機関誌「あきた経済」
本県新規学卒者の就職状況
リーマンショック以降、長引く不況による業績低迷などを理由に、全国的に雇用が落ち込み、企業が新卒採用数を絞り込む傾向が続いている。ただし、全国的に新卒求人数の減少が続く中、本県では、県内企業の新卒求人数が増加し、就職決定率も上昇した。
背景には、厚生労働省・ハローワークによる支援のほか、秋田県や各種経済団体が数年前から継続している様々な支援があり、地域に密着した地道な取組みの成果が徐々に出始めているといえる。本県の新規学卒者の採用状況と県内の就職支援状況についてレポートする。
1 厳しさ増す就職戦線
(1)全国の新規学卒者をとりまく環境
全国の新卒求人数(高校卒業者と大学・大学院卒業者の合計)の推移をみると、平成20年(3月卒業者)の127.8万人をピークに減少傾向にある。特に22年以降は、リーマンショックの影響から採用数を絞り込む企業が多くあったほか、採用を見合わせる企業もあったため、高校卒業者(以下、「高卒」)、大学卒業者(以下、「大卒」)ともに大きく減少した。23年は77.7万人で、ピーク時(20年)と比較して39.2%も減少した。
就職決定率の推移をみると、高卒は、14年(89.7%)が最も低く、20年(97.1%)が最も高くなった。23年は95.2%と、前年を1.3ポイント上回った。一方、大卒は高卒同様20年(96.9%)が最も高かったが、21年以降低下が続いている。23年は91.0%と、9年の調査開始以来最も低くなり、12~14年頃の「就職氷河期」よりも厳しい「超氷河期」に入ったとも言われている。
(2)秋田県の新規学卒者をとりまく環境
秋田県の新卒求人数についてみると、全国同様、平成20年の6,170人をピークに2年連続で減少した。特に22年は、ピーク時(20年)と比較して25.4%減少した。しかし、翌23年についてみると、全国では求人数の減少が続いているにもかかわらず、本県は高卒、大卒いずれも求人数が増加に転じた。
就職決定率についてみると、平成10年以前の高卒の就職決定率は100%で、未就職者はいなかったが、11年以降は100%を下回っている。22年以降は2年連続で上昇し、23年は99.0%となった。大卒については、13年の調査開始時は84.9%で、高卒の就職決定率とは大きな開きがあったが、23年は93.8%となり、高卒との差は5.2ポイントまで縮小した。
2 県内求人数増加と就職決定率上昇の背景
全国的には新卒採用数の減少が続き、23年3月卒業者は、非常に厳しい就職活動を強いられたが、本県においては、高卒・大卒ともに県内求人数が増加し、就職決定率も上昇するなど、前年に比べて厳しさが和らいだといえる。
この背景には、厚生労働省・ハローワーク、県、各種経済団体など、様々な方面からの就職支援がある。以下、本県における取組みを紹介する。
(1)新卒者・既卒者に対する就職支援の強化
厚生労働省では、平成22年9月、卒業後3年以内の人を新卒扱いにすると発表し(以下、「新卒扱い」)、新卒者と新卒扱いの就職支援を行う「新卒応援ハローワーク」を設置した。本県では、秋田市御所野にある秋田テルサ内に設置されている。ハローワークではこれまで、中途採用など一般向けの求人を主に取り扱ってきたが、「新卒応援ハローワーク」では、全国各地の求人情報が検索でき、登録者は自宅などでも検索が可能となった。また、エントリーシートや履歴書作成方法の指導、模擬面接などを実施しているほか、臨床心理士による心理的サポートも行っている。
これまで、県外の大学に進学し、秋田へのUターンを希望している学生にとっては、県外では秋田県の求人情報を得る機会が少なかったため、こうした情報ネットワークの整備は、県内就職活動の大きな支えとなろう。
その他、「新卒者就職実現プロジェクト」として、新卒扱いの採用や、試験雇用から正規雇用を行うと企業に奨励金が支給される制度が創設された。平成22年9月の取扱い開始から約4か月で、採用拡大奨励金を活用した県内求人が91人分提出され、6人の既卒者が正社員となったほか、原則3か月間の試験雇用を経て正規雇用を行うと支給されるトライアル雇用奨励金では689人分の求人が集まり、既卒者41人が雇用された。なお、23年2月からは、翌3月卒業予定の新卒者も対象となり、雇用環境の厳しい本県においては、新卒者の就職決定率上昇に好影響を与えたといえる。
