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県内調味料製造業の現状と課題

 本県の食料品製造業は生産規模が小さく東北他県に後れをとっているが、このうち調味料製造をみると、食の安全を求めて家庭で調理する傾向が最近強くなっているため、出荷額は東北他県同様、増加に転じている。県内調味料製造業者は、官民一体となって行われているサポート体制を活用しながら、技術開発や販路開拓・拡大を図っている。更なる販売拡大に向けては、各業者が、精度の高いマーケティングによる商品の開発・改良や、これまで以上に積極的な営業活動に取り組むことが、県内の潜在需要の掘り起こしや県外市場の開拓に繋がると思われる。ただし、製造業者には小規模事業所が多く営業力の不足は否めない。農商工連携の推進や行政による支援の一層の強化が求められよう。

1 県内調味料の出荷額、増加に転じる

 本県の平成21年農業産出額は全国20位の1,759億円(農林水産省)で、農水産物の生産は上位にあるが、食料品製造業の生産規模が小さいことが課題となっている。経済産業省「工業統計」によると、同年の食料品製造業の製造品出荷額等(以下、「出荷額」)は91,276百万円となり、前年(94,583百万円)よりも3.5%減少した。出荷額は全国44位と下位に位置しており、東北他県と比べても、大きく後れを取っている。
 このうち調味料製造についてみると、同年の出荷額は4,898百万円で、19年の4,272百万円を底に回復傾向に転じて、過去10年間で最も高くなった。出荷額拡大の背景には、食の安全を求めて家庭で調理をする内食傾向が最近強くなり、調味料の需要が拡大していることがある。また、食料品出荷額に占める調味料の割合は4%台で推移していたが、同年には5.4%となった。調味料出荷額の内訳では、味噌が全体の27.8%で、醤油は21.0%、その他の調味料が51.1%と最も割合が高い。

(1)県内調味料製造業の事業所数と従業者数
 秋田県「秋田県の工業」によると、同年の事業所数について、味噌製造業は21か所、醤油8か所、その他の調味料が7か所で、調味料製造業全体で計36か所である。従業者数では、味噌263人、醤油84人、その他の調味料が123人で、合わせて470人である。なお、平成23年7月現在、秋田県味噌醤油工業協同組合に加盟している42社のうち、味噌・醤油双方を製造している事業所は31か所と7割を超え、味噌だけを製造しているところは11か所となっている。

(2) 県内の調味料製造について
 本県には古くから発酵食品文化が深く根付いており、県内で製造される調味料は、伝統的な味わいと品質の高さから、長年地元を中心に愛用されてきた。県産調味料は大手ナショナルブランドの品よりも価格はやや高いものの、売れ行きは底堅い。県内のあるスーパーでは、昨年の味噌売上金額のうち県産の割合は57%で、同じく醤油の売上金額に占める県産比率は44%となっている。地産地消に向けた県内市場拡大の余地はあると言える。
 最近では土産物用の用途もあり、株式会社秋田県物産振興会の秋田県産品プラザ(秋田市)によると、しょっつるや醤油加工品、味噌などの人気が根強い。また、都内の秋田ふるさと館やネットショップでも同様の傾向を示していることから、県外客は、本県にしかないもの、本県ならではの味わいが感じられるものなど、秋田らしさのある調味料を求めているようだ。
 以下では、県内調味料製造業の特徴について、品目ごとにみてみる。

a 味噌
 本県の味噌出荷額については、平成21年は1,362百万円で、食生活の洋風化により全国と同様に減少傾向にある。各都道府県の味噌出荷額をみると、「信州味噌」の産地である長野県が抜きんでて高く、本県は20番目である。東北他県と比較すると、青森県(全国4位)、宮城県(同13位)、福島県(同14位)に次いで、4番目である。
 秋田県味噌醤油工業協同組合と秋田県総合食品研究センターでは秋田味噌の特徴を明確化し消費拡大を図ろうと、これまで、県内初の味噌用酵母「秋田香酵母・ゆらら」のほか乳酸菌のAL-1や麹菌のAOK139など、秋田味噌用の微生物の開発を行っている。「秋田香酵母・ゆらら」は華やかな香りや照りのある色合いが特徴で、平成5年の開発から約20年経過した現在でも、県内で製造される味噌の約半量に使用されており、製造業者から高い信頼を得ている。また、19年には、同組合に加入している11社と県総合食品研究センターが協力し、県産の材料と県内で開発された技術を用いた「まるごと秋田味噌」を発売しており、この商品は全国市場に向けて秋田味噌をアピールするきっかけとなった。
 味噌は全国各地に地域特有のものがあり地産地消の色が濃いが、製造業者・業界団体では県外市場開拓などで需要拡大を図っている。

b 醤油
 醤油・食用アミノ酸については、平成21年の本県出荷額は1,031百万円となった。出荷額は減少傾向をたどって18年には10億円を下回ったものの、20年以降、低水準ながら持ち直しがみられる。しかし、全国32位であり、東北6県の中でも最も低い。
 過去10年間に醤油の消費が縮小している背景としては、醤油の代わりに、出汁や味醂を加えた醤油加工品や麺類向けのつゆ、醤油を加工した焼き肉用たれなどの「その他の調味料」の消費が拡大していることがある。また、本県では元々うまみ成分の強い醤油の人気が高く、醤油加工品との区別が曖昧で、需要が醤油加工品に流れている。また、消費拡大にともなって醤油加工品の価格は低下しており、醤油との格差が縮小していることも一因となっている。

c その他の調味料
 「その他の調味料」については、平成21年の出荷額は2,505百万円となった。過去10年間で最多となったものの、全国では36位であり、東北他県と比べても、山形県(全国37位)に次いで低い。なお、1事業所当たり出荷額は味噌と醤油を上回っており、より付加価値が高く、値段も高い商品が多いことがうかがえる。
 味噌は減少傾向にあるほか醤油も緩やかな回復に止まる一方、「その他の調味料」は拡大傾向にあり、内訳では、調理の簡便化の進行から、醤油の代替えとして醤油加工品の消費が伸びている。総務省「家計調査報告」によると、秋田市における1世帯当たりのつゆ・たれへの年間支出金額は、平成13年には醤油の1.8倍だったが、22年には2.5倍と、その差が拡大した。ニーズの変化に応じて、県内調味料製造業者でも、味噌や醤油製造に加えて、醤油加工品やつゆ・たれの製造に取り組んでいる。
 ほかにも、しょっつるや寒麹、ケチャップ、ドレッシングなどが製造されており、本県の特産物を活かした、個性が感じられるものが多い。

