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県内酒類消費の低アルコール化と新しいタイプの清酒について

 県内酒類消費量は、人口減少のほか、高齢化や健康志向の高まりによる1人当たり消費量の減少、若年層のアルコール離れなどを背景に、減少傾向にある。現在、酒類市場で人気の高い酒類は、「新ジャンル」と呼ばれるビール風味の発泡飲料やハイボールなど、発泡性で低アルコール、低価格の酒類である。本県の特産品の一つである清酒の苦戦が続くなか、県内でも消費者の嗜好に合わせた新タイプの清酒が次々と開発されており、今年初めに新発売となった発泡性低アルコール清酒が爆発的人気となるなど、清酒ファンの高い関心を集めている。

1 人気は「低価格」と「低アルコール」

(1) 酒類消費量は減少
 県内清酒消費は縮小傾向にあり、仙台国税局によると、平成20年度の酒類消費量は89,319kl(前年度比2.8%減)となった。国税庁「酒のしおり」から成人1人当たり年間酒類消費量をみても、高齢化の進行や健康志向の高まりなどで減少し、20年度で96.0%となった。
 種類別では、過去10年間で消費量が大きく減少している酒類は、ビール(対11年度比49.5%減)と清酒(同43.4%減)、果実酒(同30.4%減)となっている。対照的に、増加している酒類は、リキュール(同351.7%増)と焼酎(同60.8%増)、発泡酒(同26.7%増)、その他の醸造酒などである。清酒の消費量は20年度で11.1%と、ピークだった昭和63年度(32.1%)の約3分の1となった。本県は新潟県(15.0%)に次いで全国二番目の多さを維持しているが、それでもビールの半量以下で、発泡酒やリキュール、焼酎を下回っている。

(2) 低価格、低アルコールへのシフト進む
 消費量が急増しているリキュールとその他の醸造酒は、具体的には、麦以外の穀物を原料としたり発泡酒にスピリッツを加えたりして製造するビール風味の発泡飲料を指す。これらは「新ジャンル」や「第三のビール」などと呼ばれ、ビールや発泡酒よりも価格が低いため、所得の伸び悩みによる消費者の生活防衛意識の高まりから需要が拡大した。
 ほかに、焼酎も平成15年頃、全国的にブームが起きて、県内でも焼酎の成人1人当たり年間消費量は20年度に清酒を上回った。ごく最近では、「ハイボール」というウイスキーをソーダで割った酒類も流行しており、県内の料飲店でも浸透しているという。焼酎とハイボールの共通点は、飲酒時に氷や水を加えてアルコール度数を低く調整できることと、価格が低いことである。

2 新しいタイプの清酒

(1) 発泡性清酒と低アルコール清酒
 低アルコールや低価格、発泡性の酒類が消費を拡大している一方、高いアルコール度数のままストレートで飲む酒類や価格帯の高いものは苦戦している。県内清酒業界でも、消費者ニーズに応えて、10年ほど前から発泡性清酒や低アルコール清酒など従来とは異なるタイプの商品を製造しており、人気が高まっている。
 まず、発泡性清酒は「活性清酒」や「スパークリング清酒」とも呼ばれ、泡立ちが楽しめるほか口当たりが軽く爽快感がある。製造方法は主にガス添加と瓶内での二次発酵、タンク内二次発酵の3通りで、それぞれ酒質や製造量に特徴が現れる。発泡の程度は、微発泡からシャンパンのような強い発泡まで幅広い。
 また、低アルコール清酒については、一般的な清酒よりも味の薄さが感じられる傾向があるため、発泡性を伴ったり甘さや酸味を強調したりと、味わいや喉ごしに特徴を打ち出しているものが多い。

