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ふるさと納税制度について~ふるさと納税で「地方再生」~

 「ふるさと納税」に関する現況調査結果(平成28年4月30日時点)が総務省から公表された。制度の認知度向上に加えて、制度改正と返礼品の充実によって、27年度の全国の受入件数は前年度比3.8倍の726万件を数え、受入金額も同4.3倍の約1,653億円となり、件数、金額とも大幅に増加した。
 秋田県(県内市町村分も含む。)も、件数(79,999件)が前年度比3.7倍、金額(約14億円)が同4.3倍と大きく上回った。ただし、件数、金額とも全国合計の1%前後である。
本稿では、「ふるさと納税制度」の意義について再確認するとともに、今後の課題等についても考察する。

1 「ふるさと納税制度」創設の背景

(1) ふるさと納税制度は、平成19年の全国知事会での提案を受けて、総務省による「ふるさと納税研究会」での議論(全9回開催)を経て、20年4月の地方税法改正によって創設された制度である。
 「そもそも何のために作られた制度か」について、総務省の「ふるさと納税ポータルサイト」において、次のように紹介されている。

 多くの人が地方のふるさとで生まれ、その自治体から医療や教育等様々な住民サービスを受けて育ち、やがて進学や就職を機に生活の場を都会に移し、そこで納税を行っています。その結果、都会の自治体は税収を得ますが、自分が生まれ育った故郷の自治体には税収が入りません。
 そこで、「今は都会に住んでいても、自分を育ててくれた『ふるさと』に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」、そんな問題提起から始まり、数多くの議論や検討を経て生まれたのがふるさと納税制度です。

(2) ふるさと納税の理念
 税制を通じてふるさとへ貢献する仕組みができないかとの想いのもと、ふるさと納税は導入されたものである。また、“地方創生”実現のための一手段として位置付けられており、総務省のウェブサイトにおいて、三つの大きな意義があることが紹介されている。

≪ふるさと納税の「三つの大きな意義」≫
 第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。
 それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。
 第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。
 それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。
 第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。
 それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。

 さらに、「納税者と自治体が、お互いの成長を高める新しい関係を築いていくこと。自治体は納税者の『志』に応えられる施策の向上を。一方で、納税者は地方行政への関心と参加意識を高める。いわば、自治体と納税者の両者が共に高めあう関係であること」、「一人ひとりの貢献が地方を変え、そしてより良い未来をつくる。全国の様々な地域に活力が生まれることを期待していること」が理念として掲げられている。

2 ふるさと納税の仕組み

(1) 「納税」という言葉がついているが、実際には、都道府県、市区町村への「寄附」である。
 一般的な自治体への寄附の場合、確定申告を行うことで、その寄附金の一部が所得税及び住民税から控除されるが、ふるさと納税の場合は、自己負担額の2千円を除いた金額が控除の対象となる。
 全額控除となる寄附金額には、寄附者本人の給与収入や家族構成等に応じて、それぞれ一定の上限がある(詳細は、総務省の「ふるさと納税ポータルサイト」に掲載)。寄附額から所得税と住民税から控除されるという特性上、高額所得者ほど控除限度額は高くなっている。
 なお、控除限度額は、制度発足当時は「個人住民税の1割程度」であったが、“地方創生”推進の観点から、27年1月の制度改正で約2割と倍増になった。

(2) 納税手続き
a 「確定申告による場合」
 1年間のふるさと納税の寄附金額から自己負担額である2千円を差し引いた金額が、控除限度額の範囲内で所得税と住民税から全額控除される。ただし、このためには原則「確定申告」が必要で、所得税は寄附した年の納税額から還付され、住民税は翌年度の6月以降の納付分から控除される。
b 「ふるさと納税ワンストップ特例制度」による場合
 27年4月から「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が導入された。この特例制度は、寄附先の自治体が年間5団体以下であれば、確定申告が不要となる制度で、控除額全額が翌年度の住民税から控除される(その分、所得税からの控除はなくなる。)。

