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「地域おこし協力隊」の活用

 「地域おこし協力隊」は、都市部の若者等が、地方自治体の募集に応じて委嘱を受け、国から生活費等の支援を受けながら、一定期間地方に移り住み、住民の生活支援や地域の活性化に取り組む活動で、その地域への定住・定着も図る取組として、平成21年に総務省によって創設された制度である。
 その有用性の認知度の高まりとともに、本制度の活用が全国的に広がっている。平成28年度の地域おこし協力隊員は、全国886の自治体において3,978人に上る。
 県内においても、平成28年10月17日時点で、秋田県(1名)のほか、16市町村(8市5町3村)で44名、計45名の隊員が活動を展開している。本年に入って、秋田市や大仙市でも初めて隊員を採用するなど、県内でも広がりを見せている。
 本稿では、「地域おこし協力隊制度」の意義等について考察する。

1 「地域おこし協力隊」制度

(1) 地域おこし協力隊(以下、「協力隊」)の制度概要は、次のとおりである。
≪制度概要≫
 都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を移動し、生活の拠点を移した者を地方公共団体が「地域おこし協力隊員(以下、「隊員」)」として委嘱。隊員は、一定期間、地域に居住し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこしの支援や、農林水産業への従事、住民の生活支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組
≪活動期間≫
 概ね1年以上3年以下
≪総務省の支援≫
 隊員の募集等に要する経費、隊員の活動に要する経費および隊員等の起業に要する経費について、特別交付税により財政支援
・隊員の活動に関する経費:隊員1人あたり400万円上限
① 報償費(給与)等200万円
② その他の経費200万円
※報償費については隊員のスキルや地理的条件により最大250万円まで支給可能。ただし、隊員1人あたり400万円の上限は変更されない。
・隊員の起業に要する経費:最終年次又は任期終了翌年の起業する者1人あたり100万円上限
・隊員の募集等に要する経費:1団体あたり200万円上限
 また、都道府県が地域おこし協力隊等を対象とする研修等に要する経費については、普通交付税により財政支援

(2) 人口減少や高齢化が進む地域に、地域外の熱意あふれる若者等を誘致し、新たな視点で地域の活性化を図る制度といえる。
 人件費のほか活動経費についても財政支援の対象となっており、自治体にとっても使い勝手のよい制度である。また起業についても考慮されていることで、活動範囲の広がり・進展が期待できる。
 なお、委嘱の方法、期間、名称等は地域の実情に応じて弾力的に対応できる。

2 協力隊導入の効果

(1) 協力隊導入の効果として、隊員・受入地方公共団体・地域にとって、次の通り「三方よし」の取組であることがあげられている。
≪「隊員」にとって≫
 ○自身の才能・能力を活かした活動
 ○理想とする暮らしや生き甲斐の発見
≪「地域」にとって≫
 ○斬新な視点(ヨソモノ・ワカモノ)
 ○隊員の熱意と行動力が地域に大きな刺激を与える
≪「地方公共団体」にとって≫
 ○行政ではできなかった柔軟な地域おこし策
 ○住民が増えることによる地域の活性化

(2) 定住状況
 本制度の目的の1つとして「その地域への定住・定着も図ること」が掲げられているが、総務省「地域おこし協力隊の定住状況等に係る調査結果」(平成27年度―任期終了隊員945人回答)によると、要点(特徴)として次の点があげられている。
① 任期終了後、約6割の隊員が活動地と同じ地域に定住
② 定住者の約4割が女性
③ 各世代で男性よりも女性の定住傾向が高い
④ 同一市町村内に定住した隊員の約2割は起業(前回調査時―平成25年6月末時点―の9%から17%に大幅増加)
[起業内訳]
 ○株式会社設立○一般財団法人設立○NPO法人設立○農業法人設立○飲食店経営○カフェ経営○鍼灸院開設○整体師○経営コンサルタント

3 隊員数及び受入自治体数の推移

 隊員数及び受入自治体の推移をみると、年度を追うごとに隊員数・受入自治体数が大幅に増加している。
 また、特徴として、①隊員の約4割が女性であること、②隊員の約7割が20歳代と30歳代であること、があげられる。

4 地域協力活動

(1) 「地域協力活動」の例
 「地域協力活動」とは、地域力の維持・強化に資する活動で、地域おこし協力隊推進要領に活動例として次のとおり示されている
・地域おこしの支援(地域行事やイベントの応援、伝統芸能や祭りの復活、地域ブランドや地場産品の開発・販売・プロモーション、空き店舗活用など商店街活性化、都市との交流事業・教育交流事業の応援、移住者受け入れ促進、地域メディアなどを使った情報発信 等)
・農林水産業従事(農作業支援、耕作放棄地再生、畜産業支援 等)
・水源保全・監視活動(水源地の整備・清掃活動 等)
・環境保全活動(不法投棄パトロール、道路の清掃 等)
・住民の生活支援(見守りサービス、通院・買物のサポート 等)
・その他(健康づくり支援、野生鳥獣の保護管理、有形民俗資料保存、婚活イベント開催 等)

(2) 「おおむねの例示」として示されているが、
 上記のとおり幅広い活動が認められているほか、その具体的内容は、個々人の能力や適性及び各地域の実情に応じ、地方自治体が自主的な判断で決定するものとされている。

5 県内の活動状況

(1) 平成28年10月時点の県内隊員の活動状況から「主な活動内容」を見ると、前記「地域協力活動」の例示を受けて、地域資源活用特化型から総合型まで、幅広な活動が展開されていることが分かる。最近は「移住・定住活動」型が増加傾向にある。

(2) また、都道府県が地域おこし協力隊等を対象とする研修等に要する経費については、地方交付税により財政支援を受けられることから、隊員の定住促進を図るとともに、県内市町村の本制度の活用を促進するため、本県においても、平成28年度から「地域おこし協力隊制度導入加速化支援事業」を推進している。
 事業内容は、県内隊員の交流会及び研修会の開催、市町村に対する制度の説明会の開催、首都圏での募集市町村との合同募集説明会の開催等である。

6 さいごに

(1) 若者の田園回帰が叫ばれて久しい。例えば、内閣府の「都市住民の農山漁村定住願望」調査によると、「願望がある」と「どちらかといえばある」の合計が、平成17年(回答数975人)の20.6%から平成26年(回答者1,147人)には31.6%に増えている。
 この流れを受け止める格好の制度ともいえる。

(2) 隊員の受け入れにあたっては、慣れない地域で活動が円滑に行えるように、受入・サポートのための態勢を構築することが重要である。
 これは募集前に綿密に行うだけに限らず、活動開始後も状況に応じて柔軟に対応する必要がある。

(3) 活動例示にみられるように、全ての地域活性化に関わる活動が認められる制度である。官(自治体)の発想だけでなく、民(住民・NPO法人・企業)の発想による地域活性化活動も、本制度を活用して、官民連携事業として取り込むことも可能であろう。

(4) 地域活性化のための人材として、「ヨソモノ、ワカモノ、バカモノ」の3要素が必要とよくいわれる。隊員は、その“ヨソモノ”、“ワカモノ”であり、自分の居住地以外の地域の役に立ちたいという熱意なくして務まらない(良い意味での)“バカモノ”でもある。その熱意に応え、自治体、地域住民ともに活動することが何より肝要であろう。また、隊員の活動には限界がある。地域おこしやまちづくりの主役はあくまでも住民であることを忘れてはならない。
(松渕秀和)
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