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機関誌「あきた経済」

アンケート結果から見た本県の人手不足の現状

1 はじめに

 当研究所では、毎年3月と9月に、県内事業所を対象にアンケート調査を実施し、3月調査では、「経営上の問題点」について調査している。これまで、回答割合が最も高かったものは「販売量(受注量)の減少」であったが、近年は「人材不足」の割合が高まり、その割合は平成28年に逆転した。過去5年間の「人材不足」の推移をみると、24年は1割未満であったが、25年に1割を超え、以降、年々上昇傾向にある。
 28年には「人材不足」についての回答項目を「人材不足(質の不足)」と「労働力不足(量の不足)」の二つに分類したが、この二つを合わせると44.0%となり、「販売量(受注量)の減少」(39.4%)を上回った。また、「労働力不足(量の不足)」よりも「人材不足(質の不足)」の割合が高くなり、各社、優れた人材の確保に苦労している様子がうかがえる。
 産業別にみると、製造業では「販売量(受注量)の減少」(39.7%)、非製造業では「人材不足(質の不足と量の不足の合計)」(51.9%)が最も多くなり、非製造業で人手の確保が急務となっていることが分かる。

2 アンケート結果から

 こうしたことから、平成28年9月調査では、特に県内企業の人手不足の状況について調査を行い、不足している職種や業種、その要因、人手不足による影響、人員確保のための対策等についてまとめた。

(1)現在の雇用人員について(28年度下期)
 現在(28年度下期)の雇用人員について尋ねたところ、「不足」していると回答した企業は34.5%で、企業の3割超が人手不足を感じていることが分かった。「適正」は59.3%、「過剰」は6.2%であった。
 業種別にみると、製造業(24.0%)に比べ、非製造業(42.9%)で人手不足感が強くなった。「不足」していると回答した企業割合は、「サービス」(56.7%)で最も高くなり、次いで「観光」、「衣服縫製」(46.2%)、「運輸」(42.9%)、「卸売・小売」(40.7%)で高くなった。
 その反面、サービス業においては、「過剰」とした企業割合も10.0%と、全業種中で最も割合が高かった。サービス業の内訳では、生活関連や警備、ビル管理等で「不足」となった一方、情報およびレジャー関連の一部で「過剰」となった。

(2)雇用人員の見通しについて(29年度上期)
 次に、今後(29年度上期)の見通しについて尋ねたところ、「不足」すると回答した企業は32.6%で、企業の3割超が人手不足が続くと回答している。「適正」は61.1%、「過剰」は6.3%であった。
 業種別にみると、現在の雇用人員と同様、見通しにおいても、製造業(23.3%)に比べ、非製造業(40.3%)で「不足」を予想する企業割合が高くなった。今後も「不足」すると回答した企業割合は、「サービス」(48.3%)で最も高く、次いで「観光」、「衣服縫製」(46.2%)、「卸売・小売」(40.7%)となった。
 なお、現在「不足」していると回答した100社のうち、見通しについて「適正」水準となると回答した企業は15社にとどまり、依然として「不足」の状態が続くと回答した企業が84社であった。「過剰」と回答した企業はなかった(無回答1社)。

(3)不足している雇用形態について
 以下の(7)までの質問については、現在人手が「不足」している、もしくは「不足」する見通しであると回答した企業110社に尋ねた。
 「不足」している雇用形態は「正社員」(82.7%)が最も多くなり、製造業で81.1%、非製造業では83.6%となった。業種別では「衣服縫製」、「木材・木製品」、「酒造」、「建設」の4業種において、全ての企業が「正社員」が不足していると回答した。
 次いで「パート・アルバイト」が32.7%となった。製造業では18.9%、非製造業では39.7%となった。業種別では「酒造」と「観光」(66.7%)、「サービス」(52.6%)、「卸売・小売」(48.0%)で割合が高くなり、パート・アルバイトの不足が深刻化している様子がうかがえる。
 「契約社員」が不足していると回答した企業割合は14.5%であった。「派遣社員」は7.3%であったが、「電子部品」、「機械金属」、「サービス」の3業種でのみ回答があり、いずれも二桁の回答率となった。

(4)不足している職種について
 「不足」している職種は、「技術職」(44.5%)が最も多くなった。製造業では67.6%、非製造業で32.9%となり、製造業で技術職の不足がより深刻となっている。特に「機械金属」、「衣服縫製」、「木材・木製品」の3業種では、全ての企業が「技術職」が不足していると回答し、「酒造」でも66.7%と割合が高くなった。技術職においては「数年後に定年退職者が相次ぐため、技能工が将来的に不足する」(機械金属)との記述や、「人件費がかさむため、前任者の退職直前に新人を採用しているが、引継期間が短期になってしまい、技術面の継承がうまくいっていない」(情報サービス)との回答もあり、技術職の高齢化と代替要員確保の難しさが大きな課題となっている。
 次いで「営業職」、「店頭販売・接客・サービス系職種」が24.5%となった。「営業職」においては「観光」で50.0%、製錬や食料品などの「その他製造」で45.5%、「サービス」でも42.1%となった。「店頭販売・接客・サービス系職種」では、「観光」で66.7%となったほか、「卸売・小売」でも56.0%となった。また、「管理職」については、「酒造」で66.7%となった。
 その他、「ドライバー」、「重機オペレーター」など、資格や技術が必要となる職種が不足しているとの記述もみられた。

