機関誌「あきた経済」
県内ドラッグストア業界の動向について
ドラッグストア業界の拡大が続いている。平成22年における秋田県内での売上高は約384億円と、この10年間で5.7倍に拡大している。ドラッグストアは良好な立地を選んで出店し、手ごろな価格で生活必需品を売り出すことで集客力を高め、店舗網の拡大と売上高の増加を実現してきた。
一方で、課題も抱えている。他業態との競争激化が将来的に予想されるほか、業界が目指している調剤部門の強化も一筋縄ではいかない状況にある。本稿では、県内ドラッグストア業界の動向を調剤薬局の動きも交えて、まとめた。
ドラッグストア(以下、「Dg.S」)の定義は、総務省によると「医薬品、化粧品を中心とした健康および美容に関する各種の商品を中心として、家庭用品、加工食品などの最寄品をセルフサービス方式によって小売する事業所」となっている。Dg.Sの品揃えは医薬品から食品まで非常に多岐に亘っている。しかし、店内には雑然とした雰囲気は無く、消費者が違和感を持つことなく品物が整然と配置されている。売場面積は約210坪(全国平均)、この限られたスペースに消費者が生活する上で必要度の高い商品を手ごろな価格で効果的に配置したことが、業界の飛躍的な成長を支えたといえる。
1 全国の状況
(1)店舗数の推移
全国の動向を概観すると、Dg.Sの店舗数は大幅に増加している。平成22年(7月31日現在)の店舗数は9,238店となっており、10年前(12年7月)の3,769店舗に比べて2.5倍に拡大している。高齢化がますます進展するなかで、健康や美容に関する商品は需要が確実に増加すると見込まれたことから、出店は競合先の動向をにらみながら、加速度的に進んできた。
(2)売上高の推移
店舗数の増加に伴い、売上高も大幅に増加している。平成22年の売上高は約3兆7,225億円と、12年(約1兆4,665億円)に比べて店舗数と同じ2.5倍に増加している。1990年代以降、Dg.Sでは既存の医薬品と化粧品に加えて、ビューティケア(化粧雑貨や衛生用品)や日用消耗品、飲食料品など取扱品目を増やし、カウンセリングなどの顧客対応も強化した。その結果、消費者の認知度と来店頻度が格段に高まり、売上高も大きく増加した。2000年代もこの90年代の流れを基本的に引き継ぎ、品揃えとカウンセリングの強化に一層注力したうえで、出店攻勢を一段と加速させた。そして、既存の薬局・店舗販売業(薬店)および化粧品店、スーパー等との競争に打ち勝つことで、業界全体の売上高を大幅に拡大させた。その一方で、売場面積の急拡大と取扱品目の増加に伴い、1坪当たりの売上高は緩やかに減少している。
2 県内の状況
(1)店舗数の推移
県内においてもDg.Sの店舗数は大幅に増加している。平成23年8月31日現在の店舗数は79店で、12年(16店舗)の4.9倍になっている。増加の要因も全国的な動向と同様であり、本県においても、Dg.S各社がやや時期を遅らせ本格的に攻勢をかけてきている。
県内に進出しているDg.Sチェーンをみると、8月31日現在、ツルハドラッグ(本社:北海道札幌市)が41店舗で最も多く、薬王堂(岩手県紫波郡)が17店舗、スーパードラッグアサヒ(社名:㈱横浜ファーマシー、青森県北津軽郡)が9店舗と続いている。県内に出店しているDg.Sチェーンは、いずれも県外資本である。
(2)売上高の推移
売上高も大幅に増加している。平成22年の売上高は約384億円と、12年(約67億円)の5.7倍となっている。ただし、近年は、Dg.S各社が出店場所を厳しく選別し店舗展開していることから、1坪当たり売上高はおおむね横ばい圏内で推移している。
3 ドラッグストアの商品構成
Dg.Sが取り扱っている商品構成は、業界全体としてみれば。Dg.Sの名のとおり、医薬品を中心に販売している店だが、一般用医薬品18.0%、調剤8.5%と売上高に占める医薬品の割合は1/4程度と多くない。むしろ、化粧品17.9%、食品16.6%、日用消耗品11.6%、ビューティーケア(化粧雑貨や衛生用品、ヘアケアなど)9.6%となっており、医薬品以外の売上が圧倒的に大きい。
上記の商品構成からも分かるように、Dg.Sが競合関係にある業態はスーパーである。生鮮食品は扱っていない(もしくは少ない)ものの、食品から日用消耗品、化粧品まで、商品と価格帯はほぼ近似している。スーパーほど混雑せずに(行列ができない)、手軽に多様な商品を買えることも消費者の支持を集めた一因といえる。
