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日本一の読書県を目指して ―県内の図書館の取組みについて―

 本県は、日本一の読書県を目指し、平成22年に都道府県で初めて読書推進条例を施行したものの、読書離れが進んでいる。書店の減少が続き活字文化拠点の衰退が進むなか、読書活動推進において図書館の重要度が増しており、県立図書館を中心とする公立図書館、大学図書館は、ニーズに即したサービスを提供し、利用促進に取り組んでいる。また、近年、図書館は、人々の居場所、地域に根差した交流の場としての役割が高まりつつある。図書館のあり方が多様化し、小規模な私設図書館など新たな読書環境が身近に形成されることで、読書習慣がある県民の増加、ひいては読書を通じた人づくり、文化的で豊かな社会の構築に繋がるものと期待される。

1 県による読書活動推進への取組み

 読書は人生を豊かに生きる上で大切なものであり、文化的で豊かな社会の構築にも寄与するため、秋田県は、平成22年に都道府県では初となる「秋田県民の読書活動の推進に関する条例」を施行した。「第1次読書活動推進基本計画」(23~27年度)の計画期間中に「県民読書の日」(毎年11月1日)の制定、「ふるさと秋田文学賞」の創設などを行ったほか、公立図書館や学校図書館を拠点とする読書活動の充実を図り、読書活動推進の土台づくりを進めた。その結果、県内では、全校で読書活動に取り組んでいる小・中学校の割合が100%、文部科学省が27年に実施した「全国学力・学習状況調査」で読書が好きと回答した小・中学生の割合が約80%に達するなど、一定の成果がみられた。
 「第2次読書活動推進基本計画」(28~32年度)では、「読書を通じた人づくり」をテーマに、家庭、学校・職場、地域という生活の場に根付いた読書活動の推進を行っている。市町村との協働、企業や民間団体との連携を通じて、身近な場所での読書環境整備を進めており、29年度は、ショッピングセンターや病院、地域のコミュニティスペースなど5市町の8施設に図書コーナーを設け、計515冊の本を設置した。また、読み聞かせボランティアの養成や中高生が参加するビブリオバトル(知的書評合戦)大会を行い、読書の楽しさを発信できる人材の育成を図った。県は、32年度までの計画として、読書を好むまたは読書習慣がある県民の割合が80%以上、1日30分以上読書をしている人の割合が70%以上という数値目標を掲げ、日本一の読書県を目指している。

2 県内の読書環境

(1) 書店
 全国では書店が1日1軒減少しているといわれ、背景には、若者を中心とする活字離れ、インターネット書店の台頭、電子書籍の誕生、書店経営者の高齢化や後継者不足が挙げられる。
県内書籍・雑誌小売業では、平成19年11月と23年4月に、全国大手書店チェーン2社が、JR秋田駅前に各々県内最大の店舗面積を持つ書店を開いた影響から、小規模書店の淘汰が進んだ。秋田県調査統計課「秋田県の商業」、総務省・経済産業省「経済センサス」によると、28年の事業所数は83事業所で、最多の昭和63年(290事業所)と比べて71.4%減少し、従業者数は509人と、ピークの平成14年(1,253人)から59.4%減少した。年間商品販売額は、最多額の6年(180億69百万円)比53.8%減の83億51百万円で、小売業全体(1兆1,256億14百万円)の0.7%である。
 従業者規模別の内訳をみると、書籍・雑誌小売業(古本を除く)では、従業者数4人以下の小規模書店が過半数を占めるものの、近年はショッピングモールなどへの入居型、もしくは音楽・映像ソフトのレンタル店やカフェを併設した複合型の大型書店が増えている。大型書店は、ポイントカード制度、インターネットによる在庫検索サービスやイベント情報の発信などを実施して集客力の向上を図り、文房具や雑貨など本以外の物品も取り扱い客単価の引き上げに取り組むケースがみられる。その結果、業界の事業所数と従業者数は減少が続いたものの、28年の年間商品販売額(76億94百万円)は26年(72億72百万円)から5.8%増加し、下げ止まりの様子もみられる。
 古本小売業でも、長期的な所得の伸び悩みとそれにともなう節約志向、インターネットを通じた中古品売買の普及を受け、年間商品販売額はこのところ増加している。
なお、30年7月現在、県内全25市町村のうち、小坂町、上小阿仁村、藤里町、三種町、八峰町、八郎潟町、井川町、大潟村、東成瀬村の9町村に書店がない。本県の「書店ゼロ自治体」割合は36.0%で、出版取次大手の調査による全国平均(29年7月現在、22.2%)を上回った。