2 調味料製造業者の抱える課題

 県内調味料製造業者では、懸命に商品の需要拡大に取り組んでいるが、課題もみられる。
 総務省「平成18年事業所・企業統計調査」によると、県内の調味料製造業者のうち、従業者が9人以下の事業所が全体の81.4%を占め、なかでも1~4人の事業所割合は48.1%となっている。小規模事業所では家族経営に近く、人材確保や後継者不足に悩んだり、設備投資の負担も大きくなる。また、経営は製造主体となるため、どうしても研究開発への取り組みが不十分であるほか、販路拡大や広告宣伝などの営業力も弱い傾向がある。
 基礎調味料については、これまで地場消費に頼ってきたため、地元に古くからの固定客を抱える一方で、地域外での知名度が低いなどブランド力が弱く、総需要が伸び悩むなかで販売拡大も難しい。新しいタイプの調味料においても、良質な原材料から手作業で製造し、品質を重視した商品を作るケースが多いが、小規模生産であるため高めの価格帯とならざるを得ず、大手メーカーにより大量生産された安価な類似品との競合では不利になる。また、綿密な研究開発やマーケティングに裏打ちされたのではなく、「地元の農産物を加工する」という視点から製造に結びついたものもあり、発売後もターゲットの設定が不明瞭で売上増に結びつきにくい。

3 支援体制

 これらの課題克服に向けた、県内の支援体制は以下の通りとなっている。
(1) 技術支援
 秋田県総合食品研究センターでは、県内の食料品や清酒製造業者に技術提供を行い、本県の食料品産業の振興を図っている。前述のとおり、調味料製造業者に対しても、酵母や麹菌の開発など技術支援を行ってきた。基礎調味料だけでなく、白神こだま酵母など地域資源を活用したものや、減塩や保存などの機能を有するものなど、オリジナリティがあり、かつ、消費者が使いやすい商品に繋がる技術を開発している。
 同センターでは、将来的には少子高齢化による県内市場の縮小が予想され、今以上に全国市場への参入を意識した調味料が求められることから、①調味料の特徴を一層明確化して、「秋田らしさ」を打ち出す②調味料単体だけでなく、県内各地域の名産品を組み合わせて加工品を製造し、より独自性の高い、秋田ならではの味覚を全国に発信する、必要性を挙げている。同センターでも、製造業者の意見をこれまで以上にくみあげ、消費者ニーズと商品企画のマッチングを図って、技術開発に活かしたいとしている。
 商品デザインについては、本年4月に開設された、あきた産業デザイン支援センターで、パッケージのデザイン考案を通じて、「売れる商品」の開発支援を行っている。同支援センターでは、商品が広く受け入れられる可能性を高めたり商品価値を向上させたりするため、企画段階から参加して、消費者ニーズに合致するデザインの提供に取り組んでいる。

(2)販路開拓・拡大への支援
 県および県内金融機関などの連携により、調味料を含む食料品製造業者と県内外の食料品関連バイヤーと接点を持つ機会が設けられている。
 首都圏など県外向けには、「あきた“食彩まるごと”商談会」の開催や、アジア最大級の国際食品・飲料展である「FOODEX JAPAN」への出品を通して、製造業者の販路開拓支援を行っている。地元バイヤーとの商談会も開催されており、多くの調味料製造業者が参加している。
 商談会は、食料品関連バイヤーと接点を持つだけでなく、情報収集や商品改良に繋がるモニタリングをする場ともなるなど、参加した調味料製造業者には、有益な機会となっている。

4 まとめ

 今後、本県の調味料製造業における生産規模拡大を図るためには、まず、各製造業者が不断の品質向上やより積極的な営業活動に取り組み、自社商品のブランド力を強化して、県を代表する調味料となるよう育てることが重要となる。味噌や醤油などの基礎調味料については、柔軟な視点によるレシピの提案を通して商品の汎用性を高めることが販売拡大に有効であり、その他の調味料など新しいタイプのものでは、機能性の向上が類似品との差別化や知名度アップに繋がろう。
 商品の開発・改良では、消費者のニーズが細分化、複雑化しており、マーケティングの精度を高める必要がある。しかしながら、県内調味料業者は零細先が多く、個別業者では販路拡大への取り組みに限りがあるため、農商工連携の推進や県など行政による支援体制の一層の強化が求められよう。
 全国で広く愛用されている地方の調味料の例をみると、地元消費者からの高い支持が評判を呼び、全国市場開拓に結びついている。県産調味料についても、これまで以上に消費者ニーズに応える商品を製造することが、県内の潜在需要の掘り起こしと、全国市場への本格参入の契機となろう。具体的には、独自性を過度に追求することなく、県産材料使用による安全性の高い、本県の豊かな風土で育まれた食文化に裏付けされた「秋田らしさ」を感じられる調味料が、県内外双方の消費者にとって魅力的な商品だと思われる。

(相沢 陽子)

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