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国家戦略特区と仙北市における取組みについて

 国と地方が一体となり、国際競争力の強化や地域活性化に取り組む施策の一つに特区制度がある。平成25年6月、政府の成長戦略である「日本再興戦略」で創設された「国家戦略特別区域」(以下、「国家戦略特区」)は、これまで課題として認識されながらも改革が進まなかった規制、いわゆる岩盤規制の改革に取り組み、世界で最もビジネスのしやすい環境をつくることを目標としている。これまでに全国で10区域が国家戦略特区に指定され、旅館業法の特例、外国人家事支援人材の受入れなど、55事項の規制改革が実現している。本県においても仙北市が地方創生特区の指定を受け、ドローン(小型無人機)や無人バスの自動走行などの実証実験を行っている。本稿では、特区制度の概要や仙北市における取組状況等についてまとめてみた。

1 特区制度の概要

 特区制度とは、経済振興や地域活性化を目的に、区域を限定して減税や助成金、規制緩和などの特例・支援措置を認める制度のことである。現在、全国的に展開されている特区制度には、構造改革特別区域(以下、「構造改革特区」)、総合特別区域(以下、「総合特区」)、国家戦略特区の3つがある。

(1)構造改革特区
 構造改革特区は、平成14年に小泉内閣の構造改革の目玉として創設された。この制度は、地域の実情に合わなくなった国の規制を見直し、地域を限定して改革することにより、構造改革を進め、地域を活性化させることを目的としている。
 制度の流れについては、まず地域が国に対して地域活動の阻害要因となり得る規制の特例措置を提案し、国は関係府省庁と協議して合意したものを規制改革項目として決定する。地域は規制の特例措置を活用した事業に関する具体的な特区計画を国に申請し、国に認定されると事業の実施が可能となる。規制の特例措置については、規制改革に伴う弊害が生じていないかなどを評価・調査委員会が評価し、特段の問題がないものについては、原則として全国レベルの規制改革に拡大される。
 第1回特区認定(14年4月)が行われて以降、現在まで1,280件の特区が認定された。分野別では、教育、農林水産、幼保・医療・福祉、環境、まちづくりなど多種多様となっている。このうち、894件の特区が全国展開等され、残り386件が現在も特区として活用されている。
 全国展開に至った代表的な事例としては、「農地貸付方式による株式会社等の農業経営への参入を認める特区」がある。特区認定が始まった当時、株式会社などの一般法人は、農地を取得することも賃借することもできないなど、農業分野への参入には厳しい制限がかけられていた。そこで、特区内かつ市町村の定める遊休地に限り、株式会社等が農地を賃借する形での参入が認められ、その後、規制改革に伴う弊害なしと評価されたことで17年9月には農地法の改正により規制の特例措置が全国展開された。さらに、21年12月には、遊休地以外でも賃借することが可能となり、農商工連携の動きなどを背景に流通業や小売業など多方面からの参入を促す効果をもたらした。
 秋田県内では、20件の特区が認定されている。このうち、特区として活用中の計画は12件あり、うち11件が「どぶろく・果実酒の製造免許の要件緩和を認める特区」(能代市、横手市など11市町)となっている。この特例は、農家民宿等を営む農業者が、自ら生産した米を原料とした濁酒(どぶろく)を製造する場合には、酒税法の酒類製造免許に関する年間最低製造数量基準(現行6kl)を適用しないというものである。
 26年1月には、北秋田市において「第9回全国どぶろく研究大会」が開催されるなど、全国で本特区の設置に向けた動きが広まったが、全国展開にすると特区の希少性が薄れることや、徴税コストが増大するといった理由から全国展開には至っていない。また、県内で全国展開等された計画は、「幼稚園児と保育園児の合同活動を認める特区」(鹿角市、美郷町)、「条例違反の屋外広告物除却の要件緩和を認める特区」(秋田県)など8件ある。

