機関誌「あきた経済」
「日本海側拠点港」としての秋田港
秋田港が、今般、国土交通省による「日本海側拠点港」の1つに選定された。拠点港形成の主目的には、「日本海側港湾の競争力を強化して、地域の経済発展に貢献すること」という項目も掲げられており、県が現在推進中の秋田港整備事業は、今後その趣旨に沿って国の優先支援を受けられることになる。外港地区へのクレーン追加や新コンテナターミナル建設工事も、明年の供用を目指して愈々進んできた折から、これを機に港湾設備と機能の整備をさらに急ぎ、秋田港が環日本海貿易における物流拠点として大きく飛躍できるよう、地域の総力を尽くす必要があろう。
1 拡大する秋田港の貿易取扱量
秋田港の貨物取扱量が、順調な増加傾向をたどっている。2008年の取扱量は576万トンで、これは東北の港では仙台塩釜港、小名浜港、八戸港、相馬港に次ぐ5番目の規模に止まるものだが、最近における増加のピッチという面では、秋田港はそれらの中でもトップクラスに位置する屈指の港となっている。
これまでは、わが国の最大の貿易相手が長い間米国であったことから、東北においても北米航路を擁する太平洋岸の諸港が、勢い輸出入取扱の中核を担ってきた経緯にある。しかし、近年は中国との貿易量が急速に拡大し、2007年を境に日本の最大の貿易相手国は米国から中国に替わっている。さらに第3位の位置には韓国が並び、またロシアも今後はアジア太平洋地域との経済関係強化を軸に産業振興を目指す姿勢を明確にして、港湾や道路など沿海州のインフラ整備による交易機能強化に努めている。そうした事情から、今やわが国の貿易相手は日本海を挟んだ対岸地域がメインとなっており、日本海側の港湾がそれを担う主役、という様相が次第に濃くなってきつつある。
こうした流れに沿って秋田港の貨物取扱量も近年順調な増加をみているもので、その結果、韓国・釜山港およびそこを経由した中国等との国際定期コンテナ航路も、現在は3、4年前の2倍の週8便体制に拡大している。もとよりこれには、先の太平洋岸港湾の被災で代替港としての利用が一時的に増えたことや、原発に代わる火力発電の増加で重油等の燃料輸入が著増しているといった特殊事情もあるが、それでも、中国東北部や極東ロシアなど日本海対岸地域の経済発展余地は依然大きいことから、秋田港の輸出入取扱いも、引き続きさらなる拡大が見込まれる状況にある。
2 「拠点港」選定の趣旨
今般、秋田港が国交省から「日本海側拠点港」の1つに選定され、今後の地域経済振興の弾みになるものと期待が増しているが、これは以上のような背景のあることに加え、県や産業界、関係者が、国への働きかけに尽力を重ねてきたことの成果でもあろう。
そもそも拠点港形成の目的は、国交省が当初示した募集要領には「中国、韓国、ロシアなど対岸諸国の経済発展を、わが国の成長に取り込むこと」、「日本海側港湾の競争力を強化して、地域経済の発展に貢献すること」、および「太平洋側港湾の代替機能を持つネットワークを構築するとともに、防災機能を確保すること」等と記されている。
これは、国および地域双方の発展を図ることを目的に、わが国全体で「選択と集中(*1)」による港湾機能の強化と交易拡大を進め、その一連で日本海沿岸諸港から適切な先を「日本海側拠点港」として選定、優先整備を図っていく、という構想に基づくものである。
ただし、その一方で、本構想にはこうした推進の基本方向が示されつつも、日本海側港湾開発のグランドデザインや、具体的な支援範囲等が明確に示されているわけでもない。支援実施に当たっては、各々の地域が主体的に進めている振興計画をベースとして、それに従来の「重点港湾」指定(*2)による整備補助の要素も加味し、国が個々にバックアップしていく形が想定されているものと推測される。
従って、「拠点港」の看板を得たとはいえ、港湾機能強化と対岸貿易拡大による地域振興計画は、推進主体がこれまで同様地域自身であることに何ら変わりはない。何れ国の支援が優先実施されるとしても、それは地域の計画や推進努力に沿う方向で行われると考えられることから、本県としては、今回の指定をことさら当てに国の施策に頼り過ぎることなく、やはり自らの責任で「秋田元気創造プラン」に掲載した諸計画実現に邁進することが、引き続き基本になるといえよう。
(*1)(*2) 世界、特に東アジアにおける日本の港湾の競争力強化を図る趣旨で、重点的に投資・整備する港を2010年~2011年に次のように指定して体系立てたもの。
国際戦略港湾・・・京浜港(東京港、川崎港、横浜港)、阪神港(神戸港、大阪港)、名古屋港等
国際拠点港湾(旧 特定重要港湾)・・・全国で23港を指定
東北では仙台塩釜港、本州日本海側では新潟港、伏木富山港
重点港湾・・・・・・全国に103港ある重要港湾から43港選定、東北では秋田港、青森港、八戸港、大船渡港、酒田港、小名浜港
