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秋田県のインバウント現状把握調査(後編)

2 ヒアリング調査編

 以下のヒアリング調査は、本インバウンド現状把握調査におけるアンケート調査編を補完し、より具体的な内容を把握するために実施したもので、県内宿泊施設29か所からご協力をいただいた。

(1)外国人宿泊者の受け入れ状況について
 平成27年以降、外国人宿泊者の受け入れが「ある」と回答した割合は、対象施設全29か所のうち27か所、「ない」は2か所となった。

 受け入れの主なきっかけについては、地域や宿泊施設のタイプを問わず、訪日外国人旅行者の増加に伴い数年前から外国人の予約が入り始めたという施設が複数ある。ほかには、韓国テレビドラマ「IRIS」放映による韓国人旅行者の増加(仙北地域)に加え、「近隣企業から受け入れを打診された。」、「行政から働きかけがあり受け入れを開始した。」、「震災発生以降、風力発電関係の外国人宿泊者が増加している。」など、受動的な回答が目立った。
 一方、外国人宿泊者の受け入れがない、または少ない宿泊施設では、「部屋のタイプが不揃いなため団体客の受け入れが難しい。個人客への対応から少しずつ受け入れに取り組んでいきたい。」(旅館)という声がある。

(2)外国人宿泊者の動向について
 本項目は、外国人宿泊者の動向について、これまでの受け入れで得た印象を各施設に聞き取りしたものである。

a 国籍・出身地域
 宿泊者の国籍および出身地域は、台湾や韓国などアジアの割合が高い施設が多い。
アメリカやイギリスなど欧米の宿泊者は、シティホテルまたはビジネスホテルに泊まることが多く、個人客の割合が9~10割と高い傾向がある。

b 年代 
 年代別では、団体客は40~60代の比較的年代が高い客が多く、個人客は20~40代が中心である。
 エリア別では、鹿角地域や北秋田地域は50代、60代など年配客の割合が高い。一方、仙北地域、平鹿・雄勝地域は、学生を含む20~40代が中心である。地域を問わず、連泊するビジネス客は、観光客と比べ年代が低い。
 特徴として、年代が低い外国人宿泊者は小規模施設や旅館に泊まり、年配の宿泊者は大規模施設やホテルに泊まる傾向がある。
 
c 主な来秋目的
 観光目的では、桜や紅葉など自然・風景の鑑賞を目的とする宿泊者が多い。特に台湾からの宿泊者は写真撮影を目的とする客が多く、撮影スポットを質問された宿泊施設がある。樹氷などの冬景色、秋田内陸縦貫鉄道の人気も高い。秋田地域では、8月に秋田竿燈まつり見物の個人客が集中する。また、体験型観光では、駒ヶ岳登山、温泉が目的という回答がみられた。
 また、ビジネス目的の宿泊者では、風力発電とITの関係者が多い。ともにヨーロッパ系が中心で、個々の国籍・出身地域は多岐に渡っているが、風力発電関係は特にドイツ人が多い。なお、ビジネス客は、レンタカーや社用車を運転し宿泊施設を訪れ、あまり観光はしない、という特徴がある。
 研修目的については、仙北地域では、農家民宿が台湾の高校生や大学生の教育旅行を受け入れている。また、平鹿・雄勝地域のうち、雄勝地域の農家民宿では、本県出身の舞踊家・土方巽の関係資料を集めた「鎌(かま)鼬(いたち)美術館」が近隣にあることから、土方に関心のある研究者、舞踊家、映像作家などの宿泊が目立つ。
 国籍・出身地域別では、アフリカからの宿泊者は、農業や鉱山技術などの研修目的がほとんどである。ビジネスまたは研修目的の宿泊者の具体的な事例は、図表2に挙げたとおりである。

d 出入国空港と本県の間の移動ルート
 各宿泊施設は基本的には宿泊者の旅程を把握していないが、団体客に関しては旅程を入手するケースが多い。また、一部個人客については接客の際に情報を得る機会がある。「(2)d 出入国空港と本県の間の移動ルート」、「(2)e 交通手段」、「(2)f 訪問した主な県内観光地」の3項目については、上記のような経緯で把握した内容をまとめたものである。
 まず、入国に際して、外国人宿泊者は主に羽田空港または成田空港から入国している。チャーター便利用の場合は、秋田空港のほか、青森空港、花巻空港、仙台空港を利用しているケースが多くみられる。
 羽田空港または成田空港から本県までの移動については、新幹線利用が中心である。理由として、JRグループ6社が共同して提供する「ジャパン・レール・パス」(注1)は割引率が大きいため、外国人旅行者が積極的に利用しているものと考えられる。次いで、飛行機の利用が多い。
(注1)「ジャパン・レール・パス」とは、訪日外国人旅行者を対象に、JRグループ6社が共同で発行する特別企画乗車券で、各社の鉄道・路線バスを自由に利用できる。