(2)総合特区
 総合特区は、平成23年に菅内閣において創設された。この制度は、政策課題の解決に有効と考えられる先駆的取組を行う実現可能性の高い区域に対し、規制・制度の特例措置に加え、税制・財政・金融の支援措置を総合的に講じ、産業の国際競争力の強化と地域活性化を図ることを目的としている。
 総合特区には、「国際戦略総合特区」と「地域活性化総合特区」の2つがある。国際戦略総合特区は、大都市などを対象に我が国の経済成長のエンジンとなる産業・機能の集積拠点の形成を目指す特区である。地域活性化総合特区は、全国の地域を対象に地域資源を最大限活用し、地域に根差した取り組みで地域力の向上を目指す特区である。
 国際戦略総合特区は、第1回特区認定(24年3月)が行われてから、これまで「アジアヘッドクォーター特区」(東京都)、「つくば国際戦略総合特区」(茨城県等)、「アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区」(愛知県等)など7件の特区が認定された。分野別では、食品、科学、医療、航空宇宙、再生可能エネルギーなどの成長産業が戦略的に認定されている。
 地域活性化総合特区は、これまで「森林総合産業特区」(北海道下川町)、「奈良公園観光地域活性化総合特区」(奈良県)、「椿による五島列島活性化特区」(長崎県等)など41件の特区が認定された。分野別では、農林水産、介護、環境、ものづくり、観光など地域の特性を活かした産業が多く含まれている。
 秋田県では、第3回特区認定(24年10月)で「レアメタル等リサイクル資源特区」が認定された。この特区は、県北部に集積している金属リサイクル産業を活用し、廃棄物の広域収集が可能となる特例措置等を設け、処理コストの低減やトレーサビリティの確保などにより、レアメタル等資源の集約、供給基地の形成を目指すものである。
 当時、レアメタル、金、銀等の金属資源を含む家電等金属系使用済製品の多くは、一般廃棄物として焼却、埋立処分されていたほか、海外に流出し、流出先で不適正処理による健康被害や環境汚染を引き起こすなどといった政策課題を抱えていた。そこで、県は国に対し、家電等金属系使用済製品の広域回収における産業廃棄物管理票の送付期限を緩和する提案(※)を行い、原料となる使用済み家電やレアメタル含有部品等を長期保管し、効率的なリサイクルをすることが可能になった。(※)国との協議の結果、送付期限を緩和せずとも、自治体の運用により、生活環境保全上の支障が生じない範囲で送付期限を超えての金属系使用済製品の保管も可能との見解が示された。
 特区における取組状況については、評価・調査検討会が毎年評価結果を公表しており、直近の公表結果(27年度)によると、本特区の総合評価は「十分に優れている」となっている。また、本特区ではレアメタル等資源の集約及び供給基地の形成等を目指すため、28年度末までにリサイクル対象となる家電等金属系使用済製品の回収量を600t/年、金属系使用済製品の搬入量を6,100t/年とする数値目標を立てているが、いずれも27年度末時点で目標を達成している。
 本県は、全国に先駆け18年度から使用済小型家電の回収に取り組んでいるほか、27年度には県内25市町村全てが「小型家電リサイクル法」(25年4月施行)に基づいた小型家電のリサイクルに取り組んでおり、回収量の増加に繋がっている。ただ一方で、小型家電リサイクル法の施行により、本県に拠点を置く認定事業者の回収エリアは、本県を含む北東北3県となっており、小型家電の国内からの搬入量をいかに増やしていくかが今後の課題となっている。

