経営随想
業態変革で時代を乗り切る
(秋田印刷製本株式会社 代表取締役)
印刷の歴史は、西暦105年頃中国の蔡倫が製紙術を発明し、740年頃中国唐の玄宗帝時代に木版による文字印刷が始まったとされています。770年頃には日本にも技術がつたわり、法隆寺(奈良市)に残る世界最古の印刷物「百万塔陀羅尼経」が完成しています。1230年には朝鮮で銅鋳活字による世界最古の金属活字本「詳定礼文」が印刷され、江戸時代朝鮮から伝えられた銅活字により、徳川家康が中国の政治書「群書治要」等を印刷させた記録があります。そして、1447年ドイツのグーテンベルグが鉛鋳活字による印刷術を発明したことにより、印刷はメディアとしての地位を確立したのです。
わが国では版画による浮世絵や草紙として、粘土を利用した瓦版などが印刷の主流でありましたが、1870年に本木昌造によりわが国初となる洋式活字の活版印刷が行われ、1910年に中西虎之助がオフセット印刷法を日本に導入したほか、結城林造と伊東亮次により輪転グラビア版が試作されるなど、日本における近代印刷が急速に発展を遂げてゆくことになります。
戦後の1950年代にはカラースキャナーが登場して印刷のカラー化が進み、精密部品への印刷技術の応用によりICの生産に大きな貢献を果たしています。1960年代には電算写植システムや磁気カード印刷、1980年代にはCD-ROM・CD-I・光カード・電子出版等への印刷のマルチメディア対応が始まりました。この頃パソコンをベースとしたDTPが登場し、1990年代のフルデジタル化によるインターネット利用や、オンデマンド印刷・CTP等の導入による製造工程の革新が進んでゆきます。2000年代に入ってデジタル印刷という領域が確立され、カラー化が進むとともに可変データの出力が可能となり、印刷とデータ出力が一緒にできてしまう時代が訪れたのです。ところが、進歩は休むことを知りません。携帯電話やクレジットカードの請求書はネットで確認することとなり、携帯端末の進化により紙にインクで印刷した書籍は電子化が急速に進んでおります。
昨年で創業60年を数えた弊社の発展を簡単に紐とくと、昭和25年の創業当初は活版印刷によるモノクロ印刷の時代であり、活字を1本1本拾う(文選)作業や、印刷機に1枚1枚紙を手で送り込むなど、今から思えば実に悠長な仕事風景を思い出します。昭和40年代に入ると好況の波に乗り、印刷機の性能も急速に発展し続けます。弊社では大型の汎用コンピュータの普及を見越して、昭和44年に県内初のビジネスフォーム印刷機を導入したのです。当時の業界ではオフセット印刷機によるカラー印刷が主流になりつつあり、先駆者の少ない分野への取り組みは賭けともいえる選択でした。しかし、その後の業績発展の基盤を確立した時代であり、当時中学生だった私までも駆り出され徹夜の作業を手伝わされたものです。昭和56年に東京での大学生活と2年の修業を終え、都会での生活に後ろ髪をひかれながら秋田印刷製本に入社したわけです。
昭和60年代に入ると、パソコンによるデジタル化が急速に進み、製版設備の近代化が大きなテーマとなるのですが、コンピュータに関わる印刷物を製造していながら、パソコンが嫌いな親父と喧嘩をしながらも、平成5年には電子組み版・編集システムを導入しました。そして、デジタル技術の革新は印刷の分野に限らず、携帯電話・ゲーム機・通信・メディア等々、生活スタイルや文化にいたるまで影響を及ぼし発展を続けております。このことが、実は今後の業態変革を迫られる大きな要因にもなるのです。
パソコンが普及する前までは、印刷は印刷会社に頼む仕事として確立をしていました。ところが、パソコンで編集したデータがカラープリンターで出力できる環境が整うとともに、従来型の請負としての印刷業では成り立たなくなり、ソリューション・プロバイダーへの業態変革を遂げなければ、企業としての存続が危ぶまれる時代となったのです。
注)ソリューション・プロバイダーとは、クライアントや社会が抱える諸問題を、蓄積した技術やノウハウを持って解決する存在。
