機関誌「あきた経済」

県内読書事情

 全国的に書店の減少が続いている。読書時間も年々減少傾向にある。そのなかで、本県の小中学生は他県に比べ読書率が高く、それが「全国学力テスト」で毎年成績上位を占める一因とも言われる。ところが、高校、大学へと進学するにつれて、読書率は低下していく。本県は、都道府県では全国で唯一、読書条例を定め、毎年11月1日を「県民読書の日」と定めて、「日本一の読書県」を目指している。「読書の秋」に当たり、本県の読書事情について概観してみたい。

1 全国的に店舗数の減少著しい書店

 インターネット通販の発展や人口減少による後継者不足など、時代の変遷とともに店舗数の減少が著しい業種のひとつに書店が挙げられるが、本県もその例外ではない。
 経済産業省の「商業統計」および「経済センサス」によると、昭和63年に全国で28,216先あった「書籍・雑誌小売業(古本を除く)」の事業所数は、平成24年には8,958先まで減少している。これは、実に7割近い減少率である。事業所数の減少にともない、従業者数も、ピークである平成14年の164,584人に対し、平成24年には78,554人と10年余りの間に半減している。年間商品販売額は、ピークである平成9年の2兆4,787億円から平成24年には1兆2,079億円とこれもまたほぼ半減している。一方、この間、事業所一先当たりの売場面積だけは、単純平均であるが、拡大一途を辿っており、経営規模や売場面積の小さな“街の本屋さん”が減少していく傍ら、経営規模、売場面積の大規模化が進んでいる様子が窺える。

2 本県の書店の現状

(1) 本県における「書籍・雑誌小売業(古本を除く)」は、「平成24年経済センサス-活動調査結果-」によると、事業所数82先、従業者数602人、年間商品販売額94億8,900万円、売場面積30,821㎡となっている。都道府県別に人口10万人当たりの事業所数をみると、全国首位は徳島県で、以下、福井県、島根県、鳥取県、京都府、石川県と続き、本県は19位に位置する。
(2) ちなみに、秋田県書店商業組合の組合員数の推移をみると、平成17年には54先あった組合員数が、29年には27先と、この12年間でやはり半減していることが分かる。
(3) また、日本書籍出版協会やトーハンの資料によると、本県は、平成29年7月31日現在で、25市町村のうち9市町村が、書店の1軒もない市町村となっている。書店ゼロの市町村数としては全都道府県中12番目に多く、書店ゼロの市町村の割合(本県36.0%)では8番目に高い。

3 読書時間について

(1) 文科省が「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の際に行っている小中学生(公立)へのアンケート結果を見ると、小学生の読書率は全国平均で79.5%、中学生は同64.4%となっている。(※ここで言う「読書率」とは「普段まったく読書しない」と回答した児童生徒以外の割合を指す。)
このうち本県は、小学生の読書率が83.0%で全国第6位(第1位は岩手県)、中学生の読書率は75.1%で全国平均を10ポイント以上上回り、全国第1位となっている。
(2) 県が行った「平成29年度県民意識調査」の結果報告書をみると、「1日30分以上(または1週間で3時間程度)の読書時間確保の有無」を問う設問への回答では、「している」と「どちらかといえばしている」を合わせた割合は40.1%で、「どちらかといえばしていない」と「していない」を合わせた割合57.7%よりも低い。このうち「していない」33.7%と「無回答」2.2%を除いた64.1%が、前述の小中学生の“読書率”に相当する。
(3) 全国学校図書館協議会と毎日新聞社が行っている「学校読書調査」によると、平成28年度の全国の小学生の不読率は4.0%、中学生は15.4%、高校生は実に57.1%になっている。
(4) また、全国大学生活協同組合連合会が28年10~11月に行った大学生の学生生活実態調査の結果でも、1日の読書時間が「0分」の大学生は全体の半数近い49.1%にのぼり、「30分未満」11.8%を合わせると60.9%に達する。一般に、小学校から中学校、高校、大学へと進むにつれて、読書率は低下していく傾向にあるのが実情と思われる。反面、増えたのがスマートフォンの利用時間という辺りに、世相がよく反映されている。
(5) 一方、前述の「平成29年度県民意識調査」では、年代別の読書率をみると、20歳代が最も低く、それ以上の年代では、概ね年代が上昇するほど読書率が高くなっている。
また、読書時間を確保できない理由については、10歳代を除き50歳代までは「仕事が忙しい」が全年代でトップにくるが、60歳代以上では「視力が衰えたため」が代わりに理由のトップにくる。歳を重ね、時間的余裕ができたときには、視力低下により、読書を楽しみたくとも楽しめなくなっている現実が窺える。
(6) 平成25年度に文化庁が行った「国語に関する世論調査」でも、読書に関する調査が行われているが、1か月に読む本の冊数を問う設問に対し、最も割合が高かった回答は「読まない」の47.5%であった。次いで、「1、2冊」の割合が34.5%、「3、4冊」の割合が10.9%、「5、6冊」の割合が3.4%、「7冊以上」が3.6%となっている。1か月に1冊も「読まない」と回答した全体の47.5%の人を年代別にみると、70歳以上が全体の59.6%で最も高かった。

