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新年(平成29年)県内景気見通し

 昨年の国内景気を、四半期別の実質GDP成長率(季節調整系列、前期比年率換算)の推移でみてみると、次のとおりである。

[四半期別GDP推移]
≪27/10~12月期:△1.8%⇒28/1~3月期:2.8%⇒4~6月期:1.8%⇒7~9月期:1.3%≫
 27年10~12月期は新興国・資源国経済の不振と円安効果の剥落により、輸出が前年同期比マイナスとなり、個人消費や住宅投資等の内需も不振に陥ったが、28年に入り安倍政権発足直後の25年以来の3四半期連続のプラス成長となり、景気は横ばい圏の動きから抜け出しつつある。
 個人消費は、雇用・所得環境の緩やかな改善を受けて、持ち直し傾向で推移したほか、住宅投資も低金利の恩恵もあり、増加傾向で推移した。
 一方、年初からの円高により、企業収益が悪化したことから、設備投資は抑制的な動きとなった。7~9月期の輸出は、4~6月期がマイナスに落ち込んだことと、スマートフォン向け部品の好調により高い伸びを示した。
 10月以降の景気も、底堅さが維持されるものと見られ、回復基調に転じている。また、11月以降、トランプ米次期大統領の政策への期待で円安(ドル高)・株高が進んでいる。
 秋田県の景気は、年前半は、個人消費に持ち直しの動きが見られたものの、主力の電子部品と機械金属が弱含みで推移したほか、木材も県内大手企業の火災発生の影響があり、総じて足踏み状態が続いた。年後半には、電子部品や機械金属で持ち直しに転じたが、住宅着工や個人消費の持ち直しの動きが足踏み・一服し、総じて持ち直しの動きが足踏みした。雇用情勢は改善基調にあるが、一部業種で不足感の強い状況が続いた。
 新年は、トランプ米次期大統領の経済政策、イギリスのEU離脱交渉の行方等によっては、国内景気も大きく揺れ動く可能性があるが、海外経済の回復を背景に輸出が増加基調を維持し、設備投資も企業収益の改善から徐々に持ち直すほか、政府の経済対策の効果などが顕在化することにより、景気は緩やかな回復が続くものと見込まれる。
 県内の主要な業界団体からご協力いただいたアンケート結果(後掲)も踏まえて、国内および県内景気の新年の見通しについてとりまとめた。

1 国内経済の見通し

(1) 国内景気の現状と先行きについて、内閣府と日銀の判断は次のとおりである。
a 内閣府『月例経済報告』(28.12.21)
 「景気は、一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。」
・個人消費   持ち直しの動きがみられる
・住宅建設   横ばいとなっている
・輸出     持ち直しの動きがみられる
・生産     持ち直している
・業況判断   緩やかに改善している
・国内企業物価 緩やかに上昇している
 「先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかに回復していくことが期待される。ただし、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。」

b 日銀『経済・物価情勢の展望』(28.11.1)
 なお、本展望は、米国大統領選前の展望であることに留意する必要がある。
(a) 経済の現状
 「わが国の景気は、新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている。」
(b) 経済の中心的な見通し
 「先行きのわが国経済を展望すると、暫くの間、輸出・生産面に鈍さが残るものの、その後は緩やかに拡大していくと予想している。
 まず、国内需要は、きわめて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調をたどると考えられる。すなわち、設備投資は、緩和的な金融環境や成長期待の高まり、オリンピック関連需要の本格化などを受けて緩やかな増加基調を維持すると予想される。雇用者所得の改善が続き、個人消費は緩やかに増加していくとみられる。公共投資は、経済対策の効果などから2017年度にかけて増加し、その後は、オリンピック関連需要もあって高めの水準で推移すると考えられる。
 この間、海外経済は、幾分減速した状態が暫く続いたのち、先進国の着実な成長が続き、新興国経済も、その好影響の波及や各国の政策効果から減速した状態を脱していくにしたがって、徐々に成長率を高めていくと予想している。このため、輸出は、緩やかな増加に転じるとみられる。」
(c) 経済の上振れ・下振れ要因
 「上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ、下振れ要因としては、第1に、海外経済の動向に関する不確実性がある。具体的には、中国をはじめとする新興国・資源国経済の動向、米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が国際金融市場に及ぼす影響、英国のEU離脱問題の帰趨やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスクなどが挙げられる。
 第2に、企業や家計の中長期的な成長期待は、少子高齢化など中長期的な課題への取組みや労働市場をはじめとする規制・制度改革の動向に加え、企業のイノベーション、雇用・所得環境などによって、上下双方向に変化する可能性がある。
 第3に、財政の中長期的な持続可能性に対する信認が低下する場合、人々の将来不安の強まりやそれに伴う長期金利の上昇などを通じて、経済の下振れにつながる惧れがある。一方、財政再建の道筋に対する信認が高まり、将来不安が軽減されれば、経済が上振れる可能性もある。」

