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経営随想

社名に込めた思い

木村 繁
(タプロス株式会社 代表取締役社長)
 弊社は今年、第61期、創業60周年を迎える事が出来ました。その記念事業の一つとして、経営コンサルタント会社「タナベ経営」様の指導の下、社内に管理職チームと中堅・若手社員チームの、2つのプロジェクトチームを立ち上げました。名称は「ビジョン委員会」、目的は「経営ビジョン・中期経営計画」の策定です。6月下旬にプロジェクトチームの発表会を行い、現在は取締役とプロジェクトチームの代表者との最終ビジョンを策定中です。
 弊社の60年を振り返った時、忘れられない事が少なくありませんが、何といっても会社名の変更が最大の出来事でした。私は東京で現在の仕事とは全く異業種の会社で約10年間働いた後、秋田に帰り「太平プロパン株式会社」に入社しました。将来会社を背負う為の入社でした。そして、今から約24年前の1992年12月に社名を「タプロス株式会社」に変更しました。当時、CI(コーポレート・アイデンティティ)がブームではありましたが、秋田の中小企業で本格的に実施した例を、私自身は知りませんでした。
 会社名を変更しようと考えた要因は、いくつかありましたが、最大の要因は将来の環境変化に対してでした。「太平プロパン」という社名は、会社内容をよく表しており、名刺を交換した時等も「どの様な会社ですか」と尋ねられる事もなく、又、会社創立から36年経っており、業界や地域社会において、それなりの知名度を得ていました。しかし、その事が逆に働いた場合、プロパンガスのイメージが強すぎて、事業拡大をしていく時にマイナスに働くのではないかと考えました。特に将来のエネルギーは、大きな変化が訪れるのではないか…と思っていました。
 2つ目の要因は、当時、日本経済新聞が発表し、大きな反響を呼んだ「企業の寿命30年」説であり、どんな有力な企業であっても、時代は変化していくので、30年以上に渡って上位に存在する事は出来ない、と具体的な表を作成し、提示した事でした。「太平プロパン」も30年を過ぎており、プロパンガスのみではこれからの30年は厳しいのではないかと考えました。
 3つ目の要因は、残念な事でしたが、今から30年以上前は、ガスメーターやガス機器のセキュリティ機能が十分ではなく、ガスの爆発事故が発生しており、プロパンガスと言えば、その利便性より、危ないものというイメージが強く、特にマスコミに取り上げられる時は、マイナスイメージの記事が多い事でした。今では各セキュリティ機能が充実しており、秋田県においてもガスの爆発事故はほとんどといって良い程、発生しておりません。
 そして最後の要因として、社長交代の時期になっており、父の会社が「太平プロパン」なら、私は新しい会社を作るとの、今考えればかなり生意気な、又不遜な考えも入っていたと思います。
 新しい社名を決める為のプロセスとして、会社の社風、風土をより良いものにしなければ変えた効果は無いと考え、まず、社内改革から始めようと思いました。その為に、社内若手社員を中心に、社内改革・新社名制定のプロジェクトチームを立ち上げ、検討をしていきました。
 そして同時にこのCI導入にあたっては、やはりプロの力が必要であると考えていました。社員から社名を募集するとの考えは全くありませんでした。今後、長い年月に耐えうる社名は、プロの力で作ってもらうと決めていました。大変幸運だった事は、私が信頼している人から、地元の広告代理店、株式会社バウハウスの森川恒社長を紹介してもらった事でした。森川社長に社員たちの議論の輪に入ってもらい、全ての話を聞いていてもらいました。数多くの議論を聞いていた森川社長が提示したのが「タプロス株式会社」という社名とユニークなマークでした。「タプロス株式会社」の誕生でした。
 森川社長の考えた社名の「タ」は「太平」の「タ」、「プロ」は「プロパン」「プログレス(進歩)」「プロフェッショナル」それぞれを意味し、「ス」は「Service(サービス)」「Safety(安全)」の頭文字の「S」、これらを組み合わせて作った、完全な新しい言葉でした。重ねた検討会の回数や時間、社員それぞれの思いや、私や森川社長の思いがたくさん詰まっており、大変強い意志を持った社名が出来たと思いました。又、これを機会にバウハウスさんとタプロスの共同制作による、秋田魁新聞の年賀広告もスタートし、現在も続いています。名刺を交換し始め、最初に聞かれたのが、「タプロスとは何を意味しますか」ではなく、「おもしろい(ユニークな)マークですね」でした。「亀ですか」とよく言われましたが、「亀」を英訳した「タートル」と「タプロス」が似ていることから連想された質問の様でした。このユニークなマークの意味は「①地球や母体をイメージした大きな円と、それを取り巻く中小の円は、自然の力や人間のエネルギー等を内部に取り込み、新しい活力として外部に発進するチャレンジングな姿勢を表現している。②創造と熱意を持って地域社会に貢献する企業姿勢と共に、ユーモアの感じられる親しみやすい企業イメージを象徴している。」ということです。色で分けると、赤はエネルギー、緑は環境、青は母体つまり企業、そして白(無色)はこれからの未知の事業となりますが、20年後に、ここにバナジウム天然水の宅配ビジネスが入るとは、その時は考えもしませんでした。このマークは、まだまだ充分に活用出来ていないのではないかと思っています。
