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機関誌「あきた経済」

「あきた未来総合戦略」の進捗状況

 県は先般、地方創生に向けて昨年10月に策定した「あきた未来総合戦略」(平成27年度~31年度)の27年度における達成状況をまとめた。同戦略は、もとより「地域経済の活性化」と「人口減少対策」にほかならないが、県の懸命な取組みにもかかわらず、県人口の減少には依然として歯止めがかかっていない。本稿では、計画初年度に当たる27年度の進捗状況と課題、今後の対応方針等を、県の自己評価に基づき概観する。県もホームページに有識者会議の議事録と詳細な資料を掲載しているが、本稿も同戦略に対する県民の認知度向上の一助となれば幸いである。

1 はじめに

 県は、昨年10月に策定した「あきた未来総合戦略」(推進期間:平成27年度~31年度)の初年度に当たる27年度の進捗状況と自己評価をまとめた。
 評価は、4つの政策分野ごとに定めた基本目標に基づき、数値目標の達成率・達成度(A~Dの4段階評価)により行っているが、その基本目標を構成する具体的な施策と、施策を構成する各事業別の重要業績指標(KPI)の達成率・達成度(A~Dの4段階評価)、施策ごとの進捗度合の検証結果(「順調」「概ね順調」「やや遅れている」「遅れている」の4段階評価)等を踏まえ、総合的に判定している。
 なお、数値目標・KPIの達成度は、A:100%以上、B:80%以上100%未満、C:60%以上80%未満、D:60%未満、としている。

2 数値目標と達成状況、評価

(1)基本目標1:産業振興による仕事づくり
数値目標は雇用創出数。27年度の目標2,235人に対し、実績は2,011人。達成率90.0%、達成度はB。全体では「概ね順調」との評価。個別施策のうち、達成度C以下(達成率80%未満)の施策(数値目標なし、または実績未判明を除く。以下、同様)は、①航空機産業の製造品出荷額、②新たなサービス産業の創出件数、③Aターン就職者数、④国際交流を実施している公立高校数、⑤企業現場等における長期間の技術研修への参加人数、の5項目。うち⑤は達成度D。これにより、「産業人材の育成」関連施策については、進捗度合が「やや遅れている」としている。

(2)基本目標2:移住・定住対策
 数値目標は、①Aターン就職者数と②本県への移住者数の2項目。うち①Aターン就職者数は、27年度の目標1,400人に対し、実績1,080人。達成率77.1%、達成度C。②本県への移住者数は、27年度の目標60人に対し、実績は123人。達成率205.0%、達成度A。全体では「概ね順調」と評価している。ただし、基本目標のうち今回最も達成度が低かったのは、県外在住者が秋田に移り住むAターンの就職者数であり、今後に課題を残したと言える。個別施策のうち、達成度C以下の施策は、①地域に活力を与える移住者の数1項目で、達成度D。「多様なニーズに対応した移住の促進」関連施策について、進捗度合が「やや遅れている」としている。

(3)基本目標3:少子化対策
 数値目標は、①婚姻数と②合計特殊出生率の2項目。うち①婚姻数は、27年度の目標4,020件に対し、実績は3,613件。達成率89.9%、達成度B。②合計特殊出生率は、同目標1.39に対し実績1.38。達成率99.3%、達成度B。全体では「概ね順調」と評価している。個別施策で、達成度C以下の施策はなかった。

(4)基本目標4:新たな地域社会の形成
 数値目標は、①「居住地域が住みやすい」と思っている人の割合と②社会活動・地域活動に参加した人の割合の2項目。うち①「居住地域が住みやすい」と思っている人の割合は、27年度目標60.0%に対し、実績77.6%。達成率129.3%、達成度A。②社会活動・地域活動に参加した人の割合は、同目標52.0%に対し、実績44.1%。達成率84.8%、達成度B。全体の評価は「概ね順調」としている。個別施策でも、達成度C以下はなかった。

3 基本目標ごとの推進状況(県資料より抜粋)

