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県内企業の新卒採用動向 ~アンケート結果から~

 リーマンショック以降の景気低迷により、新規学卒者(以下、「新卒者」)の就職は全国的に厳しい状況が続いている。本県新卒者の就職決定率は、全国平均を上回る水準にあるものの、東日本大震災(以下、「震災」)の発生や円高の影響などから、求人数は減少しており、厳しい状況となっている。
 県内企業を対象に実施したアンケート結果から、本県新卒者の採用状況についてレポートする。

1 新卒者の就職環境

 平成23年3月新卒者の全国の就職決定率は、高校卒業者(以下、「高卒」)が95.2%と前年比1.3ポイント上昇したが、大学卒業者(以下、「大卒」)は同0.8ポイント低下の91.0%となり、平成9年の調査開始以来最も低い水準となった。新卒者の就職状況は、「就職氷河期」といわれた平成12~14年頃よりもさらに厳しい、「超氷河期」に入ったとも言われている。
 秋田県内の就職決定率をみると、高卒が99.0%、大卒等が93.8%と全国を上回る水準にある。しかし、平成24年3月新規高卒者の10月末現在の求人数は、前年比2.4%(78人)減で、内訳をみると、県内が前年比17.7%(238人)増となったものの、県外は同16.4%(316人)減となった。リーマンショック以降の長引く不況や震災の発生に伴う生産面、営業面への影響、更には、円高の進行による企業の人員削減などにより、県外からの求人数が減少しており、本年も厳しい状況にある。
 こうした厳しい就職環境の中、せっかく就職したにもかかわらず、就職後3年以内の早期離職者の割合(平成23年6月末時点)は、高卒で38.4%(全国平均37.4%)、大卒で33.1%(同29.9%)と、いずれも全国を上回っており、企業に採用をためらわせる悪循環にもなっている。

2 アンケート結果から

 当研究所では、県内の平成23年3月新卒者の採用状況や充足状況、24年3月新卒者の採用予定、また、企業は新卒者に対し、どのようなことを求めているかなどについてアンケート調査を行った。県内に事業所のある企業292社を対象に行い、208社から回答をいただいた。

(1)平成23年3月新卒者の採用状況について~「採用あり」は4割強
 平成23年3月新卒者の採用意向について尋ねたところ、「あった」と回答した企業の割合は44.2%、「なかった」と回答した企業の割合は55.8%となった。
 業種別では、「あった」と回答した企業の割合が製造業で48.5%、非製造業で40.4%であった。
 これを従業者(非正社員を除く)の規模別にみると、採用意向が「あった」と回答した企業の割合は、従業者100人以上の企業で7割を超え、30人以上99人以下の企業では約5割となった。一方、10人以上29人以下の企業では14.6%、10人未満の企業では13.6%にとどまった。従業者数が少ない企業ほど、採用意向が「あった」と回答した企業の割合が低くなっており、企業規模によって、また年によって新卒者の採用状況に差が生じていることが表われている。

(2)募集人数の充足状況について~定員未達は15%
 (1)で新卒者の採用意向が「あった」と回答した企業(92社)に、募集人数に対する充足状況について質問した。新卒者の採用が募集人数に「達した」と回答した企業が83.7%を占めた一方、「達しなかった」と回答した企業は15.2%で、92社中14社が希望の新卒採用者数を確保できなかったと回答した。雇用環境が厳しさを増し、買い手市場となるなかでも、採用人数が募集人数に達しなかった企業が少なからずみられた。
 業種別では、「達した」と回答した企業の割合は、製造業で89.6%、非製造業で77.3%となり、製造業で充足度が高くなった。「達しなかった」と回答した企業の割合は、サービスで最も高く、次いで衣服縫製、建設、木材・木製品の順に高くなった。
 これを従業者規模別にみると、「達した」と回答した企業は、30人以上99人以下で87.5%、100人以上で86.0%といずれも8割を超えたが、29人以下では77.8%となり、やや充足度が低くなった。

(3)募集人数に達しなかった理由
 (2)で「達しなかった」と回答した企業(14社)に対し、その理由を聞いたところ、「求める人材がいなかった」と回答した企業が最も多く、半数を占めた。
 回答企業が求める人材(自由記入)については、「何をやりたいか、将来ビジョンを持っている人」、「自分の意志を持っている人」のほか、「忍耐力」、「行動力」、「粘り強さ」など、就職活動に臨むにあたって、または社会人になるために必要とされる基本的な項目が並んだ。これらの項目については、企業が新卒者に不足していると感じていることであるとも考えられ、学生の質的な面での物足りなさが、新卒者の採用を鈍らせる要因になっていることが窺える。
 また近年、採用基準を満たす学生がいなければ採用せず、採用予定数に満たなくても良い、と考える企業もあるなど、企業が厳選採用姿勢を強める傾向にあることも影響していると考えられる。
 次いで、「応募者が少なかった」と回答した企業の割合が35.7%となった。近年の学生の就職活動については、安定志向により公務員と並んで大企業志望傾向が根強く、知名度の高い企業へ応募が集中する傾向にあることなどから、中小規模の事業所においては、採用したくても出来ない状況にあることも分かった。回答業種は観光や建設などで、勤務時間や休日が不規則であったり、屋外での仕事が多く体力面での負担が大きい業種については、他の業種に比べて学生の関心が低いことも窺える。
 その他、「学生の内定辞退」も21.0%にのぼった。回答企業の中には、「大卒の人材が欲しいが、内定辞退が毎年発生する」とした企業があるなど、採用方法やその過程において苦労している様子も窺える。