(3) 寄附金の使途
 自治体がふるさと納税を財源として実施する分野や事業等を示し、寄附者がその選択ができる仕組みとなっている。選択できる分野の主なものは多岐にわたっている。

(4) 返礼品
 ふるさと納税の制度自体は「返礼品」を前提としているものでなく、寄附を受けた自治体が返礼品を送るかどうかは独自に判断しているものである。したがって、全ての自治体が返礼品送付を実施している訳ではない(28年度において「返礼品を送付する仕組みを設けていない」団体は168団体あり、全体の9.4%に相当する。)。

3 ふるさと納税の実績

(1) 制度開始以降の全国及び秋田県(県内市町村分を含む。)の受入金額と受入件数の推移は図表のとおり(図表省略)。
 本制度の普及、定着に加えて、前記の27年から導入された「控除額倍増」と「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が追い風となり、さらには各自治体が「返礼品」を拡充したことから、大幅に増加した経緯にある。

(2) 都道府県別(27年度実績)
a 受入金額および件数の最多・最少
(a) 受入金額 
 最多の北海道と最少の徳島県では60倍近くの差がある。
(b) 受入件数
 最多の北海道は最少の東京都の約94倍の受入件数となっている。

(3) 東北6県(27年度実績)
 山形県は受入金額、件数とも、北海道に次いで全国2番目(27年度実績)である。
(4) 市町村別(27年度実績)
 徳島県等8つの県が県内市町村分も含めて10億円以下であるのに対して、1市町でそれを上回る金額の受入がある実態にある。

4 現行制度の課題

(1) 返礼品競争
a 総務省では、「ふるさと納税に関する現況調査」(以下「現況調査」)で受入額及び受入件数が増加した理由を調査している。27年9月末時点調査では、41%の団体が、28年4月末時点調査では56.9%の団体が「返礼品の充実」を1番目の理由としている。
 なお、寄附金額に応じて返礼品を分け、金額が高くなるにつれて返礼品を豪華(=高額)にしているのが一般的である。
b 制度の枠外の任意の行為である「返礼品」の充実(高額化)によって、返礼品にかかる費用が多くなればなるほど、本来の事業(使い道)に回す分が減額されることとなる。
 なお、現況調査によると、ふるさと納税の募集や受入等に伴う経費の内訳は次のとおりとなっており、返礼品にかかる費用は40.9%を占めている。
 ただし、地元産品で返礼品を贈ること自体が本制度の目的の1つである「地場産業の振興」と捉えれば、結果として地域活性化、地方創生に資しているとも考えられる。
c 前述のとおり、上限限度額内の寄附であれば同じ2千円の負担額でも高額所得者ほど控除限度額が高い(節税効果が高くなる)仕組みになっている。さらに、寄附額に応じて返礼品が豪華(高額)になればなるほど“高額所得者有利”度合が進むこととなる。
d このため、総務省では、「返礼品(特産品)送付への対応について」という通知を27年4月と28年4月の2回にわたり出状し、注意喚起している。
 ふるさと納税について、当該寄附金が経済的利益の無償の供与であること、当該寄附金に通常の寄附金控除に加えて特例控除が適用される制度であることを踏まえ、事務遂行に当たっての留意事項を示しているものであるが、28年4月の通知においては、より具体的に次のとおり示されている。
ア 返礼品(特産品)の送付が対価の提供との誤解を招きかねないような表示により寄附の募集をする行為を行わないようにすること。
① 「返礼品(特産品)の価格」や「返礼品(特産品)の価格の割合」(寄附額の何%相当など)の表示
イ ふるさと納税の趣旨に反するような返礼品(特産品)を送付するような行為を行わないようにすること。
① 金銭類似性の高いもの(プリペイドカード、商品券、電子マネー・ポイント・マイル、通信料金等)
② 資産性の高いもの(電気・電子機器、貴金属、ゴルフ用品、自転車等)
③ 高額又は寄附額に対し返礼割合の高い返礼品(特産品)

