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電力自由化と自治体による地域新電力参入の動きについて

 今年4月より電力小売が全面自由化された。これまで一般家庭向け電力販売は東京電力など電力大手10社が独占してきたが、石油・ガス、情報・通信、鉄道など異業種からの参入も可能となり、「新電力」は全国で360社を超える。また、電力小売の自由化に伴い、特定の地域に限定して電力供給を行う「地域新電力」に自治体が参入するケースが全国で増えており、本県においても鹿角市で地域新電力設立に向けた調査が進められている。本稿では、段階的に進められてきた電力小売自由化の流れや、自治体による地域新電力参入の動き等についてまとめてみた。

1 電力小売自由化の流れ

 今年4月より電力小売が全面自由化されたが、日本の電気事業は戦後ほぼ半世紀にわたり、大手電力会社10社による垂直一貫体制(発電部門、送配電部門、小売部門を一つの会社が一貫して行う体制)と総括原価方式(供給原価に適正報酬を加える形で料金を決定する方式)が貫かれてきた。これにより電力の安定供給が確保され、戦後の高度成長期を支える原動力の一つとなった。
 その後、国際的に割高な水準であった電気料金を是正するためや、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故により従来の電力システムの抱える様々な限界が浮き彫りになったことなどから、数次にわたり電力事業制度改革が行われ、発電部門と小売部門の自由化が進められてきた経緯にある。
 小売部門の自由化については、段階的に自由化の対象が拡大されている。平成12年3月に契約電圧が2,000キロワット以上の大規模工場やデパートなどが自由化され、大手電力会社以外からも電気を購入できるようになった。16年4月には500キロワット以上、17年4月には50キロワット以上まで拡大され、スーパーやビル、中小規模の工場でも電力会社を選べるようになり、電力量の63%まで自由化の対象が広がった。さらに今年4月より一般家庭やコンビニなどが自由化され、小売部門の全面自由化となった。
 また、送配電部門についても、送配電網利用における中立性・公平性を保つため、30~32年を目処に大手電力会社の送配電部門を分社化し、別会社として独立させる予定になっている。東京電力では今年4月に他の電力会社に先駆けて、燃料・火力発電事業、一般送配電事業、小売電気事業の3部門を別会社に分離し、持ち株会社体制に移行した。

2 新電力への参入状況

 電力小売の全面自由化に伴い、PPS(Power Producer and Supplier)と呼ばれる「新電力」に参入する企業が相次いでいる。これまで一般家庭向け電力販売は東京電力など電力大手10社に限られていたが、石油・ガス、情報・通信、鉄道など異業種からの参入も可能となり、11月22日現在、小売電気事業者に登録した企業は368社に上る。
 新電力では、特色あるサービスや大手電力会社よりも安い料金プランを提供して顧客獲得を図っている。新電力で最も多くの顧客を獲得している東京ガスでは、ガスと電気のセット割引だけでなく、水まわりや鍵のトラブル対処など、生活関連の駆けつけサービスを加えたプランを提供している。石油大手のJXエネルギーでは「ENEOSでんき」を販売し、1か月の電気使用量が180キロワット時を超えると、現在の東京電力の料金よりも安くなる。さらに提携カードの会員になるとENEOSの給油所でガソリンが割引になり、車をよく使う家庭にとってはメリットが大きい。また、携帯大手のKDDIでは「auでんき」を販売し、電話と電気のセット割引のほかに、電気料金に応じて1~5%相当分のポイントを同社のプリペイドカードに充当するサービスを行っている。この他にも、ケーブルテレビ会社のジュピターテレコムはインターネットとのセット割引を行っているほか、旅行会社のエイチ・アイ・エスでは旅行代金の割引を行うなど、各社様々なサービスを打ち出している。
 ただし、新電力の料金プランは、電気使用量が多いほど従来の料金プランより割安になる傾向にあり、平均的な家庭よりも電気使用量が少ない場合は逆に高くなることもあるため、切り替えには注意を要する面もある。

