経営随想

百 年 の 大 計

須田 精一 氏
(由利工業株式会社 代表取締役)

「人口減少が続くことは潜在成長率を押し下げることになるんだ」と声高に叫んだ人がいた。そのシンポジウムで、あるパネリストは「人口が少なくとも優美に栄えている国や地方はヨーロッパにはたくさんある」と見識ぶりを披露した。小職はついぞ会社の事を夢見ていた。“売上が激減し、固定費は全然減っていかないと、その会社は倒産という事になる”と。変動費である人件費の金額だけの問題ではない。日本は70年前、国際的に孤立し、戦争せざるを得ない状況に追い込まれた。つまり資源のない国が、世界中から拒否され交流もストップした。物理的には、敗戦は明白だった。頼みのドイツは3ケ月も早く降参し、戦後処理を素早く清算し、見事復興を果たした。今ではヒットラーやナチの言葉すら出てこない。日本は最後には全世界を相手に“竹やり”で本土決戦までやってしまった。あの東京の大空襲から逃げのび、敗戦国としてレッテルを貼られた祖国は、子供の目にも惨めで、憐れな姿だった。その後、戦勝国であるアメリカからは重工業産業の振興を止められた。ところが南北朝鮮戦争が勃発し、日本の重工業が必要となった。これで、日本の産業全体が活気づいた。その後ベトナム戦争、湾岸戦争などを観ても、米国の傘の下で日本の産業が著しく伸展したのは明明白白である。その意味では国際的な安全保障も大事な事だ。1960年に締結した日米安保も、日本の安全・安心にどれだけ寄与したかわからない。もともと日本人には勤倹勤勉の徳目があった。米国から生産性を学び、品質も学んだ。“メイド・イン・ジャパン”の安くて良い製品が世界を凌駕した。所得倍増も果たした。反面、脆弱な産業に多額の税金を注入し、途中で頓挫するような事業を重ねた。つまり自由には責任を、権利には義務が伴う事を忘れてしまった。国民は飽食を享受し、ハングリーさを失った。結果莫大な借金だけ残った。これから生まれてくる赤ん坊が、生まれてきたその時から700万円の借金を背負うことになる。憐憫やるかたない話である。産業政策も大計がなかった。“これからは海の時代だ”と全国に21のコンビナートをつくり、出荷も雇用も伸びずに放任し、検証もしないでテクノポリスを作り、空港や団地を作った。そしてまたその検証もしないで、産学連携と称して大学の側に共同センターを作った。今、その維持運営するのも四苦八苦だ。官僚は優秀でも彼等を有効に動かす政治家が稀有だ。幕末時、今まさに刑場の露と消えんとする吉田松陰が無念の思いと共に、大衆たちに「明日に向かって立て!」と決起を促した血の叫びである。

さて我が秋田県にフォーカスを変えてみよう。三方を1000m級の山に囲まれ、三大河川の源は県外に位置し従って県外の文化を注入する事もなくい。そして、資源に恵まれ、四季折々の素材を甘受出来る秋田は幸せだ。いや幸せだったのだ(過去)。逆に考えると、無い者の強みが失われた。地方の財政は火の車だ。地方も国も思い切った産業政策が必要だ。まさに百年の大計だ。決断と実行のみだ。何をか?百年の大計である。新産業創出なくては雇用拡大はしない。既存産業の延長では無理な話だ。このままだと、GDPも競争力も下がるのみだ。気がついたら、本当に貧乏社会になっていた。小職には小中校の廃校利用や100Vを200Vに変えるため電柱の地下埋設や光ファイバーの世界一化やソーラーパネルの法制化などアイデアは即答できるだけでも10はある。巷では“何故政治家にならないのか”という声もあるが、古稀を過ぎた老人の出番ではない。体力が疲弊すると精神まで萎えてしまう。県や国には十分奉仕してきた、というのは小職の自負だ。傑出したリーダーの出現が希求される。

物事には予兆がある。リーマンショックが突如起きたわけでない。前年サブプライムのショックがあってファニーメイなどの大会社が倒産した。自国や自社の、将来の成長を阻害するものは何か。その阻害が現実に発生したときに、即座に代替策が働くようになっているか。存続のための生命線は何か。大きな流れの中で、長期的に、大局的に自国や自社の生命線だけは、どんな時代でも確保できる対策が必要だ。変わる事だ。人間も国も変わるべくして変わる。秋田は確かに自然が豊かだし、食事も美味い。しかし人材を誉めてくれる方が“秋田の売り”に欠かせない。誘致企業もインフラだけではない。彼の地は人材が豊富だ。それを裏付けるためにも、国際教養大学のトップテンを続ける限り全国から企業が殺到する。それでこそ学力テスト全国一が県全体の評価になる。その日も近い事を信じて止まない。

拙筆の機会を戴き感謝している。

会 社 概 要

1 会社名 由利工業株式会社
2 代表者 代表取締役 須田精一
3 所在地 〒018-0604 由利本荘市西目町沼田字新道下2-659
4 電話番号 0184-33-2140
5 FAX番号 0184-33-2072
6 創立年月日 昭和30年9月6日
7 資本金 5,000万円
8 年  商 20,672百万円
9 従業員数 650名
10 事業内容 電子部品
11 スローガン 「ファイトなき者は去れ」
あきた経済

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