(3)国家戦略特区
 国家戦略特区は、平成25年に第2次安倍内閣において創設された。この制度は、これまで課題として認識されながらも改革が進まなかった規制、いわゆる岩盤規制の改革に取り組み、国が定めた区域において、経済社会の構造改革を重点的に推進し、産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成を図ることを目的としている。これまでの特区は地域からの申請を国が認可する方式であったが、国家戦略特区は国主導でテーマを選び、国、自治体、民間企業が一体となって取り組むという特徴をもつ。
 国家戦略特区は、1次指定(26年5月)で6区域、2次指定(27年8月)で3区域、3次指定(28年1月)で、広島県・愛媛県今治市、千葉市(東京圏の拡大)、北九州市(福岡市に追加)が指定され、全国で10区域が指定されている。指定された区域からの要望や提案により、これまで55事項の規制改革が実現し、このうち43事項が全国の特区で活用され、認定事業数は233事業に上る。
 東京圏では、東京オリンピック・パラリンピックの開催を視野に入れ、世界から資金・人材・企業等を集める国際的ビジネス拠点の形成を目指している。代表的な取組事例としては、「旅館業法の特例(特区民泊)」がある。近年、日本を訪れる外国人旅行者数は増加傾向にあり、昨年は2,000万人を超えた。旅行者数は今後オリンピック開催に向けさらに増加することが予想され、東京圏では宿泊施設不足が課題となっている。そこで、東京都大田区では国の規制改革メニューを活用し、旅館業法の適用を受けずに区が定める条例により一般の住宅を宿泊業に活用することが可能になった。28年1月に取り組みを開始し、約1年間で認定施設が31施設となり、滞在者も514名(うち外国人310名)と順調に推移している。ただし、特区民泊の日程要件である最低滞在日数「6泊7日以上」が障害となり、大田区以外の東京圏では活用されていない。このため政府は日程要件を緩和(※)し、現在は「2泊3日以上」となっている。(※)28年10月、国家戦略特区法改正。2泊3日から9泊10日の範囲内において自治体の条例で定める期間以上に改正。大田区は現在も条例で6泊7日以上としている。
 関西圏では、健康・医療分野における国際的イノベーション拠点の形成を目指している。医療関係事業の柱の一つである「保険外併用療養に関する特例」を活用し、先進医療の承認迅速化や国内未承認薬の保険外適用に取り組んでいるが、取組開始から2年間で実績は1件にとどまり、未承認薬の事例はない状況にある。
 この他、新潟市では「農業生産法人に係る農地法等の特例」を活用した6次産業化の推進に取り組んでいるほか、福岡市・北九州市では「創業人材の受入れに係る出入国管理及び難民認定法の特例」を活用した外国人の創業活動に取り組むなど、29年度末までを「集中改革強化期間」と位置づけ、各区域で事業が展開されている。

2 仙北市における取組状況

 秋田県では、仙北市が2次指定(平成27年8月)で地方創生特区に指定された。地方創生特区は、国家戦略特区をさらに進化させ、志の高いやる気のある地方の自治体が規制改革により、地方創生を実現することを目的としている。また、自動飛行や遠隔医療など内外の新しい技術の実証をするための規制改革を行う「近未来技術実証特区」の内容も含まれている。
 仙北市は、「農林・医療の交流」のための改革拠点の形成を目指し、林業、農業、雇用、創業、近未来技術の各分野で取り組みを開始している。

(1)国有林野活用促進事業
 仙北市は、市の面積の約6割を国有林が占め、国有林野活用促進事業では、「国有林野の管理経営に関する法律の特例」を活用している。現行5haの貸付等の面積を特例により10haに拡大し、国有林を活用した豚の放牧、生産加工場の導入、農園事業など食産業の振興等を図るものである。
 有限会社グランビア(東京都及び仙北市)が事業主体となり、昨年8月、民有地にて国産豚20頭の試験放牧を開始し、3か月間の肥育を経て、11月に全頭出荷した。国有林の活用については、未整備の林道が多く、事業地の選定が難航していたが、現在、仙北市玉川地内にある「ぶな森牧場」(18年牧場廃止)及びその近隣国有林を活用する方向で調整を進めており、本年6月頃事業を開始する予定である。

