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機関誌「あきた経済」

東日本大震災の影響について

 この度の東日本大震災でお亡くなりになられた方々のご冥福を申しあげますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申しあげます。また、原子力発電所事故の処理・復旧作業に従事されている方々をはじめ、被災地の救援、復旧活動にあたられている全ての皆様に敬意を表しますとともに、被災地の一刻も早い復旧・復興をお祈り申しあげます。

 当研究所では、東日本大震災(3月11日)前に定例の「企業動向調査」を実施し、県内企業の業績見通し等について本誌4月号で紹介したが、今般の東日本大震災(以下、「震災」という。)を受けての業績の見通しの変化と、震災の影響等について調査を実施し、206社から回答いただいた。(調査結果の詳細は、後記「第84回県内企業動向調査」に掲載)
 秋田県は直接被害こそ軽微だったものの、県内企業の間接被害の影響の大きさが改めて浮き彫りとなった。その調査結果と今後の課題等について紹介する。

1 はじめに

 各種調査機関より今般の震災についての影響試算が示されているが、その中で5月17日に政府が閣議決定した「政策推進指針」において、「大震災が日本経済に及ぼす影響」が次のとおりとりまとめられている。
① 大震災がもたらした3つのショック
●大震災は、景気が持ち直しつつあった日本経済全体に、次の3種類のショックを同時にもたらした。
・第1 地震、津波、原子力災害の複合災害による甚大な人的・物的被害と経済循環の寸断による供給ショック(原子力被災地域は経済活動停止)
・第2 発電設備の損壊による電力制約
・第3 原子力発電の安全性についての認識や、放射線被害を契機とした日本製品・日本ブランドへの信頼性の動揺

② 当面の影響
●第1、第2のショックによる供給制約が日本経済に大きな影響をもたらしている。すなわち、被災地を中心とするストックの毀損、サプライチェーンの障害、さらには東京電力、東北電力管内における電力制約の下で、生産活動や輸出が減少している。
●他方、放射線に関する国内外の風評による被害、消費者マインドの悪化などから、消費や観光など需要面にも影響が出ており、雇用への影響も懸念されている。
●物価については、依然として緩やかなデフレ状況が続いているが、供給制約が石油価格等の上昇とあいまってコストプッシュ型のインフレ圧力を生む可能性に留意が必要である。
●金融・資本市場、為替市場については、震災後の機動的な政策対応により大きな問題は回避されたが、引き続き注視が必要である。
 最近公表された景気関連指標をみると、3月の鉱工業生産指数(全国)は、前月比▲15.5%と、単月としては過去最大の下落率となった。4月は前月比1.0%上昇し、わずかに持ち直したが、被災地の設備毀損を要因とした生産減以外にも計画停電やサプライチェーン(供給網)の寸断により、依然として広い地域で生産に影響が出た結果となっている。
 また、2011年1~3月期のGDP速報値によると、前期比実質マイナス0.9%、年率換算でマイナス3.7%と、事前予想を大きく上回る落ち込みとなり、輸出額も、3月のマイナス2.5%から、4月は、特に自動車輸出が前年同月比で67%減となったことから、マイナス12.5%(速報値)とマイナス幅が拡大した。この結果、4月の貿易収支が4,637億円の大幅な赤字となるなど、震災で日本経済が受けたショックが甚大であることを表わす計数が続いている。

2 震災の影響(全国)について

(1) 直接被害(企業設備や社会インフラ、建物住宅などのストックの損壊)
 政府試算によると、今般の震災の直接被害は、損壊率の違いによるが、16~25兆円である。
 これは、1995年の阪神・淡路大震災(以下、「阪神大震災」という。)の直接被害額9.9兆円を大きく上回るが、阪神大震災の被災地がほぼ神戸市に集中したのに対し、今般の震災は東北・関東と広域にわたるためである。

(2) 間接被害(直接被害に続いて生じる経済活動低下などのフローの損失)
 阪神大震災時の間接被害額は7兆円強に達したとの推計があり、阪神大震災の直接被害額と間接被害額との比率が本震災でも同じ比率で発生していると仮定すると、単純計算で11~18兆円になる。
 しかしながら、今般の震災では、阪神大震災時には発生しなかった“電力供給不足”や“原発事故による2次災害”、“サプライチェーン寸断”の影響がある。
 また、原発事故とそれにともなう電力供給制約の終息が見いだせず、被災地域が広範にわたり、その悪影響を受ける産業・企業も桁違いであることを考えると、今後間接被害額は莫大な金額に膨れあがるものと覚悟せざるを得ない。