(4)募集人数が予定数に達しなかった際の対応策について
 募集人数が予定数に達しなかった際の対応策については、「充足は考えていない」とした企業が42.9%となり、あくまでも新卒者に限定した採用枠であり、無理をして人数を確保する必要はない、と考える企業が4割を超えた。一方、「経験者(中途)を採用する」が28.6%、「臨時・パート社員を採用する」、「派遣社員等を利用する」がいずれも14.3%となり、新卒者にこだわらず、人員補充を優先する企業が約6割となった。
 また、平成22年9月、「新卒者就職実現プロジェクト」として、3年以内既卒者の新卒扱いでの採用や、試験雇用から正規雇用を行うと企業に奨励金が支給される制度が創設された。これらの制度利用を検討し、「既卒者(卒業後6か月以上3年以内で就業経験のない人)を採用する」と回答した企業の割合は14.3%となった。

(5)新卒者の採用を行わなかった理由
 (1)で平成23年3月新卒者の採用意向が「なかった」と回答した企業(55.8%、116社)に、その理由について尋ねたところ、「人手が不足していない」が最も多く62.1%を占めた。次いで、「業績不振、採用する余裕がない」が29.3%となり、厳しい事業環境の下、新卒者の採用をしたくてもできない状況にある企業が約3割となった。
 他方、「求める人材の応募が期待できない」(13.8%)、「新卒者は定着率が低いため」(10.3%)など、応募する学生の能力や意欲に関わる理由によるものが合わせて24.1%となった。前述の(3)の回答で挙げられたように、回答企業は、将来ビジョンや自分の意志を持っている人、忍耐力、行動力、粘り強さを持つ人を求めている。これらの点がクリアされれば、今後、新卒者の採用数が増加する可能性もある。
 また、「採用には費用や時間がかかる」(4.3%)、「採用後の育成ノウハウがない」(4.3%)、「採用活動に時間を割けない」(1.7%)など新卒者の採用や育成にかかる時間や費用を問題点として挙げるなど、採用方法に関する悩みを抱えている企業が1割を超えたほか、「新卒者は即戦力にならない」、「資格を持った人を採用したいため、経験者を優先する」などの回答も寄せられた。

(6)来春の新規学卒者の採用予定について
 平成24年3月新卒者の採用予定について、採用予定が「ある」と回答した企業の割合は37.4%(76社)、採用予定は「ない」とした企業は47.8%(97社)となった。アンケート調査を行った9月上旬から中旬の時点で85.2%の企業が、来年度の新卒者の採用予定の有無を決定していたが、「未定」と回答した企業も14.8%(30社)あった。一部の企業では、震災の発生や電力不足への懸念、更には円高の影響などにより、来年度の新卒者の採用について決めかねているようだ。
 業種別にみると、観光、機械金属、サービスで来春の新卒者の採用予定があると回答した企業の割合が5割を超えた。一方、採用予定企業の割合が最も低かったのは酒造(10.0%、1社)であった。
 従業者規模別では、従業者数が多くなるほど、採用予定が「ある」と回答した企業の割合も高くなっている。従業者数10人未満の企業では81.8%の企業が、10人以上29人以下の企業では78.0%の企業が採用予定は「ない」と回答している。
 また、今年度、採用意向のあった92社のうち、来年度も採用予定のある企業は59社(64.1%)となった。一方、今年度採用意向のなかった116社については、来年度も採用予定がないと回答した企業が79社(68.1%)となった。

(7)来春の新規学卒者の採用予定数について
 (6)で、採用予定が「ある」と回答した76社に対し、前年と比較した採用予定数について質問したところ、「変わらない」と回答した企業が最も多く、半数を占めた。「増やす」と回答した企業の割合は38.2%で、「減らす」と回答した企業の割合(11.8%)を上回った。
 業種別では、建設、木材・木製品、サービスで採用数を「増やす」予定であるとした企業の割合が6割を超えた。一方、「減らす」予定であると回答した企業の割合が最も高かったのは、食料品、印刷などを含むその他製造であった。
 また、規模別にみると、「増やす」と回答した企業の割合は、30人以上99人以下で最も高く46.2%(12社/26社)となり、次いで100人以上で36.1%(13社/36社)となった。一方、10人未満の企業では「減らす」と回答した企業の割合が3割を超えた。

3 まとめ

 今回のアンケートでは、採用意向があったにも関わらず、求める人材がおらず、採用者数が募集人数に達しなかった企業が少なからずみられた。学生のコミュニケーション能力や職業意識の低下を指摘する意見もあり、今後は、社会人としての基礎力養成だけでなく、若年層の勤労観、職業観を育むキャリア教育の強化が必要とされる。
 また、採用意向があったにも関わらず、新卒者の採用活動やその後の育成に割くことのできる時間や費用が少ないほか、ノウハウを持ち合わせていないなどの理由から、新卒者の採用に踏み切れない企業や、応募者が少なかったため、採用数に達しなかった企業もあることが分かった。これらに関しては、平成22年から、新卒者および既卒者に対する就職支援策が強化されており、採用意欲の高い中小企業と新卒者とのマッチング事業や採用企業への奨励金制度、県内各地に配置されている就職支援員等が一助となろう。
 これらの問題解決への取組みが、ミスマッチの解消や早期離職の防止に繋がり、最終的には若者の県外流出を防ぎ、本県が長年力を注ぐ少子化対策の一助になるものと考える。

(佐藤 由深子)

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