(2) 活用状況(事業内容等)の公表
 「寄附文化の定着」という本制度の目的からしても、また今後とも応援・支援したくなる自治体となるためにも、ふるさと納税の受入額実績のみならず、活用状況の公表は、当然に必要なことと思われる。しかし、現況調査によると、受入額実績・活用状況とも公表していない団体が18.6%ある。
 なお、ふるさと納税を活用して実施した(する)事業による効果として、受入団体が考えている主なものとして、①観光客の増加、交流人口の増加、②教育関係事業の充実、③福祉関係事業の充実、④町のイメージアップ、PRがあげられている。
 また、総務省では、自治体がふるさと納税を活用して実施した事業の生の情報をリポートし、「ふるさと納税活用事例集―ピックアップ!ふるさと納税」として公表している。その中で能代市の活用状況が「強く美しい『風の松原』を次の世代へつなぐ。」として紹介されている。

(3) 税額控除額(税収減額)の負担
 ふるさと納税の寄附によって生ずる税額控除によって、寄附者の居住地の自治体の住民税は減収となるほか、国税の所得税も減収となる。
 寄附金額の大幅増加に伴い、28年度課税における控除額も、前年度比約4.5倍の約999億円に上っている。ただし、寄附者の居住地の自治体(地方交付税を受けている自治体に限る。)は、減収となった税収の75%が地方交付税によって補填され、実質の税収減は25%に止まる。
 都道府県別では、東京都、神奈川県、大阪府、愛知県の順番で控除額(=寄附金額)が多く、全体として税収の多い都市部から地方に税収が移動している状況にあり、“地方創生”につながっているといえる。

5 さいごに

 前述の課題も踏まえて、ふるさと納税の提唱者である西川一誠福井県知事は次のとおり述べられている(平成28年7月20日付日本経済新聞「私見卓見」欄)。

 「一部に行き過ぎがあるのも確かだ。しかし制度の確立期にある。目くじらを立てるより今は知恵と工夫で楽しみながら、新しい活用法が生まれることに期待したい。(中略)ふるさと納税は地方と都市の受益と負担の不均衡を是正しようとする歴史的な試みでもある。(中略)ふるさと納税は本来、税が減ることへの都市の「寛容さ」と、それに対する地方の「感謝」によって支えられている。角をためて牛を殺すことなく大きく育て、地方と都市の税のアンバランスの解消につなげたい。そのことは税に対する認識を深め、寄付文化を盛んにする刺激にもなる。」(後略)

 ふるさと納税は本来は寄附であるが、“税”という文字から、過熱気味の(本来は制度外の任意の行為である)返礼品競争を、税制を利用した地方特産品の通販競争であるなどという批判の声もあるが、すべて地方創生につながる制度設計、現状となっている。
 また、税は取られるものという意識から、自主的に選択して納税(寄附)するという考え方、参加意識が国民サイドに芽生えたことは、諸外国に劣るとされる寄附文化の醸成にもつながるであろう。事実、熊本地震が発生してから5月末までに、地震で被災した熊本県と県内17市町村に、被災地域以外の自治体による代理受付方式も含めて、返礼品がないにもかかわらず、ふるさと納税によって約139億円が寄附された。
 28年度の税制改正で「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)」がスタートした。これは、自治体が作成した地方版総合戦略のうち、内閣総理大臣の認定を受けた事業に企業が寄附する場合、新たな特例措置が適用され、現行の損金算入措置(約3割)と合わせて寄附額の約6割が税額控除される制度である。節税効果もあり、企業の地域貢献に対するイメージアップも期待されるものである。自治体には、“個人版”も含めて、返礼品に頼らない地域創生につながる計画を策定できるか、発案力が試されているといえよう。
(松渕 秀和)
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