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「地方創生」と「地域再生計画」

 「まち・ひと・しごと創生法」に基づき、平成27年度中にすべての地方公共団体において、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(以下、「地方版総合戦略」)が策定され、秋田県は27年度から、県内市町村は27年度もしくは28年度から地方版総合戦略に基づいた取組を推進している。
 これまで、地方創生に係る自主的・主体的な取組で、先導的なものを財政的に支援するために、「先行型」、「加速化」、「推進」、「拠点整備」などの「地方創生関係交付金」が交付されている。
 28年度からは、地域再生計画を作成し、内閣総理大臣の認定を受けた事業について交付されることが明確化され、地域再生計画と地方版総合戦略の融合がはかられている。
 本稿では、地域再生計画と地方創生交付金の関連等について整理し、本県の実績・取組事例等を紹介する。

1 「地域再生制度」について

(1) 地域再生制度」は、「まち・ひと・しごと創生法」(平成26年11月施行)に先立つ平成17年度に制定された「地域再生法」によって創設された制度である。
 その概要およびあゆみは次のとおりである。

≪制度概要≫
 急速な少子高齢化の進展、人口減少、産業構造の変化など、社会経済情勢が大きく変化しているという現状認識の下、魅力ある就業の機会を創出するとともに、地域の特性に応じた経済基盤の強化及び快適で魅力ある生活環境の整備を総合的かつ効果的に行う目的で平成17年度に創設された。
 地方公共団体は、関係機関(必要に応じ地域再生協議会を設置・活用)等と連携し、自らの地域の取組に必要な(国が整備した)支援措置を記載した地域再生計画の認定を受け、地域再生の実現を目指す制度である。
 平成26年以降3度の法改正が行われ、地方創生の推進のための有用なツールとして、その役割が大きくなっている。
 「地方創生」の目的は、「しごとの創出」、「人の流れの創出」、「結婚・出産・育児の希望の実現」、「時代にあった地域づくり」と多岐にわたる。地域再生制度は、それらを実現する具体的な取組を支援するためのメニューを取り揃えているもの。
 構造改革特区制度などとの連携による相乗効果や中心市街地活性化制度などとの連携による地域再生の取組の一層の充実も期待されている。

≪制度のあゆみ≫
[平成17年] 地域再生法制定
 ・地域再生本部の設置 など
[平成19年改正]
 ・地域再生協議会制度の創設 など
[平成24年改正]
 ・特定地域再生制度の創設 など
[平成26年改正]
 ・提出・認定手続きのワンストップ化
 ・農地転用許可の特例創設 など
[平成28年改正]
 ・地方創生推進交付金の創設
 ・地方創生応援税制の創設
 (企業版ふるさと納税の創設)
 ・生涯活躍のまち形成支援の特例創設 など

(2) 地方版総合戦略の核となるプロジェクトを、ワンストップ窓口で認定し、政府として後押しするもので、認定を受けた地方公共団体は、地方創生のさきがけとなって、全国の自治体をリードすることが期待されている。また、地方版総合戦略等との調和を図るとともに、NPO、地域住民等と十分連携するよう努めることが求められている。

(3) 県内地域再生計画の認定状況
 県内の地域再生計画の認定状況は64件となっている。
 なお、地域再生の区域の範囲は、県計画は県全域、市町村計画もほぼすべてが当該市町村全域としている。

2 「地方創生関係交付金」について

(1) 地方創生関係交付金(以下、「交付金」)の概要(イメージ)は図表1のとおりである。


(2) 平成26年度補正予算以降、「地方創生先行型」、「地方創生加速化」、「地方創生推進」、「地方創生拠点整備」の交付金が交付されている。

(3) 地域再生法の改正により、28年度より「交付金」は、同法に基づく交付金として位置付けられ、安定的・継続的に運用されることとなった。すなわち、地方版総合戦略の自主的・主体的で先導的な事業の実施に要する費用に充てるため、交付金を交付することにより、それぞれの地域の実情に応じた「また・ひと・しごと創生」に資する事業の効率的かつ効果的な実施を図ることを目的とすることが明確化された。なお、先導的な事業とは、次の3タイプが示されている。
・先駆タイプ-官民協働、地域間連携、政策間連携等の先駆的要素が含まれている事業
・横展開タイプ-先駆的・優良事例の横展開を図る事業
・隘路打開タイプ-既存事業の隘路を発見し、打開する事業
 具体的な手続きは、「推進」、「拠点整備」にかかる地域再生計画を作成し、内閣総理大臣の認定を受けた事業について交付されることとなった。したがって、地域再生計画は、「地方版総合戦略の核」となるプロジェクトという位置付けとなる。

(4) 交付金の対象分野
 平成28年度以降、交付金の対象分は次のとおりとなっている。
 地方公共団体が実施しようとする事業の分野に応じて、「地方創生推進交付金(非公共事業)」と「地方創生整備推進交付金(公共事業)」とに分かれる。

