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本県における農外企業の農業参入の現状と課題

 農林水産省が昨年11月に公表した「2010年世界農林業センサス(概数値)」によると、本県の農業経営体および農業就業者の減少は加速しており、高齢化の進展も著しい。こうしたなかで、全国的には、平成21年の農地法改正により農外企業(これまで農業の生産行為に関わってこなかった企業―以下、「企業」)の農業参入に対する垣根が低くなったことも相俟って、外食産業や大手流通業、建設業を中心に、農業に参入する例が増えてきている。本県においても、同様の動きが出てきているものの、いまだ小規模で大きな流れにはなっていない。

1 農林業センサスからみた本県農業の概要

 企業の農業参入をみる前に、前提となる本県農業の現状を、世界農林業センサス結果の概要(概数値)から俯瞰した。
(1)経営体数
 本県の農林業経営体数は農業経営体、林業経営体とも、ほぼ全国の3%、東北の19%で、この割合は5年前とほとんど変化がない。農業経営体の大多数(97.9%)は家族経営であるが、前回5年前調査(98.7%)からは、構成比で0.8ポイント減少している。
 農業経営体数は10年前と比べ、3割減だが、法人化している経営体は6割増(253→412)となっており、これは、本県が進めている集落営農の組織化が進んでいることが一因とみられる。しかし、法人登記している農業経営体数の割合は1%にも満たず、まだまだともいえる。

(2)主副業別農家数
 販売農家(経営耕地面積が30a以上または農産物販売金額が50万円以上)数は加速度的に減少しており、この5年間では13,000戸以上減っている。これを、主副業別に推移をみると、特に、主業農家と準主業農家は20年間で半減している。一方で、副業的農家(65歳未満の農業従事者が60日以上農業に従事できない農家)は3割減にとどまっている。

(3)耕作放棄地
 本県の耕作放棄地は7,412ha(74.12平方キロメートル)で、井川町(47.95平方キロメートル)と八郎潟町(17.00平方キロメートル)を合わせた以上の面積となっている。耕作放棄地の増加は全国的な傾向であるが、この5年間で全国が2.7%増であるのに対し、本県では9.2%増と増加幅が大きい。また、自給的農家と土地持ち非農家が全国、東北と比しても耕作放棄地を大きく増やしており、小規模農家および農地を貸し出している世帯で耕作を放棄している姿が表れている。

(4)農業就業人口
 農業就業人口の推移を年齢階層別でみると、本県の農業就業人口はこの5年で約2万人(21.2%)、平成2年からの20年では4割の減少となっており、全ての年齢階層で減少している。
 一方で、これまで一貫して増え続けていた65歳以上の就業人口が人数としては減少に転じたものの、全体の減少がより大きいことから、構成割合は初めて6割を超え、60歳以上では4分の3を占めるに至っている。また、平均年齢も65歳を超えるなど、高齢化の加速は著しい。
 新規就農者数は、ほぼ100人弱での推移が続いていたが、平成20年以降は倍増している。19年までは農業後継者などの自営形態就農が圧倒的に多かったが、20年を境に様変わりしている。すなわち、農業法人等への雇用就農(就職)が自営形態就農を逆転している。ただし、県では、19年9月のリーマンショック後の雇用対策で国、県が新規就農者向けの研修、補助制度などを手厚くした影響が大きいものの、将来的に安定した担い手を確保するうえで十分な数とはなっていないと分析している。

2 企業の農業参入の動き

 こうした担い手の減少、高齢化の進展、耕作放棄地の増加等は必ずしも本県のみではなく、全国共通の問題でもある。経産省がまとめた農業産業化支援策でも、農業の課題を就業者の高齢化、後継者難、低収益などと整理している。
 こうしたなか、全国的には、新たな農業の担い手として、企業が大規模な形で農業へ参入する動きが出てきている。外食、食品、流通、建設などの大手企業の参入が報道されているほか、製造業による植物工場への参入も盛んである。
 これらの企業では、鮮度の良い農産物を安定した価格で供給できる体制を築き、消費者には地産地消をアピールするとともに、食の安全・安心と環境対策に熱心な企業であることを売り込む狙いもある。
 本県においても、企業の農業参入への動きはあるものの、大きな動きとはなっていない。県が把握している企業による農業参入の事例としては、圧倒的に建設業者の参入が多く、そのほかでは外食、食品製造、小売業等が散見される程度である。

