機関誌「あきた経済」
消費税の意義-“買い物は地元で”
消費税は平成元年に税率3%(すべて国税)で導入され、平成9年より税率が5%に引き上げとなったが、普段何気なく支払っている消費税5%のうち、1%は“地方消費税”として各都道府県に配分されている。さらに、その2分の1は、人口と従業者数に応じて各市町村に交付されている。
また、国税である4%のうち29.5%分についても地方交付税の原資に組み込まれ地方に還元されており、消費税は地方財政にとって貴重、かつ安定した財源となっている。
先の参議院選挙の争点(の1つ)として消費税率の引き上げがクロ-ズアップされたが、現在の消費税、特に“地方消費税”について、その配分等の仕組みについては意外と認知されていないのが実情である。
消費税と地方消費税の仕組みや意義について認知度を高め、引き上げにあたっても今後の社会保障のあり方や財政再建と絡めたきめ細かい制度設計と国民の理解が重要である。
1 消費税の配分
(1) 消費税と地方消費税
消費税5%のうち、4%は国税として国に納付されるが、1%は地方税(都道府県税)である「地方消費税」として各都道府県に配分されている。
これは、平成元年に消費税が導入された際に、従来の「地方間接税」が整理され、その減収分の見返りとして「消費譲与税」が創設されたことに起因する。
※「地方間接税の整理」
ゴルフ場利用税を除く「娯楽施設利用税」と「料理飲食等消費税」の廃止
その後平成6年秋の税制改正において、地方分権の推進、地域福祉充実等のために、消費譲与税に代えて、都道府県税としての地方消費税が創設され、平成9年度から課税された経緯にある。
また、消費税(国税4%)の一部(29.5%)は、地方共有の財源として地方交付税の原資とされている。
結果として、消費税5%のうち2.18%(1%+4%×29.5%)が地方に配分されており、地方財政にとって地方消費税も含めた消費税の重要性は非常に高いものといえる。
全国知事会は、昨年7月に「住民サ-ビス確保のための地方消費税引き上げに向けた提言」を行い、その中で、地方消費税に対する国民の認知度を高める取り組みを充実し、住民生活に必須の行政サ-ビスを安定的に提供するためにも引き上げが不可欠であることの理解を得ていくこととしている。
また、本年7月にも「住民福祉を支える地方消費税の引き上げを含む税制抜本改革の提言」を採択し、行政サ-ビスを安定的に提供していくために、税収が安定的で税源の偏在性が小さい地方消費税の引き上げを求める、という提言を行っている。
なお、地方消費税のうち、2分の1相当額(0.5%)は、人口および従業者数に応じて、さらに各市町村に交付されており、各市町村においても安定した財源となっている。
(2) 地方消費税の特徴
全都道府県合計の地方消費税の税収額は、制度導入以来2.5兆円前後で安定的に推移しており、また、他の地方税より税収の偏在性が小さく、景気の変動にも左右されにくい安定的な基幹税として、地方の財源にふさわしい税と言われている。
秋田県においてもほぼ同様に安定的な税収となっている。
2 地方消費税の清算システム
(1) 地方消費税の清算とは
地方消費税も消費税と合わせて、事業者が所在地や本店などの所在地を管轄する税務署に納付され、その後各都道府県に地方消費税相当額の払込みが行われる。
そして、“消費”税という性格上、「最終消費地と税の帰属地との一致」をはかるという考えから、「消費に関連する指標」によって、都道府県間で「税の帰属を決定する=清算を行う」という特有の制度が設けられている。
(2) 清算基準と割合
清算の際の「基準」として次の3つの基準が用いられ、その清算割合も次のとおり定められている。
(3) 現行清算システムの問題点・課題
a 「最終消費地に税収を帰属させる」ため、様々な角度や統計計数に基づき設計された現行の清算システムであるが、次のような問題点が指摘されている。
① 清算割合の妥当性
特に6/8と大きな割合を占める「小売年間販売額」が、次の取引等において過大もしくは過少の可能性があること。
・ 現在統計の対象外となっている産業の存在とその取引額が増大していること。
-インタ-ネット販売を含む「通信・カタログ販売」取引等(平成20年度の通信販売売上高は推計で約4兆円といわれている。)
・ 消費税の非課税対象取引が統計に算入されていること
-「不動産賃貸業」「医療・福祉」等の非課税とされる業種の取引が統計の対象