(2)農業法人経営多角化等促進事業
 農業法人経営多角化等促進事業では、「農業生産法人に係る農地法等の特例」を活用している。現行の農業生産法人の役員要件は、①役員の過半が農業(販売・加工を含む)の常時従事者で、②さらにその過半が農作業に従事していなければならない。農業生産法人が6次産業化の推進をしやすくするため、②は役員の1人以上が農作業に従事すればよいことにした特例である(28年4月1日より、全国展開済み)。
 ひろ美プリベンティーブ株式会社(神奈川県)と有限会社グランビアが事業主体となり、それぞれが新たに農業生産法人を設立し、農産物の加工・販売を行っている。
 ひろ美プリベンティーブが設立した株式会社メディカルファーム仙北(27年8月設立)は、昨年5月、休耕田(78.6a)を活用し、菊芋と大豆の作付けを開始した。11月に菊芋の収穫を行い、漬物や乾燥チップス等に加工した商品を今春より市内外で販売を開始する予定である。
 一方、グランビアが設立した株式会社田沢湖自然ファーム(28年7月設立)は、グランビアが国有林で放牧した豚で生ハムやソーセージの加工・販売に取り組む計画である。秋田銀行が組成支援を行った投資型クラウドファンディング「秋田グランビア長期熟成生ハムファンド」を活用し、子豚の仕入れや放牧地の整備を行うほか、本年5月には田沢湖高原入口にて豚肉専門レストランの開業も予定している。

(3)高年齢退職者就業促進事業
 高年齢退職者就業促進事業では、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の特例」を活用している。シルバー人材センターが、農業等に従事する高齢者を対象に週40時間(現行週20時間以下)までの派遣労働を可能にする特例(28年4月1日より、全国展開済み)であるが、収穫、除草、稲刈りなど専門的な農作業は民間の派遣会社等を通したケースでの派遣が多く、シルバー人材センターを通しての事例は現在のところまだない。

(4)特定非営利活動法人設立促進事業
 特定非営利活動法人設立促進事業では、「NPO法人の設立手続の迅速化に係る特定非営利活動促進法の特例」を活用している。NPO法人の設立を促進するため、設立認証手続きにおける申請書類の縦覧期間を2週間(現行2か月)に短縮する特例であるが、仙北市管内で新たにNPO法人の設立に向けた動きはなく、現在のところ本特例を活用した事例はない。

(5)特定実験試験局制度に関する特例事業
 特定実験試験局制度に関する特例事業では、電波を使用した実験の免許手続きにおける「特定実験試験局制度」について、免許の申請から発給までの手続きを大幅に短縮(原則「即日」)する特例を活用し、昨年7月に「ドローンインパクトチャレンジアジアカップ2016」を開催した。この特例により、日本のアマチュア無線の免許を持たない海外選手の競技参加や、同時スタートできるドローン台数の増加が可能となった。
 また、近未来技術実証特区として、昨年4月にドローンを活用した実証実験を行っている。児童図書3冊(重さ約1㎏)をドローンに搭載し、西明寺小学校と西明寺中学校間約1.2㎞を飛行した。この実験は、妨害電波に強い秘匿通信で行われ、ドローンの衝突や墜落を回避する自動制御装置の安全性確認などを行った。市では将来的に遠隔地への薬剤輸送や火山の監視などにも活用したいとしている。
 昨年11月には、内閣府と共同で無人運転バスによる国内初の公道実証実験も行っている。この実験は、無人運転自動車の公道走行における法整備の課題を洗い出すことを目的に行われ、株式会社ディー・エヌ・エー(東京都)に委託して実施した。リチウムイオン電池とモーターで動く電気自動車「ロボットシャトル」を使用し、田沢湖畔の県道約400mを時速約10㎞で往復した。GPS(全地球測位システム)やセンサーで走行位置の確認や周囲の環境調査などを行い、市では32年頃までに田沢湖畔での無人運転バスの実用化を目指している。

3 おわりに

 政府は先月開催した国家戦略特区諮問会議にて、年内に新たな特区を指定する方針を示した。大潟村が農業分野で外国人を雇いやすくする規制緩和の提案を行っており、追加指定される見込みである。特区を活用した取り組みが地域経済を活性化させ、国の目指す名目GDP600兆円達成に繋がることを期待したい。
(山崎 要)
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