e 交通手段
 秋田空港またはJR秋田駅から宿泊施設までの交通手段についてみると、レンタカー、鉄道、バスの順に利用が多い。
エリア別の傾向をみると、鹿角地域では、他エリアと異なり、秋田空港または秋田駅を利用せず宿泊施設に来る客がみられる。成田空港または羽田空港から新幹線で盛岡市に行き、盛岡市から高速バスを利用し宿泊施設まで来る、もしくは、新幹線で青森県に行き、そこからレンタカーで来るコースである。
 北秋田地域と山本地域は、秋田空港からレンタカーを利用する宿泊者が多い。
 秋田地域のうち、秋田市は、秋田空港からリムジンバス、または秋田駅からバスやタクシーを利用するケースが多く、レンタカー利用の回答はみられなかった。秋田市を除く秋田地域は、秋田駅からレンタカーを利用、もしくは秋田駅から宿泊施設の最寄り駅まで移動した後に宿泊施設の送迎バスを利用している。
 由利地域では、羽後本荘駅から由利高原鉄道を利用する例があった。
 仙北地域では、成田空港または羽田空港から新幹線で最寄り駅まで移動し、そこから路線バスを利用している。また、最寄り駅から秋田内陸縦貫鉄道、仙台空港からレンタカーを利用する客もみられる。
 平鹿・雄勝地域のうち、平鹿地域では、秋田空港から最寄り駅まで秋田駅を経由し新幹線や在来線など鉄道を利用している。雄勝地域では、秋田空港・仙台空港・秋田駅からレンタカー利用の割合が高いが、鉄道の利用もみられる。
 また、本県を訪れる外国人観光客では、県内だけでなく東北を周遊する客がみられ、駅と隣接する宿泊施設でもレンタカー利用者が約半数を占める。ほかに、仙北市にある旅館では、宿泊施設までの往復で異なる移動手段を利用する個人客が多い(飛行機で本県を訪れ、宿泊後は鉄道で山形県に向かう、など)。

f 訪問した主な県内観光地
 宿泊した地域を問わず、「角館(武家屋敷)」と「田沢湖」に回答が集中した。
 ほかに、山本地域、秋田地域の宿泊施設で「白神山地」、鹿角地域、秋田地域、由利地域の宿泊施設で「男鹿半島」という回答が複数ある。
 上記以外では、仙北地域で「秋田駅から『リゾートしらかみ』に乗車する。」、「駒ヶ岳に登山する。」という回答がある。山本地域では、五能線への乗車を希望する宿泊者の割合が高かった。
 いずれも国内でも人気が高い観光地であり、外国人観光客にとっても魅力的であるようだ。

3 調査の分析

(1)アンケート調査の分析
 アンケート結果によると、平成28年のエリア別外国人延べ宿泊者数の構成比は、仙北地域が34.2%、秋田地域が32.9%、鹿角地域が18.8%で、これらの3地域を合計すると85.9%を占める。つまり、本県のインバウンドは、仙北、秋田、鹿角の3エリアにほぼ集中していると言える。
 また、外国人が宿泊する季節は秋(10~12月)が全体の約4割を占め、春(4~6月)と夏(7~9月)が2割台、冬(1~3月)は1割台と割合が低い。また、外国人宿泊者の国籍・出身地域は、台湾が全体の4割強を占める。
 これらを踏まえ、インバウンドが集中している3エリアについて、外国人宿泊者の季節別、国籍・出身地域別の状況をみると、最初に、鹿角地域は、季節別では秋が53.3%、国籍・出身地域別では台湾が71.8%と構成比の大半を占めているという特徴がある。「紅葉シーズンに台湾からの利用が多い。」という自由記入回答があり、このことを反映していると考えられる。
 次に、仙北地域は、季節別では秋が43.5%と鹿角地域に次いで割合が高い。また、冬も19.8%と春や夏と同程度の割合があることから、小正月行事で冬も外国人観光客を集めている状況がうかがえる。国籍・出身地域別では、タイが第4位に入っていることが特徴である。
 最後に、秋田地域については、季節別、国籍・出身地域別とも全県の傾向に近く、季節的には秋(33.1%)の割合が、国籍・出身地域別では台湾(32.0%)の割合が最も高い。