(3) 震災関連倒産
 帝国データバンクによると、震災の影響による倒産が、震災発生後67日目にあたる5月17日に100社を超え、阪神大震災時のほぼ2倍の速さとなっている。
 倒産パターン別では、“直接被害型”が12.7%であるのに対し、“間接被害型”が87.3%と、大部分を占めている。
 “間接被害型”の倒産事由としては、「得意先被災等による売上減少」が31.4%、「消費自粛のあおり」が25.5%と上位を占め、旅館・ホテルや自動車関連企業の被災地以外の倒産が多いのが特徴的である。
 一方、岩手・福島・宮城の3県合計が20社と少ないが、これはようやく被害が判明しはじめてきていることによるもので、今後増加していくことは避けられない。なお、秋田県の震災関連倒産件数は5月17日現在で4社である。
 ここにきて、震災後の資材不足や受注減で行き詰まる建設業の倒産も散発し始めており、政府は2011年度予算の公共事業費の5%分の執行を留保し、被災地向け事業に重点配分する方針を示していることから、被災地以外でそのあおりを受けた形で建設業の倒産が相次ぐことも予想される。
 また、原発問題が未だ終息の気配がみられない中、旅館・ホテル、外食といった観光・レジャー関連産業を中心とした“不要不急”のモノやサービスを提供する企業の倒産が引き続き高水準で推移するとの見通しもある。

3 震災の影響(秋田県)

(1) 資産等に対する損害の有無
 1983年の日本海中部地震の際は、県内で公共土木施設(389億円)や住宅(266億円)をはじめとして1,482億円の直接被害が発生したが、今般の大震災では幸い秋田県のストックに対する被害は軽微であった。

(2) 企業アンケート結果に見る影響
 ただし、当研究所が行ったアンケート調査では、以下のとおり間接被害を中心に県内企業が受けた、また今後受けるであろう影響・被害は、業種を問わず大きいものとなっている。

a 資産等に対する損害の有無
 21.9%と、5社に1社の割合で、何らかの直接被害を受けており、中には数千万円の製品、建物、設備に被害が及んだ企業もある。

b 影響の有無
 ”営業面”においては9割以上の企業が、また”生産面”においても8割以上の企業が、「これまで影響があり」、「今後も影響がある」と回答している。
 業種を問わず、今後も、予断が許されない状況が続くものと認識されている。

c 影響を受けた、または受ける内容(項目)
 今後の予想される影響については、製造業では「原材料価格の高騰」、「原材料・資材の入荷遅延・不足」という“原材料”に関するものと並んで「計画停電の実施=生産能力の低下」があげられている。
 一方、非製造業では「計画停電の実施=営業時間の短縮」と「来店客数の減少」も上位であるが、「購買意欲の低下」が最も懸念される影響にあげられているのが特徴的である。

d 業績全般にかかるBSI(業績判断指数)の変化
 以上の結果、「決済・資金繰り面」で、これまでも、また、今後とも最も影響を受ける項目は、当然のことながら「売上の減少」であるが、業績全般にかかる判断が震災前と震災後でどう変わったかを質問した。
 震災前は、全産業が「上昇」と「下降」が拮抗した“0”で、「製造業」では「上昇」判断企業が多く、全体ではプラス5と判断されていたが、震災後は製造業、非製造業ともマイナス50以下となり、全産業でも「マイナス54」と大幅に悪化した。
 個別業種で見てみても、観光業の全社「下降」という判断をはじめとして、全業種とも軒並み大幅に悪化、震災前は7業種あった“プラス判断業種”も皆無となった。

(3) また、震災で経営が悪化した中小企業の資金繰りを支援する秋田県の「地震復旧支援資金」の枠が当初の200億円から500億円に拡大されたことや、雇用調整助成金の3月の受付件数(労働者ベース)が前月の倍になったことなどをみると、秋田県企業の経営にも震災の影が意外にも早く広がっていることがわかる。

(4) なお、秋田県の3月の鉱工業生産指数は、前月比▲18.3%となり、全国平均の▲15.5%を上回るマイナスとなった。特に電子部品・デバイスの▲23.9%、輸送機械の▲36.4%が大きく響いている。4月の新車登録台数も、データが残る1979年以来、過去最大の▲43%となったが、サプライチェーン寸断による供給不足を如実に表す計数となった。

4 復旧・復興に向けた対応と課題(全国)

(1) 5月2日に震災復旧を目的とした、総額4兆153億円の第1次補正予算が成立した。
  その概要は次のとおりである。
Ⅰ 災害救助等関係経費  4,829億円
 ・仮設住宅建設、見舞金支給など