 Ⅰ 地方創生推進交付金
  ① しごと創生-地域の魅力のブランド化
  ② 地方への人の流れ-移住促進/生涯活躍のまち
  ③ 働き方改革-地域ぐるみの働き方改革
  ④ まちづくり-広域的な取組による「小さな拠点」の形成・活性化
 Ⅱ 地方創生整備推進交付金の対象分野
  ① 道の整備
  ② 汚水処理施設の整備
  ③ 港の整備

(5) 交付金実績(事業件数・金額)
 秋田県内(秋田県・県内市町村)および全国の交付金対象の事業件数・金額は図表2のとおりである。
 
図表2 地方創生関係交付金実績
(単位:件数/件、金額/県内分:百万円、全国:億円)
  先行型
・基礎交付
先行型
・タイプⅠ
先行型
・タイプⅡ
加速比 加速化
・2~3次募集
件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額
秋田県計 217 3,032 11 144 7 64 40 1,629 8 126
 秋田県 42 1,516 2 27 1 10 4 696 1 40
 県内市町村 175 1,516 9 117 6 54 36 932 7 86
全国計 12,866 1,396 709 236 1,590 67 1,926 906 403 93
(注)加速化3次分のうち秋田県内は県の1件のみ

  拠点整備 推進交付金
(28年度)
推進交付金
・第2回
推進交付金
(29年度当初)
拠点整備
・第2回
件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額
秋田県計 12 1,244 16 386 7 12 18 237 7 481
 秋田県 4 911 5 297 2 5 3 117 2 114
 県内市町村 8 333 11 89 5 7 15 120 5 367
全国計 897 556 745 184 456 54 709 135 224 94
資料:内閣府地方創生推進事務局HPより当研究所作成

3 取組事例

 地域再生制度や地方創生交付金を活用した特徴的な事例が、内閣府地方創生推進事務局から紹介されているが、次のとおり秋田県内の取組事例も採りあげられている。
(1) 地域再生制度活用事例
≪秋田県「秋田の強みを活かした環境リサイクル産業振興計画」≫
 国の支援終了後も独自に事業を継続している取組として、その継続性が高く評価されているもの。
・事業概要
 環境リサイクル産業の振興や循環型社会形成の推進等に貢献することを目的に、環境リサイクル産業の振興や循環型社会形成の推進等に貢献することを目指し、秋田県「秋田の強みを活かした環境リサイクル産業振興計画」(平成20.7.9~25.3.31)を策定し、科学技術振興調整費「地域再生人材創出拠点の形成」プログラムを活用した「あきたアーバンマイン技術者養成プログラム」を開設。
 計画期間終了後も「あきたアーバンマイン開発マイスター養成コース」を大学(秋田大学)と県が連携して開講し、独自に取組を継続し、一定の成果を挙げている。雇用者数、環境リサイクル企業数とも計画終了後も実績を増やしている。

≪大仙市「まちなかへの都市機能の集約と地元商店主の新たなチャレンジによる賑わいづくり」≫稼げるまちづくりの取組事例として紹介されている。
・事業概要
 地域中核病院の移転など、医療・福祉・健康・交通等の都市機能をまちなかに集約し、交流結節点として賑わいを生み出すとともに、商店街への回遊機会を創出。
 地元商店主らが中心となって設立されたまちづくり会社「ひなび大曲」が、特に女性をターゲットに新たな都市集積からの人の流れを商店街に呼び込むため、古い内蔵を商店、交流施設を兼ねるまちなか拠点としてリノベーションするなど、新たな顧客獲得の取組を進めている。

(2) 交付金活用事例
 交付金を活用した地方創生に係る特徴的な取組事例として採りあげられている3事業を紹介する。
≪湯沢市「ゆざわ発新しい働き方」推進(クラウドソーシング導入・在宅ワーク推進)事業≫(交付予定額―先行型46,162千円、加速化3,812千円、推進17,852千円)
 働き方改革の先駆的取組として評価され、3回にわたり交付を受け、深化させている。
・事業概要
 育児や介護等でフルタイム勤務が困難な女性や、冬期間に所得が低下する農業従事者等の新たな就労機会の創出を目的として、クラウドソーシングの導入環境を整備
・主たる取組
〇地域におけるクラウドソーシングの総合的企画・支援役となるクラウドソーシング・プロデューサーの育成
〇市民在宅ワーカーの育成
〇市内企業のクラウドソーシングの活用支援
・主要KPI(重要業績評価指標)
[当初計画]
〇プロデューサーの育成:目標3人(H28.3)
〇在宅ワーカーの育成:目標20人(H28.3)
〇クラウドソーシング活用企業数:目標30社(H28.3)
[29年度計画]
〇プロデューサーの育成:目標3人
〇在宅ワーカーの育成:目標90人
〇クラウドソーシング活用企業数:目標50社
(注)クラウドソーシング
 インターネットを通じて不特定多数の人(クラウド=大衆)に仕事を委託する、アウトソーシングの1手法