4 今後の課題
(1)薬事法改正に伴う競争激化
前述のとおり急激に成長したDg.S業界であるが、課題も抱えている。
第一に、薬事法改正に伴う他業態との競争激化がある。平成21年6月、改正薬事法の施行により一般用医薬品の販売方法が大きく変わった。このうち、特にリスクが高い第1類医薬品は薬剤師だけが取り扱い、第2類および第3類医薬品(一般用医薬品の95%以上が該当)は薬剤師および登録販売者が取り扱うこととなった。登録販売者とは薬事法改正により、薬剤師とは別の専門家として新設された資格である。
これにより、従来、薬剤師および薬種商にしか認められていなかった医薬品の販売が、登録販売者を雇用することでスーパーや家電量販店などの異業種においても認められることとなっている。(ただし、県内の現状においては、スーパー等が登録販売者の募集を行っているものの、本格的に販売を強化している状況には至っていない。)
業界内ではこの点に関して、消費者の間に、医薬品の販売は薬局・店舗販売業(薬店)、Dg.Sが専売分野であるとの認識があるため、スーパー等が参入可能といっても、購入客がすぐに集まる訳ではないとみている。加えて、薬事法改正以前でもスーパーのテナントとして薬店が多数営業しており、実際のところ従来と変わらないとの声もある。現状では、あくまでも潜在的な競争相手との位置付けと考えられる。
(2)調剤部門の強化
人口減少などから小売全般のマーケットが縮小し、既存の店同士の競争が激しくなっている。このような状況において、Dg.Sは更なる売上の拡大を実現していくため、調剤部門の強化に乗り出している。やや古い資料であるが、平成19年の商業統計(品目別)によれば、県内の医療用医薬品の販売額は約582億円と、一般用医薬品(約139億円)に比べ圧倒的に大きい。
ただ、調剤を強化するうえで問題もある。第一に、県内では薬剤師の確保が難しい現状がある。処方せんの受付枚数に応じた人員態勢および薬歴簿への記録、患者への説明資料の準備など、調剤に関してはこれまで以上に人手が必要となっている。このため、調剤薬局の大手チェーンやDg.Sは人員の確保へ動き、その結果、給与面で待遇の良い首都圏等に薬剤師が流れる状況が生じた。加えて、県内には薬学部が無いため、薬剤師を志望する学生がもともと少ないという地域的な要因もある。このほか、薬学部が18年度に4年制から6年制へ移行したため、平成22年度と23年度に限っては、卒業者が極端に少なくなることが影響した。ただし、この状況も、平成15年度以降の私立大学薬学部における新設ラッシュなど(学科新設・定員増)の要因から薬剤師資格保有者の大幅増という状況が生じる見込みであり、数年後には不足は解消すると、業界関係者はみている。
第二に、調剤に関する消費者の認知度不足も、問題となっている。県内で調剤を行っているDg.Sは全部で5か所ある。しかし、Dg.Sでの処方せん医薬品の受け取りが一般的になっているとは言い難く、消費者(患者)は病院や診療所近くの薬局で医薬品を受け取ることに慣れている。業界内では将来的に、Dg.Sで化粧品や日用品等を購入している客層は処方せんも同じ店で受け取るようになると期待しており、処方せんをポイントカードの対象にするなど、時間をかけながら調剤併設型Dg.Sの認知度を上げる試みを行っている。
(3)商圏人口の高齢化・減少
商圏人口の高齢化・減少は、小売業界全体では大きな課題であるが、Dg.S業界にとって、高齢化は追い風として働いている。高齢化により、医薬品の需要が大幅に増加したうえ、主要顧客である中高年・シニア層の人口は急減しないと見られている(他の年齢層では急減している)。さらに、最近の60歳代は以前と異なり、健康面に留意する傾向が強い。このようなことから、Dg.S各店は生活習慣病向けの漢方薬や健康食品の充実などを通じ、中高年・シニア層のニーズを開拓している。
一方、人口減少は大きな懸念材料である。平成17年と22年の人口を比較したものであるが、県内は全体で5.1%減、地域別には県北で6.9%減と減少が著しい。Dg.Sは、商圏人口が1~2万人とされているが、今後の推移次第では出店動向と相まって、商圏人口1万人を割り込む店も出てくる可能性がある。