Ⅱ 災害廃棄物処理事業費  3,519億円
 ・がれき処理費用

Ⅲ 災害対応公共事業関係費  1兆2,019億円
 ・道路や下水道など復旧目的公共事業費

Ⅳ 施設費災害復旧費  4,160億円
 ・学校施設などの復旧費、耐震工事費

Ⅴ 災害関連融資関係諸費  6,407億円
 ・中小企業の事業再建の資金繰り支援

Ⅵ 地方交付税交付金  1,200億円
 ・災害対応のための特別交付税

Ⅶ その他震災関係経費  8,018億円
 ・自衛隊・消防などの活動経費、医療保険料の減免、漁場復旧、被災者生活支援等
 これは“復旧”のための第1次手当であり、直接被害だけで16兆円を超える中、第2次、第3次と続く、早期の予算手当・発動が必要である。数次にわたる補正予算執行によってもたらされる復旧需要により、年度後半にはプラス成長に転じるとの見方が多いが、第2次以降の発動が遅れるほどその効果は減殺される。

(2) また、計画停電の実施とそれにともなう生産能力・供給能力の低下によって、世界に広がる「サプライチェーン」からの“日本外し”、“日本離れ”につながり、一方では国内企業の海外移転が加速化しては、新興国を中心とした底固い世界の成長の輪から日本だけが取り残されることとなる。
 高い法人税率、円高の進行、諸外国に比べて高い電力料金に、電力供給の制約が加わり、「一企業の努力の限界を超えている」という怨嗟の声もあがっている。「日本のモノなら安全・安心」というブランドが原発問題で揺らいでおり、一刻も早い収拾が待たれる。さらには、東日本と西日本での周波数の違いによる非効率な仕組み・ネックも、周波数変換設備能力の増強により解消していく必要がある。
 今、日本は「日本株式会社」という一つの企業として試練に立たされているのであり、”一極集中=リスク集中”の反省に立った、エネルギー対策も含めたリスク分散のための事業継続計画の見直し・再構築が必要である。
 復興の基盤は企業の経済活動であり、経済の成長なくして雇用や所得の回復もなく、税収増も不可能である。
 「日本の底力」に期待し、日本株が29週連続(5/23~28の週まで)で買い越しとなっているといわれる。その期待にも応えるため、閣議決定した「政策推進指針」の速やかな実行・実現に全力で取り組む覚悟が求められる。

5 復興に向けた対応と課題(秋田県)

(1) 当県も、被災地と同様、製造業・非製造業とも電力供給の制約により大きな影響を受ける。(東北電力管内の今夏の想定需要1,480万kWに対し供給力見通し1,370万kWで必要な需要抑制率は7.4%。ただし、目標抑制-節電-率は余震の影響や技術的リスクを勘案し15%となったもの。)
 また、”東日本”大震災という名称から、東日本に含まれる当県にとっては、観光や食料品を中心に、特に海外から、風評被害の広がりも懸念される。
 そして、最も懸念されることは、”被災地優先“は当然のことではあるが、間接被害が大きいにもかかわらず、当県を含む日本海側の各県が取り残され、意図しない”日本海側・秋田県外し”が出現してしまうことである。

(2) このため、当県と山形・青森・新潟の日本海側4県が、太平洋側の復興に注目が集まる中、リスク分散などを含めた柔軟な国土整備を求め、5月31日に国と民主党に要望したことは至当のことである。
 その提案の柱は、①太平洋側と日本海側を相互補完する高速道などインフラ整備、②観光客誘致や風評被害の防止など産業振興・活性化、③地域特性に応じた再生可能エネルギーの施策などエネルギーの確保・供給体制の整備、④日本海東縁部を含めた地震活動調査など防災機能の強化、の4項目で、具体的には、インフラ整備では日本海側の「縦軸」と太平洋側と結ぶ「横軸」の高規格道路の整備、秋田港の臨港道路、荷役施設の整備であり、産業振興では企業進出を誘導する優遇措置の拡充、国主体の観光キャンペーン、などを提案している。