この10年間は私が社長に就任した歳月であり、まさにこれからの生き残りをかけた業態変革に取り組んできた期間です。工業統計でみると、1991年に8.9兆円あった印刷の出荷額は、2009年には6.1兆円となり’10年には6兆円を割ったと見込まれます。さらには、2006年までの市町村合併により、秋田県内の市町村は69から25へと減少しました。得意先の数が6割も減った中で人口の減少はさらに拍車をかけます。このことは、印刷業に限らず秋田のすべての産業に共通した問題です。
「何とかしなければならないけれど、何をしたら良いのかわからない」と思い悩む日が続くのですが、まずは「人財づくり」と「財務の強化」のために会社方針書を策定し、さらに広く情報を集めるために、全国印刷緑友会で知り合った同業経営者との勉強会にも参加しました。参加者の環境は違えども同じ悩みを共有し、率先して改革に取り組む同志を得ることで、自分の置かれた状況を分析し、改善策をより具体的にしてゆくことに傾注しました。「人財づくり」は特許申請・商標登録による付加価値創造や、プライバシーマークやグリーンプリンティングマークの取得など、具体的な成果となっています。「財務の強化」もある程度のめどが立ち、仕事さえあれば黒字の経営ができるところまできました。
残すは仕事の創造、その第一歩が国から農商工連携事業の認定を受け、昨年より開始したあきたこまちの販売であります。“印刷会社が米を売る”という活動はインパクトがあり、一昨年の印刷業界における業態変革実践例としてグランプリを受賞、「単一農家米」をコンセプトとした「米飯生活」を商標登録し、個別農家のブランド化と2合の真空パック・筒型容器によるギフト商品開発は、ソリューション・プロバイダーの芽として成長を続けており、この活動を通して県内の特産品で優れたものに出会い、秋田には売れるものがまだまだたくさんあることを実感し、今後の更なる連携により大きな成果が期待できるものと、社員ともども新しい発見に心を躍らせております。
3月11日に発生した震災から半年が過ぎ、復興の兆しはまだまだ見えないものの、復興とは新しい時代の日本をつくること、長年の消費拡大という流れで忘れていた日本人の勤勉さや正直さという良さを見直して、ものづくりに励むことが日本の復活につながると確信しています。
安全で安心なものをつくり、製造(生産)への責任を明確にすることは、当たり前のことのようですが、今の中国をみていると大変難しいことだと分かるはずです。農業に接することで、印刷物もお米(農作物)も“つくる”という意味は同じで、工程管理・品質管理が重要であることに改めて気付かされました。
今こそ変革のラストチャンスと自覚し、行動を起こそうと決意を込めて、がんばろう!秋田。がんばろう東北。がんばろう日本。
会 社 概 要
| 1 社 名 | 秋田印刷製本株式会社 |
|---|---|
| 2 代表者名 | 代表取締役 大門 一平 |
| 3 所在地 | 〒010-1415 秋田市御所野湯本2丁目1番9号 |
| 4 電話番号 | 018-839-7554 |
| 5 FAX番号 | 018-839-9433 |
| 6 設立年月 | 昭和25年5月 |
| 7 資本金 | 3,000万円 |
| 8 年 商 | 5億4千万円(平成23年3月期) |
| 9 従業員数 | 54名 |
| 10 事業内容 | ビジネスフォーム印刷を主力に印刷物の製造、商品企画、デジタデータ加工・出力、あきたこまちの販売等 |
| ○ 特 色 | 金具やプラスチック等を一切使用せず、実用新案を取得した紙止め具のエコカレンダーやポケットカレンダーの製造販売。特許を取得したブック型透明ホルダーの製造販売をはじめ、商標登録・意匠登録等の知的財産権を活用した、製品開発に積極的に取り組んでおります。また、環境対策をはじめとするCSRへの取組みや、車いすの寄贈を10年間に27台実施するなど、社会貢献活動にも積極的に取り組んでおります。 |




