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経営随想

「フードバンク」から思うこと

林 多実
(一般社団法人フードバンクあきた 代表理事)
 「フードバンク」とは、まだ食べることができるのに廃棄されてしまう食品を、必要としている方々にお渡しする活動のことを言います。
 日本の一年間の食品廃棄量は621万トンと農林水産省が発表しています。この量は国民一人あたり一日約134gです。これは、茶碗約一杯のご飯の量に相当します。(WFP、総務省人口推計26年度)一方で、日本の子どもの7人にひとりが貧困状態にあるという数字も出ています。片方では食べ物を捨てているのに、もう一方では食べ物が足りていない。この大きくバランスが崩れている状況を繋げるのが「フードバンク」の活動の一つです。この活動を知ったのは、東京で活動をしているフードバンク、セカンドハーベストの様子を取材したテレビの報道番組からでした。
 私が20代で暮らした首都圏にはホームレスの人たちがいて、当時は新宿の駅の地下通路にダンボールやブルーシートで器用に作られた、長く続く住居の列を初めて目にしたときはとても驚きました。周りの人々の足を止めるでもなく一瞥もせずに通り過ぎる様子を自分も真似て歩くうち、それは都会の生活に自分を慣れさせるというポーズになっていたのでした。
 そのフードバンクはそういう首都圏に存在するホームレスを支援しているのだと思って、テレビを見進めているうちに、支援の対象がホームレスだけではなく、生活困窮世帯に及んでいることを知りました。
 これを遠く離れた東京の出来事、他人事と受け止めてはいられない数字が昨年末に「秋田県ひとり親世帯等の子育てに関するアンケート調査報告書」に出ています。魁新聞にもこの結果は掲載され、ご存じの方もいるかと思います。
 この調査によると、貧困世帯は49.9%、非貧困世帯は50.1%であり、ほぼ半数が貧困世帯となっています。厚生労働省が今年の6月に発表した「2016年国民生活基礎調査」で一人親世帯の貧困率は50.8%となっていることをみると、国の数字とほぼ同じ結果です。私はこの数字を驚くことなく受け入れました。子どもを育てていて、おかしいなと思うことが何度かあったからです。
 朝食をとることができずに登校したり、学校に必要な体育着を購入できなかったり、季節に合わない服装をして登校したりなどのサインを出す子どもの存在に気づいたからなのでした。
 今、子どもの貧困が取り上げられていて耳にする機会が増えたと思うのですが、この言葉はまるで子供が貧困であるように受け取られがちですが、家庭の経済状態は子どもに責任があるのではなく、子どものいる世帯が貧困状態にあるということではないでしょうか?子どもは環境を選んで生まれてくることはできないと思います。たまたま生まれた家庭が裕福であったり、そうでなかったりということだと思います。もちろん、困窮という家庭からもきちんと勉強をして大学を卒業する方々もたくさんいます。活躍されている方々もたくさんいると思います。
 昭和51年にそれまで年間36,000円だった国立大学の授業料が96,000円に値上がりしたのを皮切りに、私立大学との授業料も五倍の差があったものが平成27年にはわずか1.6倍の差と私立と国立大学の授業料の差が縮まってきています。私立大学を新設して補助金を出すことよりも、現在ある国公立大学の定員の増員や、授業料の減額、設備を充実させることを視野に入れてもらうことはできないのでしょうか?
 それも現在は大学に進学する二人に一人の割合で奨学金を借りて進学しているという状況です。卒業と同時に支払いが発生し、借金を抱えて社会に出るということになります。一円も借金を抱えずに、親の仕送りで大学を卒業する子どもと社会に出たときにすでにスタートラインで違いができてしまいます。ここでつくハンディは大きいのではないでしょうか?大学を卒業し、就職したとしても、女性であればこれから結婚、出産など人生において大事な時期を奨学金の返済を軸にして考え返済を優先すると、それ以外のことは二の次になるかもしれません。結婚する相手が同じように奨学金の返済を抱えていた場合、結婚と同時に二人で数百万の借金を抱えてのスタートとなると思います。返済のいらない奨学金を導入すると言われますが、現在返済し続けている人にも支援があればと思います。
 大学を出ているから高収入であり、経済的に安定した職業についているから将来は大丈夫だなど、そういう固定観念はもはや通用しない世の中になってしまったように思います。
 それよりも経済的問題で大学進学をあきらめてしまうということ、などを放置することにより生じる経済的損失は、収入の低下による納税額等その子どもが生涯に収める税金などの減収も含め、42兆円にのぼると2017年7月にOECD(経済協力開発機構)が発表しました。
