機関誌「あきた経済」
2010農林業センサスからみる秋田県農業
近年の本県農業を語る際に、減少・高齢化する農家および就業人口、稲作偏重により米価下落の影響をまともに受け東北最下位に低迷する農業産出額、これらを要因に増加する耕作放棄地、等々と全国同様に厳しい状態が続いている。しかし、そうしたなかで、農林水産省が平成23年3月に公表した「2010年世界農林業センサス結果の概要(確定値)」では、全体的な構図に変化はないものの、農業を主な所得源とする農家の割合が増加し、組織化・大規模化も進むなど、徐々にではあるが、構造変化への流れが現れつつある結果となっている。
1 はじめに
農林業センサスは、わが国の農林業の生産構造や、就業構造を明らかにするとともに、農山村地域の実態を総合的に把握し、農林行政の企画・立案・推進の基礎資料とすべく、農林業を営むすべての農家・林家・法人を対象として5年ごとに実施する「農林業の国勢調査」ともいえる調査である。
「2010年農林業センサス」は平成22年2月1日現在で実施され、同年9月7日に暫定値が公表された後、11月26日に概数値、23年3月24日に確定値が公表された。本稿では、この確定値をもとに過去の数値と比較しながら秋田県農業について、特に本県農家の8割近くを占める販売農家(経営耕地面積が30a以上または農産物販売金額が50万円以上の農家)を中心に概観する。
2 農家数と人口構成
○ 農林業経営体
本県の農林業経営体は50,215経営体、うち農業経営体が48,521で、その98%に当たる47,504経営体が家族経営となっている。どの経営体とも、ほぼ全国の3%、東北の6分の1程度のシェアという点は、これまでと同様である。農業経営体の組織別内訳を10年前の12年調査と比較してみると(「経営体」の呼称と定義は17年調査で新設されたことから、12年調査の数値は新定義に当てはめて再集計したものである)、全体では22,456経営体(31.6%)減少している。内訳別では法人化していない経営体が99.1%と殆どを占めるが、12年調査と比較すると22,601経営体(32.0%)減と大きく減少している。一方、法人化している経営体は394経営体と構成比(0.8%)は小さいものの、12年調査比55.7%(141経営体)の増加となっており、家族経営から法人化への動きがみられる。
○ 農家数
本県の総農家数は59,971戸で2年調査からの20年間で37.8%の減少となっている。そのなかで、販売農家が減少する一方、自給的農家の増加傾向が続いている。また、17年から調査している土地持ち非農家は約1万戸増加している。ただ、主業・副業別では、主業農家は10,084戸(構成比21.3%)と2年調査から戸数で半減したが、全体に占める割合は17年調査に続いて増加し20%台に戻している。準主業農家(14,564戸、同30.8%)は戸数では大きく減少しているが、割合は12年調査以降、漸増傾向にある。最も多いのが副業的農家(22,650戸、同47.9%)で、半数近くを占めている点は変わりないが、17年調査から農家数、構成比とも減少に転じている。以上から、農業以外に主な所得を求める農家が8割近くを占めている状況に変わりはないものの、農業を主な所得源としている農家の割合は下げ止まっている傾向もみて取れる。
この点を専・兼業農家別にみると、より鮮明に表れている。20年前の2年調査と比べ兼業農家は半減しているが、専業農家は12年調査から増加に転じ、構成比も2割に近づいている。
○ 人口構成
農業就業人口(自営農業に従事した割合の高い農家世帯員)は71,805人と減少が続いている。年齢別にみても64歳以下の働き盛り世代が、20年前の2年調査と比べ、人口、構成比ともに大きく減少している。一方、増加を続けていた65歳以上は、22年調査で初めて減少に転じ、17年調査比約1万人減っている。しかしながら、全体の減少数が大きいことから、構成比では6割を超えており、この結果、平均年齢も65.6歳まで上昇するなど、この20年間、農家における高齢化は加速が続いている。