ソフトな味わいのため、女性や清酒ビギナーでも気軽に飲むことができる。
 これら新しいタイプの清酒の成功例で代表的な商品としては、宮城県にある株式会社一ノ蔵の発泡性低アルコール清酒「すず音」が挙げられる。きめ細かい泡を含み、アルコール度数は4.5~5.5%で、甘酸っぱい味わいを持つ。ほっそりとしたボトルに可愛らしいデザインを施しており、従来の清酒ファンに加えて、本来は清酒が苦手という層も取り込み、消費者の底辺拡大に繋がった。出荷量は、発売翌年である平成11年度は約20万本だったが、21年度は約100万本と、発売以来増加を続けている。

(2) 県内の発泡性低アルコール清酒
 県内酒造メーカーによる新しいタイプの清酒は、発泡性清酒では酒質が澄んだものから濁り酒タイプまでバリエーションが幅広いほか、低アルコール清酒の原料に酒造好適米以外の米や牛乳・ヨーグルトなどの乳製品を使用したものもある。「美酒王国・秋田」らしく、長年培った高い醸造技術から個性的な商品が揃っており、いずれも清酒の新たな魅力を引き出している。このうち、低アルコール清酒は現在10品以上が販売されており、ほとんどが発泡性を伴っている。最も新しい商品は大仙市の合名会社鈴木酒造店の「LACHAMTE(ラシャンテ)」で、今年2月に新発売となった。本商品はアルコール度数が7~8%で、ワイン酵母による果汁のような酸味とフルーティーな香りをもち、泡の持続性に優れている。県産あきたこまちと奥羽山脈の伏流水で仕込み、秋田にこだわった。細身の容器を使用し、280mlで498円とワンコインで気軽に購入できる価格を設定している。
 同社の社長・鈴木直樹氏は、消費者の酒類嗜好の変化を踏まえ、ビールやチューハイのような爽やかな飲み口で勢いよく飲むことのできる清酒はないかと、3年前に商品化に取り組んだ。ターゲットとする20~40代の女性を集めた試飲会で情報収集し、テレビコマーシャルも女性スタッフが制作した。テレビコマーシャルにより発泡性や清涼感が消費者に伝わったこと、また、発売直後に集中的な宣伝を行ったことで「話題の新商品」としてのアピールに成功し、初年度の生産分8万本が出荷から4か月でほぼ完売するなど、同社にとって嬉しい悲鳴となった。次年度は10万本の生産と業務用市場の拡大、県外出荷開始を予定しており、同社長は、将来的に本商品を「秀よし」銘柄に次ぐ同社の新機軸として消費者の更なる獲得に繋げたいと意気込みを語る。

(3) 清酒ビギナーから通好みまでの品揃え
 県内酒造メーカーによる発泡性清酒は低アルコールに限らず、20%前後と高めのものもある。秋田市内にある酒販店によると、発泡性清酒は一年を通してよく売れており、発泡性低アルコール清酒は女性の購入が目立つという。少量であることやアルコール度数の低さ、容器やラベルのデザイン性などが選択基準となっており、デザートとしての用途もみられる。また、アルコール度数が高めのものは、普段清酒を愛飲している消費者が夏場に切り替えるケースが多く、年々、リピーターが増加している。

3 新タイプによる清酒消費拡大に期待

 酒類市場の縮小と消費者の低アルコール化・低価格嗜好は進み、全国同様、県内でも清酒を取り巻く環境は厳しさを増すと予想される。発泡性低アルコール清酒は飲みやすく、従来の清酒に馴染みのない消費者の取り込みに繋がると思われるが、前述の「すず音」のような長期に渡る人気商品は、全国でもなかなか登場していない。好調な出だしを切った「LACHAMTE」に牽引され、県内の発泡性低アルコール清酒消費が清酒消費全体の一角を担うまでに活発化すると、清酒製造業の一層の振興に繋がろう。
 また、高いアルコール度数でパンチのある発泡性清酒は、これまで清酒消費を支えてきたファンに対して、清酒の新たな魅力を発信している。これら新しいタイプの清酒が県内の清酒消費回復への足がかりとなるよう期待される。

(相沢 陽子)

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