(2)ヒアリング調査の分析
 県内宿泊施設に対するヒアリング結果からは、外国人の受け入れ状況、外国人宿泊者の動向について以下のことが指摘できる。
 まず、対象施設全29か所のうち27か所が外国人宿泊者を受け入れている。受け入れのきっかけとしては、訪日外国人旅行者の増加や韓国テレビドラマ放映による韓国人旅行者の増加に伴うもの、行政や近隣企業からの打診など、受動的な回答が目立った。
 次に、外国人宿泊者の動向では、属性について、「小規模な宿泊施設や旅館を利用する20~40代中心の若い個人客」と「大型宿泊施設やホテルを利用する40~60代中心の年配の団体客」という2つのグループに分かれる。
 交通手段は、羽田空港または成田空港で出入国し、本県まで新幹線を利用する外国人宿泊者が多い。県内での移動手段は、レンタカー、鉄道、バスが多い。

(3)観光関連団体へのヒアリングに基づく
 本県インバウンド観光に対する意見
 本県インバウンドの振興に向けて、県内観光関連団体3者から意見をお伺いした。いずれの団体からも、外国人旅行者の視点に立った旅行しやすい環境づくりの推進、観光従事者や行政、地域の人たちによる連携に関して、やや不十分な面があるとの意見がきかれた。
 ヒアリングを通して指摘された具体的な課題は、以下のとおりである。

a 情報発信
 情報発信の不足が指摘されている。
 外国人は、宿ありきではなく、画像や映像を通して観光地に触れ、その観光地で時間を過ごすために宿泊施設を選ぶ。したがって、「この宿で過ごすと、どのような時間の過ごし方ができるか。」という提案をすることが大切である。
 また、他と違う魅力を前面に出して、本県に来ないとできないことをアピールする必要がある。例えば、外国人が本県に求めるものは、そば作りなどの「体験」、盆踊りなどの「文化」であり、都市部ではなく本県でこそ可能なことに対する外国人の評価は高い。本県の特長を的確に捉えた情報発信を行うためには、観光従事者が県外や国外にある他の観光地を知り、自分たちの地域と照らし合わせたうえで、客観的な立場から地域の長所・短所を見直すことが必要である。

b 交通
 外国人にとっては、新幹線の駅や空港から観光地、宿泊施設までの県内二次アクセスの利便性がきわめて低い。特に、レンタカーを利用できない外国人旅行者は、交通手段がバスやタクシーなどに限られている。そのため、公共交通機関を補完する交通手段の整備などにより、移動の利便性を向上させる必要がある。

c 外国語への対応
 本県には外国語を話すコンシェルジュ(注2)的な役割の人が少ない、との指摘がある。
 県内で、外国人が多く参加する国際イベントの開催が増えるなか、外国語を話すだけでなく、イベントやテーマについての知識・情報を備えたプロフェッショナルな通訳を必要とするケースが生じている。これまでのように、語学に堪能な学生や民間ボランティアによる協力も欠かせないが、本格的な通訳の養成が急がれる。また、外国人旅行者への対応に関して、通訳案内士など、外国語を話すことができ、かつ、本県に関する豊富な情報を持ち各地域の人と繋がっているような人材を増やす必要がある。
(注2) コンシェルジュとは、ホテルなどで宿泊客の様々な相談や要望に対応する係のこと。

d 地域による違い
 インバウンドに関する地域間競争が激化し、東北全体では誘客活動が盛り上がっているが、その中で本県はやや後れを取っているとの指摘がある。県内をみても、地域により活動状況には温度差がある。県内全域で誘客活動の強化を図るため、民間と行政が従来以上に連携を深め、インバウンドへの積極的な取り組みを行う必要がある。
 また、降雪期に宿泊客数が減少する傾向があるが、仙北地域の小正月行事のように、冬季に集客力の高い観光資源もみられる。県内各地域が保有する個性的な観光資源を活用し、県内のどこかの地域では常にインバウンド客が訪れるよう工夫することで、県全体で12か月絶えず集客し、外国人観光客の増加に繋げることが可能と考えられる。

