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県内「葬儀業」の現状

1 葬儀業をとりまく環境

(1)葬儀需要の増加
 全国の平成21年の年間死亡者数(以下、死亡数という)は114万4,000人で、5年前と比較すると11.2%増加、10年前との比較では16.5%増加した。秋田県についてみると、21年の死亡数は13,982人で、5年前と比較すると9.9%増加、10年前との比較では17.2%増加している。
 さらに、国立社会保障・人口問題研究所の推計(中位推計)では、全国の死亡数は、平成52年(2040年)には166万3,000人まで増加すると予測されている。この推計では、都道府県別死亡数は公表されていないが、都道府県別の将来推計人口を使い、本県の死亡数を推測してみると、平成47年までは、死亡数が増加すると予測できる。
 死亡数の増加が見込まれることから、今後とも葬儀件数が増加すると考えられる。

(2)葬儀に対する意識の変化
 平成22年11月に朝日新聞社が実施した世論調査によると、「自分の葬儀をしてほしいですか」という問いに対して「してほしい」が58%と過半数を占めた一方で、「しなくてもよい」と答えた人が36%にものぼった。葬儀の規模についても「身内や親類だけの参列で良い」という人が74%を占め、「多くの人に参列してほしい」は18%にとどまるなど、葬儀をしなくてもよい、またはシンプルに行いたいと望む割合が高いことが分かる。

(3)葬儀場所の変化
    ~セレモニーホールの増加
 葬儀を行う場所にも変化が生じている。
 公正取引委員会のアンケート結果(平成17年)をみると、葬儀を行う場所は「葬祭会館(セレモニーホール)」が約7割を占め、「自宅」は16.2%、「寺・神社・教会など」、「公民館・集会場」は、それぞれ1割にも満たなかった。
 5年前の平成12年と比較すると、葬儀を自宅や寺・神社・教会などで実施する割合は低下し、セレモニーホールでの実施割合が上昇している。住宅事情が変化し、自宅に参列者を招くことが難しくなっているほか、アクセス面、準備・片づけなどの利便性から、セレモニーホールで葬儀を行うケースが増加している。
 本県には地域の風習が根強く残っているほか、持ち家率が高いことなどから、他県に比べ自宅や寺、公民館などでの葬儀が多いといわれる。ただし、葬儀社へのヒアリングによると、核家族化が進行し、世代交代とともに親戚づきあいや地域の繋がりも薄れてきており、全国同様、本県においても葬儀をセレモニーホールで行う傾向が強まっている、とのことであった。

2 葬儀業の現状

(1)事業所数が増加
 葬儀業を手掛ける事業所には葬儀専門業者、冠婚葬祭互助会、農業協同組合などがある。このほか生花、仕出し、ギフト、仏壇・仏具、写真などのサービスを専門にする関連事業者も数多くある。幅広い葬儀ビジネスの中から、本稿では、主に死体埋葬準備、葬儀執行を業務とする「葬儀業」を取りあげる。
 総務省「事業所・企業統計調査報告」から全国と秋田県の葬儀業についてみてみる。
 業種分類の変更にともない、平成13年以前の数値とは時系列比較ができないが、全国の葬儀業の事業所数は、平成13年(6,383か所)から18年(7,473か所)までの5年間で17.1%増加した。秋田県は同5年間で56か所から71か所へ15か所増加し、増加率は26.8%と、全国を上回る増加率となっている。
 葬儀社へのヒアリングによると、本県はセレモニーホール建設の後発県で、平成12年頃から建設が始まり、19年以降、更に新設が活発化してきているが、長期的な視点でみれば、人口減少が続くことで、いずれは葬儀需要も縮小に向かうことが考えられる、とのことであった。

