機関誌「あきた経済」
秋田県の高齢者賃貸住宅の現状
わが国は少子高齢化が急速に進展し、高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は23.1%となった。平成27年には団塊の世代が高齢期を迎え、37年に高齢者人口はピークとなる。高齢者人口が増加する一方で、高齢者に配慮された住宅は全国的に少なく、現在高齢者向けの住宅の整備が急速に進められている。本稿では秋田県の高齢者賃貸住宅の現状について概観した。
1 急増する高齢者賃貸住宅
わが国は、高齢化率が23.1%(総務省統計局、平成22年9月15日現在推計)となり、既に超高齢社会(※1)を迎えている。国立社会保障・人口問題研究所では、今後10年間で高齢者人口が650万人増え、平成32年には約3,600万人に達し、高齢化率は29.2%になると推計している。
(※1)総人口に占める65歳以上の割合が21%を超えた社会。
今後益々高齢者人口が増加するのに対して、高齢者が安心して居住できる高齢者住宅が不足している。高齢者が居住する施設・住宅には、①特別養護老人ホームなど介護保険法に基づいた「介護保険施設」、②特定施設(※2)の対象となる有料老人ホームなど「高齢者居住施設」、③高齢者のための賃貸住宅である高齢者専用賃貸住宅など「高齢者住宅」がある。このうち特別養護老人ホームでは、入居待機者が全国で約42万人に上る。但し、このなかには介護保険施設ではなく高齢者住宅で対応可能な要介護度の低い高齢者も含まれている。
(※2)有料老人ホーム、ケアハウス等で一定の人員配置等を行い、入居者に介護サービスを提供した場合、介護保険給付の対象となる。
高齢者の多くは可能な限り住み慣れた自宅や地域で最後まで暮らしたいと望んでいるものの、高齢者に配慮された高齢者住宅は少なく、またバリアフリー化されていない現在の住まいに住み続けることに不安を抱いている人も多い。このため、高齢者の「早めの住み替え」を目的とした高齢者住宅の普及が求められるようになり、国土交通省では、平成13年に高齢者の住居を安定確保するための「高齢者住まい法」を制定した。高齢者世帯の入居を拒否しない「高齢者円滑入居賃貸住宅(以下、「高円賃」)」の登録・整備が全国で進められ、その後、専ら高齢者単身・夫婦世帯を賃借人とする「高齢者専用賃貸住宅(以下、「高専賃」)」の類型が設けられた。高専賃の初年度登録戸数は約2千戸であったが、平成21年度には約43千戸へと急増している。
高専賃が急増している背景には、平成18年4月の介護保険制度改正によって導入された「総量規制」があるとされる。平成12年に介護保険制度がスタートし、民間事業者など様々な業態が介護事業に参入するようになり、介護付有料老人ホームなどの特定施設が急増した。このため、介護保険を運営する各地方自治体の介護保険給付費の増大を招き、保険制度維持の観点から、特定施設の新規開設を制限する基準(※3)が設けられた。この基準を超えた場合には各自治体が特定施設の新規開設を拒否することができるようになり、規制の対象外であった高専賃の供給が急増していった経緯にある。
(※3)平成26年度時点で介護保険3施設並びに認知症高齢者グループホーム、介護専用型特定施設の利用者数を要介護度2~5の認定者数の37%以下に抑えるように定め、全国一律で適用している。
2 県内の高専賃の状況
(1)設置状況
秋田県の高専賃の登録状況は、平成23年1月末現在、16件、373戸登録されている。地区別では秋田市の戸数(9件/237戸)が最も多く、大仙市(1件/61戸)、能代市(2件/36戸)と続いている。既に来年度中に潟上市(1件/25戸)、三種町(1件/30戸)で建設が予定され、大手住宅メーカーも今秋までに秋田市と横手市に建設する方針を明らかにしている。全国的に高齢化率が高い本県は、今後も県内各地で高専賃の建設が増えていくものと思われる。
(2)サービス
