トップ機関誌「あきた経済」トップ<寄稿>秋田県立 金足農業高等学校の活躍による地域PR効果

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<寄稿>秋田県立 金足農業高等学校の活躍による地域PR効果

荒牧 敦郎
(株式会社あきぎんリサーチ&コンサルティング チーフコンサルタント)
 今年夏、金足農業高校・野球部は第100回記念大会となる甲子園で、秋田県勢として103年振りの準優勝という成績を収めた。地元出身の選手たちが強豪チームを次々に打ち破り勝ち進んでいく姿は感動を呼び、日本全国のみならず海外の人々からも広く注目を集めた。
 金足農業高校の甲子園での活躍や試合前後の動向は、新聞の全国版やテレビの全国放送でも、連日のように取り上げられ、それとともに「秋田」という地域に関心を持つ人々も増加したと考えられる。本稿では、甲子園大会における金足農業高校の活躍が、秋田県という地域のPRにとってどれほどの効果をもたらしたかを考察する。報道媒体のうちテレビの全国放送および新聞の全国版による地域PRの効果は、広告費換算による推計では30億円を超える。

1 海を越えた感動

(1)AKITA is Great!
 秋田で開催されている国際ダンスフェスティバル「踊る。秋田」のフェスティバルディレクター、山川三太氏は、海外のダンス関係者から招かれ、多くの国際ダンスフェスティバルに参加している。
 本年8月23日、山川氏は韓国の国際ダンスフェスティバル、NDA(New Dance for Asia)の海外ゲストとしてソウルを訪れていた。その日の夜、山川氏はパーティーで初めて会った中国の女性ディレクターに名刺を渡したところ、突然、その女性がスマートフォン画面で日本地図を示し「Is AKITA here?」と聞いた。「そうだ」と答えると、「Wow! AKITA is Great!」と言うので、「踊る。秋田」の名声はここまで大きくなったかと喜んでいたら、女性は「KANAASHI !! Amazing ! I cried !!」と言うではないか。周りにいた中国人ディレクターやプロデューサーたちも口々に「Congratulations !!」と言った。
 山川氏は、「中国人が甲子園を見て泣く!?しかも、その話をしているのはソウルだぞ。うーん、高校野球、恐るべし。これからは『踊る。秋田』の名刺に、『あのKANAASHIで有名な秋田のダンスフェスティバル』と刷り込まなきゃいけないかな」と思ったという。
中国人ディレクターが金足農業に感動した背景には、中国のネット媒体等で甲子園大会、特に金足農業の活躍が大きく取り上げられたという経緯があったとのことである。

(2)KANOとKANANO
 金足農業高校の活躍は台湾でも感動を呼んだ。本年8月21日、台湾・高雄市と秋田県の交流を拡大するため高雄市を訪れた佐竹秋田県知事たち一行は、高雄市関係者から「金足農業高校の決勝戦進出、おめでとうございます」というお祝いの言葉で迎えられた。その日はちょうど大阪桐蔭高校との決勝戦の日であり、その場に急遽スクリーンが用意され、投影される決勝戦の様子を見ながら、高雄市と秋田県の関係者が一緒に金足農業に声援を送った。
 台湾の人々が金足農業の活躍に熱くなるのには、一つの理由がある。
 1931年、日本の統治下にあった台湾の嘉義農林学校の野球部は、台湾現地人、中国大陸からの移住者、日本人の混成チームで台湾大会を勝ち進み、海を越えて甲子園大会に出場した。そして、日本の強豪チームとの戦いを勝ち抜いて決勝戦に進出し準優勝を果たした。その実話は、「KANO」という映画になり、2014年に台湾で公開されるとその年の観客動員数1位という熱狂で迎えられた。
 台湾では金足農業の活躍が新聞など多くの報道媒体で伝えられたが、ほとんどが次の記事のように嘉義農林と結びつけて紹介している。
 「映画『KANO』は馬志翔を監督に、魏徳聖と陳嘉蔚の脚本により映画化された。内容は1931年に嘉義農林が甲子園決勝に進出した熱血の物語。今年は第100回全国高校野球選手権記念大会、のみならず、平成最後の夏である。秋田県代表の金足農業高校も同じく農業学校で、選手も設備も足りなく、期待されていない状況で、ピッチャーの吉田が連続完投、決勝に進出した。日本全国に『金足農旋風』が広がっている。日本のマスコミに『雑草軍団』と呼ばれ、4強の中で唯一の公立学校。熱血の物語がまるで『KANO』の再現」(自由時報電子報)