4 図書館の現状

(1) ところで、書店が減少一方にあるなか、全国の公共図書館(私立図書館含む)の数は、ここ10年間で横這いから若干の増加傾向で推移している。所蔵する蔵書数も増加の一途であり、これを活用しないのは勿体ない。
(2) 本県には、分館等も合わせると、県立図書館が2、市町村図書館が49、市町村公民館図書室が23の合計74もの公立図書館および公民館図書室がある。「知」の拠り所としては、十分な数と思われる。それなのに、住民一人当たりの貸出冊数が平均して年間2.43冊にとどまっているのは、いかにも物足りない。図書館の機能を有効に活用できているとは、到底言えないだろう。
(3) そのなかで、八郎潟町の図書館は、住民一人当たりの貸出冊数が4.96冊と、他の市町村と比較して突出して多い。JR駅前の複合施設に立地する利便性に加え、平日の閉館時刻の延長などサービス向上の取組みが奏功しているものとみられる。

5 全国学力テストと読書率の相関関係

 「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の成績で、本県が常に上位を占めていることはよく知られている。その一因として、先に述べた小中学生の読書率の高さが影響していることも可能性としては十分に考えられる。
 そこで、小中学生の学力テスト(国語Aと国語B合計の平均正答数)の都道府県別順位と、読書率の相関関係について見ると、どちらかと言えば、小学生では多少分布の散らばりも目立つものの、ある程度の相関関係は認められる。