 社長業をスタートさせて、日々、数々のピンチに直面してきましたが、電算システム入替えに関するピンチには、本当に参りました。弊社は創業以来、電算システムは自前主義で、社内でSE(システムエンジニア)を育成し、外部の力は借りずにシステムを構築し、仕事を進めてきました。しかし、時代の変化は速く、オフコンからパソコンへと大きく変わりつつあり、又、主力であるエネルギー(LPガス)も国の方針による変更等もあり、地方の中小企業による自前主義では乗り切れなくなりました。そこで、新しいシステム会社の採用と電算システムの入替えを行ったのですが、移行がうまく行えず、事務の現場では新旧2つのシステムで仕事を続ける事態となってしまいました。その大きな理由として、弊社はLPガス事業を全県に展開するにあたって、国の許認可の関係もあり、全てM&Aで事業を拡大していました。その為、自前のSEであった事もあり、支店・営業所によって仕事の仕方が違っていたのです。
 そこで、同業・同規模の企業でコンピュータシステムが進んでいる神奈川県の会社を訪ね、社長に教えを請いました。その回答は、正に目から鱗でした。「企業は経理なら税理士・会計士、法律なら弁護士、労務なら社労士と、それぞれ専門家の支援を受けている。ITも同様にITコンサルタントがいるので助けてもらえば良い。わが社のコンサルタントを紹介しても良いが、出張旅費等かかるので、秋田でも優秀な人がいると思いますよ。」とのアドバイスでした。その時、私はITコンサルタントという仕事がある事を全く知りませんでした。これも、バウハウス・森川社長と同様でしたが、やはり紹介によって、株式会社ASTコンサルタントの大澤社長と出会い、システムの移行だけではなく、弊社の業務プロセスの標準化をプロジェクト活動として実施する事となりました。
 その中で見えてきたのが、弊社のM&Aで拡大してきた歴史でした。結果は同じでも仕事の仕組みが異なっていたのです。その為、気がつけば膨大な社内の業務プロセスとなっていたのです。正に、業務に合わせてシステムを作るのではなく、システムに合わせて業務の見直しを行い、業務プロセスを統合していく作業でした。更に業務を可視化し、システムに合わせるだけではなく、業務に合ったシステム改修も同時に行い、ようやく安定稼働するようになりました。その後グループウェア「サイボウズ」を含めた社内LANの構築を行い、全社員の行動をオープンにしています。社長が今何をしているのかが、全社員に見える様になっています。ただ、営業活動におけるIT活用は日々進化しており、まだまだやるべき事がたくさんあるのが現状です。
 今、エネルギー業界は大きな変化に直面しています。その最大の要因は、やはり東日本大震災の原子力発電所の事故である事は間違いありません。それと同時に、従来からの環境問題としての地球温暖化に対する省エネ・CO2の削減、更にアメリカ発のシェールオイル・ガスの生産や中東の地政学的リスク等、数々の要因が重なっており、不透明な世界となっています。その様な中において、国は今年4月から一般家庭用の電力を自由化し、来年4月から都市ガスの自由化を行い、文字通り日本のエネルギーは全面自由化の時代に突入します。
 24年前に誕生した「タプロス株式会社」は、この様な時代の為の社名ではなかったかと思っています。ただ、秋田の中小企業にとって、エネルギーの完全自由化時代を勝ち残っていく事は、大きなテーマでもあり、時代の変化をよく見据え、行動してゆかなければならないと思っています。LPガス・灯油から太陽光発電、風力発電等の電力事業、バナジウム天然水等の水事業等のインフラをベースにして、住宅リフォーム等の暮らしのお手伝いをしていく地場企業として、少しでも秋田の元気に貢献できれば、と思います。

(会 社 概 要)

1 会 社 名 タプロス株式会社
2 代 表 者 代表取締役社長 木村 繁
3 所 在 地 〒011-0901 秋田県秋田市寺内字後城322-3
4 電話番号 018-845-1141
5 F A X 018-846-9373
6 U R L https://www.tapros.co.jp
7 設  立 昭和31(1956)年1月10日
8 資 本 金 3,000万円
9 年  商 30億7,900万円(平成27年度実績)
10 従業員数 70名
11 事業内容 LPガス・灯油・住宅設備機器・天然水の販売
12 経営理念 「私たちは信頼と安心で、お客様暮らしをお手伝いする企業でありたい」
―そこに暮らしがある限り―
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