(2) また、世界景気の現状・先行きについては、次のとおり判断している。
a 内閣府『月例経済報告』
(a) 「世界の景気は、一部に弱さがみられるものの、全体としては緩やかに回復している。
 先行きについては、緩やかに回復が続くことが期待される。ただし、アメリカの金融政策正常化の影響、中国を始めアジア新興国等の経済の先行き、政策に関する不確実性による影響、金融資本市場の変動の影響等について留意する必要がある。」
(b) 「アメリカでは、景気は回復が続いている。先行きについては、回復が続くと見込まれる。ただし、今後の政策の動向及び影響等に留意する必要がある。
 中国では、各種政策効果もあり、景気はこのところ持ち直しの動きがみられる。先行きについては、各種政策効果もあり、当面は持ち直しの動きが続くものと見込まれる。ただし、不動産価格や過剰債務問題を含む金融市場の動向等によっては、景気が下振れするリスクがある。
 ユーロ圏では、企業部門の一部に弱めの動きもみられるが、景気は緩やかに回復している。ドイツでは、企業部門の一部に弱めの動きもみられるが、景気は緩やかに回復している。先行きについては、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、地政学的リスクの影響、政策に関する不確実性の影響等に留意する必要がある。英国では、景気は回復している。先行きについては、EU離脱問題に伴う不透明感の高まりによる影響から、回復が緩やかになることが見込まれる。また、その影響の拡大に留意する必要がある。」

b 日銀『経済・物価情勢の展望』
(a) 「海外経済は、緩やかな成長が続いているが、新興国を中心に幾分減速している。先行きの海外経済については、幾分減速した状態が暫く続いたのち、先進国の着実な成長が続き、新興国経済も、その好影響の波及や各国の政策効果から減速した状態を脱していくにしたがって、徐々に成長率を高めていく、と想定している。」
 「米国経済は、当面鉱工業部門は力強さを欠くものの、緩和的な金融環境が下支えとなり、国内民間需要を中心にしっかりとした成長が続くと見込まれる。欧州経済は、英国のEU離脱問題などを巡る不透明感が重石となるが、基調としては緩やかな回復経路をたどるとみられる。中国経済は、製造業部門に鈍さを残しつつも、当局が景気下支えに積極的に取り組むもとで、概ね安定した成長経路をたどると想定している。その他の新興国・資源国経済は、暫く減速した状態が続くものの、その後は、先進国の着実な成長の波及や景気刺激策の効果などから、成長率は徐々に高まっていくと予想している。」

(3) IMF(国際通貨基金)の実質成長率(GDP)見通し
 昨年10月に発表されたIMFの経済見通しによる世界全体・主要国・地域の平成28年および29年の実質GDP予想は、次のとおりである。世界の成長率予測を28年は3.1%、29年は3.4%とし、7月時点の予測を据え置いた。10月の予測では、米国の減速と英国のEU離脱問題の影響を受け、28年は引き続き抑制された状態が続くものの、29年以降は、主に新興国・地域の成長加速により牽引され、若干の改善が見込まれるとしている。日本については、消費増税見送りや経済対策、緩和的な金融政策が成長を支えるとして、上方修正されている。
 なお、IMFは、「政治の不安定さや保護主義政策、先進国・地域のスタグネーション(景気停滞)の長期化が生産性や成長、イノベーションを妨げるだろうとし、各国・地域は成長見通しの改善のために金融・財政・構造改革のすべての面で政策手段を採る必要がある」としている。
 また、本見通しは、前記「日銀『経済・物価情勢の展望』」同様、米国大統領選前の見通しであることに留意する必要がある。