高専賃を選ぶポイントとして最も重要なのが提供されるサービスであろう。高齢者の単身・夫婦世帯や要介護高齢者の増加にともない、様々なサービスが提供されている。食事提供や安否確認のほか家事援助、健康管理、介護提供、生活相談など各高専賃によって内容が異なる。生活支援、介護サービス等を要する場合は別途外部もしくは併設された介護業者等と契約を結ばなければならない場合もあるが、最近では特定施設入居者生活介護(※4)の指定を受けた介護サービス付き高専賃住宅も設置されるようになり、住まいと介護サービスの両方を享受できる高専賃の普及も進んできている。(※4)高専賃に訪問介護事業所を併設し、24時間365日体制でサービスを提供する。要介護認定者を対象とした住宅であり、現状では総量規制の対象となる。
(3)利用料金
高専賃が最も集中している秋田市内の家賃(最も家賃が低い1人部屋タイプ)は概ね45,000~55,000円台の設定が多く、県内全体の平均では約39,000円と比較的低く設定されている。共益費および食事代等を加算すると月々平均約93,000円となるが、生活支援、介護サービスなどを必要とする場合は別途費用がかかる。
昨年、秋田市に開設された総合福祉医療施設には、介護サービス付き高専賃住宅が30戸開設されている。1人部屋タイプ(面積:約20㎡)の利用料金は家賃55,000円、管理費25,000円、食事代42,000円、合計122,000円の費用が月々掛かる(別途入居時敷金55,000円が必要)。これに要介護認定区分に応じた介護保険料相当額が加算され、要支援1の利用者は月々約128,000円、最も介護度が重い要介護5の利用者で約148,000円となっている。
また同所では、県内には設置数が少ない2人部屋タイプ(面積:約30㎡)も設置されており、家賃は89,000円となっている。
(4)高齢者世帯数の推移
総務省統計局が5年毎に公表している「平成20年住宅・土地統計調査報告」によると、秋田県の65歳以上の高齢者世帯は82,400世帯となっている。本県は持家率が全国一高く、高齢者世帯の約9割は持家に居住している。一方、借家世帯は8,100世帯あり、10年前の平成10年と比較すると約1.5倍に増加している。民間賃貸住宅市場では、高齢者であることを理由に入居を拒否されるケースもあり、借家住まいの高齢者世帯が今後も同じ住居に住み続けることができるとは限らない。県内の高専賃は徐々に増えてはいるが、高齢者世帯も増加しており、高専賃の需要は今後も続くものと考えられる。
3 今後の動き
政府は昨年6月に閣議決定された新成長戦略のなかで、民間事業者等による高齢者向けのバリアフリー化された賃貸住宅の供給促進を掲げている。これは現行の「高齢者住まい法」をさらに改正し、現在国土交通省が管轄する高専賃と厚生労働省が管轄する有料老人ホームを両者一元的なルールの下で制度を再構築した「生活支援サービス付き高齢者住宅」を平成23年度中に3万戸、32年度までに30万戸程度増やすとしている。現行の高円賃の登録基準に設備面において手すりの設置、段差の解消、廊下幅の確保などのバリアフリー基準を追加し、サービス面では食事提供、清掃・洗濯等の家事援助など「生活支援サービス」の提供が要件として加わり、安否確認、生活相談は必須要件となる。
さらに介護面では、24時間対応の訪問看護や訪問介護サービスを行う「定期巡回随時対応サービス」を平成24年度の介護保険法改正により創設し、生活支援サービスと介護サービスを組み合わせた総合的な高齢者住宅の普及が図られるようになる。
4 まとめ
本県の高齢化率は29.5%(平成22年7月1日現在)となり、秋田県は日本全体の10年後の姿と言われている。県内の総人口は年々減少する一方で、高齢者世帯は増加傾向にあり、特別養護老人ホーム入居待機者数は約3,000人に上る。今後生活支援サービス付き高齢者住宅の整備が進められ、特別養護老人ホームの入居待機者に対し高齢者住宅への移動を促すことにより、入居待ち状態は徐々に解消に向うであろう。また、厚生労働省では平成24年度以降に総量規制を撤廃するとしている。財源確保の問題は残るものの、特定施設の設置は各自治体の裁量に任されることになる。生活支援や介護が一体となった地域包括ケアの充実を図り、高齢者が安心して老後を暮らせる環境作りが急がれる。
(山崎 要)