(1)基本目標1:産業振興による仕事づくり
○地域産業の競争力強化については、航空機産業の製造品出荷額や風力発電導入量等が目標未達ながらも着実に伸びているほか、企業誘致が順調に進み、雇用の創出が図られている。一方で、経済雇用情勢の改善等により、国内の人材獲得競争の激化から、Aターン就職者数や県内大学生等の県内就職率は伸び悩んでいる。
○農林水産業分野については、農業法人の規模拡大や新規就農者の確保などの成果が現れるとともに、園芸メガ団地の整備の促進等による複合型生産構造への転換や6次産業化推進の取組みなどが進みつつある。
○観光分野については、国民文化祭の開催を契機とした秋田の文化の発信や、ワールドカップモーグル大会の開催などスポーツを通じた交流人口の拡大など、観光、食、交通、文化、スポーツ等が一体となった施策に取り組んでいるが、他県との競争激化の中で、延べ宿泊者数等が伸び悩んでいる。

(2)基本目標2:移住・定住対策
○移住相談窓口の拡充、多様なメディアを活用した移住情報の発信、移住者受入体制の整備など、きめ細やかな取組みにより、移住者は大幅に増加している。
○多様なツールを利用した情報発信等により、Aターン登録者数は増加しているものの、経済雇用情勢の改善等による国内の人材獲得競争激化の影響で、Aターン就職者数は伸び悩んでいる。
○県内高卒者の県内大学進学率は伸びているが、さらに、県外進学者の県内回帰を進めるため、県外大学生を対象に秋田の暮らしや企業に関連するセミナー等を行ったほか、県内外の大学生の県内就職を促進するため、奨学金返還助成制度を創設した。

(3)基本目標3:少子化対策
○合計特殊出生率は、3年ぶりに改善し、前年に比べ0.04ポイント上昇している。
○脱少子化モデル企業数や次世代法に基づく一般事業主行動計画策定件数等が増加しており、仕事と子育てを両立できる環境づくりが進んでいる。
○あきた結婚支援センターにおける成婚報告者数は着実に増加しているものの、全国と同様に適齢期人口の減少により、全体の婚姻数は減っている。
○子育て世帯の経済的負担の軽減を図るため、28年度からの保育料・医療費助成の拡充に取り組むとともに、子育て世帯への住宅支援や多子世帯向け奨学金などの制度を創設した。

(4)基本目標4:新たな地域社会の形成
○県と市町村が一体となり推進する未来づくり協働プログラムについては、25市町村全てが策定し、地域活性化に向けた取組みを進めている。
○地域コミュニティの再構築については、地域課題解決のためのトライアル事業の実施やお互いさまスーパーの設置などに加え、シニア人材の発掘と地域ニーズの掘り起こしなど、着実に進展している。
○男女イキイキ職場宣言事業所が増加しているほか、女性活躍推進法に基づく行動計画の策定に取り組む事業所(300人以下)も見られるなど、女性が活躍できる環境づくりが進んでいる。また、地域貢献活動を行う若者団体が増加しているなど、若者団体の育成、ネットワーク化も図られている。
○安全安心な暮らしを守る環境づくりとして、雪対策に取り組む共助組織が大幅に増加しているほか、長寿命化計画策定や生活排水処理の広域共同化に係る取組みが順調に進んでいる。また、CCRCの導入によるまちづくりに向けた具体的な取組みも出てきている。

4 主な課題と今後の対応(県資料より抜粋)

