機関誌「あきた経済」
県内行祭事の観光客入り込み動向について
県内の行祭事観光客数は観光客総数の4分の1を占めており、平成18年にピークとなって以降、景気後退や天候不順による影響から伸び悩んでいる。しかし、厳しい状況のなかで客数が増えているものも多くみられ、知名度の高い行祭事では、秋田竿燈まつりや西馬音内盆踊りの客数が伸びている。観光客の視点に立った環境づくりや、観光客の滞在時間を延ばす工夫などが奏功しているほか、地元の人々との民間交流がリピーターを生むなど、行祭事に係わる人々のホスピタリティが観光客の増加に繋がっている。
1 県内行祭事の入り込み状況
本県の行祭事観光客数は、秋田県「観光統計」によると、平成9年の秋田新幹線「こまち」開業と秋田自動車道の直結、翌10年の大館能代空港開港をきっかけに、15年(11,883千人)まで増加が続いた。ピークは18年(11,954千人)で、その後は景気の後退やガソリン価格の高騰、岩手・宮城内陸地 震、豪雪などから減少したが、21年は11,169千人と、高速道路のETC割引制度開始により前年比3.3%の増加となった。10年前の11年(9,400千人)と比べて18.8%の増加となった一方、5年前の16年(11,876千人)よりは6.0%の減少、最も観光客数の多かった18年よりも6.6%減少した。
2 観光客数の増加している行祭事
(1)春から夏の行祭事観光客数が増加
行祭事観光客総数が伸び悩むなか、平成21年の観光客数が5年前ならびに10年前よりも増加している行祭事は、春から夏に行われるものが多く、具体的には、観桜会や夏祭り、花火大会、神事などの人気が高い。また、男鹿市の日本海メロンマラソンや仙北市の田沢湖マラソンなどマラソン大会も、マラソンやジョギングの人気が高まっていることから、観光客数が増加している。一方で、本県は雪国でありながら冬季の行祭事には伸びがみられず、本県の持つ冬の魅力が集客に結びついていない。
(2) 秋田竿燈まつりと西馬音内盆踊り
平成21年の行祭事観光客数をみると、秋田市で開催される秋田竿燈まつりと仙北市の角館の桜まつりが100万人を超えており、抜群の集客力となっている。最近の観光の形態は自家用車やバスを利用して県境を越える周遊型が主流となっているため、両まつりとも、近隣他県にある同じ趣旨の行祭事の相乗効果もあって、大勢の観光客が訪れている。
秋田竿燈まつりのほかに、羽後町の西馬音内盆踊りは行祭事1日における市町村人口1人当たり観光客数が2.2人と、大勢の人々を集めている。どちらも歴史が古く重要無形民俗文化財として国の指定を受けており、夏の風物詩として県内外に広く知られている。地元客以外の観光客の獲得は経済効果を高める鍵となるため、両行祭事の集客力向上の背景を探った。
a 秋田竿燈まつり
秋田竿燈まつりは桟敷席1万席のうち8割弱をツアー客が占めるほど団体客が多く、ツアー内容は東北の夏祭りを巡るものがほとんどである。以前は8月4~7日に開催されていたが、例年8月2日から開催される青森ねぶた祭のツアー客獲得が期待できるなどの理由から、平成13年に現在の日程(8月3~6日)へと変更された。日程変更が周知されて以降、観光客数は増加傾向にある。なお、19年に観光客数が大幅に減少しているが、台風の影響による一時的なものである。
市では一層の集客力向上を目指して、昨年、市役所本庁舎に隣接する市駐車場に「秋田竿燈屋台村」を設けた。この屋台村には、県内の郷土料理やB級グルメの屋台のほか、土産物や駄菓子コーナーなどがあり、来場者は夏祭りの雰囲気のなかで、本県の食文化や民工芸品を楽しむことができる。賑わいの創出は地元客にも好評で、今年は屋台村を3か所に増設したところ、昨年以上の盛況となった。
秋田市の秋田竿燈まつり
今年からは、赤れんが郷土館や秋田市民俗芸能伝承館など会場近くの観光施設や土産店では、まつり期間中は通常よりも早い時間から開場・開店し、観光客には朝早くから行動することができると評判が良かった。また、客の滞在時間を延ばそうと、妙技会や民俗芸能伝承館隣にある旧金子家住宅での秋田民謡と秋田万歳の披露など、日中のイベントの宣伝に今まで以上に注力している。加えて、夜本番終了後にも川反中心部で演技を披露し、その効果から周辺の飲食店は例年以上の賑わいとなった。このように、民間・行政問わず竿燈まつりに係わる人達が観光しやすい環境整備に努めた結果、地元客の増加にも繋がり、今年の観光客数は約1,470千人と、昨年を上回る人出となった。
