経営随想

秋田雑感

松浦 隆一
(株式会社秋田ケーブルテレビ 代表取締役社長)
 この1月4日を以って秋田で成人式を迎えることとなりました。これで川反界隈も大手を振って飲み歩けるようになったと(?)とても嬉しく思っています。ちょうど20年前に秋田ケーブルテレビの立ち上げ準備と運営に当たる目的で秋田に赴任しました。皆さんの暖かいご支援のおかげもあって現在は秋田市と五城目・三種町の一部を対象エリアとして多チャンネル・インターネット・電話サービスを提供することに加えて、WiFi・BWAといった無線サービスの提供や電力自由化に伴う電力小売サービスも開始いたしました。ちょうど3年半前に100%秋田地元資本になったことを受けて会社の理念も“秋田と共に未来を創造する”ことと定め、秋田犬を社員として採用する等秋田の魅力を県外・国外に発信することに努めてきました。昨年度は、タイ・香港・台湾を対象にインバウンドに資するコンテンツ制作と情報発信や現地イベント開催などにも参加し事業として取り組んでいます。

 私は生まれも育ちも北海道、71年に日商岩井(現双日)に入社し、主に化学プラントビジネスを手がけておりました。スペインのマドリッド、チェコ・スロバキアのプラハの海外勤務を経験しましたが、ビロード革命直後から5年間のプラハ駐在は激動期だけにとても印象深いものでした。また子供も含めて150名ほどの在留邦人しかいない中で、なんと大使を含めて3組(7人)もの秋田人と知り合うこととなりました。小さな日本人社会でその付き合いは濃密なものがありましたが、どうもこの辺で私の秋田生活が運命付けられたものと思います。秋田の第一印象は空からのものでした。太平山・秋田平野・雄物川・日本海という圧倒的な空からの景色は、特にこの四つの要素全てを具備することが稀な大陸の都市に住む人達の感覚からするなら、“一流都市としての格”があるものですし、私自身もそのように感じました。妻も一緒に秋田に来ていて、時間の許す限りと言うよりは時間をやりくりしてでも県内くまなく歩き・見て回ることを心がけて来ましたが、実に奥深く今でも毎回新たな発見があります。最初の10年間は“秋田の山50”と言う本をバイブルにして山歩きを楽しみました。完全制覇も目前というところまで漕ぎ着けましたが、今は真冬の数座を残してギブアップしました。やはり師と仰ぐ藤原優太郎さん(登山家・フリーライター)がお亡くなりになられたことが痛いと思います。そして現在は、秋田の街道や歴史探訪といった形で各地を訪ねています。一度足を踏み入れるとまた訪れたくなる魅力が秋田にはあり、また緩やかに流れる時間を含めて生きていくための全てがここにはあると感じています。

 秋田には歴史上も有名な興味深い出来事が多くありますが、この20年間で私が見聞きした出来事で大変興味深く印象強いものを幾つかあげたいと思います。一つ目は青秋林道の建設中止、二つ目はハタハタの禁漁、三つ目は親子二代の温泉掘削、そして四つ目は国際教養大学の開設です。最初の二つは“取りやめる決定”であり、あとの二つは“新たに進める決定”ですが、そのいずれもが周囲の冷笑や大反対の中で断固として取組み、実施された結果として、自然保護(世界遺産への道を開く)や資源保護(漁獲量の回復)を実現しました。更に地域住民へのアメニティー提供や人材育成の面で大きな評価と成果を挙げていることは誰もが認めていることと思います。このような取組みの端緒はどこにあるのかと考えて来ましたが、やはりこれは秋田人の資質に求められると言わざるを得ません。秋田の県民性の特質は“内向的・引っ込み思案・保守的・粘り強い”と言われていますが、これに形質的な素因や気象条件・歴史的な要因を考え合わせるならば “純朴で粘り強い気性”と言えると思います。特に雪国で日照時間が全国で最下位という事実を考慮すれば“我慢強さと楽天主義”が同時に必要となると勝手に想像しています。そしてこの代表例が他ならぬ日本人として初の南極探検に乗り出した白瀬中尉だと思います。頑固で我慢強い長距離走者です(彼は探検家を志して、温かな飲み物も一切飲まずまた寒中でも暖を取らぬ生活を死ぬまで続けた頑固者で、一方では探検費用と言う大きな借財を抱えるも完済した楽天家と言われています)。このように見てくると、秋田人はラテン気質に加えて新たな道を切り開く“ジョンブル魂”も兼ね備えているものと思わざるを得ません。

 20年前には120万の県人口がこの3月には100万を切るといわれています。20年間で20万人の減少、そして2040年には70万人とも言われている超人口減少社会・高齢化社会・少子化社会の秋田です。日本の大きな課題の全てがここ秋田で先行し、凝縮した形で現出しています。逆にいえば秋田人は正解の見えない課題にフロントランナーとしての栄誉を得て、日本で初めて挑戦する素晴らしい機会に恵まれたともいえると思います。今一度先駆者としての覚悟を固め、ラテンとジョンブルという云わば“秋田魂”をここで再確認すべきと思います。“連携とスピード”が肝要で、必要なことはPDCAをしっかりまわしながら一つひとつ確実に実行していくことだと思います。20年前、開局時の当社の経営理念は“地域情報インフラの担い手となる”ことで、大目標は秋田市の出資する第三セクターの会社として初めて配当できる会社になることでした。これを達成することが出来た今、“秋田と共に未来を創る会社”として課題解決に向けて皆さんと一緒に進みたいと考えています。“決して焦らず、ゆっくり急いで

(会 社 概 要)

1 会 社 名 株式会社秋田ケーブルテレビ
2 代 表 者 代表取締役社長 松浦 隆一
3 所 在 地 〒010-0976 秋田県秋田市八橋南一丁目1-3
4 電話番号 018-865-5141
5 F A X 018-888-3511
6 U R L https://www.cna.ne.jp
7 設  立 昭和59年6月12日
8 資 本 金 12億円
9 年  商 30億6,700万円
10 従業員数 80名
11 事業内容 一般放送事業、電気通信事業 12企業理念 繋がる楽しさ、広がる暮らし、 秋田とともに未来を創造

※編集部注:松浦隆一社長は、これまでのご実績により、昨年11月第29回「ケーブルマン・オブ・ザ・イヤー2016」を受賞されました。

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