(2)小規模事業所が6割超
 事業所数の増加にともない、従業者数も増加している。全国の従業者数は、平成13年から18年までの5年間で15.7%増加し、本県も同5年間で35.6%増加した。18年の事業所数を従業者規模別にみると、従業者10人未満の事業所は、全国で67.1%、秋田県でも62.1%と、小規模事業所が大半を占めている。一方、秋田県の従業者10~29人、30~99人の事業所割合は、いずれも全国平均を上回っており、本県には、全国に比べ規模の大きな事業所が多いことが分かる。また、13年から18年までの5年間の変化をみると、従業者10人未満の事業所割合が低下した一方、10~29人以下の事業所割合が上昇しており、事業所規模が拡大傾向にあることが窺える。

(3)異業種参入の活発化
 総務省「事業所・企業統計調査報告」によると、平成13年から16年までの3年間で、県内における廃業事業所数は2か所、新設事業所数は8か所であった。多くの業種において、廃業事業所数が新設事業所数を上回り、また、全産業計でも廃業事業所が新設事業所を大幅に上回るなか、葬儀業においては、新設が廃業を上回っているのが特徴である。
 葬儀に関する業務のうち、霊柩車運送のための貨物業許可を除けば特別な許可が必要ないため、葬儀業は比較的参入が容易な業種といえる。そのため、既存業者によるセレモニーホール増設のほか、農業協同組合や生活協同組合、全国チェーンの大手総合スーパーなど様々な業種からの新規参入が相次いでいる。顧客ニーズの変化に対応できず、廃業を余儀なくされる事業所もみられるが、それを上回るペースで新設が進んでおり、競争は激しさを増している。

(4)市場規模は拡大傾向
 平成17年の葬儀1件あたりの売上高(経済産業省「特定サービス産業実態統計調査」)についてみると、秋田県は97万円で、全国平均(125万円)を28万円も下回り、全国40位であった。全国で最も高かったのは富山県の174万円、次いで山梨県(172万円)、栃木県(165万円)で、最も低かったのは島根県で67万円であった。
 葬儀1件あたりの売上高について、3年前(平成14年)と比較すると、全国は横ばいとなったが、秋田県は101万円から97万円まで4万円低下している。葬儀業界の市場規模を示す正確な資料はないため、葬儀1件あたりの売上高に死亡数を乗じて、葬儀市場の規模を試算すると、全国は平成14年の1.2兆円から17年の1.4兆円へ、秋田県も123億円から127億円へ拡大している。
 死亡数が増加しているため、市場規模は拡大しているが、葬儀社の増加による競争激化のほか、葬儀の簡素化や参列者の減少などにより、葬儀1件あたりの売上高は低下している。

(5)葬儀費用の内訳
~風習や県民性を反映
 葬儀における売上高を秋田県と全国それぞれの売上構成比についてみると、「葬儀一式請負」が高い割合を占めるのはもちろんであるが、「飲食・物品販売」の割合が秋田県は16.7%と、全国平均(11.9%)を4.8ポイント上回っている。また、仏壇・仏具の販売、法事、法要の収入が含まれる「葬儀業務以外のその他の収入」の割合も16.6%と高く、全国(9.8%)を6.8ポイント上回っている。
 葬儀の風習は地域により多種多様であるが、秋田県内では火葬が先に行われ、葬儀までの日程が長くなりやすい。そのため、他県に比べ火葬後から葬儀までの飲食や供物、献花などへの費用が多くかかる。また、客にふるまう料理や仏壇・墓石などにお金をかける傾向があるともいわれ、県民性をよくあらわしている数値といえる。