(2)就職支援員によるきめ細かな対応
「就職支援員」は、これまで新卒採用をあまり行っていなかった企業への訪問や、新卒者の採用を一時中断していた企業を訪問するなどして、求人の掘り起こしを行っている。主に、企業の人事労務担当の経験者や高校、大学等での就職支援の経験者、キャリアカウンセラーの資格を持つ人などが就いている。近年は、中小企業とのマッチングに力を入れているほか、就職に関する相談や職業紹介、職場定着などの支援も行っている。
各ハローワークに配置されている学卒ジョブサポーター、県教育庁高校教育課から各高校に配置されているキャリアアドバイザー、工業高校に配置されているものづくり支援員、秋田県商工会連合会が行っている小規模事業者向け求人コーディネーター設置事業など、名称は様々であるが、年々増員され、現在、支援員は高校・大学担当合わせて50名を超える。なお、今年度から高卒に比べて就職環境の厳しい大卒については、支援が強化され、支援員が増員された。
支援員同士でも、地区別の情報連絡会を開催して情報の共有をはかっており、担当する学校や地域に限らず、秋田県全体の就職決定率の上昇や新卒者の職場定着に向けた支援を行っている。例えば、卒業を間近に控えても就職先の決まらない学生に対しては、各支援員の持つ情報を出し合い、希望に合う企業の情報提供に努めているほか、一般求人の中から希望する業種、職種を探し出し、新卒者でも応募させてもらえるよう、企業と学生の橋渡しをするなど、きめ細かな対応も行っている。さらに既卒者についても、希望のある場合は、就職先の紹介や面接、試験に関するアドバイスを行うなど、大きな支えとなっている。
こうした取組みは、平成15年頃から活発化し、継続的な活動の結果、景気の落ち込みで、厳しい雇用情勢にありながらも、県内の新卒求人数が増え、就職決定率の上昇に繋がったものと考えられる。
3 雇用のミスマッチ
高卒の求人倍率についてみると、秋田県は全国平均を上回って推移しているが、平成4年の6.21倍をピークに低下が続き、23年は1.59倍となり、元年以降、最も低い倍率となった。県内、県外の内訳では、県外が2.25倍であったのに対し、県内は1.20倍で、県外に比べ県内就職は厳しい状況となっている。
最近では、少子化の影響から「子供を遠方に出したくない」、「自宅から通える会社に就職してほしい」など、親の強い希望もあり、県内就職希望者が増加傾向にある。地元志向が強まった結果、県内の求人倍率は年々低下が続いている。
大卒については、秋田県の求人倍率が発表されていないことから、リクルートワークス研究所の「ワークス大卒求人倍率調査」から全国平均値をみると、平成20、21年の2.14倍をピークに低下が続き、23年は1.28倍となった。
高卒、大卒ともに求人倍率の低下が続いているものの、倍率自体は1倍を超えており、統計上の求人数は、前述のとおり決して少なくはない。一般の有効求人倍率(23年7月現在)は、全国が0.64倍、秋田県は0.55倍と1倍を下回り、厳しい状況にあることから、企業は、中途採用を含む正社員の一般求人を抑制して、新卒者の雇用を守っているともいえる。
新卒者の県内求人数が増加し、求人倍率が1倍を超えているにもかかわらず、就職決定率が100%に満たず、新卒者の就職環境が、年々厳しさを増している背景には、雇用のミスマッチがあるといわれている。
(1)業種・職種のミスマッチ
県内の高卒新卒者に対する企業サイドからみた充足状況についてみてみると、全体の充足率は81.9%となっている。産業別では、製造業、卸売・小売業で高い一方、勤務時間や休日が不規則な飲食店、宿泊業や屋外での仕事である建設業で低くなっている。また、職種別では生産工程・労務、事務、販売で高い一方、介護を含むサービスや資格が必要とされる専門・技術・管理で低くなっている。従業者規模別では、従業者500人以上の企業では100%を超えているが、500人未満の企業では70%台となっている。
大卒については、都道府県別の産業別・職種別の求人数や充足率が発表されていないため、前出の「ワークス大卒求人倍率調査」によると、業種別求人倍率は金融業、サービス・情報業で低くなっているが、流通業、製造業では高くなっている。また、従業員規模別にみると、従業員1,000人以上の大企業では求人倍率が1倍を下回っているものの、300人未満の中小企業では4倍を超えている。
