トップ機関誌「あきた経済」トップ県内ガソリンスタンド業界の現状と課題

機関誌「あきた経済」

県内ガソリンスタンド業界の現状と課題

県内のガソリンスタンド数が大きく減少している。平成21年度におけるガソリンスタンド数は596か所と、過去10年間で147か所減少した。背景には、販売量が大幅に減少するなかで激しい低価格競争が続いたため、収益環境が悪化したことがある。また、来年2月に「危険物の規制に関する規則」が改正されることに伴って多額の費用を要する工事に迫られていることも、ガソリンスタンド数の減少の一因となった。今後の見通しについても、ガソリンや軽油、灯油など燃料油の需要縮小に加えて、県内における人口減少や少子高齢化の影響などから、一層厳しくなると見込まれる。
本稿では、県内ガソリンスタンド業界の現状と課題をまとめた。

1 全国の現状

(1)ガソリンスタンド数の推移
 はじめに全国の状況を概観すると、全国のガソリンスタンド(以下、「スタンド」)数は大きく減少している。資源エネルギー庁が公表している「揮発油販売業者数及び給油所数の推移(登録ベース)」によると、平成21年度における全国のスタンド数は40,357か所となっており、11年度に比べて約1万5千ものスタンドが減少している(26.9%減)。減少の要因は、競争激化による収益環境の悪化である。燃料油の需要が縮小するなかで、大手元売り(石油精製および販売を行う企業)の系列子会社をはじめ、広域大手の小売業者などが競って低価格販売を行ったため、揮発油(以下、「ガソリン」)や軽油、灯油などの利幅が薄くなっている。
 この利益率の低下が比較的規模の小さい事業者の経営を悪化させ、スタンド数の減少につながっている。

(2)販売量の減少
 スタンドが主に取り扱っているガソリンや軽油、灯油の3油種の販売量をみると、平成18年度以降、急激に落ち込んでいることがわかる。21年度の販売量を17年度と比べると、ガソリンが△7.5%、軽油も△14.2%と大幅に減少している。特に、灯油は減少が著しく、約28%も落ち込んでいる。スタンドは業界全体が販売量の減少に悩まされているといえる。

2 県内の現状

(1)ガソリンスタンド数の推移
 平成21年度における県内のスタンド数は596か所となっており、平成11年度に比べて147か所減少した(19.8%減)。本県におけるスタンド数減少の要因は、全国と同様に競争激化による収益環境の悪化である。本県においても低価格競争は激しくなっておりガソリンの利幅は薄くなっている。
 ガソリンは製品の品質による差別化が難しいため、競争の対象が価格に限定される傾向がある。そのため、スタンド業界は従来から価格競争が激しかったが、その激しさをいっそう熾烈にしたのが、平成8年の特定石油製品輸入暫定措置法(注1)の廃止および10年の消防法改正によるセルフ式ガソリンスタンド(以下、「セルフSS」)解禁である。これらにより、商社系の販売子会社がセルフSSを主体に業界に攻勢をかけてきたほか、元売り主導でガソリン増販を目的としたセルフSSの出店が一気に加速した。
 各社がセルフSSの出店に注力している理由は、少ないコストで、多くの販売量を稼げるという利点があるためである。平成10年の導入当初は、セルフSSは大規模な設備投資が必要であるにもかかわらず、ガソリン価格を低めに設定しなければならないなど小売側の負担が大きいと懸念された。しかし、試験店舗での販売成績が好調だったうえ、上記の懸念事項も心配されたほどではなかったことが実証されると、加速度的に店舗数を増加させた。本県においても出店が進んでおり、本県のセルフSS数は平成21年度末で63か所、スタンド全体の10.6%を占めている。