構成比では、60歳以上も17年調査比増加しているが、これは、専業農家の増加とも考え合わせると、兼業農家で団塊の世代が定年を迎え、農業従事時間が増えて専業化していることが要因とみられる。また、農業就業人口のなかでも、より農業に従事している割合の高い基幹的農業従事者の推移では、30~39歳の層と60歳以上で就業人口が増えている一方、15~29歳の若年層の落ち込みが大きい。この要因については県農林政策課の調べによる新規就農者の推移からも説明できる。本調べによると、20年以降、人数、就農形態ともに様変わりしている。新規学卒者の減少傾向は変わらないものの、農業への新規参入者が激増したほか、20年を境に農業法人等への雇用就農(就職)が、それまで圧倒的に多かった自営形態就農を逆転している。これは19年9月のリーマンショック後の雇用対策として国や県が行った新規就農者向けの研修や補助制度の影響が大きく、結果として人口構成の変化にもつながっていると考えられる。
3 耕地面積
○ 経営耕地と経営体
全体の経営耕地面積は115,142haと、2年調査から2割程度減少しているが、一戸当たり面積では逆に29.5%増加し、1.93haと調査を追って増えている。一戸当たり経営耕地面積はより規模の大きい販売農家がこの20年で1.4倍に増加し、横這いで推移している自給的農家とは10倍以上(13.3倍)の格差が出来るなど、農地の集約化は進展している。
○ 農地の集約化の状況
農地の集約化を経営耕地の規模別でみてみると、経営耕地なしを含めた1.0ha未満が32.9%と3分の1を占めたほか、2.0ha未満までで6割以上となるなど、比較的小規模な農家が本県販売農家の大多数を占めている。しかし、この20年間の推移をみると、3.0ha未満の農家の占める割合が減少傾向にあるのに対し、3.0ha以上の耕地面積を持つ農家の割合は着実に増えている。また、実数でみても、全体の販売農家数が減少しているなかで、5.0ha以上は増加しており、その占める割合(構成比)も着実に増加するなど、東北全体と比べても大規模農家の占める割合は高く、本県において農地の集約化が進んでいることを示している。
面積規模別の集積割合でみても、22年調査では5.0ha以上に4割近くが集積しており、17年調査と比較して5.0ha以上に農地がシフトしている状況がみられる。
○ 借入耕地と貸付耕地
これを借地・貸付地の推移でみると、借入耕地面積(24,720ha)、貸付耕地面積(7,012ha)ともに増加が続いている。全販売農家に占める借入農家の割合は22年調査では31.0%と2年調査から15ポイント増加し、3戸に1戸近くが他の農家から耕地を借り入れていることになる。貸付農家の割合(17.0%)も同10.4ポイント増加している。さらに、借入・貸付の状況を耕地面積別にみると、借入、貸付ともに1.0ha未満の層が最も多くなっているが、10.0ha以上を借り入れている販売農家も319戸あり、これは17年調査(172戸)より147戸増えていて、借り入れによって経営規模を拡大している様子がみられる。
また、販売農家では、借入面積(24,720ha)に比して貸付面積(7,012ha)が極端に少なくなっているが、これは販売農家に満たない小規模農家による貸し付けが多いことを意味しており、販売農家では耕地を貸し付けている例が相対的に少ないことにもなる。高齢化等、種々の事情から営農を諦めた小規模農家から、より大規模な販売農家へ耕地のシフトが進んでいることが推測でき、農地の大規模農家への集約化、規模の拡大が進んでいることを裏付けている。
○ 耕作放棄地
耕作放棄地は22年調査で7,411haと17年調査比9.2%増加しているが、これは東北(6.9%増)および全国(2.6%増)の増加率を大きく上回っている。農家の種類別には販売農家の耕作放棄地が約1割減少しているのに比し、自給的農家および土地持ち非農家の耕作放棄が増加しており、この面でも小規模農家において耕作を諦めている状況が現れている。依然として、耕作放棄地増加の歯止めと有効活用が課題となっている。
4 農産物販売
○ 販売金額