上記は、違う視点からの指標とアンケート結果であるが、高卒、大卒のいずれにおいても、産業、職種、規模において、例年どおり求人と求職のミスマッチがみられる。
当研究所が毎年実施している「新入社員アンケート調査」(23年4月調査)から、県内就職した人が就職先を選んだ理由(複数回答)についてみると、「仕事の内容」や「自分の能力を活かせる」といった自らの希望や適性から就職先を選んだ人が約6割を占めた一方、「会社のイメージ」や「人の勧め」で選んだ人も約7割となった。イメージや人の勧めで選ぶ傾向は、特に高校生で強く、約8割にものぼった。
学生や保護者の安定志向から大企業志望傾向が根強く、限られた企業に応募が集中するため、中小企業は採用したくても出来ない状況にあることがうかがわれ、また、就職先を選ぶにあたっても漠然とした理由から選択しており、勤務条件や体力面で負担の多い仕事は敬遠される傾向にあることが分かる。
他方、本県には大企業が少なく、業種や職種の選択肢も少ないため、県内に就職したくても希望が叶わないケースもある。根底には、県内就職希望者の受け皿企業不足という、本県が長年抱える産業構造の問題点がある。前出の「新入社員アンケート」では、県外での就職を希望したことのある人のうち、その理由について「地元より条件のよい勤め先があった」(27.2%)、「地元に希望する職種がなかった」(12.9%)が合わせて4割を超えた。
(2) 厳選採用による質的ミスマッチ
求人と求職のミスマッチから、企業は、新卒者を採用したくてもできない状況にある一方、近年は、採用基準を満たす学生がいなければ採用せず、採用予定数に満たなくてもよい、と考える企業もある。
大学進学率の上昇により大学卒業者数が増加し、学生のレベルが二極化している一方、企業は、不況が長引くほどに厳選採用姿勢を強めるため、採用基準を満たす事の出来ない学生が増加する。リーマンショック以降、大卒に限らず、高卒においても、その傾向が強まっている。採用予定数に満たなかった場合、企業は、再度求人を出すことが多く、そのため、実際の求人数、求人倍率よりも実情はさらに厳しく、企業の厳選採用による質的ミスマッチも、就職活動の厳しさを増す要因となっている。
4 キャリア教育の重要性
近年、働くことに対する若者の意識が変化している。卒業までに就職先が決まらなくても、自分の希望に合う仕事が見つかるまでゆっくり探せば良い、パートやアルバイトでも親と同居すれば生活の心配はない、などと考え、社会人になることや正社員として働くことへのこだわりと強い意志が不足している若者が増加傾向にある。
10年ほど前から始まった学生のインターンシップは、企業での就業体験を通して、仕事内容の理解や職業意識の向上、適正の確認に役立つものである。前出の「新入社員アンケート調査」によると、インターンシップは、高校生の92.4%、専門・短大生の55.6%、大学・大学院生の41.7%が在学中に経験している。これまで同様、受け入れ先の確保が必要となるほか、特に、経験割合の低い大学生については、インターンシップに関する情報提供機能を再整備する必要がある。また、企業側でも、学生へのアピールの好機ととらえ、積極的な採り入れが望まれる。
また、県教育庁高校教育課では、今年度から県内の全県立高校を対象に「ふるさとものづくり企業紹介事業」を実施している。この事業は、高校卒業後の進路希望に関わらず、高校1年生の早い段階から実施し、就職について考えるきっかけを提供している。地域に根差し、ものづくりに取り組む企業の紹介を通して、卒業後の就職先として考え、いずれは故郷秋田を支える人材に成長してほしいとの願いが込められている。
こうしたキャリア教育は、県内企業と本県産業への理解を深める場にもなるほか、企業での経験を通して、雇用のミスマッチ解消にも繋がると考えられる。
5 まとめ
厚生労働省による就職支援の強化や就職支援員による地道な活動が実績に結びついた。しかしながら現在、雇用の維持には補助金制度も不可欠な状況にある。新卒者の就職支援は、若年層の県外流出を防ぎ、最終的には、本県の少子化対策に通じるものである。秋田県の人口減少に歯止めをかけるためにも、今回の新卒者の就職実績アップが一時的なものとならないよう、本県産業を支える人材育成の一層の強化と息の長い支援が望まれる。
(佐藤 由深子)