(2) 図書館
a 学校図書館
 秋田県教育委員会「学校統計一覧」によると、28年度現在、県内の公立小学校は200校、同中学校は114校で、全校に学校図書館がある(注1)。文部科学省児童生徒課「学校図書館の現状に関する調査」では、28年度における本県の学校図書館図書標準達成割合(注2)と学校司書配置学校割合(注3)は、小学校、中学校とも全国平均を上回った。一方で、図書館のある県内公立高校48校の学校司書配置学校割合は37.5%で、全国(66.9%)を下回った。
(注1)分校と特別支援学校を除いた学校数
(注2)学校図書館図書標準は、公立義務教育諸学校の学校図書館に整備すべき標準として定めた蔵書冊数で、学級数に応じる。学校図書館図書標準達成割合は、各自治体において、学校図書館図書標準を達成している学校数が全学校数に占める割合
(注3)学校司書は、本の貸出・返却業務、新規購入、修繕など図書館に関する業務を専門に行う職員を指す。学校司書配置学校割合は、学校司書を配置している学校数が全学校数に占める割合

b 公立図書館
 30年7月現在、県内では全市町村に公立図書館や類似の図書室が設置されており、県図書館協会に加盟する館数は、県立図書館2館、市町村図書館48館、市町村公民館図書室(注4)23館、計73館(注5)である。
(注4)自治体によっては、市町村公民館図書室を図書館の代替として用いることがある
(注5)二ツ井公民館図書室は新図書館整備にともない30年6月末に閉館した。また、移動図書館、秋田市立中央図書館明徳館のサテライト「フォンテ文庫」は除く

3 読書離れの進行

(1)仕事などが忙しく読書離れが進行
 県総合政策課が平成29年に実施した「県民意識調査」によると、1日平均30分以上の読書時間を確保している回答者割合は40.1%で、県が目標とする70%を大きく下回った。40歳代以下の年代で読書時間を確保していない傾向が強く、主な理由は、仕事、他に興味のあることやその活動、家事・育児・介護の忙しさとなっている。
 
(2)書店と図書館の利用状況
 総務省「家計調査」では、29年の二人以上の世帯1世帯当たり書籍購入金額は、秋田市は4,760円となった。都道府県庁所在地別順位は46位で、書店の減少が影響してか1位の盛岡市(13,730円)の半分にも満たない額である。
 また、県図書館協会の調査によると、29年度の市町村図書館の住民1人当たり貸出冊数は、本県は年2.43冊で、全国平均5.50冊を下回り、全国最下位となった。
 こうした結果から、本県は書籍の購入状況も図書館の利用状況も低調で、全国と比較しても読書離れが進行していることがうかがえる。

4 図書館による利用促進への取組み

 書店の減少が進む一方で、インターネット書店が浸透しているが、インターネットは購入する本を明確に決めている人が利用する傾向にある。そのため、読書活動の推進では、気軽に多様な本と出会える図書館の重要度が増している。
図書館による利用促進の取組みのうち、読書離れが進行している高校生以上に対するものは下記のとおりである。

(1)県立図書館の取組み
 県立図書館は、平成19年度から、希望する高校を対象に、コンテナに本30~40冊を詰め合わせた「図書セット」の貸出を行っており、29年度の貸出先は30校を上回った。学校訪問を通じて教員・生徒の希望を把握し選書に反映させた結果、本のテーマは部活動や大学入試、就職など50を超えた。コンテナには、生徒が本に関心を持ちやすいよう、テーマを解説したパネルも同封している。
 また、20年度に秋田大学、秋田県立大学、国際教養大学と相互協力協定を締結し、各館の所蔵資料を利用者が活用できるよう、図書の相互貸借を推進している。29年度の年間貸出冊数は、県立図書館から上記3大学へ367冊、大学から県立図書館へは47冊であった。
 社会人に対しては、全国に先駆け、13年度からビジネス支援サービスに取り組んでいる。「ビジネス支援コーナー」を設け、企業情報や業界データ、統計、白書などビジネス関係の資料の充実を図り、利用者の就労や起業、資格取得、仕事上の課題解決をサポートしている。また、企業に情報発信の場を提供し連携を強化するため、24年度に「雑誌スポンサー制度」を開始した。この制度は、スポンサー企業が費用負担した雑誌の表紙に企業名を表示しPRするもので、30年7月現在、約30社が参加している。館内にはスポンサー企業のパンフレットや商品を展示し、ビジネスマッチングに繋がるようスポンサー企業が参加する異業種交流会も開催している。なお、制度の導入を機にスポンサー企業の社員が図書館に通い始めるケースがあり、図書館のPRにも繋がっている。