2 日本国内の金農旋風

(1)県外からの寄付金やふるさと納税
 台湾でも報道されている通り、甲子園大会で金足農業が、優勝候補と目される強豪校を次々に打ち破る活躍を続けると、日本全国で旋風と呼べるほどの反響が巻き起こった。
 金足農業が甲子園で勝ち進むにつれ同校が当初用意した遠征費用では不足し、その事がネット等で伝えられると県内外の大勢の人が寄付をした。その総額は3億円に届こうかとの勢いだった。金足農業高校・小野教頭先生のお話。
 「全国の農業高校を始め多くの方から激励やお祝いの電話、FAXをいただきました。寄付金は県内外の方からいただいたことは確かですが、銀行等への振込の場合、振込人の名前と金額しか情報がないため、どのくらいが県外の方からだったのかは分かりません」
 9月17日付、オリコンBOOKランキング(集計期間:9月3日~9月9日)では、金足農業高校の軌跡を追った「報道写真集『金足農 感動の軌跡』」(秋田魁新報社/8月27日発売)が、ジャンル別「スポーツ関連」と「写真集」の2ジャンルで1位を獲得した。
 金足農業の活躍は、秋田へのふるさと納税にも影響を与えた。甲子園での活躍が大きく伝えられるようになった8月下旬(21日~31日)の秋田市へのふるさと納税申込額をみると、本年が80件・2,313千円、昨年(平成29年7月豪雨災害復旧支援寄附を除く)が43件・2,430千円と、金額は同程度であるが件数が約2倍に増加している。ふるさと納税を担当する秋田市企画調整課には、金足農業の活躍に感動した県外の方から電話などでふるさと納税に関する問合せが寄せられたという。 
 ローソンが金足農業高校と共同開発した「金農パンケーキ」は今年5月から6月にかけて秋田県内で発売されたが、甲子園での金足農業の躍進を見た人から再販の要望が多かったことから、8月下旬に秋田県内に限定して再び販売された。県内では早朝の入荷とともに売り切れる状態が続き入手が困難なほどの人気を呼んだが、県外から販売を求める声も強く、ローソンでは、9月25日から秋田県外の東北5県の店舗でも販売を開始した。

(2)ネットでの反響
 金足農業の果敢な戦い振りは、SNSや動画投稿サイトなどネットでも連日拡散された。
 YouTubeを始めとする動画投稿サイトでは、甲子園球場で試合を観戦した人たちによりテレビ中継とは違った観点からの動画が多数投稿された。それらの動画を見ると、観客の多くが金足農業の応援テーマ曲に合わせて手拍子をするなど、同チームが球場全体を味方につけて戦った様子が表れている。特に、近江高校との対戦で最終回に決めた大会初となる「逆転サヨナラ2ランスクイズ」は、意表をついたプレーの鮮やかさが驚きをもって捉えられ、観客席の様々な角度からの動画が多数投稿されている。

3 金足農業の活躍によるPR効果の推計

(1)新聞・テレビによる報道
 金足農業が甲子園で勝ち進むにつれて、人々の注目を集め、新聞やテレビなどのマスメディアで全国的に大きく取り上げられるようになっていった。2度目の春夏連覇を狙う大阪桐蔭高校との決勝戦の前後には、優勝チームをはるかに上回る頻度で金足農業が報道に取り上げられた。秋田県に関することがこれほど全国メディアに露出することはまれであり、地域のPRに大きな効果があったと考えられる。
 そのPR効果を定量的に把握する目的で、全国版の新聞記事およびテレビの全国放送についての調査を行った。優勝候補の一角・横浜高校に3ランホームランで逆転勝利した8月17日から注目度がアップしたと考えられ、対象期間は、8月17日から8月31日までとした。
 この期間中、朝日、毎日、読売、日本経済、産経の全国紙では、地方版を除く全国版の紙面で金足農業高校に関する記事が86本掲載された。スポーツ面が多いが、社会面で24本、一面でも10本の記事が掲載されていることが注目される。特に、産経新聞「産経抄」、日経新聞「春秋」など各紙を代表する一面のコラムで金足農業が取り上げられていることは、同校が報道関係者を含めて人々の心に大きな印象を残したことを示している。
 テレビに関しては、全国ネット6系列のうち2系列のみ、この期間中の金足農業高校に関する放送時間を確認することができた。2系列合計では、全国ネットの番組で期間中に合計806分、金足農業の話題が取り上げられている。1回当たり1~5分程度の放送が多いが、30分を超えて取り上げた放送もある。その中には、大会を終えて関西から秋田に戻る金農ナインの動きをずっと追いかけた番組もあり、大会終了後も金足農業チームの巻き起こした熱気が冷めやらない状況を表している。

(2)地域PR効果の推計
 このような新聞全国版、テレビ全国放送による地域PR効果(※)を、広告費換算という方法で以下のように定量的に推計した。
 新聞に関しては、各紙の広告料金を基に記事面積に応じた金額を算出した。テレビに関しては、番組ごとの推定視聴率を基に15秒CMの推定放映コストを計算し、放送時間に応じた金額を算出した。その結果、期間中の新聞5紙によるPR効果は12億7,100万円、テレビ全国ネット2系列によるPR効果は19億5,200万円、合計で32億2,300万円と推計される。
 この推計は、前述のとおりテレビ全国ネットのうち2系列のみを対象としており、また、スポーツ紙や雑誌による報道、さらに最近大きな影響力を持つネットによる情報発信が含まれていない。このことから、実際には上記金額を大きく上回るPR効果があったと考えられる。
 海外からの反響や各報道媒体の取り上げ方は、金農ナインの甲子園大会での懸命なプレーが人々に大きな感動を与え、それが秋田という地域のPRにとっても大きな効果をもたらしたことを物語る。そして、地域の高校生たちが大きな感動を呼ぶ活躍をしたことは、秋田県の住む私たちを勇気づける大きな力となった。

※「経済波及効果」と「PR効果」の違い…「経済波及効果」は、地域内でどれだけ新しい需要が発生したかを推計するのに対し、「PR効果」は、地域外に対してどれほどその地域の情報が伝わったかを推計するもの。
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