3 「拠点港」としての秋田港の課題
この度「日本海側拠点港」に選定された港湾19港である。「拠点港」の機能分野は全部で9つに分けられ、秋田港はこのうち「国際海上コンテナ」分野の「拠点港」に選ばれている。また、同分野の「拠点港」には9港が選定され、うち本州港湾は6港、その中にあって秋田港は、新潟(・直江津港)、伏木富山港に次いで、上位から3番目の比較的高い評価得点となっている。
しかし、他方において、新潟港と伏木富山港は「総合拠点港(*3)」としての選定も同時に受け、評価得点の差以上に秋田港より高いポジションに位置付けられている。さらに秋田港より得点下位の本州3港にしても、それぞれが「国際海上コンテナ」以外の他の分野においても「拠点港」として重複選定された(*4)。
そうした全体的な趨勢も含むと、今回の選定で秋田港は必ずしも国際港として先行き保障されたわけでもなく、高い評価点はむしろ今後の地域の取組如何に係るポテンシャル部分、と考えた方が適当なようにも思われる。従って、これら選定を受けた諸港に互して、せっかくの「拠点港」のチャンスを逸することなく地平を拓いていくためには、この後、秋田港は他の港湾以上に振興に尽力することが必要、ということにもなろう。
今回の拠点港応募に当たって秋田港のほか新潟港(・直江津港)、伏木富山港、及び境港が国交省にそれぞれ提出した計画書(国際海上コンテナ分野)の要点を比較してみると、例えば各港とも一様に「東アジアへのゲートウェイ」としての地位確立を目指していること、また、秋田港でいう「環日本海シーアンドレール」と同類のものを構想していること等、計画の基本部分はかなり似かよっており、さらにそうした一方で、一点、港湾の置かれた地理的環境に応じて計画規模に違いの出ていることに気が付く。
実際、新潟港や伏木富山港は、集荷圏域を関東や中京地域のほかそれぞれ仙台、大阪まで想定していることに対し、秋田港、境港は、各々東北地方や中国・瀬戸内海地方といった限られた地域が圏域の計画作成を余儀なくされている。港湾の背後圏の経済力の違いが計画規模の格差を生む一因となり、当然のこととはいえ、それが港湾の格付けにも大きく反映しているということであろう。
従って、秋田港の課題は一言に集約すれば、「環日本海の物流拠点として他に劣後しない発展を展望していくに当たり、大都市圏を背後に持たない限られた経済領域で、今後如何に取扱貨物量を有効に拡大していくか」、ということに尽きると思われる。
(*3)機能毎に募集・選定したが、その中で特に総合的に機能強化すべきと認定された港湾
(*4)秋田港が応募した分野は1つであったが、他の港は自港の基盤条件に鑑みて複数分野にわたって応募したことが背景。
4 今後の発展のために
この点に関しては、対岸地域が対象の貨物で東北一円に発生するものは、現在想定されている自動車(完成車)、同部品、農水産品、食品、環境関連等々につき、可能な限り多くを秋田港が賄えるようにする仕組み作りが、当面のステップとなることは言うまでもない。
そのためには、荷主にとっての港の利便性向上を図るという観点から、高速交通網の早期整備と秋田港へのアクセス改善、ダイレクト航路の開設など新航路誘致と便数増によるリードタイムの短縮、臨港鉄道の延長を含む港湾の設備・機能充実等々、従来から取り組みを進めているハード部分の整備計画を急ぐことが、まず大前提であろう。また、秋田港利用の利点を広く認識してもらうという趣旨では、ポートセールスやミッション活動が益々重要となり、さらに、今後は対岸地域との繋がりに厚みを加えるため、経済面のみならず文化面や技術交流面など幅広い分野に渡って交流の拡大を図っていく努力なども、求められてこよう。
なお、県内の集荷に関しては、現状でも地元発着貨物の秋田港利用割合が他地域の同比率に比べて高く(*5)、このため近々のうちに県内産業の取扱範囲内でさらに伸ばすには難しい面がある。港湾と地域の産業は、互いの発展を促し合う車の両輪であることを考えると、県内においては長期的視点から、例えば企業のグローバル化対応促進など「拠点港選定」を活かした産業強化を一層進める方向に、むしろ力を傾けるべきと思われる。
それがひいては秋田港の貨物量の安定的増加をもたらし、その港勢拡大が翻って県内産業の発展をさらに牽引する、という相乗効果を生む元となる。もとより、こうした方向は本県の長期総合計画である「秋田元気創造プラン」が本来目指しているところでもあり、従って、我々は先に定めた本プランの道標に従って着実に歩を進めていくことが、今、何より重要であるといえよう。
(*5)秋田県内発着のコンテナ貨物のうち秋田港を利用するものは輸出58%、輸入86%で、他の東北各県より大きな割合である。(国交省:「平成20年度全国輸出入コンテナ貨物流動調査」)
(高橋 正毅)