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「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」のまちづくり

 人口の急激な減少と高齢化を背景として、高齢者も安心して暮らすことができ、財政面や経済面においても将来にわたり持続可能なまちづくりが大きな課題となっている。住宅や商業施設、医療・福祉施設などがまとまって立地し、住民が公共交通によりこれら生活利便施設に容易にアクセスできるまちづくりの理念として、平成26年に都市再生特別措置法の一部改正により、「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」を基本コンセプトとする「立地適正化計画」制度が設けられ、県内の自治体も取り組んでいる。本稿では、この内容についてとりあげる。

1 コンパクトシティとは

 わが国では、かつて高度成長期(1950年代半ば~1970年代初頭)に、人口増加と自動車の普及・大衆化の進展などを背景として、中心市街地から相対的に地価の安価な郊外へと、宅地開発や商業施設、官公庁、大学、病院などの新設・移転が相次いだ。
 ところが近年、地域の人口が減少に転じ高齢化が進展するにともない、郊外への拡散が、結果として中心市街地の低密度化や空洞化を招くこととなった。
 一方、国や地方自治体は、財源不足により、拡散した居住者の生活を支える広範な行政サービスの提供は次第に困難となりつつある。
 特に人口減少・高齢化が深刻な地方都市においては、地域の活力を維持するとともに、医療・福祉・商業等の生活機能を確保し、高齢者が安心して暮らせるまちづくりが求められる。そのために、住居や商業施設、医療・福祉施設などを、郊外から中心市街地へ再び集約し、都市全体をできるだけコンパクトにしようとする考え方が広がってきた。これが「コンパクトシティ」という都市形態の概念である。

2 コンパクトシティの必要性

 コンパクトシティは、限られた資源を集中的・効率的に利用し、持続可能な都市・社会を実現するものであり、その必要性は、概ね以下の4点に集約される。
①持続可能な都市経営(財政、経済)のため
 ・公共投資、行政サービスの効率化
 ・公共施設の維持管理の合理化
 ・住宅、宅地の資産価値の維持
 ・ビジネス環境の維持・向上、知恵の創出
 ・健康増進による社会保障費の抑制
②高齢者の生活環境・子育て環境のため
 ・子育て、教育、医療、福祉の利用環境向上
 ・高齢者・女性の社会参画
 ・高齢者の健康増進
 ・仕事と生活のバランス改善
 ・コミュニティ力の維持
③地域環境、自然環境のため
 ・CO2排出削減
 ・エネルギーの効率的な利用
 ・緑地、農地の保全
④防災のため
 ・災害危険性の低い地域の重点利用
 ・集住による迅速、効率的な避難

3 コンパクトシティ・プラス・ネットワーク

 コンパクトシティ構想に基づくまちづくりには、富山県富山市や青森県青森市などとともに、本県の秋田市もいち早く取り組んできたが、全国的に見ても必ずしも成功例ばかりとは言えない現状にある。
 このため、国を挙げての「地方創生」の大号令とともに、将来的に持続可能なまちづくりを目指すべく、平成26年8月に都市再生特別措置法の一部改正法、同年11月に地域公共交通活性化再生法の一部改正法がそれぞれ施行され、生活拠点などに、福祉・医療等の施設や住宅を誘導し、集約する制度(「立地適正化計画」制度)や、地方公共団体が中心となり、まちづくりと連携して面的な公共交通ネットワークを再構築するための新たな仕組みが設けられた。これにより、従来の「コンパクトシティ」の概念に「公共交通ネットワーク」を連携させた「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」の考え方が、新たなまちづくりの方向性として明示された。

4 立地適正化計画とは

 前述のとおり、「立地適正化計画」は、「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」の考え方に基づき、行政と住民や民間事業者が一体となってコンパクトなまちづくりを促進するため、都市再生特別措置法の改正によって創設された制度である。
 従来の都市計画は、人口増加と経済の成長期に、無秩序な開発や都市拡大を抑制しコントロールすることを念頭に置いて設計された。これに対し「立地適正化計画」は、従来の都市計画とは逆に人口減少を前提として、コンパクトシティの基本理念に基づき、時間をかけて緩やかに誘導をはかりながら、都市機能を計画的に集約しようとの考え方に基づいている。
 「立地適正化計画」は、市町村を作成主体とし、①居住を誘導すべき区域(居住誘導区域)と、②医療施設、福祉施設、商業施設などの都市機能増進施設の立地を誘導すべき区域(都市機能誘導区域)とを指定するとともに、居住誘導区域外からの移転を支援する措置等や、都市機能増進施設の立地を図るための事業や支援措置等(容積率や用途指定の緩和、補助金など)を定めることとされている。この場合、都市機能誘導区域は、居住誘導区域の中に設定する必要がある。
 このほか、「居住誘導区域」の外側には「居住調整区域」を任意で配置することができる。これにより、将来的なインフラ投資を抑制する。
 また、土砂災害の危険性の高いところなどは「居住誘導区域」に含まないようにする措置がとられるほか、任意で「跡地等管理区域」「駐車場配置適正化区域」などが設定される場合もある。
 なお、立地適性化計画区域(原則として、現行都市計画区域全体)のうち、居住誘導区域外において3戸以上の住宅等の新改築や住宅等への用途変更、またはそのための開発行為(0.1ha以上)を行おうとする場合には、市町村長への事前届出が必要とされ、この届出に係る行為が住宅等の立地誘導に支障がある場合には、市町村長は立地適正化のための勧告を行なうことができる旨の定めが設けられている。