3 企業が農業に参入するうえでの課題

 本県における企業の農業参入の事例が少なく、しかも、建設業に偏っている要因としては、公共事業が激減し、受注高がピーク比半減している厳しい状況を乗り切るために、県が積極的に新分野進出の後押しをしていることに加え、従業員に兼業農家が多く、重機の取り扱いにも慣れているために、農業を隣接産業とみなして、参入への精神的なハードルが低いことがあげられる。主となる建設業の参入事例については、県・建設管理課のホームページ上で新分野進出事例集として紹介されているが、「ミニトマトの栽培と加工品の製造販売」、「地鶏の飼育と食肉販売」、「メロン等の施設野菜の栽培」、「イチゴの水耕栽培」、「健康野菜の栽培」等々の特徴的な取り組みが載せられている。しかしながら、必ずしも成功例だけではなく、十分な収益を確保できずに、本業からの持ち出しが多くなり、撤退する例もみられる。
 苦戦している先からは、
①農業は自然に左右されるため、得意な工程管理ができないなど、これまで培ってきた力が発揮できず、決して、建設業と農業は近接した産業ではないことを思い知らされた。
②既存農家との差異化ができないなど、異業種参入でのメリットが見えず、本業のプラスになっていない。 ―といった声が聞かれる。
 その他にも、農業参入へのネックとなる課題がいくつか指摘されている。
 県が主催した異業種からの農業参入セミナーでの講師は、『既存の農家との共栄』が課題と述べていた。例えば、地場の建設業者の場合は業歴も古く、地元の名門で、影響力も大きい。その企業が、力に任せて、土地を借り集めたり、買い集めたりして大規模化を図っていくのではと、既存農家は疑心暗鬼に駆られている。そうした不安を払拭し、お互いが協力して、地域の農業を復興させるくらいの気概と使命感を持って参入すべきだと強調していた。
 また、他業種から農業に参入する場合、『販路の確保』も課題となる。既存農家であれば、JAを通した販売ができるが、そうしたルートがない場合、バイヤーや消費者がどういった作物を望んでいるかを調査し、既存農家とは一味違うところをアピールする必要がある。
 さらに、法規制の問題もある。農地法の改正で企業の参入に対する垣根が低くなったとはいうものの、企業が直接農地を購入することは禁じられており、『農地の確保』も大きな課題となっている。加えて、農業生産法人への出資も企業の合計(複数の企業が出資する場合、その合計)で過半数を超えられないなどハードルは依然として残されている。

4 県の取り組み

 農業を取り巻く状況については、県でも危機感を持っており、継続性のある担い手の確保や就農者の確保対策として、企業の農業参入を支援していくこととしている。
 県で把握している農業法人数は22年9月現在で444法人あるが、そのうち、100ha以上の大規模法人は5法人にとどまっている。県としては、企業の農業参入をはじめ、経営力の高い農業法人の育成などによって、100ha(水稲60ha、転作作物40ha)を超える規模の農業法人や、規模は小さくても収益力の高い経営を行う農業法人を育成し、新規就農者の雇用増加につなげるほか、周辺農家の意識向上や、生産の共同化など波及的な効果を期待している。
 そのうえで、企業が農業に参入する際には、従来型農業では発想できないようなユニークな生産物に取り組むことや、農商工連携等の六次産業化などを目指すべきであり、そうした方向で取り組んでいる企業は成果も出ていると分析している。
 また、県など行政ができる支援策としては、
①農業技術の指導や、生産品の販売先の情報提供とマッチング
②農地法から食品衛生法など生産から販売に至るまで、複雑多岐にわたっている農業分野に関連する法令や規制をどのようにクリアするかといった点についてのアドバイス
③国で講じている六次産業化等に対する支援策の紹介およびコーディネート ―等をあげている。
 現状で、企業の新規参入を促す農政部局からの直接的な補助・支援策はないが、今年度は、「農林漁業振興臨時対策基金」を利用した加工、生産性向上のためのハード面での補助を準備している。ソフト事業としても、就農対策事業に、青少年育成普及事業、新規就農総合対策事業、「秋田を元気に!農業夢プラン実現事業」などを用意しているほか、「食・農・観」連携ビジネス・スクール設置事業などを行うとしている。

5 まとめ

 本県農業の現状は農業経営体の減少とともに、農業就業者の減少も加速しており、高齢化の進展も著しい。耕作放棄地も増え続けており、増加に転じたとはいっても新規就農者の数も絶対的に不足している。
 こうした現状を変革するためには、耕作放棄地を含めた農地を集約して、大規模化するとともに、法人経営に移行した生産性の高い効率的な農業経営に転換する必要があると考える。
 経営センスに優れた企業による農業への参入が求められるゆえんでもある。従来の農家にとっては不得手な分野となっている消費者ニーズの把握や農業経営へコスト意識を持ち込むことなどは、企業経営にとっては当然のことであり、得意分野でもある。それを活かした、従来からの慣習にとらわれない大規模、効率的な農業経営が期待される。
 本県でも建設業者を中心に、外食、流通関連企業などで農業へ参入する動きはあるものの、いまだ、小規模であり、必ずしも、本業を補完できるほどの成果を上げているとはいえない。
 ハードルが下がったとはいえ、農業を巡る規制はまだまだ多いのが現実である。そうしたハードルを乗り越えるためのノウハウや、生産作物の選定、栽培技術、販路開拓等は是非、県をはじめとする行政の力も借りながら、進めていくべきである。
 また、前述の県の支援策もワンストップサービスになりえていない。農業への参入を促すセミナーなども開催してはいるが、関連法令や規制をクリアするための方策などを積極的に指導、アドバイスしている鳥取県や島根県などの先進県は、さらに先を行っている。本県でも、より、企業が支援を受けやすい、相談をしやすい環境を整えるべきであり、部局を横断した総合的なコーディネート機能の構築が必要と考える。

(佐々木 正)

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