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経営随想

秋田スギのポテンシャル

矢部 三雄
(東北森林管理局 局長)

 「スギの人工林資源量日本一の秋田」という言葉をよく聞く。一方で、昨年は「製材用のスギ丸太が足りない」という声も聞いた。資源が沢山あるのに足りないとはどういうことなのか。統計データを足がかりに最近の秋田の林業、木材産業の状況をみてみたい。
 スギ資源量を林野庁の森林資源現況表でみると、平成19年時点での秋田県のスギ人工林面積は36万6千ヘクタール、立木の全体積を表す蓄積は9千2百万立方メートルでそれぞれ全国の8.1%、6.1%を占め、確かに堂々の1位だ。
 秋田に赴任して早々、男鹿国有林の100年生のスギ人工林を見に行く機会があった。それはヘクタール当たり蓄積が1,600立方メートルもあるというものだった。1ヘクタールで平均的な大きさの木造住宅40棟分に当たる木材を生産できる量となる。これまで人工林の蓄積は500立方メートルもあれば立派だと思っていたので、その数字に度肝を抜かれた。そして1,000立方メートルを超えるスギ人工林が県内各地にあることを知り、秋田がスギの生育に適している地域であることを実感した。では、スギ資源の多くを国有林が占めているのだろうか。実際にはスギの人工林蓄積のうち国有林のシエアはほんの28%に過ぎない。
 一方、木材・木製品製造業の出荷額を経済産業省の工業統計でみるとスギ以外の資源量が大きい北海道を除いて第8位、付加価値額に至っては第13位に甘んじている。この中には外材を使用している集成材工場などの出荷額も含まれているので、スギの出荷額、付加価値額は更に低い水準となる。
 また、農林水産省の木材価格調査でスギ丸太の価格をみると、今年の8月時点で1立方メートル当たり全国平均の11,800円に対し秋田では10,500円と低かった。震災の影響があるのではないかと震災前の価格をみたが同様の傾向だった。
 こうしたデータから分かってくるのは、秋田のスギ人工林資源が十分に活用されていないのではないかということだ。量的にだけではなく価値的にもである。スギ丸太の価格が全国に比べて低ければ、森林所有者の伐採意欲が阻害され、十分に資源が供給されない。しかし、それは利用できる資源が温存されており、やり方によっては大きなビジネスチャンスになるということでもある。
 県内のスギ丸太生産量は平成12年から14年の50万立方メートルを底に増加しており、平成22年は前年を26%も上回る80万立方メートルとなった。温暖でスギの成長が早い宮崎県の140万立方メートルには遠く及ばないが、丸太生産者は高性能機械の導入などによって生産性向上に努め生産量を伸ばしている。
 課題となるのは製材加工段階での生産性だ。県内の木材関係者からは、製材用丸太が手に入りにくいのは「丸太生産者が国有林に張り付いて民有林の仕事ができない上に、国有林の丸太はほとんど合板工場に流れてしまうからだ」と言われる。ところが、国有林からのスギ丸太生産量は全体の2割ほどしかなく、それで全ての丸太生産者の仕事を独占できるはずもない。先ほども述べたように秋田のスギ丸太はそれなりに供給されてきている。
 なぜ「足りない」となるのか。確かに合板用には丸太生産量の4割ほどが供給されている。合板用として運ばれていくトラックの積荷丸太を見ると、長さは合板用として2mに短くしてあるものの、本来、製材用に十分に利用できる丸太も多いようだ。丸太生産者にとっては、製材用に供給するよりも合板工場に持ち込んだ方が有利と判断しているのだろう。
 秋田の製材加工段階では、現在までコスト増加分を生産性で吸収できず、丸太の購入価格を低く抑えることで対処してきたのではないか。結果、全国に比べて低い価格でしかスギ丸太を購入できなくなった。こうした価格水準にまでなれば、合板など他分野でスギを利用しても採算が確保される状況になるし、管外の製材工場が運送費を負担してまで買い付けに来ることができるようになる。これらが製材用のスギ丸太が足りないと感じた理由ではないだろうか。身近なところで流通していたスギ丸太が違う流れになったということだろう。
 今後、秋田スギ資源の活用に向け、製材段階での生産性の向上は不可欠である。それは原料であるスギ丸太の確保という意味でである。
 来年には懸案だった大型製材工場が操業されると聞く。生産性アップで加工コストを抑え、他地域より、他分野より少しでも高く民有林の丸太を購入いただくことを期待したい。それが事業継続の前提であり、秋田の森林を元気にすることにも繋がる。行政が特定の木材事業者を支援するのは森林が健全となりその恩恵が広く県民に及ぶからである。
 また、この工場のスギ丸太消費量は全国有数の規模となるようだ。そうなると製材品の生産量もかなり増加するので、その販路も従来のものだけでは到底おぼつかないと思われる。乾燥の徹底と他の追随を許さない商品力の強化による新たな販路の開拓がポイントとなるだろう。人口減少局面に入った我が国における住宅着工数の減少傾向と乾燥材や集成材、合板などの工業製品化木材へのニーズの高まりの中での販路の拡大は至難の道とは思うが。
 他方、スギ集成材に対する需要の高まりから、外材の集成材を生産してきた県内企業もスギ集成材の生産を模索している。しかし、集成材の材料となるスギ挽き板であるラミナの県内供給能力は十分ではない。通常、別の製材工場からラミナを調達するのは品質に対する責任の所在が不明確となるので、よほどの信頼関係が無い限りうまくいかないと聞く。このため、他地域ではその多くを集成材メーカー自らが確保している。佐賀県伊万里市の西九州木材事業協同組合や熊本県あさぎり町の協同組合くまもと製材も集成材メーカーを核とした協同組合だ。やはり直営あるいは事業提携によるラミナ生産が現実的な方向と考える。
 スギ丸太供給のロットの大きさを確保できる国有林としては、こうした新たな分野での秋田スギの利用に対して大いに関心を持っていきたい。
(平成23年9月20日記)

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