② 「最終消費地」概念と統計上での「購入地」との関係
最終消費地=購入者の居住地と考えられるが、現行の統計は購入地でカウントされること。(どこで最終消費されたか把握する統計がない。)
例えば、A県在住の人が勤務先のB県で商品を購入し、A県に持ち帰って使用(消費)したケ-スやA県在住の人がインタ-ネットを通じて、事務所がB県に所在する店舗から商品を購入し、これをA県で使用(消費)したケ-スでは、本来どちらも最終消費地はA県に帰属すべきあるが現行ではB県の消費にカウントされ地方消費税が配分されていること。
③「従業者数」基準の妥当性
「従業者数」基準については、平成元年の消費税導入時に地方間接税が整理・減額され、その減収額の見返りとして創設された「消費譲与税」によって補填されるよう、旧来の財源分布との激変緩和として組み込まれたもので、地方消費税導入にあたっても、その考え方が踏襲され、継続された経緯にある。
しかし、「人口」のほか「従業者数」が基準に加わっていることに対し、必ずしも消費を代替する指標として適当ではないのではないか、事業所の多い大都市に結果的に有利になっている可能性が大きいのではないか、などという指摘があり、「人口」基準に吸収してもよいのではないかという意見がある。
④ 基準に使用する大規模な統計調査が、複数の府省により、業種ごとにそれぞれ異なる年次で実施されており、同一時点での我が国全体の産業を対象とした包括的な産業構造統計が作成されていないこと。
例えば、商業統計については平成19年、サ-ビス業基本統計については平成16年、国勢調査については平成17年、事業所・企業統計については平成18年デ-タが用いられている。
また、調査対象企業・事業所の負担も大きく、近年増大している新たなサ-ビス産業をカバ-する統計調査が少ないなど、の問題点も指摘されていた。
b「経済センサス」の創設・実施
このため、これらを解消し、GDP等の経済統計の精度向上や、事業所・企業の母集団情報のより的確な整備をはかるという観点から、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(平成17年6月閣議決定)において、「産業構造の変化等に対応した統計を整備すること」とされ、経済センサスの実施が提言された。
これを受けて、事業所・企業統計調査などの大規模統計調査を見直し、我が国の経済活動を同一時点で網羅的に把握する唯一の統計調査として、「経済センサス」が創設された。
(a)「経済センサス」の概要
次の2つの調査から構成される。
・ 「経済センサス-基礎調査」
-事業所・企業の捕捉、企業構造の把握に重点
・ 「経済センサス-活動調査」
-売上高など、経済活動の把握に重点
このうち、基礎調査が昨年7月に実施され、この結果を踏まえて平成24年2月に活動調査が実施される予定である。
なお、6月に基礎調査の速報概数集計結果として「全国、都道府県および市区町村別の事業所数が公表されている。(総務省ホ-ムペ-ジ)。
8月には、速報集計として産業別の状況や従業員の状況など、主要な事項について公表され、その後順次確報集計として、調査の詳細な集計結果が公表されることとなっている。
(b) 「経済センサス」の利用
「経済センサス」導入により、現行の清算基準の問題点である清算基準の精度(カバ-率)向上がはかられることとなるほか、国民経済計算の推計、各種白書における分析等、利用範囲は広がるものであるが、さらに精緻化・カバ-率向上がはかられるよう望まれる。
3 各国の消費税との比較
(1) 税率
平成20年度現在、消費税は世界145か国で導入されているが、その税率は区々である。日本の消費税率5%は世界の導入国では最低水準である。
なお、アメリカは、消費税がなく、州ごとに小売売上税を定めている。
(2) 食料品・生活必需品等の非課税または軽減税率の適用
日本では、品目等にかかわらず一律5%の課税となっているが、食料品や食料品以外の生活必需品に対して、非課税としたり、品目カテゴリ-別(新聞・雑誌・書籍、医薬品、映画・演劇・コンサ-ト等)にきめ細かく軽減税率を適用する「複数税率」制度など、国によって様々な課税体系となっている。(表-5「食料品の消費税率」「特定品目の低減税率の有無」欄参照)
これは、消費税には低所得者ほど負担が増す、いわゆる「逆(累)進性」があることに対し、配慮しているものである。
※逆(累)進性