b 西馬音内盆踊り
羽後町の西馬音内盆踊り
西馬音内盆踊りは、長年にわたって盆踊りの保存・伝承していることが認められ、昭和56年、盆踊りとしては全国で初めて国の重要無形民俗文化財の指定を受けた。その後、平成に入って、地域伝統芸能大賞やサントリー地域文化賞などを受賞したことをきっかけに、JR東日本のキャンペーンや全国放送のテレビ番組で次々に取り上げられるようになり、知名度は全国的に高まって、それまで減少傾向にあった観光客数は急増した。
羽後町企画商工課によると、観光客は宮城県など東北や首都圏からが多く、大多数が個人客となっている。町では、これまで盆踊りの宣伝や観光客誘致を積極的に行ったことはなく、前述のマスコミによる全国規模の宣伝効果や観光客の口コミによって、客数が増加している。また、一度盆踊りを見に来た人は新たな観光客を呼び込むだけでなく、自身がリピーターになって毎年訪れているケースも目立っている。
背景としては、盆踊りの持つ魅力と町民のホスピタリティが挙げられる。西馬音内盆踊りは衰退の危機を幾度も乗り越え、町民が古くから守ってきた伝統行事だからこそ、踊りを通じて町民の誇りや思いが観光客に伝わっている。踊り手の衣装をみても、踊り浴衣や端縫い衣装は江戸時代に作られたものもあるほか、各自のデザインが全て異なるなど伝統と個性を感じさせ、見る者を飽きさせない。また、町内には宿泊施設がないため、町民宅でのホームステイを行っており、宿泊先と観光客との間に民間レベルの交流がうまれ、毎年、盆踊りを見に来るリピーターは増加傾向にある。天候の影響による増減はみられるものの、観光客数は、例年、100千人を上回って推移しており、「西馬音内盆踊りファン」「羽後町ファン」を醸成したことが、観光客数の増加に結びついている。
c 花火大会
ほかの行祭事をみると、花火大会も人気が高く、男鹿日本海花火と能代港まつり花火大会は、ともに平成15年にスタートして以来、観光客数は増加傾向にある。男鹿日本海花火については、20年は直前までの降雨の影響から落ち込んだが、21年は160千人と、5年前の16年(85千人)よりも2倍近く増加した。能代港まつり花火大会も120千人と、16年(50千人)と比べて2.4倍の増加となった。なお、両花火大会を合わせた客数は行祭事観光客数の2.5%を占めるまで伸びており、本県の集客力向上に繋がっている。
また、県内の花火大会では、大仙市で開催される全国花火競技会が最も有名で、今年で大会開始から100年を数える。全国屈指の本大会に牽引されて県内の他の花火大会も総じて高いレベルの内容となっているほか、桟敷席の設置やアクセス案内、駐車場の整備、大会終了後の清掃など、ボランティアの支えにより観光客が安心して楽しめる環境が整っている。ボランティアスタッフの熱心さや内容の充実、観光しやすい環境整備などが、人気に繋がっていると思われる。
3 行祭事を通じた本県ファンづくりを
景気や天候の影響から県内の行祭事観光客数は伸び悩んでいるが、観光客数が増加しているものも多くみられる。本稿で取り上げた観光客数100千人以上の行祭事のほかにも、鹿角市で開催される花輪ねぷたや毛馬内月山神社祭典、湯沢市の小町まつりなどは過去10年間に客数を大きく伸ばしている。これら行祭事の人気が上昇している背景には、内容の充実に加えて、観光しやすい態勢の整備、滞在時間を延ばしてもらうための工夫などがある。
一方で、観光客数の増加は夏に行われる行祭事に目立っているため、寒さや雪などを弱点から長所に変えて集客に繋げる手法が必要となろう。また、本県の長年の課題である通年観光の振興には、行祭事だけに頼ることなく、イベントのない時期にも一定の観光客数が見込めるような集客の材料が重要となる。西馬音内盆踊りのように、県内の行祭事をきっかけに観光客と県民との間に顔の見える交流が始まると、「秋田県ファン」がうまれ、リピーターを中心とする観光客の増加に繋がろう。
(相沢 陽子)