(3) また、秋田県単独でも、震災後の東北の復興に向けた28項目の要望をとりまとめた提案書を策定、関係省庁に6月6日以降提出することとなった。
 提案書の柱は、①経済・雇用環境の改善、防災対策、②港湾、道路、空港などの日本海側インフラの機能、③自然エネルギー、④産業振興、企業誘致、技術の開発、の4つとなっている。
 秋田港が太平洋側の港湾の代替機能を果たしていることから、国の「日本海拠点港湾」への選定や、県内高速道の未着工区間の整備についての要望のほか、新エネルギーの導入について「先導的役割を果たす」ことを強調、大規模な風力発電の導入、地熱発電所開発費への支援強化も要望している。企業誘致も「リスク分散の点から、生産拠点分散をはかる企業を誘致する」という基本スタンスも示されている。
 秋田県でも、被災地支援・被災者受入支援に加えて、前述の「地震復旧支援資金」も含めて、総額155億円の震災対策の財政措置を講じ、県内経済・雇用対策を迅速に進めているが、間接被害の状況や県内企業の苦境も詳細に訴え、官民あげて粘り強くこれらの提案の実現を働きかけていくことが必要である。

(4) 震災後の売れ筋商品のキーワードは、「防災」、「節電」、「猛暑」と「低価格」の4つといわれる。
 売れ筋商品の例は次のとおりである。 ・防災―自転車、充電ラジオ、乾電池、カセットコンロ、クーラーボックス ・節電―LED電球、(卓上型・充電式)扇風機、冷蔵庫用保冷カーテン・保冷剤、家庭用蓄電池・猛暑―高機能肌着、ポロシャツ素材のクールビズ衣料、スプレー、冷却マット、簾、遮熱カーテン
 県内においても、太陽光パネル、LED照明関連で活況を呈している企業もある。来年以降も電力供給の制約が避けられない中、このビジネストレンドは今後も続くものと思われる。自社のビジネスの中にこのトレンドを取り入れられないか、検討する価値は十分あると考える。
 また、製造業以外でも、ワカメの増産やコメの代行生産など、農業分野でも被災地の代替を果たす役割分野は広い。
 秋田県では、国に対して「秋田クリーンエネルギー総合特区」を申請する方針を掲げており、「大規模太陽光発電所(メガソーラー)」の導入を目指す「自然エネルギー協議会」設立の動きもある。
 復興需要を取り込む積極性が今こそ求められているのであり、それが被災地の早期復興にも貢献することとなる。

6 「事業継続計画」について

(1) 本震災で日本の企業が抱えていた大きな問題点として「サプライチェーンの脆弱性」が露呈した。大手メーカーでさえ、「把握していたのはせいぜい2次メーカーまで」、「調達網がピラミッド型でなく、樽型(1・2次調達先が異なっていたが最終調達先が同じ企業)であったことが判明した」という実情であった。
 「カンバン方式」、「ジャストインタイム方式」の下、緻密に構築されたサプライチェーンが裏目に出た格好となったものであり、大手メーカー等は事業継続のためサプライチェーンの見直し・再構築をはかっている。

(2) 本県企業の事業継続計画の策定状況
 本県企業の災害時対応も含めた事業継続計画の策定の有無等についてもアンケート調査を行った。
 その結果は次のとおりである。
 震災前に策定していた企業は16.3%に過ぎなかったが、「有効に機能した」企業の割合は15.2%、「一部機能した」も含めると72.8%の企業において計画の有効性が確認された結果となっている。
 また、事業継続計画が機能しなかった問題点・想定外の項目については、「電力供給の停止」とそれにともなう「情報システム・通信機能の停止」、「ガソリン・軽油の不足」とそれにともなう「従業員の通勤困難」および「輸送車両・人員の不足」、「部材・商品等の調達困難」の3項目が想定外項目であったといえる。
 また、今後の具体的対策として、「懐中電灯ほか身の回り品の見直し」、「貯水槽の設置」、「自家発電設備の設置」のほか、「部材調達の多様化」があげられている。
 このことから「部材調達の多様化」に対応し、新たな調達網に自社を組み込んでもらう機会でもあるといえよう。
 なお、県では「自家発電設備の整備費用」の補助制度を設けている。(取得費用の1/3、1社あたり3千万円まで)

(3) 災害は、その規模の大小はあるが必ず襲って来るものである。事前の備えに投資された1ドルは事後の復興の7ドルに相当するともいわれている。また、速やかな事業継続は、顧客や取引先の信頼感につながるものである。
 いざという時にどう対応するのか、本震災の経験を生かして、事業継続計画をできるところから策定、積み上げていくことをお勧めしたい。
 なお、策定にあたっては、次のホームページにある参考資料等を参照ください。

・内閣府防災担当『事業継続ガイドライン』(PDF)
・内閣府防災担当『防災に対する企業の取組み自己評価項目表』(PDF)
・中小企業庁『中小企業BCP策定運用方針』
・(株)インターリスク総研『BCMニュース』

(松渕 秀和)

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