 この経済的損失という言葉を耳にして小学生の頃、教科書でオランダの少年が堤防に小さな穴が開いているのをみつけ自分の右腕でその穴をふさぎ、国土が海面よりも低い国を救ったという話を思い出しました。長い間実話だと思っていましたが調べてみると、1865年に創作された話であることを知りました。子どもの頃に読んだこの話を思い出したのは、子どもの貧困も、この堤防の小さな穴のようになんとかしてふさがなければいずれは大きな穴、経済的損失となってしまう、まさにその例ではないかと思ったからです。
 フードバンク活動を始めると、高齢の親とその年金で生活する50代や40代の子どもなど、長い間仕事せずに親の収入で生活をしている世帯に食支援をすることがあります。首都圏から帰郷して仕事を探してもなかなか見つからず、何度も就職を断られたことがきっかけで引きこもってしまった等、原因は様々ですが、この引きこもりという問題も「80-50」(※)、「70-40」と言われている困窮家庭につながるという問題を抱えています。(※「80-50」…80歳代の親が50歳代の子どもの面倒をみる事例の意。ひきこもりの長期化、高齢化が進む問題)
 何かできることはないだろうかと思い、震災後東北にもフードバンクが立ち上がったことを知り、隣県の岩手県の「フードバンク岩手」の協力を受けて「フードバンクあきた」を立ち上げたのでしたが、いざ活動を始めてみると「変身大賞」などという賞をいただいたように生活は一変してしまいました。この「経営随想」など、この活動を始めるまでは及びもしなかったことです。私は子どもが学校から帰った時に「お帰り」と迎えてあげることができるようにと、長時間、長期間の仕事はせずにいました。そうしていると学校でPTAの役員などすることになり、そのおかげでたくさんの方々と知り合うこともできました。経験して言えることは、毛嫌いせずに役員を引き受けてみると、そこから様々な出会いがあるということです。
 「フードバンクあきた」も様々な出会いによって活動を続けさせていただいております。「フードバンク岩手」の阿部知幸さんとの出会いももちろんですが、阿部さんの紹介で、全国フードバンク協議会に加盟してその団体を立ち上げた2008年からフードバンク活動をしている「フードバンク山梨」の米山けい子代表を知り、そのお人柄、活動内容等参考にさせていただける団体を知ることになったのは大きな出会いでした。
 フードバンクの活動を知り、食品を寄付して下さる方、食品を集めるフードドライブという活動に賛同して、店舗に設置していただいた商業施設、フードドライブを支店内でしていただいた事業所、秋田市6か所の市民サービスセン
ターや、「入りましたよ」と連絡を下さる担当の方々、県内各地の社会福祉協議会の皆様のご理解に支えられて活動しています。
 平成28年度からは秋田市交付金事業を受け、「みんなdeごはん」という食堂の開催や、制服のリユースも行っています。卒業して不要となった中学・高校の制服を提供いただき、必要としている方々にお渡ししています。無料で頂いた食品を無料で、行政機関や個人の要請にあわせて、各家庭に世帯数や家族構成等を聞いて箱詰めしてお渡しするのですから、食品の回収にかかるガソリン代、事業所の維持費等必要な経費は助成金を申請して賄わなければなりません。その申請の提出等雑多な業務に翻弄されています。仕分けの作業等ボランティアさんの協力がなければ立ち行きません。
 これらの助成金も必ずしももらえるわけでなく、「長く続けてください」という励ましのお言葉を頂くことがあるのですが、いつまで続けることができるのか、これからが本当に岐路となることと思います。にわかに団体代表という役職に就いた私と様々な場で会われた方には、至らぬ点がありご迷惑をおかけしたことをこの場でお詫びさせていただきますとともに、捨ててしまうのが「もったいない」と思う食品をフードバンクに寄付いただくことで、「ありがとう」という言葉につながる、「フードバンクあきた」の活動にこれからもご理解とご協力をお願いします。

(法 人 概 要)

1 団 体 名 一般社団法人フードバンクあきた
2 代表者名 代表理事 林 多実
3 所 在 地 〒011-0945 秋田市土崎港西2丁目3-24
4 TEL&FAX 018-845-2868
5 URL https://foodbankakita.com
6 設  立 平成28年8月15日
7 職 員 数 3名
8 事業内容 フードバンク事業、制服リユース事業ほか
9 活動理念 「もったいない」から「ありがとう」へというフードバンクの理念に基づき、ともに支え合う心豊かな地域社会をつくることに貢献していきたい。
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