[IMFの実質GDP見通し(28.10)] [単位:%]
  27年 28年 29年
世界 3.2 3.1(0.0) 3.4(0.0)
先進国 2.1 1.6(△0.2) 1.8(0.0)
日本 0.5 0.5(+0.2) 0.6(+0.5)
米国 2.6 1.6(△0.6) 2.2(△0.3)
ユーロ圏 2.0 1.7(+0.1) 1.5(+0.1)
ドイツ 1.5 1.7(+0.1) 1.4(+0.2)
イギリス 2.2 1.8(+0.1) 1.1(△0.2)
新興国 4.0 4.2(+0.1) 4.6(0.0)
中国 6.9 6.6(0.0) 6.2(0.0)
(注)(  )内は28年7月予想比

(4) 「日銀短観(全国企業短期経済観測調査:28.11.14~12.13)業況判断指数―全国中小企業」
 全国の中小企業(5,656社。うち製造業2,142社、非製造業3,514社)の業況判断指数(「良い」企業―「悪い」企業)の推移は次のとおり
  28年9月調査 28年12月調査
最近 12月予測 最近 29/3予測
全産業 0 △3 2 △3
製造業 △3 △5 1 △4
非製造業 1 △2 2 △2
(注)「最近」は回答時点、「先行き」は3か月後を示す。
 昨年12月時点の業況は、昨年9月時点での「先行き(平成28年12月)」見通しに比べて、製造業、非製造業とも上回り、9月時点の業況からも若干改善されている。
 ただし、「先行き(29年3月)」については、製造業、非製造業とも、昨年12月より「悪化する」と予測する企業が増え、製造業、非製造業ともマイナスに転じると予測している。

(5) 本年の国内の景気は、海外経済の回復を背景に輸出が増加基調を維持し、設備投資も企業収益の改善から徐々に持ち直すほか、政府の経済対策の効果などが顕在化することにより、緩やかな回復が続くと見込まれる。
 ただし、米国トランプ次期大統領の掲げる経済政策の不確実性、中国経済の下振れ、米国の利上げにともなう金融・資本市場の動揺、英国のEU離脱交渉等を通じて、国内景気に負の影響を与える可能性がある。

2 県内経済の見通し

(1) 日銀短観(28.11.14~12.13)「業況判断指数―秋田県」(155社。うち製造業55社、非製造業100社)
  28年9月調査 28年12月調査
最近 12月予測 最近 29/3予測
全産業 △4 △6 △1 △5
製造業 △2 △4 △2 △2
非製造業 △5 △7 △1 △7
 昨年12月時点の業況は、昨年9月時点の業況から非製造業がほとんどの業種で改善し4ポイント改善となったほか、製造業も横ばいのマイナス2で、全産業では3四半期連続の改善でマイナス1となった。
 また、昨年9月時点での「先行き(平成28年12月)」見通しに比べても、改善がみられた。
 ただし、本年3月時点の業況予測については、製造業は引き続き横ばいのマイナス2と見込まれ、非製造業は6ポイント悪化のマイナス7となり、全産業でマイナス5となっている。
 28年度設備投資計画は、製造業が4年連続の増加計画(前年度比2.1倍)に対して、非製造業は3年連続の減少計画(同△19.8%)となり、全産業では前回調査(28年9月)から2.7ポイント上昇の4年連続の増加計画(同+81.8%。うち上期+50.8%、下期2.0倍)となった。
 なお、鉱工業の生産量を表わす「鉱工業生産指数(季節調整済)」(平成22年=100)の推移は次のとおりである。
 四半期別の指数では、27年第3四半期以降、東北・全国を上回って推移しており、昨年10月には、「電子部品・デバイス工業(指数104.7)」や「はん用・生産用・業務用機械工業(指数102.0)」など15業種中9業種で上昇し、3か月連続の上昇となり、指数も「102.4」に達した。
四半期・月 秋田県 東 北 全 国
27年 第3四半期 97.7 94.4 97.0
第4四半期 99.8 94.0 97.1
28年 第1四半期 97.4 97.1 96.1
第2四半期 99.1 96.6 96.3
第3四半期 98.0 98.0 97.6
10月 102.4 98.8 98.4