(1)基本目標1:産業振興による仕事づくり
○地域産業の競争力強化については、航空機の製造用治具や整備用機材、内装品の受注により、製造品出荷額は伸びているが、機体部品等では単工程の受注にとどまっており、県内における波及効果が少ない。今後は、機体やエンジンなどの基幹部品への参入など、受注を質・量ともに拡大させるべく、認証取得による特殊工程の導入や、地域企業が連携して工程を担うサプライチェーンの形成など、効率的な生産体制の構築を推進する。
○風力発電の導入拡大に伴い、風車の保守管理に対するニーズが高まるが、対応する人材が不足している。今後導入が見込まれる洋上風力発電も見据え、風力発電施設の保守管理業務等への県内企業参入を促進するため、風車メンテナンスに係る人材育成プロジェクトを立ち上げるほか、発電事業者と県内企業のマッチングを支援し、県内企業の新エネルギー関連産業への参入を促進していく。
○県内中小企業の多くが、経営者の高齢化に伴い世代交代の時期を迎え、雇用の確保や優れた技術、ノウハウ等の貴重な経営資源を継承するうえで、後継者の確保や円滑な承継が課題となっている。商工団体、金融機関等から構成される中小企業支援ネットワーク内に設置している「事業承継ワーキンググループ」にて、各支援機関における取組みや情報の共有化を図り、円滑な事業承継の促進に取り組んでいく。
○国内の労働力不足が顕在化し、有効求人倍率の高水準が続くなか、大学生等の県内就職及びAターン就職者数への取組強化が必要となっている。就活情報サイトのコンテンツ充実や情報提供、Aターンプラザ相談機能の充実など様々なアプローチによる情報発信を強化し、移住・定住施策と密接に連携しながら、Aターン登録者の拡充を図る。
○農林水産業については、経営者の高齢化が進行している中にあって、農業法人等の経営継承が課題となっている。農地中間管理機構を活用した農地の集積・集約化を加速させるとともに、複合化や多角化による経営発展など、意欲ある経営体の取組みを支援し、地域農業を牽引するトップランナーとしての農業法人等を育成するほか、企業の農業参入の促進、移住就農対策の強化、農業法人等の経営継承に向けた取組みへの支援により、強い担い手づくりと新規就農の促進を図る。
○本格的な営農を開始した園芸メガ団地は、経営が早く軌道に乗るよう技術・経営両面から重点的な支援が必要。加工・業務用向け生産は行われていないため、新たに取り組む生産者を増やすことが必要。より一層の低コスト化にも取り組む。出荷量日本一を達成したえだまめやねぎ、アスパラガスなどの県産野菜のブランド化、リンドウ、ダリアなどの「秋田の花」の販路拡大に取り組むほか、複数の団地を組み合わせて販売額1億円を目指すネットワーク団地など、多様な園芸拠点を全県域に展開し、出荷量のさらなる増大や販路拡大を図る。
○観光を中心とした交流人口の拡大については、首都圏等における誘客キャンペーンの強化とともに、インバウンド対策についても、県内におけるWi-Fiなどの受入態勢整備や、海外向けプロモーションの充実を図る必要がある。
JR東日本の誘客キャンペーンなど、首都圏や隣県、近隣諸国等へターゲットを絞り込んだテーマ性のあるプロモーションを展開する。
○本県のイメージアップについては、次のステップとして、「秋田に行く」「秋田県産品を買う」といった具体的な行動に結び付けていく必要がある。

(2)基本目標2:移住・定住対策
○移住対象としての認知度向上のため、継続的、効果的かつ充実した情報発信が必要。
○県・市町村・不動産業界が連携した空き家利活用促進体制を構築するとともに、全市町村における空き家バンクの整備を促進する。
○また、移住後のサポート体制の充実を図るとともに、民間団体・関係団体の協力も得ながら、移住者を支援するネットワークを構築する必要がある。
○仕事の場、雇用の受け皿が不可欠であることから、「地域にある仕事」の発掘と、多様な働き方の仕組みを構築し、生活面でのサポートと併せ、秋田での暮らし方を提案する。
○県内就職について、国公立大学における県内就職率が低いことから、「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」との連携により、県内就職を推進する。大学や関係機関との情報共有を強化する。

(3)基本目標3:少子化対策
○あきた結婚支援センターの登録期間満了の際、更新せずに退会する割合が高く、登録者数が伸び悩んでいる。新規会員登録者数の増加を図り、市町村、センター、結婚サポーターとの連携を図り、相談対応の拡充を図る。
○幼稚園や保育園等、保育施設の整備を支援し、受け皿の充実を図るとともに、保育士の処遇改善や負担軽減について対策を講じる。

