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県内における移住の現状について

 近年、都市部から地方へ移住する人が増えている。平成26年12月、「まち・ひと・しごと創生本部」による「総合戦略」が閣議決定され、政府はその戦略の基本目標に東京圏への人口流入に歯止めをかけ、地方への新しい人の流れをつくる目標を掲げた。昨年度、全国の地方自治体が策定した「地方版総合戦略」でも、多くの自治体が移住支援策を盛り込んでおり、本県においても様々な移住支援策が展開されている。本稿では、全国および本県における移住の現状や、県が取り組んでいる独自の移住支援策等についてまとめてみた。

1 移住促進に向けた国の動き

 平成26年5月、民間の有識者らでつくる政策発信組織「日本創成会議」は、将来人口を推計し、子どもを出産する女性の9割を占める若年女性(20~39歳)の人口が52年には半減し、全国の市区町村の半分にあたる896自治体が「消滅」するとの試算結果を公表した。
 この試算結果は各方面に大きな反響を呼び、多くの自治体が人口減少問題を取り上げる契機となった。政府も26年6月の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」において、50年後に1億人程度の安定した人口構造を保持することを目指し、少子化と人口減少の克服、地域活性化などに総合的に取り組む方針が盛り込まれた。これを受けて、同年9月には内閣官房に「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され、12月には人口減少克服に向けた「長期ビジョン」と31年度までの5か年計画である「総合戦略」が閣議決定された。
 我が国の人口は、20年をピークに減少を続け、本格的な人口減少時代を迎えているが、総務省が発表した27年の人口移動報告によると、東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)への転入超過数は約12万人で、20年連続の転入超過となり、東京圏への人口集中が続いている状況にある。こうした状況を是正するため、総合戦略の基本目標2(「地方への新しいひとの流れをつくる」)で地方への新しい人の流れをつくる目標を掲げ、国は地方における社会減を食い止める手段の一つとして、移住を促している。
 具体的には、地方移住希望者への支援体制、地方居住の本格推進、「日本版CCRC」の検討、「地域おこし協力隊」と「田舎で働き隊」の統合拡充などを推進することによって、32年までに東京圏から地方への転出者を25年の37万人から4万人増やす一方、地方から東京圏への転入者を47万人から6万人減らし、転出・転入者をともに41万人と同水準にする目標を掲げている。

2 全国の移住の現状

(1)ふるさと回帰支援センターへの相談件数
 こうした国による移住促進の動きに伴い、国民の移住に対する関心も高まっている。ふるさとでの暮らしを希望する都市住民と全国の地方自治体のマッチングを行う認定NPO法人ふるさと回帰支援センター(東京都千代田区)への移住相談件数は、昨年21,584件に上り、前年の12,430件から大幅に増加した。
 移住相談が増加した要因としては、各県や自治体による移住相談会・セミナーが増えたことや、センター内に専属の移住相談員を配置した県が前年の5県から29県に大幅に増え、セミナー参加者が相談しやすい環境が整ったことも寄与したものと思われる。
 センター利用者の年代別では、20~30代の若者世代が44.8%を占め、特に同世代のUターン希望者が顕著となっている。20年のリーマン・ショック、23年の東日本大震災以降、若者世代の相談件数が増え、結婚・子育て、転職などをきっかけに移住を検討する人が増えている。「移住=リタイアした高齢者」という印象が強いが、若者世代でも移住を検討する人が増えており、世代を問わず東京圏から地方への人の流れが生まれつつある。
 また、同センターでは「移住希望地域ランキング」を公表しており、昨年は1位長野県、2位山梨県、3位島根県となった。首都圏から近い長野・山梨の両県は毎年上位にランキングしている。島根県は県・市町村・定住財団の三位一体での移住受け入れ体制の構築が実を結び3位となった。一方、秋田県はUターンに特化した取り組みが成果を上げ、前年の14位から東北で最上位の8位に順位を上げた。

(2)全国の移住者数
 相談件数の増加と同様に、地方自治体の移住支援策を利用するなどして地方へ移住する人も増えている。毎日新聞とNHK、明治大学地域ガバナンス論研究室の共同調査によると、平成26年度に地方へ移住した人は1万1,735人となり、初めて1万人を超えた。21年度(2,864人)から5年間で4倍以上に増え、26年度に移住者が最も多かった都道府県は、岡山県の1,737人で前年度より1,000人以上も増加した。次いで、鳥取県が1,246人、長野県953人、島根県873人、岐阜県782人となっている。
 この調査は、移住相談の窓口や中古住宅を利用する「空き家バンク」などを利用した人や、住民票提出時の意識調査で移住目的とした人のうち、別の都道府県から移り住んだ人を都道府県や市町村に尋ねたものであり、行政の支援策等に頼らないで移住した人など、この調査対象に含まれていない人も他に多くいると考えられ、実際の移住者はもっと多いとみられる。