(2) 県内主要業界団体アンケート結果
a 「平成28年の業界の業況」および「平成29年の業界の業況見通し」
 15団体から回答いただいた「平成28年の業界の業況」および「平成29年の業界の業況見通し」の結果は次のとおりである。(詳細は後掲「県内業界団体に聞く新年景気見通し」参照)
平成28年の業界の業況 平成29年の業況見通し
やや好況 1業界 やや好転 2業界
変わらない 9 〃 変わらない 9 〃
やや不況 3 〃 やや悪化 3 〃
不  況 2 〃 悪化 1 〃
 平成28年の各業界の業況は、「変わらない」が9業界と多数を占めたが、「やや好況」だった業界が1業界に対し、「やや不況」と「不況」の業界が合わせて5業界と、厳しい1年であったといえる。
 平成29年の各業界の業況については、「変わらない」が9業界と最も多かったが、「やや好転」とみる業界が2業界に対し、「やや悪化」と「悪化」とみる業界が4業界あり、さらに跛行性が拡大するものとみられる。
 また、28年の業況が「やや不況」もしくは「不況」だった5業界(鉱業、農業、自動車販売、ハイヤー、印刷)のうち、1業界(自動車販売)のみが「やや好転」と見通しているが、「変わらない」業界が2業界(鉱業、印刷)で、2業界(農業、ハイヤー)は「やや悪化」または「悪化」と見通しており、さらに厳しさが予想される結果となった。

b 「平成29年の県内景気見通し」
 自業界の業況見通しとは別に、「平成29年の県内景気見通し」についても回答いただいたが、その結果は次のとおりである。なお、カッコ内は昨年同時期の回答結果である。
やや好転 2業界(2業界)
変わらない 10〃(8〃)
やや悪化 3〃(4〃)
悪化 0〃(1〃)
 「変わらない」とみる業界が昨年より2業界増の10業界と3分の2を占めた。「やや好転」とみる業界は昨年と同じ2業界、「やや悪化」と「悪化」とみる業界が3業界と拮抗する形となった。
 後述の重大関心事にみられるとおり、景気にマイナス要因となる事項が上位にあげられていることから、先行きに不透明感があり、楽観視できないと捉えられている。

c 「国内および県内経済・社会における重大関心事」
 「業界の重要課題」に加えて、「国内および県内経済・社会における重大関心事」をお聞きした(自由記述)。 回答数の多い事項は次のとおりである。
① 人口減少・少子高齢化対策               (9業界)
② 米国トランプ次期大統領の政策(為替・株価の動向含む。)(5業界)
② TPP問題の行方                   (5業界)
④ 地方創生の推進(アベノミクスの進捗含む。)      (4業界)
④ 秋田県の産業活性化、創造               (4業界)
④ 人材の育成・確保                   (4業界)
【参考】昨年の重大関心事
① 人口減少・少子高齢化対策       (11業界)
② 人材の育成・確保(生産性向上含む。) (6業界)
② TPP対策(農業問題含む。)     (6業界)
④ 地方創生の推進            (5業界)
③ 消費税率再引上げ(軽減税率問題含む。)(3業界)
 例年と同様に、「人口減少・少子高齢化対策(雇用の確保含む。)」が9業界とトップを占めた。また、4業界から挙げられた「人材育成・確保」問題も人口減少=労働力人口(15歳~64歳人口)減少に起因するものであり、各業態とも「人手不足」対策が経営上の重要課題に急浮上していることが窺がわれる。
 特筆すべきは、「米国トランプ次期大統領の政策とそれにともなう為替・株式相場の動向」が5業界から挙げられたことである。さらには、昨年日本の国会で承認された「TPP(環太平洋経済連携協定)」について、トランプ次期大統領が撤退を表明していることとあわせ、その帰趨に大きな関心が示されている。
 昨年4番目に挙げられた「地方創生の推進」が本年もアベノミクスの進捗とあわせて今年も4番目に挙げられた。最上位の重要課題・関心事である「人口減少対策」や「人材育成・確保」を支えるものとして上位に挙げられている。

 県内経済は雇用・所得環境の改善が続くもとで、住宅投資は伸び悩むものの、個人消費が緩やかに持ち直すとともに、生産活動や民間設備投資も国内外の需要の拡大などから回復傾向を辿るものと見込まれる。
 この間、公共投資は、国や県などの厳しい財政事情を反映し抑制傾向で推移するものの、国の経済対策等により社会資本老朽化への対応や公立学校の改築投資などが継続して行われるなど、相応の水準は確保される見込みである。
 県人口は本年中に100万人を割り込むことが確実であるが、県政の運営指針である『ふるさと秋田元気創造プラン』の推進により、地方創生の萌芽が県内各地に出現している。
 県では県外大学との学生の県内就職促進に向けた協定締結も進めており、回復傾向が見込まれる景気を背景に“高質な田舎”づくりに一層邁進し、雇用情勢の改善(=求人数の増加)を活かし、まずは社会減(転出増)に歯止めをかけたい。
(松渕 秀和)
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