(4)基本目標4:新たな地域社会の形成
○地域コミョニティ活動の活性化については、市町村ごとの対応差異を解消し、お互いさまスーパーについては地域住民の意識改革と定着化を図る。同時期に開設した他店舗とのネットワーク構築と情報交換などを進めていく。
○地域公共交通の確保は、人口減少や少子高齢化などにより利用者数が低迷しており、地域の実情に応じた新たな課題解決手法の検討が必要となる。
○CCRCを導入したまちづくりについては、関係者で組織する推進協議会で意見交換を進め、秋田版CCRC構想の策定を行うほか、民間事業者の事業化を支援する。雪対策について、共助組織の設立を加速し、市町村の取組みに支援を行う。

5 まとめ

(1)4つの基本目標に掲げる7項目の数値目標を、改めて達成度別に見ると、達成度100%以上の評価Aが2項目、同80%以上100%未満の評価Bが4項目、同60%以上80%未満の評価Cが1項目、同60%未満の評価Dは0だった。
 このうち、評価Aは、本県への移住者数と、「居住地域が住みやすい」と思っている人の割合、の2項目。Bは、雇用創出数、婚姻数、合計特殊出生率、社会活動・地域活動に参加した人の割合、の4項目。Cは、Aターン就職者数の1項目となっている。
 県では、全体として「概ね順調」と自己評価している。ただし、人口減少対策であるにもかかわらず、県が先般発表した本年10月1日現在の県人口は101万人を割り込み、過去1年間の減少率は1.32%と、依然歯止めがかかっていない。28年度県民意識調査の結果を見ても、人口減少対策に対し、県民の56.1%が「不十分・やや不十分」と回答しており、評価の乖離が大きい。

(2)未だ緒に就いたばかりで、わずか1年で短絡的な評価は早計であるが、成果が実感として分かり難く、それが推進期間最終年度の目標にどう結びつくのか、イメージしづらいことも否めない。また、県民意識調査の結果を見る限り、総合戦略や施策に対する県民の認知度が低く、実施している施策が理解されていない面もある。中間の進捗評価についても、県民へ周知・アピールのうえ、取組みを全県的により広範な層へ拡大していくことが望まれる。

(3)施策の成果は、もとより計数基準のみにて機械的に判定できるものではないが、それでも「概ね順調」どまりの進捗では、初年度とはいえ、物足りなさが残るのもまた事実。人口減少に歯止めをかけ、地域の活性化を実現するという大命題を達成するためには、年度ごとの計数目標を上回ることが最低限必要であり、さらにその上を行き前倒しで達成するくらいの勢いがなければ、県民に改善の実感はなかなか生まれてこないかもしれない。

(4)今後は、中間での目標と実績の乖離をいかにして縮減、挽回していくか、PDCAサイクルをいかに回していくかが問われることになる。既存の施策の見直しと、新たな施策の追加なども弾力的に検討していく必要があるだろう。

(5)「基本目標3:少子化対策」の数値目標である婚姻数や合計特殊出生率は、施策によるコントロールがある意味最も困難な項目と思われるが、それにもかかわらず、相応の目標達成率を確保している。一方、最重要課題の一つである雇用の創出数、Aターン就職者数の目標未達は、早急に施策の見直しや挽回策の検討が必要である。Aターン就職者数を見ると、新規起業は目標を達成しているが、県内就職はほとんど従前と変わらない水準にとどまっている。既存の県内企業になかなか雇用増加の余裕がない実情を考えると、新規起業や誘致を増やすとともに、これら県内企業の生産性や収益性を向上させ、成長軌道に導くシナリオも望まれる。

(6)最近は、土着ベンチャー(ドチャベン)や、各地におけるDMO設立、秋田版CCRCの実現に向けた動きなどが、拡がりつつある。県内各市町村や他県との広域連携も積極的に推進し、元気で特徴のある“高質な田舎”を実現したいものである。
(工藤 修)
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