3 新電力への切り替え状況

 一方、新電力への切り替え状況については、低調に推移している。経済産業省の認可法人である電力広域的運営推進機関によると、10月末時点で大手電力から209万100件が新電力に切り替わっている。小売全面自由化が開始された4月には約80万件が切り替わったが、5月以降は伸び悩み、切り替え件数は電力契約総数の3.3%にとどまっている。
 地域別でみると、東京電力管内で118万9,800件、関西電力管内では42万3,400件が切り替わり、首都圏と関西圏で全国の77.2%を占める。一方、北陸、中国の電力管内では1万件に届かず、都市部と地方との格差が鮮明になっている。
 本県を含む東北電力管内でも6万5,100件にとどまり、切り替えが進んでいない状況にある。新電力の多くは、市場の大きい首都圏や関西圏へ参入しており、地方での切り替えが進まない要因となっている。各社の料金プランを比較できるカカクコムによると、県内で利用できる電力会社(東北電力を含む)は15社である一方、東京都は41社、大阪府は27社と大きな開きがある。また、新電力の料金プランなどの情報を入手できる手段は、各社のホームページや料金比較サイトにほぼ限られており、消費者に情報が届いていないといった課題も残る。

4 自治体による地域新電力参入の動き

 こうした中、特定の地域に限定して電力供給を行う「地域新電力」に自治体が参入するケースが全国で増えている。地域新電力の多くは、太陽光や風力などで発電した電気を地域内で循環させる「エネルギーの地産地消」を目指している。福岡県みやま市が55%出資する「みやまスマートエネルギー」は、主に市内の太陽光発電所から電力を買い取り、足りない分は九州電力などから調達する。昨年秋から市役所や小学校などの公共施設に供給しているほか、今年4月からは九州電力管内の一般家庭向けの電力販売を始め、全国の自治体新電力の中で最も早く家庭向け電力販売を始めた。
 また、都道府県として初の地域新電力となる「やまがた新電力」は、山形県が3分の1以上を出資し、残りを県内の複数の民間企業が出資している。同県内の太陽光、風力、バイオマスの各発電所から電力を買い取り、県庁や県立高校など県有施設68か所に供給している。電力の取扱量は約2,400万キロワット時で、約6千世帯の1年間の電力量に相当し、このうち再生可能エネルギーの割合が約7割を占め、残りの約3割を東北電力などから調達する。
 自治体による地域新電力への参入はまだ始まったばかりであるが、こうしたエネルギーの地産地消以外にも、電力コストの削減、地域内資金循環の構築、雇用創出や関連産業の活性化など様々な効果が期待されている。

5 鹿角市の可能性調査及び実証事業の概要

(1)背景
 本県においても鹿角市で地域新電力設立に向けた調査が進められている。鹿角市は、再生可能エネルギーによる電力自給率が極めて高く、なかでも長期安定電源である地熱発電の割合が高い地域である。ただ一方で、東日本大震災の際には停電を余儀なくされるなど、地域にある再生可能エネルギーの有効活用が課題となり、エネルギーの地産地消モデル構築に向けた調査が始まった。
 平成24年に鹿角市、三菱電機㈱、㈱F-Powerの3者共同で「鹿角市における地熱発電等を活用したエネルギー地産地消モデル事業化調査」を行い、25年より同調査の結果を踏まえた「かづのパワーによる地産地消モデルの可能性調査」を行っている。