≪秋田県「木材高度加工研究所研究・開発機能強化事業」≫(拠点整備交付金対象事業、交付予定額330,961千円)
 農林水産業の成長産業化事例として紹介されている。
・事業概要
 公立大学法人秋田県立大学木材高度加工研究所に、新たに耐火試験棟を整備することにより、耐火部材や木鉄ハイブリッド、CLT等の木質材料や木質構造の試作・実証等の内製化を図り、木材がほとんど使われていなかった分野(中・大規模建築等)に参入する県内企業を後押しし、新たな市場と雇用の創出に取り組む。

≪北秋田市「秋田内陸線阿仁合駅」観光拠点施設整備事業」≫(拠点整備交付金対象事業、交付予定額58,207千円)
 観光振興の特徴的事例として紹介されているもの。
・事業概要
 日本一の銅の採掘量を誇った鉱山の歴史を色濃く残す北秋田市阿仁合では、国指定重要文化財である異人館をはじめ、鉱山で栄えた人々の暮らしを支えた商家や神社仏閣が多数存在し、街歩きにより鉱山の街の歴史を体感できる地域である。
 阿仁合駅を改築し、待合室やレストランスペースを設けるとともに、観光案内所を拡大することで、観光情報発信の拠点化を図る。

4 効果検証

 交付金事業の進行管理の結果および効果検証については、国に報告するとともに公表することが義務づけられている。
直近の公表結果は次のとおりとなっている。

(1) 全国(内閣府地方創生推進事務局報告書)
 本年6月に内閣府から発表された「地方創生先行型事業」(対象事業は15,435事業)の効果検証に関する調査報告書によると、平成27年度末までを目標年月としたKPI(13,481事業)の目標達成率は全事業平均で57.1%であった。
 分野別では“人材育成・移住分野”が63.9%と最も高い。また、今後の方針については、「追加等更に発展させる」と「事業の継続」とを合わせると、“まちづくり分野”の75%を除いてほとんどの分野(人材育成・移住、地域産業、農林水産、観光)で80%を超えている。

(2) 秋田県(KPI達成状況)
 「先行型」については平成28年9月時点で、「加速化」および「推進」については29年8月時点で検証が行われ、KPIの達成状況は次のとおりとなっている。

(3) 湯沢市「ゆざわ発新しい働き方」推進事業
 上記「内閣府地方創生推進事務局報告」には、ケーススタディとして湯沢市の「ゆざわ発新しい働き方」推進事業を含む7事業が採りあげられている。湯沢市事業のケーススタディ結果の主なポイントは次のとおり。
[主要KPIの実績]
〇プロデューサーの育成:目標3人⇒実績3人(28.3)
〇在宅ワーカーの育成:目標20人⇒実績28人(28.3)
〇クラウドソーシング活用企業数:目標30社⇒実績40社(28.3)
[今後の課題]
・在宅ワーカーのスキルセットを超える案件が多く、マッチングに苦慮。今後、適切な難易度の案件を確保・供給する工夫が必要
・在宅ワーカーの登録希望ニーズが大きいことが判明。今後は、勤務時間の長時間化による運営効率化等が課題。
・クラウドソーシングの知名度や有用性に関する理解醸成が不十分。今後、市内企業へのクラウドソーシング活用の営業・定着化が課題。
・地域での自走を促すため、事業主体(本事業の運営・統括委託先)の常駐を取りやめ、徐々に地域主導にシフト。

 全国初となるクラウドソーシング・プロデューサーの育成を含めた複合型の支援事業として、在宅ワーカー向けの育成プログラム、市内企業向けの活用支援セミナー開催などを実施し、発注体験の全社が「成果物に満足」という結果を得ており、実績を積み上げている。
 ICTを活用したクラウドソーシングにより、育児や介護と両立した働き方や冬期間の副業による市民所得の向上も実現できる「働き方改革」が果たされ、長期的には、出身者のUターンや若者層の移住を後押しする取組として注目されている。

5 さいごに

(1) 交付金の対象事業は、先導的・先駆性が求められ、先駆性については、特に“自立性”と“官民協働”が強く求められ、交付金申請の要件となっている。
 “自立性”とは、事業を進めていく中で「稼ぐ力」が発揮され、事業推進主体が自立していくことにより、将来的(3~5年後)に本交付金に頼らずに、事業として自走していくことが可能となる事業であること、とされている。
 また、“官民協働”については、地方公共団体のみの取組ではなく、民間と協働して行う事業であること、また、単に協働するにとどまらず、民間からの資金(融資や出資など)を得て行うことがあれば、より望ましい、とされており、厳しいハードルが課せられている。
 地方創生のためには、官民あげての取組が必要であるとの認識・実行が求められている。

(2) また、厳しい水準が求められる地方版総合戦略と交付金事業の進行管理に取り組むことによって、行政評価の見直しにもつながり、地方公共団体のPDCAサイクルの質の向上と改善の実効性もはかられることを期待したい。
(松渕 秀和)
あきた経済

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