3 秋田県の移住の現状

(1)秋田県内の移住・定住対策
 国の総合戦略策定を踏まえ、秋田県内においても昨年度、県および各市町村は、地方版の「人口ビジョン」と「総合戦略」を策定した。総合戦略においては、全ての自治体で移住・定住に関する対策が盛り込まれており、本県の人口減少の要因となっている社会減抑制のため、若者の県内定着やAターン就職等による移住を促進する内容となっている。
「移住・定住対策」の数値目標については、地域外からの転入増加数、地域外への転出減少数など社会増減に関する指標が多く、県ではAターン就職者数を1,061人(26年度実績)から31年度に1,700人、本県への移住者数を20人(同)から220人とする目標を掲げている。
 具体的な施策については、移住相談会・セミナーの開催や地域の魅力PRなど「移住情報の発信」、お試し移住など「移住体験」、空き家バンク設置による「住環境情報の提供」など移住者をサポートする施策が中心となっている。また、若者の県内定着やAターン促進の施策では、地域の企業に就職することを条件とする奨学金の助成や、地域の小中高生に対するふるさと教育の実施、大学と連携したインターンシップの実施など教育面の施策が多い。

(2)秋田県の移住者数
 秋田県の移住者数ついては、県が移住相談を委託しているNPO法人秋田移住定住支援センターに移住希望登録をして、県外から移り住んだ人を移住者としてカウントしている。平成27年度に本県に移住した人は58世帯123人となり、初めて100人を超えた。今年度は6月末現在で既に26世帯61人が移住しており、本県においても移住者数は増加傾向にある。
 同センターによると、27年度の県内の移住先は、秋田市が18世帯と最も多い。次いで由利本荘市が6世帯、大仙市、にかほ市が5世帯、大館市が4世帯、能代市、横手市が3世帯、北秋田市、男鹿市、潟上市、仙北市、美郷町が2世帯、鹿角市、湯沢市、井川町、三種町が1世帯となっている。
 世帯主の年代別構成では、20代が10世帯、30代が29世帯で全体の67.2%を占める。40代は9世帯、50代は5世帯、60代が5世帯となっており、若者世代の移住が目立つ。
就職先については、秋田県ふるさと定住機構やハローワークなどを利用して、大半は地元企業に就職しているが、一部には起業や就農を目的に移住する人もみられる。
 また、移住した理由については、「世帯主又は配偶者の出身地であるから」とする理由が大半を占めており、Aターンによる移住者が多い。その他、「起業・就業・就農のため」「育児・子育て環境を求めて」などとなっている。

4 移住・定住対策取り組み事例

 県内では前述したような様々な移住・定住対策が講じられているが、本項では県で実施している独自の取り組みについてみてみる。

(1)「ドチャベンプログラム」
 昨年度、県外から移り住んで起業する人を支援する「ドチャベンプログラム」が実施された。このプログラムは、秋田県と横手市、五城目町が連携して取り組んだ移住・定住対策で、県外在住者又は県内に移住して3年未満の人を対象に事業の立ち上げを支援するものである。
 昨年の7月から9月にかけて、東京と秋田の会場で地方での起業について学ぶローカルビジネススクール(全6回)や、現地住民との交流を兼ねた現地プログラムを開催し、11月には東京都千代田区の研修交流施設「TIPS」において、両市町で起業を目指すベンチャー向けのビジネスプランコンテストが開かれた。
 コンテストには県内外から18組が参加し、このうち6組が支援対象となった。横手市は「秋田産果物の定期通販事業」を提案した矢野智美氏、五城目町は「オフィスの内装木質化事業」を提案した柳澤美弥氏がそれぞれ金賞を受賞した。支援対象となった6組は、各分野に精通した専門家による起業家育成プログラムを経て、このうち4組(平成28年6月末現在)が起業に至り、具体的な事業を開始している。
 これまでも起業にかかるビジネススクールやビジネスプランコンテストは全国の自治体等で行われているが、本プログラムの特徴は、移住者の視点で地域にある資源や課題について考え、新たな事業を興して地域の活性化につなげていく点にある。本プログラムは今年度も実施されており、鹿角市と湯沢市で行われている。

(2)「あきたの教育体験学校」
 先月24日、東京都千代田区の東京交通会館において、「あきたの教育体験学校」が開かれた。イベントには首都圏在住の親子連れら約40人が参加し、本県が推進している「探求型授業」(児童生徒が自ら問うことにより学ぶ授業形式)による模擬授業や、「第7回地産地消給食等メニューコンテスト」で文部科学大臣賞を受賞した五城目第一中学校(五城目町)の学校給食の試食などを体験した。
 このプログラムは、全国トップクラスの学力を誇る教育環境をPRし、本県への移住を呼びかけるものであるが、移住者の中には育児・子育てを移住の理由に挙げる人もおり、そうしたニーズにも対応した取り組みとなっている。
 今月末には「秋田の教育体験ツアー」(28~30日、2泊3日)が開催され、合川小学校(北秋田市)、尾崎小学校(由利本荘市)、東成瀬小学校(東成瀬村)で、授業参観、生活体験、交流会などが行われる予定である。

5 まとめ

 本県は人口統計が開始された昭和26年以降、社会減の状態が続いている。県内への移住者数はこのところ増加傾向にあるが、社会減に歯止めをかけるまでには至っていないのが現状である。今後も県内への移住者を増やしていくためには、移住者のニーズに対応した魅力ある施策を打ち出し、それぞれの地域で暮らし方や働き方に一層の磨きをかけ、魅力ある地域づくりに取り組んでいくことが重要である。そうした取り組みの積み重ねによって、人が人を呼び、人が仕事を生み出し、仕事が人を呼ぶという好循環が生まれることを期待したい。
(山崎 要)
あきた経済

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