基本的な数値目標を設定している。それをみると、「産業振興」に関する数値目標は、雇用創出数、課税対象所得など雇用・所得面の指標、観光客数など交流人口にかかる指標、起業数など新規創業にかかる指標が主に選ばれている。また、「移住・定住対策」に関する数値目標は、地域外からの転入増加数、地域外への転出減少数など社会増減に関する指標が多い。「少子化対策」に関する指標は、婚姻数、出生数、合計特殊出生率などの指標が多く選ばれており、「新たな地域社会の形成」に関しては、地域に関する満足度、地域に住み続けたいとする住民の割合など住民の意識に焦点を当てた指標や、ボランティア登録者数など住民の社会参加に関する指標が多いのが特徴である。

(2)移住・定住、少子化対策等に関する施策
 各市町村の総合戦略における具体的な施策をみると、「移住・定住対策」、「少子化対策」、「新たな地域社会の形成」の3つの基本目標に関する具体的な施策は、自治体間で共通するものが多くみられる。
 「移住・定住対策」に関する施策をみると、まず、地域の魅力のPRなど「移住情報の発信」、おためし移住など「移住体験の提供」、空き家バンクによる情報提供など「移住者サポート」の施策が中心となっている。また、「若者のAターン促進」の施策では、地域に戻ることを条件とする奨学金返還金の助成や、地域の小中高校生に対するふるさと教育、キャリア教育の実施など教育面の施策が多い。
 「少子化対策」に関する施策をみると、多くの自治体で中心となっているのが、結婚・出産・子育てに関する支援である。「結婚支援」では男女の出会いサポートが中心であり、「出産支援」では、不妊治療の支援や出産祝い金の支給が多くみられる。また、「子育て支援」に関する施策は、医療費や通学費の補助、第2子保育料無料化など経済的な負担軽減のほか、子育て相談支援や放課後児童クラブ等の設備整備など多岐に渡る。特徴的なのは、これらの結婚・出産・子育てに関する支援を「切れ目なく」、「トータルで」行うとしている自治体が多いことである。「少子化対策」に関する施策では、このほかに英語教育の推進など「教育の充実」や男女共同参画社会の実現など「ワークライフバランス」の推進を掲げる自治体が多い。
 「新たな地域社会の形成」に関する施策をみると、高齢化が進む中で人口に占める割合が拡大する「高齢者等に対する支援」が多く、具体的な内容としては、公共交通の確保、除排雪支援、買い物支援などが中心である。また、地域活力を維持するために元気な高齢者を増加させようという観点から地域包括ケアシステム構築など「健康長寿社会の実現」に向けた施策も多い。さらに、地域の人口が減少する中で効率的な社会システムを構築していくため、インフラ面では、コンパクトシティの形成や中心市街地の活性化に関する施策を掲げる自治体が多く、ソフト面では、社会参加活動・ボランティア活動の推進や共助組織の立ち上げ支援など住民自らが力を合わせて地域を維持していくシステム形成に関する施策が多くの自治体で掲げられている。

(3)産業振興等に関する施策の特徴
 「産業振興による仕事づくり」に関する施策は、他の基本目標に関する施策に比べ各自治体で特徴のあるものが多い。
 振興する産業分野に関しては、新エネルギー(能代市)、航空機産業(由利本荘市)、花火産業(大仙市)など地域の強みを活かす施策が多い。「アンダー35正社員化」(秋田市)や「クラウドソーシングの導入」(湯沢市)など雇用形態や働き方に焦点を当てた施策もみられる。
 農業振興に関する施策も多くの自治体でみられるが、高齢化が進む中で新規就農の促進など担い手確保に関する施策が多くみられる。また、農産物を活用した特産品開発など6次産業化の推進も多くの自治体で掲げられている。
 交流人口拡大の施策では、大館市、男鹿市、横手市でDMO(観光地域づくりプラットフォーム)の設置を掲げているのが特徴である。
株式会社あきぎんリサーチ&コンサルティング
荒牧 敦郎
あきた経済

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