消費税は消費に対して広く課税されるため、消費者の所得水準に関係なく負担が生じ、低所得者ほど所得に対する税負担が高くなってしまうこと。
(3) 非課税・軽減税率の適用事例
また、非課税・軽減税率を実際に適用するにあたっても、次の事例のように細かな線引きを設けるなど、各国の苦心の跡が窺える。
・ フランスではチョコレ-トを贅沢品として19.6%の標準税率を適用しているが、板チョコは安価で庶民的食べ物であるとの理由から軽減税率を適用
・ フランスではハンバ-ガ-のテイクアウトは5.5%の軽減税率、店内で食べると19.6%の標準税率適用 ・ カナダではド-ナツ5個以下の注文は店内で食べたものとみなされ標準税率、6個以上だとテイクアウトと見なされゼロ税率適用
・ フランスでは世界3大珍味のうちキャビアだけに標準(高い)税率を適用し、国内業者が多いフォアグラとトリュフについては軽減税率を適用
このように国内産業保護等も絡め、制度設計に腐心していることがわかる。
日本は、消費税率がまだ低率であり、軽減措置等採られていないが、税率引き上げの際は、食料品や生活必需品について諸外国のような非課税または軽減税率適用も、当然検討が必要となろう。
(4) 国税に占める消費税の割合
日本の消費税の税率そのものは海外諸国より低いが、国税に占める割合は決して低くない。
これは、日本が非課税や軽減措置を採らずにすべての消費に一律5%適用しているのに対し、上記のとおり、諸外国では非課税や軽減措置を採っていることにより、税収としての最終割合が異なっているものである。
4 消費税増税にあたっての課題
平成20年6月に当時の与党自民党の財政改革研究会が「消費税増税と軽減税率を盛り込んだ提言」を公表してから、増税論議が活発になされるようになった。
そして、今般の参議院選挙で民主党も「消費税10%」への引き上げを言及し、社会保障制度改革や財政健全化論議と相俟って、消費税増税に対する関心も高まっている。
しかし、増税するとしても、現行の問題点の解消も含めて、増収分の使途をはじめとする多くの課題について詳細な制度設計を行い、増税の必要性について国民の理解を深め、納得のいくものとしていく必要がある。
(1) 使途について
消費税を1%引き上げると、2.4~2.5兆円の増収となるが、その使途については、社会保障制度の改革に全額充てるべきという意見から、成長分野に配分する財源や財政再建の財源の捻出として不可欠、等々様々な意見がある。
現在、消費税は毎年度の予算総則で、高齢者医療、基礎年金、介護の3分野に充てると決められているが、この見直しも含めた議論が必要である。
(2) 国と地方の配分
現在の税率5%の国税と地方税の配分比率は4:1であるが、増税した場合、この配分がどうなるか、が地方財政にとっては最大のポイントとなる。
全国知事会は、かねてより住民福祉を支える税として地方消費税の引き上げを求めているが、少子高齢化等により拡大している地方の財源不足額をどうカバ-していくのかという観点からも重要な検討ポイントである。
(3) 低所得者の軽減措置
日本では、所得にかかわらず一律5%適用としていることから、現在の消費税が抱える問題として真っ先に挙げられるのが前述の「逆(累)進性」である。
今後、消費税率を引き上げる場合、この逆(累)進性を緩和するため、諸外国で導入されている低所得者に対する軽減措置が当然必要となろう。
軽減措置としては、①複数税率の適用、②給付付き税額控除、がある。
a 複数税率の適用
食料品や生活必需品について、非課税や軽減税率とする方法である。
諸外国でも生活必需品の区別・消費態様による区別等、各業界の利害も絡み、軽減品目の合理的な選定に苦心しているところである。
ただし、細分化するほど小売店の対応が煩雑になるなど、悩ましい問題も発生する。
なお、複数税率を導入する場合、「インボイス」(別掲)の導入も必須となる。
※インボイス
消費税は原材料の製造者から小売業者まで、取引の各段階で税が課せられるという「多段階税」である。
このとき、そのまま各段階で消費税がかかったとすると、「課税の累積」が進み、最終的な値上げ幅が非常に大きくなってしまう。
このため、特に複数税率の場合には、流通の中間段階で業者がどれだけ付加価値税を受け渡したかを証明するインボイスの導入が必要となるもの。
なお、インボイスは、登録番号や税額が記載された納品書(請求書)を指す。
b 給付付き税額控除