(2)大学図書館による利用促進への取組み  
 県内には13の大学・短期大学附属図書館があり、学生や教員が必要とする資料を中心に所蔵し提供している。大学ではアクティブラーニング(注6)の導入が進み、図書館内に専用スペースを設置する学校が多いため、学生は図書館を日常的に利用する傾向がみられる。一方で、インターネットの普及や資料のデジタル化により、情報や知識を求めて図書館に来る必要性は薄れつつある。
 秋田大学附属図書館・中央図書館は、電子資料の拡充に力を入れており、学生はインターネットを通じた独自の検索システムを利用し図書館を訪れることなく資料を閲覧することができる。他方、建物1階にあるアクティブラーニングフロアは授業でも使用されているため、学生は日々の生活を通じて図書館に親しんでいる。館内では、授業時間以外にも、書庫にある資料を用いて勉強したり、新聞を読んだり、思い思いの方法で活字に触れる学生の姿がみられる。また、洋書を含め蔵書冊数が約43万冊と豊富なことから、社会人も利用している。
国際教養大学中嶋記念図書館でも、学生は、大半が寮生活を送っているため、勉強に集中できる環境を求め図書館で過ごす習慣が身についている。館内には、利用者が快適に長時間過ごせるよう、CDやDVDなどの視聴覚資料約3千点に加え、ソファ型や学習用など用途別に複数のタイプの椅子を備え付けた。また、平成16年の開学当初から学外者の利用促進にも取り組んでいる。多言語による洋書が5万冊を超えること、充実した企画展示、学外者向け無線LANサービスの導入など利便性の高さが好評となり、社会人の利用が多い。28年12月には、県内の高校生を対象に「高校生カード」の発行を開始した。30年度に同図書館を利用した生徒数は、7月末現在、134名を数える。秋田市を中心に大館市、大仙市からの利用もあり、高校生は、読書や勉強に加え、キャンパスの様子や大学生の姿に触れる機会としても同図書館を活用している。
 秋田県立大学図書・情報センター秋田キャンパスは、教室から離れた場所に位置しているため、積極的な利用促進策を講じている。まず、学生が図書館を利用する仕掛けづくりとして、学生寮からの通学用バス発着場所を図書館の前に設置したほか、館内に低価格で購入できる飲料の自動販売機を設置した。イベントも盛んで、28年から「図書館ブックフェア」を開催し、市内にある書店の協力の下、1,000冊以上の本の展示・販売、図書館への蔵書を希望する本のリクエストを受け付けている。30年6月には学生と教職員が古本を持ち寄り交換する「本の交換市」を実施した。学生に人気が高い企画は、スタッフが選んだ本を中身が分からないようラッピングし貸し出すもので、「サンタさんから読書の贈り物」と称し、毎年12月に実施している。同センター司書・佐藤美穂氏は、「図書館が、学生と本、学生と読書の架け橋になれるよう、多方面から働きかけを行っている。図書館を利用するきっかけさえ作ると、学生はリピーターになり、読書を楽しんでいる」と手応えを感じている。
(注6)アクティブラーニングとは、学生が主体的に参加し仲間との協力の下課題を解決する能力を養う授業

5 本と人、本を通じて人と人を繋ぐ図書館

 図書館は、本来、人々に読書環境を提供して知的好奇心を刺激し地域の知的水準の向上に寄与する存在であるが、時代の変化を受け、学校や家庭に居場所のない児童・生徒、高齢層などが安心して過ごせる居場所としてのニーズが高まっている。また、年代や属性を超えて人々が集う、地域に根差した交流の場としての活用も期待されている。こうしたなか、全国で新しいタイプの図書館が設立されており、県内でも設立事例がみられる。