(2)可能性調査の概要
 この調査は、市が関わる地域新電力「かづのパワー」を設立し、地熱発電を主とした市内で産出される再生可能エネルギーによる電気を地域で消費し、電力消費に係るキャッシュフローを地域内に取り込むモデルの可能性を調査することを目的としている。
 モデルイメージとしては、かづのパワーが市内の民間地熱発電所から電力を購入し、市内の特定需要家(庁舎、病院、避難所等)への電力供給を行い、市内の長期安定的電源によるエネルギーの地産地消を実現する。また、CEMS(地域エネルギーマネジメントシステム)により域内の需要家との間で需給状況を見える化し、ピーク時には域外から電力を購入しつつも、域外からの供給を最小限におさえるためのデマンドレスポンス(節電要請)を域内需要家と連携して実現するものである。
 将来的には、分散電源として太陽光などの新規電源も取り入れ、かづのパワーが供給できるエネルギーの量を拡大し、工業団地や中心市街地の事業者へも電力を供給していくことで、企業誘致や企業の競争力の強化、中心市街地への事業所の集積・空洞化防止にも結び付けていくことを展望している。
 調査の結果、かづのパワーによる地産地消モデルは、㈱F-Powerからバランシンググループのサービス提供を受けることで、効率的な運営が可能となる可能性が示され、需要家に対し4.5%程度の電気料金の割引を行っても、初年度から事業採算性を確保できると試算された。また、かづのパワーの運営による地域経済波及効果は、電力料金が市内にとどまることによって約2.1億円の誘発効果が見込まれるなど、地域新電力設立の有効性を確認することができた。
(※)バランシンググループとは、複数の新電力と一般電気事業者が一つの託送供給契約を結び、新電力間で代表契約者を選定する仕組みのこと。

(3)実証事業の概要
 鹿角市では、可能性調査での試算の確認・精度向上や、実際にシステムを構築・運用することで同調査では想定しきれなかった技術的課題・運営上の課題などを解決するため、26年9月から28年3月にかけて、「地産地消型需要家PPS実証事業」を行っている。
この実証事業では、市役所、福祉保健センター、花輪小学校、八幡平中学校の4施設を対象に、需給状況の把握、需要家へのデマンドレスポンス、損益予想など実践的な調査を実施した。
 調査の結果、かづのパワーが地域内から購入する電力量は、需要の3分の1程度が最適であることが確認できた。地域内から購入する電力量が多すぎると電気を使わない深夜などの時間帯の余剰電力が増加し、少なすぎると地域外からの購入量が増加するため、対電力需要比率を適正に保つ必要がある。地域内と地域外から購入する電力量の調整を図り、残りの3分の2程度については、地域外電源などから調達することになる。
 需要家へのデマンドレスポンスについては、節電量が平均11.6%となり、各需要家からの積極的な協力を得ることができた。また、鹿角市は降雪地域であるため、夏よりも冬の電力消費が高い特徴があり、冬のデマンドレスポンスで成果がでるか注目点となった。結果としては、当初の予想に反し、夏に比べて冬のデマンドレスポンスの数値の方が良く、冬においても一定の成果を得ることができた。
 これらの実証事業の結果により、需要と地域電源をバランスよく獲得すること、かつ、地域電源を市場価格と比べて相対的に安価に調達することができれば、かづのパワーが事業継続していける可能性が高いことが確認できた。今後の見通しについて鹿角市では、「地域新電力の設立可能性について引き続き検討したい」としている。

6 まとめ

 県内では、鹿角市の他にも、湯沢市で複数の民間企業が共同出資する新電力会社「ローカルでんき」を設立する動きがある。新会社は自前の発電所がないため、主に卸電力市場から電力を調達し、湯沢雄勝地域に拠点を置く事業所を中心に供給を行う予定である。将来的には地熱や木質バイオマスなどで発電し、供給することを目指している。また、大手電力は自前の電源を強化するため、東北電力が能代火力発電所3号機の建設を行っているほか、関西電力グループの関電エネルギーソリューションも丸紅と共同で秋田市に130万キロワットの石炭火力発電所の建設を予定するなど、電力小売自由化に伴った動きが活発化している。エネルギーの地産地消や火力発電所の建設などを通じて、県内経済が活性化していくことを期待したい。
(山崎 要)
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