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秋田県の知的財産の現状と課題

 特許権に代表される知的財産は、わが国の経済成長に重要な役割を果たしてきた。しかし、本県の知的財産の出願・登録件数は、全国でも下位にとどまり、県内総生産の多寡ともあながち無関係ではないものと思われる。昨年10月に県が策定した「あきた未来総合戦略」が示すように、“これまで蓄積してきた産業技術や人材、様々なエネルギー資源や、先人から営々と引き継がれてきた地域文化など、本県が有する有形無形の豊富な資源を最大限に活用し、官民一体となって「秋田ならではの地方創生」を推進していく”うえで、知的財産の活用と新たな創出はますます重要性を増している。本県における知的財産の現状と課題、今後目指すべき方向性等について考察する。

1 知的財産とは

(1) 人間の幅広い知的創造活動の成果について、その創作者に一定期間の権利保護を与えるようにしたのが知的財産権制度である。「知的財産」および「知的財産権」は、「知的財産基本法」第2条において次のとおり定義されている。
①「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創意的活動により生み出されるもの(発見または解明がされた自然の法則または現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品または役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報をいう。
②「知的財産権」とは、特許権、実用新案権、育成者権(種苗)、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利または法律上保護される利益に係る権利をいう。
(2) 「知的財産権」は、特許権や著作権などの創作意欲の促進を目的とした「知的創造物についての権利」と、商標権や商号などの使用者の信用維持を目的とした「営業上の標識についての権利」に大別される。
(3) また、特許権、実用新案権、意匠権、商標権および育成者権は、客観的内容を同じくするものに対して排他的に支配できる「絶対的独占権」と言われる。一方、著作権、回路配置利用権、商号および不正競争法上の利益については、他人が独自に創作したものには及ばない「相対的独占権」と言われている。
(4) 「知的財産権」のうち、特許権、実用新案権、意匠権、商標権を「産業財産権」と言い、「特許庁」が所管する。本稿では、この「産業財産権」を主体に考察する。
(5) 企業を取り巻く経済環境やマーケットは近年著しく変化している。かかる状況下で、商品やサービスの競争力を支えるのが、企業等が有形無形で持つ技術力や独自性であり、特許等の知的財産と言える。
(6) 持続的な経済成長を成し遂げていくうえで、知的財産は経済、産業、文化、社会の発展において非常に重要な要素となってきている。

2 主な種類(「産業財産権」)

①特許権…高度な技術的工夫である発明を保護。出願から20年間(一部は延長により25年)保護される。
②実用新案権…物品の形状等の考案を保護。出願から10年間保護される。
③意匠権…物品のデザインを保護。登録から20年間保護される。
④商標権…商品・サービスに使用するマークを保護。登録から10年間保護される(更新可能)。
 これらをテレビを例にとって分かり易く説明すると、それぞれの産業財産権の保護対象は以下のとおりとなる。
①特許権…液晶パネルの高度な新技術
②実用新案権…テレビ基台の新しい構造
③意匠権…テレビの新しい概観デザイン
④商標権…テレビのネーミングやロゴ

3 全国の現状

(1) 国内における特許の出願件数は、平成22年から26年の5年間で年々漸減傾向にある。
(2) 実用新案の出願件数も同様に減少が続いている。
(3) 意匠の出願件数は直近2年間は連続して減少している。
(4) 商標の出願件数は、1年ごとに増加と減少を繰り返しており、直近の平成26年は増加している。
(5) 以上、種別によって増減に多少の違いはあるが、時系列でみると趨勢として減少傾向にあることは否定できない。特に特許と実用新案の減少が目立っている。
(6) また、都道府県別に見ると、後述のとおり地域格差も大きい。
(7) なお、これら知的財産にかかる統計指標には、「出願件数」と「登録件数」がある。
 「出願件数」は、いわば知識の生産量を近似的に表す指標(知識の生産時点と出願時点は通常近接)であり、出願されたもののうち、審査によって「新規性」や「進歩性」等が認められた発明のみが「登録」に至る。したがって、特許等の「登録件数」はさらに高い価値を表す知識の量を計測したものと言えるが、この場合、出願件数と異なり、知識の生産時点と登録時点には通常数か月に及ぶタイムラグが存在することとなる。
(8) また、知的財産には休眠状態のものも多く、一概に出願や保有の数だけでは計れない面もあることには留意が必要と思われる。

4 本県の知的財産の出願・登録状況

(1) 特許
 本県の特許の出願及び登録件数は、概ね40位以下で推移しており、近年は全国下位ワースト5の水準にある。平成26年の全国の特許出願件数(日本人によるもの)は265,959件で、うち本県は108件、割合はわずか0.04%である。
(2) 実用新案
 本県の実用新案の出願及び登録件数は、概ね35位前後で推移しており、全国下位にある。平成26年の全国の実用新案出願件数は5,429件で、うち本県は27件、割合は0.5%である。
(3) 意匠
 本県の意匠の出願及び登録件数は、概ね46位以下で推移しており、全国でも最下位レベルにある。平成26年の全国の意匠出願件数は24,868件で、うち本県は16件、割合は0.06%である。
(4) 商標
 本県の商標の出願及び登録件数は、概ね43位以下で推移しており、全国ワースト5の水準にある。平成26年の全国の商標出願件数は100,053件で、うち本県は200件、割合は0.2%である。