(1)私設図書館の設立
 秋田市にある有料会員制の私設図書館「本庫(ほんこ)HonCo(ほんこ)」は、平成27年6月に開館した。延べ床面積約90㎡の図書館は、読書だけでなく飲食できる空間、会議や研究に対応した機器が用意され、蔵書数は約1万冊である。会員数は、30年7月現在、法人会員が2社、個人会員は約30名である。
 代表の天(てん)雲(くも)成津子氏は、公共図書館や、大学図書館の立ち上げや運営に携わった経験から、本と人とが繋がるコミュニティとしての図書館の可能性を追求したいと考え、私設図書館の設立を決意した。同館は、読書会や県内外の講師を迎えた講演会など、会員以外も参加できるイベントを数多く開催し、本の魅力を伝え、本を切り口に人の交流を創出している。天雲氏は、「本好きたちが集まり、様々な話題を自由に語り合っている。これから開催する公開事業では、秋田の歴史や文化を見つめ直すことが、大きなテーマ。地域への愛着や誇りとなる文化資源を意識している。“知の交流拠点”として地域の活性化に貢献する存在になりたい」と意欲を語る。

(2)マイクロライブラリー設立
 全国では、個人または少人数グループが、小規模な図書館、いわゆる「マイクロライブラリー」を気軽に開く動きが生じている。設立のきっかけは、家族の遺産である本や空き家の活用、地域の子どもたちの居場所づくりなどさまざまで、設置場所も自宅の納屋や古民家を改造したもの、寺院、病院、通所型介護施設への併設など幅広い。マイクロライブラリーの共通点は、運営の主な目的が、本の貸出ではなく、本を通じた人の往来を創出することである。
 県内では、秋田公立美術大学、JR東日本秋田支社、NPO法人新屋参画屋が協力し、28年6月、JR新屋駅の待合室に「小さな図書館」を設置した。この図書館は、「1冊借りたら、いつか1冊本棚に」をスローガンに、利用者が自由に本の設置や貸し借りをするもので、誰でも24時間利用できる。蔵書数の増加を受け、29年4月に本棚の増設イベントを開催し、利用者を中心に約50人が参加した。
 創設者の田村剛氏(NPO法人アーツセンターあきた・プログラムコーディネーター)は、通勤・通学に電車を利用する人たちの一部が待ち時間を無目的に過ごしている姿を目にし、図書館の設立を思いついた。設立に際しては、読書では活字のイメージ化が重要と考え漫画と絵本を除外することとし、また、利用者自身が管理に携わることを期待し無人管理とした。田村氏は、「本棚の中身が入れ替わっている様子を見ると、人の往来を実感する。設立前は管理が不十分になるかもしれないと懸念していたが、利用者の自発的な手入れにより、本棚はいつもきれいに整頓されている。地域貢献にも繋がるため、設立の動きが広がってほしい」と、新たなマイクロライブラリーの誕生に期待を寄せている。

6 まとめ

 図書館は、きめ細やかなサービスの提供、イベントの開催などを通して利用促進を図っているものの、既存の利用者に対するアピールにとどまる傾向がみられる。大学図書館についても、学生優先などの条件付きではあるが、学外者も利用できることはあまり認知されていない。図書館同士、または、書店などの企業や団体と連携を深め情報発信力を一層強化することで、新たに本に親しむ県民が増えるであろう。
 また、図書館のあり方の多様化、新しいタイプの図書館の登場により、本を通じた人と人との繋がり、本と人との新たな接点が生まれている。書店のない地域も増えているなか、個人によるマイクロライブラリー設立の動きが広がれば、読書環境の地域格差解消にも繋がるものと期待される。
 読書活動の推進では、まず、県民一人ひとりが読書の楽しさを再発見し、日常生活で僅かな時間でも読書を習慣づけることが肝要と考えられる。生徒・学生はもちろん、時間確保が難しい子育て世代や働き盛り世代も、1日の過ごし方を振り返れば、通学・通勤時間、始業前、昼休み、家事が一段落した時、就寝前のひと時など、読書に充てることが可能な時間がきっと見つかるはずである。そして、読書の楽しさを見つけたならば、身近にある図書館にも是非足を運んでほしい。知的好奇心がさらに刺激されるであろう。平成32年度の目標達成に向け、図書館の利用促進策が県民に周知され、活動推進に繋がることを期待したい。
(相沢 陽子)
あきた経済

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