6 秋田県の取組み

(1) 秋田県は、都道府県では全国で唯一、読書条例(正式名称は「秋田県民の読書活動の推進に関する条例」)を定めている。(平成22年4月施行)
(2) 条例では、毎年11月1日を「県民読書の日」と定め、県民総ぐるみの読書活動を展開している。
(3) 読書活動を推進するため、「秋田県読書活動推進基本計画」が定められ、平成23~27年度に「第1次基本計画」として「図書の充実と体制整備など、県民の読書活動推進の土台づくり」が進められ、その一環として、先の「県民読書の日」の制定や「ふるさと秋田文学賞」の創設、県内全市町村による「子ども読書活動推進計画」の策定などの取組みが行われた。
現在は、平成28~32年度を計画期間とする「第2次基本計画」において、「生活の場に根付いた読書活動による人づくり」を目指し、①家庭における読書活動の推進、②学校・職場における読書活動の推進、③地域における読書活動の推進、④県民協働による読書活動の推進の4つを施策の柱として、県民に「読書は楽しい!」の気持ちを広げようとしている。
(4) この取組みによって、計画最終年度の32年度には、①「本を読むのが好きだ」「読書習慣がある」と答える県民の割合が80.0%以上(「29年度県民意識調査」による実績値は66.5%)、②週3時間以上(1日30分以上)読書をしている人の割合が70.0%以上(同じく実績値は40.1%)、を達成することを数値目標として設定し、「日本一の読書県をめざして」いる。
(5) ただ、目標達成のためには、県のこうした取組みについて、一般県民の認知度をもっと向上させていく必要がある。
(6) なお、書店取次大手の株式会社トーハンは、「企業版ふるさと納税」を活用し、本県の元気創造事業「読書が広がるホップ・ステップ・ジャンプ事業」に対し、本年に500万円の寄付を行った。単独企業が読書推進に関連した「企業版ふるさと納税」事業に寄付を行うのは、トーハンが初となる。
トーハンによれば、本県は小中高校における「朝の読書」の実施率が86%(朝の読書推進協議会調べ:本年6月1日現在)と高く、平成23年に「秋田県読書活動推進基本計画」を制定、全国で唯一「県民読書の日」と読書条例を定め、「日本一の読書県」を目指し、県を挙げて読書推進に取り組んでいるからこそ、前述事業への寄付・協力を決定したとのことである。
(7) この「読書が広がるホップ・ステップ・ジャンプ事業」は、寄付金をもとに3段階の取組みが予定されている。
 第1段階の“ホップ”は、記念シンポジウムやおはなし会等の県民が読書に親しむための多様な機会を提供。
 第2段階の“ステップ”では、読み聞かせボランティア養成講座やPOP(販売促進のための広告媒体)作成講座等、読書の楽しさを伝える人材を育成する。
そして第3段階の“ジャンプ”には、秋田県版「家読(うちどく)ノート」(家族の読書記録を残しておけるノート)の配布や世代別ビブリオバトル(知的書評合戦)等が盛り込まれ、【読書県=秋田】にふさわしい様々な取組みが用意されている。
(8) 秋田県書店商業組合も、この「読書が広がるホップ・ステップ・ジャンプ事業」に積極的に協力する予定としている。

7 まとめ

(1) 書店減少の反面、ネット利用が増加している。しかし、リアル店舗の店頭で目にして、試しにページを繰ってみた結果、面白そうだと購買意欲を掻き立てられ、本を購入した経験は誰しもお持ちでないだろうか。書店の減少は、そうした思わぬ本と“巡り合う”機会の喪失にもつながる。
(2) 「毎月、どれくらい書籍購入に費用をかけているか」は、ある意味、「将来の自分自身に対しどれくらい投資をしているか」と言い換えることもできるかもしれない。必ずしも難しい専門書を読めと言うのではない。娯楽目的で読む小説からでも、十分に豊かな想像力は培われ、知らず知らず国語力の向上にもつながる。それらも含め、「将来の自分への投資」とも考えられる。
(3) 地方の活性化や地方創生というものは、地域の産業や経済は勿論であるが、文化の発展と成熟が相俟って実現されるものではないだろうか。その意味で、読書時間の減少という生活習慣の変化と、書店の減少という読書環境の変化の両面に、些かの危機感を覚えている。書店は地域の重要な文化インフラの一つと考えられる。
(4) 以前、県内の書店経営者の方が述べられた言葉が、印象に残っている。「自分たちの職業は、形式的には本という商品を販売する小売業に過ぎず、その意味では採算性も度外視はできない。しかし、自分たちには、本を売ることを通じて、地域の“文化”存続の一翼を担っているという誇りと自負、使命感がある。そのため、時には採算性に多少目をつぶってでも、書店のない郡部の地域まで、コストをかけて本を届けに行くこともある。営利企業としての収益性の観点では、問題外だと叱られるかもしれない。でも、それが自分たち“街の本屋”の役割であると信念を持っている。“本を読む”という地域の“文化の灯”は決して消したくない」と。
(5) 書店経営者自らの経営努力は勿論必要であるが、こうした書店経営者の心意気を汲み取って、地域で支え、将来長きにわたって豊かな読書環境を維持してこそ、教養や文化の面でも真に「高質な田舎」となり、そして、文字どおり「日本一の読書県」となれるのではないだろうか。
(工藤 修)
あきた経済

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