5 立地適正化計画の意義と役割

 「立地適正化計画」の意義と役割について、国土交通省は以下の7項目を挙げている。
①都市全体を見渡したマスタープラン
 立地適正化計画は、居住機能や医療・福祉・商業、公共交通等のさまざまな都市機能の誘導により、都市全域を見渡したマスタープランとして位置づけられる市町村マスタープランの高度化版である。
②都市計画と公共交通の一体化
 居住や都市の生活を支える機能の誘導によるコンパクトなまちづくりと地域交通の再編との連携により、『コンパクトシティ・プラス・ネットワーク』のまちづくりを進める。
③都市計画と民間施設誘導の融合
 民間施設の整備に対する支援や立地を緩やかに誘導する仕組みを用意し、インフラ整備や土地利用規制など従来の制度と立地適正化計画との融合による新しいまちづくりが可能になる。
④市町村の主体性と都道府県の広域調整
 計画の実現には、隣接市町村との協調・連携が重要である。都道府県は、立地適正化計画を作成している市町村の意見に配慮し、広域的な調整を図ることが期待される。
⑤市街地空洞化防止のための選択肢
 居住や民間施設の立地を緩やかにコントロールできる、市街地空洞化防止のための新たな選択肢として活用することが可能である。
⑥時間軸をもったアクションプラン
 計画の達成状況を評価し、状況に合わせて、都市計画や居住誘導区域を不断に見直すなど、時間軸をもったアクションプランとして運用することで効果的なまちづくりが可能になる。
⑦まちづくりへの公的不動産の活用
 財政状況の悪化や施設の老朽化等を背景として、公的不動産の見直しと連携し、将来のまちのあり方を見据えた公共施設の再配置や不要となった公的不動産を活用した民間機能の誘導を進める。

6 様々な支援措置

 「立地適正化計画」に対する特例措置と税制措置等は図表1のとおり(※省略:国土交通省「都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画概要パンフレット」より)。
 なお、平成29年1月4日付の日本経済新聞の報道によると、総務省は29年度から、行政、商業、福祉などの施設を中心市街地に集めた「コンパクトシティ」の整備に取り組む市町村に財政支援を行う方針。具体的には、病院や図書館など公立施設の整備費のうち、3割を国が負担する。財政支援措置の期間は33年度(2021年度)までの5年間で、事業費総額は約100億円を想定する。財政支援を使う市町村は事業費の90%まで地方債の発行で賄うことができ、このうち30%部分は国が地方交付金で返済原資を支給する。中心街につくる公立の保育所や介護施設、体育館、公民館などの整備費のほか、区画整理に向けた道路の拡幅作業費なども支援の対象になるとのことである。

7 県内自治体の動き

 「立地適正化計画」の作成について具体的な取組みを行っている都市は、平成28年12月31日現在、全国で309市町村ある。うち秋田県内では、①秋田市 ②大館市 ③湯沢市 ④大仙市 の4市が取り組んでいる。コンパクトシティの必要性を考えた場合、一定規模以上の人口集積のある都市部の優先度が相対的に高くなるのは必然と言える。

8 まとめ

(1)時代の変遷、人口構成や居住環境などの変化にともない、まちづくりの考え方も抜本的な転換が必要となっている。
(2)コンパクトシティ構想が掲げる理想の一つは、車に頼らずとも歩いて行ける範囲で日常不便なく暮らせること。住民自身の健康増進と将来の社会保障費抑制の観点も踏まえて、施策を検討する必要がある。そのためには、商業施設や医療・福祉施設は勿論であるが、交通インフラの整備が極めて重要となる。したがって、「コンパクトシティ」に「ネットワーク」をプラスするという基本コンセプトが示されたことに、意義がある。
(3)特に、従来、コンパクトシティの概念について誤解されがちであった部分、すなわち、コンパクトシティを単に郊外から街中への一極集中と短絡的に捉え、郊外の切捨てに繋がるのでないかという懸念は、「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」の考え方によって、中心拠点への一極集中のみではなく、各市町村の主たる生活拠点も含めた「多極ネットワーク型」のコンパクト化を目指すものとして正しく理解されるようになった。ましてや、すべての住民を強制的に集約しようとするものではなく、緩やかな誘導による集約をはかろうとするものである。
(4)ただし、まちづくりの方向性としては望ましいものの、一旦定着した居住地からの移転や公共交通ネットワークの再編にかかる資金面の問題等を考えると、実現までの道筋は険しく、一朝一夕には実現できない。まずは、現状以上の郊外への拡散を防止することが第一歩。将来的には、状況の変化に応じ、随時計画の見直し・修正も必要となってくる。
(5)そうは言っても、まちづくりの核となる商業施設やテナント施設などの撤退や経営破綻などは、計画の根本部分を揺るがしかねないことから、そのハード面の計画やソフト面の選定には慎重な検討が求められる。“入口”で計画に狂いを生じても“出口”である程度は修正が可能であるが、核となるハード面が抜け殻となってしまっては、後からの修正は極めて困難となる。最初に将来のまちづくりのコンセプトを明確に設定し、将来長期にわたって統一性のある方向付けを行わないと、結果的に構想と異なるちぐはぐな街が出来上がってしまう懸念がある。
(6)将来のまちづくりを考えた場合、市町村同士あるいは市町村と県、国などの行政の連携は勿論であるが、住民の理解と協力、民間施設の有効活用など官民の相互補完的な連携も重要となる。そのうえで、既存の交通インフラを見直し、密な公共交通網を再構築することが重要である。住民の利用度が上がらず、それ故に公共交通は運行頻度を減らさざるを得なくなり、利便性が悪化したためにさらに住民の利用度が低下していく悪循環から脱し、公共交通をまちづくりの核としていくことが必要となろう。さらには、近年進歩の著しいICTや自動運転等の高度な技術を積極的に導入・活用し、住みよいまちづくりを目指したいものである。
(工藤 修)
あきた経済

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