Dg.Sも小売店である以上、スーパーやコンビニ、薬局・薬店等との競争に勝ち、より多くの消費者を獲得していくことが求められる。そのためには、今の競争力のある品揃えを維持したうえで、新たな顧客を獲得するための施策を行う必要がある。県外のDg.Sチェーンでは介護事業などを開始し、店舗の隣にデイサービスセンターを設置したうえで、デイサービスの利用者を丸ごと、調剤から小売までの顧客として抱えている例がある。
5 県内の調剤薬局の動き
これまでDg.S業界の状況をみてきたが、同業界は成長が著しく、かつ新分野にも積極的に攻勢をかけているなどの特徴がある。このようなことから、県内の薬局など医薬品小売業は、従来以上にDg.Sとの競合を余儀なくされると見込まれる。そこで、Dg.Sが行う調剤強化の影響を大きく受ける薬局の動きをまとめた。
(1)薬学管理料重視の経営
医療費の抑制傾向が続くなかで、Dg.S等との競争が予想される薬局であるが、収入安定のための対策として、情報提供および服薬指導などの“薬学管理料”を重視した経営に切り替えている。調剤報酬は、調剤技術料および薬学管理料、薬剤料など4項目に分類され、厚生労働省により保険点数が定められている。
現在、厚生労働省は高齢化が急速に進むなかでも病床数を確保していくために、高齢者の慢性期医療は、地域の病院・診療所を用いて施設および在宅主体で行うとの方向性を示している。このため、保険調剤の分野においても、○○指導料などの項目で保険点数を手厚く配分し、入院患者を病院から在宅あるいは住居系施設へと移転しやすい形で報酬を設定している。これらの措置により、薬局も服薬指導を強化している。
ただ実際に、情報提供あるいは訪問指導を行うといっても基盤となるものは日ごろからの信頼関係にある。そのためにも、薬剤師やスタッフの顧客対応力の向上は欠かせない。ある薬局では、「患者の顔と名前」を覚え、「声かけ」を店全体で励行している例もある。信頼関係の基礎を構築し、患者が安心して服薬できるための取組みの一つといえる。
(2)多様な処方せんへの対応
薬局は従来から、門前薬局(病院や診療所の近隣にあり、その病院等の処方せんを主に対象とする)が多いことが課題と言われる。業界では、薬局が主眼とすべき処方せんは特定の病院から出されるものから、近隣地域の住民が持ち込むものへと切り替える、いわゆる面分業への取組みが必要だと言われ続けてきた。面分業の利点は、地域のお客様と常日頃より接することで、お互いの意思疎通が円滑になるうえ、かかりつけ薬局であるがゆえに患者の薬歴を網羅できることが挙げられる(網羅することで、薬の副作用や重複投与などが避けられる)。
持ち込まれる処方せんが特定の病院に限定されていれば、在庫とすべき薬剤の品目も少なくなる。しかし、面分業では近くに住む人が持ってくる処方せんを対象とするため、多くの種類の薬剤を準備する必要があり、在庫負担が重くなる。県内では対応策として、県薬剤師協会が中心となり、薬局同士が薬剤を相互に補完し合う体制が構築されている。これは、県内の医療機関の診察を受けて薬をもらう際に、院外処方の割合が高いため(平成22年度の処方せん受取率、秋田県:80.8%、全国平均:63.1%)、薬剤師側で早い時期から多様な処方せんに対応する必要に迫られ、体制の整備が進んでいたことによる。在庫負担の問題を解決していることは、今後、薬局が大手のチェーン店と競争していく上で大きな強みとなる。
これらの動きにみられるように、本県では一般用医薬品の販売は、Dg.Sなどの大手チェーンが強いものの、調剤に関しては、薬局側が地元主体で営業してきたことから顧客基盤が強固であり、優位にある。
6 まとめ
Dg.S業界は消費者が生活する上で必要度の高い商品を置くことで、店舗網の拡大を容易にし、売上高の増加を実現してきた。
拡大一途にあったDg.Sであるが、人口減少による小売市場の縮小、既存の小売店との競争激化などから、現状の商品構成のままでは売上拡大が達成できなくなっている。このため、業界では調剤部門を強化することで、更なる成長を実現しようとしている。
将来的に、Dg.Sが調剤部門を強化した際に、既存の調剤薬局との競争が激化すると見込まれるものの、現状は薬局側の取組みがかなり先行し、強固な顧客基盤を有している。このため、今後、Dg.Sが県内で調剤部門を強化するとしても、一筋縄ではいかない展開が予想される。
(片野 顕俊)