3 各葬儀社の取り組み

 高齢化の進行にともなう死亡数の増加から、今後も葬儀需要の拡大が予想される一方、前記のとおり、葬式をしなくてもよい、またはシンプルに低費用で行いたいと考える人が増加していることから、葬儀社では様々な取り組みを行っている。
(1)サービスの多様化
 a 葬儀スタイルの多様化
 葬儀には、故人の遺志や遺族の意向により様々なニーズがあり、葬儀内容にも変化が見られはじめている。一例としては、身内や親しい友人のみで行う「家族葬」、火葬だけを行い、ごく少人数で見送る「火葬式」、故人の好きだった音楽を流す「音楽葬(趣味葬)」などが挙げられる。
 型どおりではなく、故人らしさを考えた個性的な葬儀を提供して同業他社との差別化をはかっている。
 b 生前予約・生前相談
 日常、葬儀のための情報収集を行っている人は少なく、故人が亡くなってから時間的な余裕がないまま葬儀業者を選んでいる場合が多い。
 全国的には、あらかじめ葬儀方法や料金を決定しておく「生前予約」を開始する葬儀社が増加傾向にあるほか、家族や本人による「生前相談」の件数も増加しているという。
 秋田市内の葬儀社には、NPO法人を設立し、葬儀の生前相談・生前予約を受け付けているところもある。葬儀に関すること以外でも、福祉施設への入所や遺言、墓地承継、相続、年金など、さまざまな相談を受け付けており、知識が豊富な専門スタッフが相談に応じ、気軽に相談できる窓口を設置している。
 c イベントの実施
 セレモニーホールは、葬儀に参列しなければ行く機会のない場所であるため、友引で葬儀のない日にホール見学会やクリスマス会などの季節のイベントを積極的に開催している。また、ペット葬儀や人形・ぬいぐるみ供養などを実施し、施設やサービスの一端を実際に見てもらう宣伝の機会を設けている。

(2)料金の明示やサービス内容の明確化
 葬儀は、様式に地域特性があることや故人の自宅近くで行うケースが多く、地域密着性が高いものである。ターゲットが限定されているため、CMによる広告宣伝を行っているところは少なく、主な宣伝方法は、電話帳への広告掲載や新聞の折り込みチラシなどである。
 遺族が葬儀を依頼する際、最も気になるのが費用であるが、これまで、料金体系が不明瞭という不満が少なからずあった。そのため、各葬儀社がチラシやホームページで基本的な料金プランやサービス内容を紹介したり、受付時に見積書を提示するなど、料金体系の明確化が図られている。
 また、全国チェーンの大手総合スーパーが、費用を明示したパッケージ型のサービスを売り出している。サービス内容の範囲を示したうえで、さらに必要なサービスがあれば自由に選択し追加できるようになっている。インターネットで見積もりを依頼することも可能であり、利用者の選択肢が増えている。

(3)人材育成
 葬儀社では、利用者が安心し、納得するサービスを提供して、口コミで評判が広がることが最も効果的な宣伝方法であると考えている。
 葬儀社の印象は、サービス内容に大きく左右され、また、そのサービスの提供については、電話応対や接客能力など、スタッフ個人の力量に依存する部分が多いといわれる。スタッフに対しては、豊富な知識や技術、細やかな心配りなどが求められるため、各葬儀社が独自に研修や勉強会を実施している。
 また、葬儀業界で働くスタッフのスキルアップや社会的な地位向上を目的として、平成8年に厚生労働省の認定を受け「葬祭ディレクター」資格認定制度がつくられた。葬儀の企画・運営に必要な知識や技能のレベルを認定する資格で、現在の認定者は全国で約2万人であるが、葬祭業界の成長にともなって、受験者が増加している。信用獲得のため、社員に対し、積極的に受験を勧める葬儀社もあり、業界全体のレベルアップに繋がっている。

4 まとめ

 高齢化にともなう死亡数の増加で、市場規模は拡大傾向にあるが、近年の葬儀には、参列者の減少、簡素化・低価格化の傾向があり、葬儀1件あたりの売上高が低下している。また、既存業者によるセレモニーホール増設や全国チェーンの大手総合スーパーの参入などによって、競争は激しさを増している。
 様々な媒体を通じ、消費者は葬儀に関する情報を得やすくなっている。今後は、PR方法の再検討やネットワーク整備など、情報発信力の強化が重要となる。また、多様なニーズに応えるサービスの充実や、更なるサービスの質の向上など、他社との差別化をはかるための新たな取り組みが求められる。

(佐藤 由深子)

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