(5)不足の要因について
 不足の要因は、「新卒採用が困難」(43.6%)が最も多く、次いで「中途採用が困難」が40.9%、「パート・派遣社員の人材確保が困難」が26.4%となり、企業側に採用する意思があっても、希望する人材および人数を確保できずに人手不足となっている様子がうかがえる。採用や人材確保に困難を感じている(「新卒採用が困難」、「中途採用が困難」、「パート・派遣社員の人材確保が困難」の合計)業種をみると、「観光」、「卸売・小売」、「衣服縫製」、「建設」、「サービス」で割合が高くなった。
 回答企業からは、「求人を出しても応募者が少ない」(建設)、「応募者が少なく採用希望人数を確保できない」(衣服縫製)などの記述がみられた。人材不足を解消するため求人を出しても思うように採用活動が進まない状況にあるようだ。
 また、「中途退職者の増加」も21.8%となり、人材の定着についても課題が残っている。

(6)人員確保のための対策について
 人員確保のために講じている対策については、「正社員(新卒者を含む)を採用した(する予定)」と回答した企業割合(68.2%)が高くなり、「パート・アルバイトを採用した(する予定)」(30.9%)も3割を超え、人手不足に対し新規雇用で対応している企業割合が高くなった。業種別にみると、正社員の採用で対応した業種は「木材・木製品」、「機械金属」、「衣服縫製」、「建設」、パート・アルバイトの採用で対応した業種は「観光」、「卸売・小売」、製錬や食料品などの「その他製造」、「運輸」で多くなった。
 また、「業務の効率性を高め、現状の従業員で対応できるようにした(する予定)」が31.8%、「受注や営業時間の調整を実施した(する予定)」が4.5%となり、業務の見直しや運営方法の変更などで対応した企業の割合も高くなった。また、「派遣や請負などの外部人材の活用を増やした(増やす予定)」(14.5%)、「アウトソーシング(社外調達・外部委託)を増やした(増やす予定)」(10.0%)が、いずれも1割を超えた。
 その他、「アルバイトからの社員登用」(卸売・小売)、「高齢者の再雇用」(建設、卸売・小売)などの回答が挙げられ、様々な方策で人手不足を乗り越えようとしている姿がみてとれる。

(7)人手不足による影響について
 人手不足による影響について、「影響がある」と回答した企業は80.9%となり、「影響がない」は16.4%にとどまった。
 具体的な影響については、「売り上げ機会の損失」(67.4%)が最も多くなり、「納期の遅延」、「企画・開発力の低下」がいずれも11.2%となり、実際の業務に大きな支障が出ていることが分かる。
 「人件費(時間外手当等)の上昇」も3割を超えた。具体的には「引き抜きに備え賃金やボーナスを上げた」、「外注費が増加し、利益率が低下した」との回答が挙げられ、人手不足にともなうコスト上昇が業績に影響を与えている様子がうかがえる。
 また、「現場の高齢化」(47.2%)のほか、「技能・ノウハウの伝承が困難」(14.6%)など、今後の経営に関わる問題も深刻であることが分かった。

3 まとめ

 今回のアンケート結果では、県内企業の34.5%が人手不足感を抱いており、このうち8割超が「正社員」が不足していると回答した。企業側は、採用活動を継続する一方、高齢者の雇用延長、アウトソーシング、業務の効率化等で対処している。しかし、県内企業の3割超が、今後も人手不足が続くと回答し、先行きの業務運営に不安を抱えていることが分かった。
 人手不足は、受注抑制やサービス低下に繋がるほか、技術継承にも影響を与えている。団塊の世代が65歳を超え、退職時期を迎えたほか、各企業では、以前に採用人数を絞ったり、採用活動を休止していた時期があったため、世代間バランスが崩れ、幹部候補や管理職候補が少ないなどの問題も出てきており、各企業では人員の補充が急務となっている。
 人材の確保、育成、定着は、企業の多くが抱える課題であるが、一方で、キャリアや年収、仕事に求めるやりがい、ワークライフバランスなど、働く側の意識も変わりつつある。各企業が採用機会の創出や方法に関して自助努力をすることはもちろんであるが、賃金、労働時間、雇用形態など、様々な側面から働き方を見直す必要がある。
 行政は、「秋田市アンダー35正社員化促進事業補助金」など、新規雇用や職場定着、従業員の処遇や職場環境の改善を図るための助成金など、様々な制度を整備している。各社の事情は異なるが、これらの制度も一助としながら、自社に適した施策を見出し、待遇改善や環境整備に努めることが重要となる。
 人手不足の解消には、多大なコストと時間を要する。各企業が意識を強め、継続的に取り組むことで、人材の確保が可能となり、定着にも繋がると考えられる。人材の定着がビジネスチャンスの拡大に繋がり、また、各企業の取組みが地域全体の活性化に繋がることを期待したい。
(佐藤 由深子)
あきた経済

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