5 本県の特許の分野別構成割合

(1) 「地域経済分析システム(RESAS:リーサス)」というシステムが、インターネット上で広く一般公開されている。このシステムは、国(内閣府:まち・ひと・しごと創生本部事務局)が、地域経済に関する様々なビッグデータ(企業間取引、人の流れ、人口動態等)を収集し、かつ、分かり易く「見える化(可視化)」するシステムを構築することで、地方自治体による効果的な政策立案・実行・検証(PDCA)を支援する目的で構築したものであるが、このシステムの「産業マップ」データの中に、「特許分布図」があり、全国の都道府県や市町村別に特許の保有件数や分野別の内容等を見ることができる(平成26年9月末時点の特許情報)。
(2) RESASによる本県の特許保有数は1,114件。全国のおよそ0.06%に相当する。
(3) 特許を分野別にみると、全国では多い順に、「電気」(構成比22.3%)、「物理学」(同21.7%)、「処理操作、運輸」(同19.0%)、「生活必需品」(同10.7%)、「化学、冶金」(同10.2%)、「機械工学、照明、加熱、武器、爆破」(同9.3%)、「固定構造物」(同5.6%)、「繊維、紙」(同1.1%)となっている。
(4) 一方、本県では、「化学、冶金」(構成比24.9%)が最も多く、以下「電気」(同18.0%)、「生活必需品」(同15.5%)、「処理操作、運輸」(同15.4%)、「物理学」(同12.0%)、「固定構造物」(同8.8%)、「機械工学、照明、加熱、武器、爆破」(同4.9%)、「繊維、紙」(同0.4%)となっており、かつての“鉱山県”ならではの産業立地や、電子部品関連の集積などの特色が読み取れる。
(5) さらに市町村別にみると、それぞれの地域ごとの産業特性が明確となっている。
(6) 各都道府県や市町村ごとに特許の分野別割合をみていくと、当該地域の主要産業が窺え興味深い。
(7) なお、ここでいう分野別の「生活必需品」には、農業、食料品、健康・娯楽、家庭用品等が含まれる。同様に、「処理操作・運輸」には成形、分離・混合、運輸、印刷等が含まれ、「機械工学、照明、加熱、武器、爆破」には機関・ポンプ等が、「物理学」には器械が、「固定構造物」には建築物のほか、地中からの採鉱等も含まれている。したがって、同じ分野別の中でも、都道府県によってその内容は多少異なる。
(8) また、本県出願者の上位は特定の企業・団体が占めている(秋田県、秋田大学、秋田県立大学、三菱マテリアル電子化成㈱、㈱秋田新電元、㈱五洋電子など)。

6 地域経済との相関性

(1) 知的財産の保有件数と各都道府県の県内総生産の各々の全国ランキングを散布した図でみると、知的財産の保有件数の多寡と県内総生産には相応の相関関係があるものと思われる。
(2) 産業競争力で優位性を担保するものの一つが知的財産であると考えられるが、その代表である特許の出願件数は、出願する事業所・団体の数や、地域の産業集積度、事業活動の活発さとも当然に関連がある。したがって、県内総生産とも相関関係があることは自然と言える。
(3) 特許に代表される知的財産の出願件数は、近年全国的に漸減傾向にあるが、もとよりこれらは何か新しいことに挑戦しないと出てこない。知的財産の出願件数が減少傾向にあるということは、経済や産業が活力を失い、守勢に回っている可能性がある。

7 知的財産に係るトピックス

(1) 航空機向け新素材の製造開発
 秋田県は、本年5月、軽くて丈夫な炭素繊維強化プラスチック材料(CFRP)を低コストで生産できる新たな製造技術の確立を目指し、大手重工や県内の大学、企業と共同開発する方針を明らかにした。CFRPは航空機の機体や次世代自動車の車体向けの素材として注目されており、県は航空機部品の製造拠点の創出につなげたいとしている。(平成28年5月24日秋田魁新報)
(2) 農家の技術を「知的財産」化
 農林水産省と慶応大学が、熟練農家の栽培技術を知的財産と位置づけ、権利保護の指針を策定した。情報通信技術(ICT)の活用で施肥など生育管理のノウハウをデータ化し、産地の生産性向上を支援するビジネスとして活用する。生産者の技術を適切に保護して収入増をはかる。(平成28年6月7日秋田魁新報)

8 まとめ

(1) 日本経済が高度成長を遂げた当時の国内企業各社は、努力と創意工夫を重ね、切磋琢磨するなかで飛躍的な進化を遂げた。その企業が今、国内市場の縮小や海外企業との競争激化、「人財」不足などの構造的課題に直面し、元気を失っている。
(2) 少子高齢化が進行し、今後経済の量的拡大を見通すことが困難な現在、イノベーションを引き起こすことで質的向上を目指すことこそが経済活性化の成長戦略となるのではないか。
(3) 特許等の知的財産の出願件数増加は、生産性の増加と企業の業績向上につながり、さらには地域経済への波及効果にも通じる。
(4) 県内の中小企業が単独で取り組むことはもちろん、他企業や研究機関等の技術やノウハウを、新たなビジネスモデルや製品開発に積極的に活用していくことも、有効な選択肢となる。
(5) この場合、“眠れる”特許の活用や、異業種連携の方向性も積極的に模索していくべきであろう。企業だけではなく、地域の大学や行政機関なども重要な「知の拠点」となる。従来以上に産学官連携の積極的な推進に期待したい。
(6) なお、先にみたように、本県の場合、「特許」もさることながら、「意匠」の出願件数が全国最下位レベルとなっているが、デザインやブランド力で売る製品・商品よりも、機能・性能で売る工業製品等を主体としていることとあながち無縁でもないだろう。こうした点で、今後、性能や機能だけではなく、デザイン性に優れ消費者へのアピール度の高い製品・商品の作り方や売り方、あるいはブランド化などについて、見直す余地はまだまだ多く残されているように思われる。
(工藤 修)
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