(2)販売量の減少
 本県の油種別の販売量(21年度)をみると、ガソリンは513,485kl(対17年度比5.7%減)、灯油は504,854kl(同24.2%減)、軽油は301,925kl(同21.4%減)となった。スタンドが主に取り扱っている3つの油種で販売量の減少が続いている。
 ガソリンの販売量減少に関しては、低燃費車の普及など自動車保有台数の変化が影響している。特に、ガソリンを燃料としている乗用車では、燃費の良い軽乗用車の保有台数が大幅に増加している。景気の低迷が長期化するなかで、価格や燃費、維持費などの面で経済的な軽乗用車の販売が大幅に増加したためである。加えて、消費者の環境意識の高まりからハイブリッド車など燃費の良い乗用車が普及してきていることも、販売量減少の一因となっている。さらに、ガソリン価格が大幅に値上がりした平成19年以降、消費者が経済的負担を強く意識し、ガソリンの使用量を減らしていることも販売量の減少につながっている。
 また、軽油の販売量が減少した要因についても、貨物車の保有台数が大幅に減少したことが影響している。平成21年度における本県の貨物車保有台数(普通車+小型車)は56,236台と16年度に比べて18.8%の減少となっている。この貨物車の減少が軽油の販売量に響いた。このほか、貨物の減少および輸送ルートの効率化等によりトラックの移動距離が短縮化したことも、軽油の販売量減少につながった。
 一方、灯油の販売量が減少している要因には、厳冬期の気温が高めになってきていることがある。特に平成21年度の12月~2月までの平均気温は、17年度に比べて1度以上も高くなっている。気温の上昇により、灯油の販売量が減少したと思われる。併せて、この期間内に住宅の断熱・気密化が進んだことも灯油の販売量の減少につながったとみられる。また、ガソリンと同様に、19年以降、消費者が灯油価格の上昇を受けて使用量を大幅に減らしてきていることも、販売量減少の大きな要因となっている。

(3)全国的にも安い小売価格
 ここで、平成21年度における本県のガソリン小売価格を全国平均と比較すると、本県は全国で3番目に安くなっている。21年度は価格競争力の強い広域大手の小売業者が本県に出店し、それを契機に、小売価格が全国平均を2~3円も下回るほどの激しい低価格競争が通年で続いたためである。

(4)低価格競争の背景
 燃料油の販売が減少するなかで、低価格競争が続いている理由は、広域大手の小売業者などが採算を度外視した販売を行っていることが影響している。前述のとおり、ガソリンは競争の対象が価格となりやすい。そのため、広域大手の小売業者が攻勢をかけた地域では、他の業者も対抗して小売価格を引き下げざるを得ない。この安売りの連鎖が地域のガソリン市況を悪化させ、業界に低価格販売を強いる要因となっている。
 さらに、全国共通の問題として、製油所の稼働率が低いという構造的な要因も影響している。製油所はいわゆる装置産業であり、稼働率が高いほど低いコストでの生産が可能となる。これまでガソリンの小売価格が大幅に下落する局面があったとしても、元売りサイドは製油所の稼働率をあげる必要があったため販売子会社などを通じて、市況の悪化に目をつぶってでも販売量増加を達成しなければならなかった。これらの動きにより、ガソリンは低価格販売が常態化する状況になっている。

3 今後の課題

(1)燃料油収益の改善
 最大の課題は、本業である燃料油の販売による収益の改善である。ただし、この課題については、短期間での大幅な改善は難しいのが現状だ。単価の引き上げは、スタンド単独の問題ではなく、元売りを含めた業界全体の構造的な問題となっているためである。元売り各社は今後順次に製油所の削減を行っていくと発表している。設備の廃棄により燃料油の供給能力が低下してくれば、増販を目的とした元売りや広域業者の出店戦略が見直され、収益環境も改善に向けて動き出すことが期待される。

(2)油外収益の拡大
 油外収益の拡大も課題となっている。燃料油の販売で利益が稼げなくなってきているなかで、スタンドは以前に増して油外収益の拡大を重視してきている。収益の柱は、バッテリーやタイヤなどカー用品の販売および洗車や整備・点検などの作業料収入である。