農産物の販売金額を規模別でみると、販売金額300万円未満が80.6%と大半を占めている一方で、1,000万円以上は3.8%と少ない。これを東北と比べた場合、17年調査では300万円未満の比率のみが高く、300万円以上の全ての層で東北を下回っていたが、22年調査では100万円未満層が東北を下回ったほか、2,000~3,000万円層が上回るなどの変化がみられる。また、300万円未満層が17年調査比2ポイント減少したのに対し、1,000万円以上の割合は17年調査から0.8ポイント上昇しており、経営規模の拡大と営農努力が着実に進んでいる様子がみて取れる。
農家ごとに販売金額が1位となっている農産物をみると、稲作が1位となっている割合が、減少傾向にはあるものの、依然9割近くを占めており、本県の稲作偏重の姿は変わっていない。野菜を始めとする稲作以外の作物や畜産が占める割合も徐々に増えてきてはいるが、大きな勢いにはなっていない。東北と比較しても、稲作の割合が20ポイント近く高いほか、野菜や果樹類の比率の違いも際立っており、この傾向は17年調査と変わらない。
○ 複合経営化と関連事業への取り組み
本県では、こうした稲作偏重から複合経営への転換を目指した取り組みを長年続けているが、複合化の進展がどのようになっているかをみてみると、8割以上の販売農家が単一経営で、その殆どが稲作単一経営という構図は、残念なことに2年調査からの20年間で変わっていない。しかしながら、実数では減少が続いている複合経営農家も、牛歩に近い状態ではあるが、構成比では着実に増えてきている。今後は、気象リスクの回避や収益性を高めるためにも、より一層、複合経営への転換を促していくことが求められる。
農産物をどこに出荷しているかをみてみると、複数回答であるが、農協への出荷が9割近くを占め、殆どの経営体が農協を通して出荷している構図に大きな変化はみられない。しかしながら、17年調査と比較すると、農協と卸売市場への出荷割合がわずかではあるが減少し、農協以外の集出荷団体や小売業者、消費者に直接販売などの割合が増えている。
さらに、農産物販売のあった約4万6千経営体のうち、およそ1割の5,217経営体が、農業生産関連事業を行っている。17年調査からの5年間で、関連事業を行っている経営体の割合が増加するとともに、事業内容は変化してきている。店や消費者への直接販売が最も多い点は変わらないが、単に生産物を販売するだけでなく、生産物の加工や、貸農園、農家民宿・レストラン等への取り組みが増えるなど、より付加価値を高めた6次産業化への志向が読み取れる結果である。 ところで、最も取り組みの多い消費者への直接販売にあたって、大きな接点となっている産地直売所は本県が193施設で、東北では5位、トップの福島県(474)、2位の山形県(407)の半数以下と必ずしも多くはない。収入増を目指すとともに、消費者ニーズを直に確認するためにも、まだまだ積極的に取り組む余地はある。なお、運営主体では、その他(生産者個人や生産者グループ、民間企業等)が85%を占める構図は、東北・全国と同様である。
5 まとめ
2010年農林業センサス結果からは、本県農業の長年の課題とされてきた稲作中心農業、高齢化の進展、農家数の減少、耕作放棄地の増加といった全体的な構図に変化はみられなかった。しかしながら、そうしたなかでも、農家の組織化・法人化は進んでおり、それにともなって大規模集約化も着実に進展している。外的要因によるとは考えられるものの、農業法人を受け皿とした新規就農者も増えている。全体の1割程度ではあるが、生産物を農協などの既存集出荷先に出荷するだけでなく、直接販売など関連事業に踏み込んでいく動きもある。さらに進んで、単なる素材出荷から、より高付加価値化を求めて、加工や農家民宿・レストランに挑戦する農家も増えてきている。
こうした、明るい兆しがみえるなかで、東日本大震災をきっかけに、作付け不能被災地の代替作付けのより積極的な肩代わりや、就農意欲の高い被災者に対する耕地貸出しなどの支援により、食料供給基地としての本県農業の存在感がさらに高まってくるであろう。今こそ、長年の課題を解決し、一層の大規模化、組織化を推進するとともに、耕作放棄地の有効活用、複合経営の促進等を通して、担い手の育成、安全・安心な農産物の提供に注力する必要がある。
(佐々木 正)