文字どおり、税額控除と給付を組み合わせた制度で、次の3類型がある。
① 子育て世帯の生活支援を目的とする「児童税額控除」
② 勤労を条件に税額控除を行い、所得が低く控除できない場合には給付する仕組みの「勤労税額控除」
③ 低所得者の負担増を緩和する「消費税税額控除」
基礎的な消費にかかった税額相当分を納税者に還付する制度で、税の支払いが少ない低所得者には現金を給付。所得が上がるにつれて現金給付を少なくして税額控除を増やしていく仕組み
いずれにしても、他の控除制度の見直しや既存の所得分配策と一体で制度設計される必要がある。
また、”低所得”の金額をどこに線引するかもポイントである。
ちなみに、菅首相が、選挙期間中に低所得者に消費税を還付する年収水準の1つとして「年収400万円以下」の発言があったが、21年度国民生活基礎調査によると、「年収400万円未満」の世帯は全世帯の46.6%、「年収300万円未満」でも全世帯の33.3%にも及ぶ。
c 共通番号制度
給付付き税額控除を実施するためには、所得の正確な把握が必須となるため、共通番号制度の導入も条件とされる。
この6月に国家戦略室「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」より中間取りまとめが提示されたが、導入までの期間は最速でも3年、費用も計3,300億円から6,100億円という試算が示されており、税率引き上げの検討と同時併行的に検討を行い、早期決定が必要となる。
※共通番号制度
国家戦略室・「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」の中間取りまとめで、示された3案
A案(ドイツ型)
『税務分野』のみで利用
・ より正確な所得把握と税徴収が可能となる
・ 「給付付き税額控除」の導入が可能となる
B案(アメリカ型)
『税務分野+社会保障分野』で利用
B-1案
『税務分野+社会保障の現金給付』
・ 「所得比例年金」の導入、「高額医額医療・介護合算制度」の改善、医療保険手続き簡便化、が可能となる
B-2案
『税務分野+社会保障の現金給付+社会保障情報サ-ビス』
・ 保険証の1枚化、医療・介護情報サ-ビスの利用が可能となる
C案(スウェ-デン型)
『B2案+役所の各種手続き』等、幅広い行政分野で利用
・ 引越しの際の手続き一括処理などが可能となる
情報保護やセキュリテイも含めて、情報管理方式(一元管理方式が分散管理方式か)をどうするか、番号体系についても、基礎年金番号等既存の番号を使うのか、新しい番号体系とするのか、検討すべき事項は多い。
5 最後に
(1) 国際競争力の観点から、産業界をはじめ各方面から法人実効税率(現行約40%)の引下げが強く叫ばれている。
前述の「増税分の使途」とも絡むが、消費税単独でない税制論議・検討が必要である。
幾多の構想や紆余曲折を経て、平成元年にようやく導入に辿り着き、その後3%から5%に引き上げられた消費税であるが、歴代政権にとって消費税は最大の鬼門と言われてきた。
仮に税率を10%に引き上げた後、またさらに引き上げが必要となったとしても、改めて国民等の合意を得ることは容易でない。
当面10%への増税という論議ではなく、本当に必要な最終的な増税幅がいくらなのか、使途を含めた総合的、抜本的な制度設計・議論・合意が求められる。
また、消費税増税が消費支出を減らしデフレを強めるという意見と、社会保障の充実により将来不安の解消につながりプラスに働くという意見が交錯している。
増税論議の原点であり、短期的影響・中長期的影響両面からの整理が必要と思われる。
(2) このためにも、現行の消費税と地方消費税の仕組についての国民の認知度を高め、年々厳しさを増している国家・地方財政における消費税の重要性・意義について、理解を得ることが先決である。
(3) 地方消費税は消費者が消費を行った地域と税収が帰属する地域が一致する仕組みを採用している。
地域経済活性化に積極的に取り組み、人の交流や人口の増加に努め成功した地域には、地方消費税の税収増につながることとなる。
地方消費税は地方の地域経済活性化努力が税収に反映されやすい税であり、地域振興のためのインセンティブをもたらす効果が期待できるものである。
「地域での消費は税収増を通じて公共サ-ビスの向上につながる」というコンセンサスを形成し、「買い物は地元で」の徹底で、地産地消の推進、商店街の活性化につなげたいものである。
(松渕 秀和)