 カー用品の販売は、単価が高いこともあって、油外の主力商品である。このうち、特に注力しているバッテリーの販売では自動車メーカーごとに製品仕様が異なっているため、各メーカーに共通して対応できる標準的な出力を持っているものを段階的に取り揃えている。また、洗車も大きな収益源となっている。車内を含めて丁寧な清掃をすることで、リピーターの確保に努めている。このほか、給油の折に、ドライバーへ車両の点検を薦めることで整備の受注につながるようにセールスを行っている。これら油外収益の拡大については、事業者側でも各々の業務を標準化し、担当者に正確な知識を習得させることで、継続的かつ円滑な取引を得られるように、配慮している。

(3)省令改正への対応
 省令改正への対応も大きな課題だ。スタンドはガソリンや軽油、灯油の貯蔵に関して、地下に埋設されているタンクを用いているが、近年、配管の劣化によるガソリンの流出事故が増加している。経済産業省の土壌汚染環境保全対策事業の推計(22年度)によると、設置年数15年以上のタンクの割合は国内全体で約81%、40年以上が約17%となっており、老朽化した設備が多いのが現状である。来年2月に、「危険物の規制に関する規則」の改正が予定されている。改正により、地下に直接埋設(タンク室が設置されていない)されている一重殻タンクのうち、経年年数40年以上のもの(板厚によっては50年以上)には、ガラス繊維強化プラスチックライニングによる補強または電気防食設備などの設置が義務付けられることとなった。
 問題は、更新や補強にかかる工事のコストと日数(工事期間は休業となる)である。仮に一重殻タンクをオイル漏れの懸念のない二重殻タンクに入れ替える場合、約2,000万円のコストと70日前後の日数が必要となる(地下タンク1つの場合)。また、ガラス繊維強化プラスチック内面補強工事および電気防食工事には約400~500万円のコストと10~15日前後の日数がかかる(同)。本業であるガソリンや灯油などの販売による利益が薄くなるなかで、多額の費用を要する工事に迫られるという事情もあって、地下タンクの更新・補強を理由に閉鎖を決めるスタンドも多い。なお、平成21年度までは地下タンクの撤去に関して、経済産業省による補助金の交付事業が実施されていたため、同事業を活用したうえで既にスタンドの閉鎖を決めたところもある。

(4)中長期的な需要減
 中長期的な見通しにおいても、燃料油の需要は減少する模様である。資源エネルギー庁の審議会である総合資源エネルギー調査会の見通しによると、燃料油の国内需要は向こう5年間で、ガソリンが約15%減、灯油が約24%減、軽油が約13%減となっている。19年度以降、燃料油の需要が大きく落ち込んだことをうけ、見通しもかなり厳しいが、今後のハイブリッド車や電気自動車の普及速度によっては一層厳しさが増すことも予想される。さらに、本県では急速な人口減少・少子高齢化という影響も加わるため、国内需要の見通し以上に厳しいものとなると思われる。

4 まとめ

 これまでみてきたように、県内の業界は厳しい状況にあり、スタンド数は大きく減少しているが、一方ではスタンド数の減少に伴い、結果的にスタンド1か所あたりの燃料油の販売量は増加に転じている。
 そんな中で、現在、必要なのは低価格競争への是正、適正利幅の確保であろう。県内需要が減少していくという厳しい時代を乗り切るためにも、行き過ぎた価格競争をやめ、需要量に見合った適正な競争に変え、本業である燃料油販売で安定的に収益を確保できる状況を、業界全体として早急に構築していく必要があると思われる。

(片野 顕俊)

あきた経済

刊行物

お問い合わせ先
〒010-8655
 秋田市山王3丁目2番1号
 秋田銀行本店内
 TEL:018-863-5561
 FAX:018-863-5580
 MAIL:info@akitakeizai.or.jp