4 まとめ

 本県インバウンドの現状については、下記のような特徴がある。
 まず、第1点として、県内の地域、訪問の時期、宿泊者の国籍・出身地域の各面で偏りがみられることである。外国人宿泊者が訪れる地域は、仙北地域、秋田地域、鹿角地域に集中し、特に、訪れた観光地が角館、田沢湖に集中しているように仙北地域への集中度が高い。また、時期的には秋(10~12月)、国籍・出身地域では台湾が全体の約4割を占める。このことは、反面、インバウンドに関して、受け入れの少ない県内の地域、時期、旅行者の国籍・出身地域があり、これらについては今後伸ばすことができる余地が大きいと言える。
 特徴の第2点は、誘客活動を中心とする受け入れ態勢の整備が遅れていることである。全国傾向と同様に県内外国人宿泊者数は増加しているが、宿泊施設が受け入れを始めたきっかけとしては、韓国テレビドラマの放映、行政からの働きかけ、近隣企業からの問い合わせなど受動的なものが目立つ。つまり、外国人宿泊者の受け入れは、宿泊施設側の積極的な努力が結実したケースもあるが、様々な環境の変化により結果的に増加したという要因が大きいものと考えられる。
 観光関連団体へのヒアリング結果では、外国人に向けた情報発信力の不足、特に、本県固有の魅力についてのアピール不足が指摘された。このような指摘に対応するためには、宿泊施設が外国語で閲覧・予約できる外部サイトへ登録するだけでなく、宿泊施設が独自で、または地域が協働して地域の魅力を伝える画像や動画を掲載するサイトを構築し、海外に向け積極的に発信していくことが重要である。また、外国語に関し地域全体として対応が必要なこととして、「外国語を話し、かつ秋田県のことを知っている人材を増やす必要がある。」との指摘があり、この点への対応も重要と考えられる。
 第3点が、県内の移動手段に関する整備について、不十分な面があることである。本県を訪れる外国人宿泊者の多くは、羽田空港または成田空港から入国し、そこから本県までは新幹線や飛行機などを利用して来るが、その後の移動手段において整備が遅れている。ヒアリング調査から、外国人の県内での移動手段としてレンタカーが予想以上に使われていることが分かったが、レンタカーを使うことが出来ず、専用のバスなど移動手段が確保されている団体客ではない場合、駅や空港から観光地までの移動の利便性がきわめて低い。バスや鉄道などの公共交通機関は運行地域、運行本数が限られ移動の自由度が低く、タクシーは利用料金が高い。このことから考えると、従来から本県観光の課題として二次アクセス面が指摘されているとおり、インバウンド観光への対応に関しても二次アクセスの整備は大きな課題と言える。
 各自治体では、公共交通機関を補完する交通手段の取り組みがなされているが、主に地域住民を対象としているため、外国語での予約ができないなど、実質的に外国人旅行者が利用しづらい面がある。このような交通手段について、外国語への対応を行うことや各地域で共通なシステムを構築することなどにより、外国人旅行者の二次アクセスの利便性を向上させることが必要であろう。
 また、県は、現在、空港や駅などの主要交通ターミナルを起点とした二次アクセス整備促進事業に取り組んでおり、二次アクセスの路線整備を進めている、もしくは今後進める団体に対し、新たなコースの提案、運行態勢や料金設定などに関して、専門家の派遣や研修会の開催などを行っていく計画である。このような支援を、より多くの地域の団体が利活用することで、県内二次アクセスの利便性の向上に繋がるものと期待できる。

さいごに

 本調査に当たっては、県内の観光に携わる多くの方々に、貴重なご意見や想いをお話しいただいた。様々な立場から、県観光業界の課題について考え、解決に取り組んでいる様子に触れ、一人ひとりの熱意が県全体の集客力向上に繋がるものと確信した。
 また、農家民宿の方々が外国人宿泊者を大切な友人のようにとらえ、宿泊者とのコミュニケーションを心から楽しんでいる様子が印象に残った。相手の文化を尊重しつつも、無理をしない範囲で自分たちにできる「おもてなし」を提供する、このような、等身大で人間味のある接客が、本県ならではの魅力の一つであろうと感じた。
(相沢 陽子)
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