機関誌「あきた経済」
新年県内景気見通し
昨年の国内景気は、年初は、前年秋口からの足踏み状態から脱しつつあったが、東日本大震災(以下「震災」という)による生産設備の毀損、サプライチェーンの寸断、電力供給の制約から、生産面で大きな影響を受け、大幅な後退を余儀なくされた。また、マインドの悪化による消費抑制の影響が多業種に及び、4~6月の実質経済成長率は前期比年率換算マイナス2.1%となった。しかし、年央以降、サプライチェーンの復旧による輸出拡大や自粛ムードの緩和による個人消費の持ち直しなどにより、7~9月の実質経済成長率はプラス5.6%とプラス成長に転じた。その後、欧州債務危機に端を発した世界経済の減速や歴史的な円高に加えて、タイの洪水の影響もあり、「持ち直しの動きが一服し、足踏み状態」(日銀)のまま越年した。
秋田県の景気も、ほぼ同様の傾向で推移し、年央以降全体として緩やかな持ち直しに転じたが、年末にかけて主力の電子部品の生産が鈍化したほか、公共工事の減少、家電販売の落ち込みなどもあり、製造業、非製造業とも、先行きの見通しについて厳しい見方が増えている。
県内の主要な業界団体からご協力いただいたアンケート結果も踏まえて、国内および県内景気の現況と新年の見通しについてとりまとめた。
1 国内経済の見通し
(1) 国内景気の先行きについて、内閣府と日銀の判断は次のとおりである。
a 内閣府『月例経済報告』(23.12.21)
「各種の政策効果によって、景気の緩やかな持ち直し傾向が続くことが期待される。」
b 日銀『当面の金融政策運営について』(23.12.21)
「当面、横ばい圏内の動きとなるとみられるが、その後は、新興国・資源国に牽引される形で海外経済の成長率が再び高まることや、震災復興関連の需要が徐々に顕在化していくことなどから、緩やかな回復経路に復していくと考えられる。」
(2) ただし、国内および世界景気の先行きのリスク要因についても、次のとおり指摘している。
a 内閣府『月例経済報告』
「電力供給の制約や原子力災害の影響に加え、欧州の政府債務危機などを背景とした海外景気の下振れや為替レート・株価の変動によっては、景気が下振れするリスクが存在する。また、デフレの影響や、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。」
b 日銀『当面の金融政策運営について』
「欧州ソブリン問題は、欧州経済のみならず国際金融資本市場への影響などを通じて、世界経済の下振れをもたらす可能性がある。米国経済については、バランスシート調整の影響などから、減速が長引く可能性がある。新興国・資源国では、物価安定と成長を両立することができるかどうか、なお不透明感が高い。海外金融経済情勢を巡る以上の不確実性が、わが国経済に与える影響について、引き続き注視していく必要がある。」
(3) 国内総生産(GDP)成長率(24年度)
政府の名目GDPの見通しは、欧州債務危機の安定化や震災からの復興需要による民需の高い伸びを前提に、1%台後半とする民間予測が多い中で、2.0%としている。
[政府の経済見通し(23.12.22)] [単位:%]
23年度実質GDP△0.1%、名目GDP△1.9%、消費者物価△0.2%
24年度実質GDP2.2%、名目GDP△2.0%、消費者物価0.1%
(注)23年度は実績見込み、24年度は見通し。
(4) 「日銀短観(企業短期経済観測調査:23.11.14~23.12.14)業況判断指数―全国」
全国の中小企業(5,530社。うち製造業1,994社、非製造業3,536社)の業況判断指数(「良い」企業―「悪い」企業)をみると、昨年12月時点の業況は、昨年9月時点での「先行き(23年12月)」見通しに比べて、やや改善傾向となった。ただし、「先行き(24年3月)」については、「悪くなる」と予測する企業の割合が昨年9月よりも多くなり、今後厳しい状況続くと見込む企業が多いことを示している。
(5) 24年の景気下振れリスクの大きな要因である「欧州の債務問題」の抜本的解決は早くても年央と見られており、24年前半の国内景気は、先行き不透明感による世界経済の減速の影響を受けて、輸出による景気牽引も期待できないため、回復の足取りは復興事業の進展に依存することとなる。
震災復興対策に投じられる資金は、2011年の3次にわたる補正予算と24年度予算を合わせて約18兆円である。24年度のGDPプラス予測は復興需要に支えられて景気が回復することが前提となっているものであり、復興事業の早期執行・加速によって、効果の早期出現をはかる必要がある。
なお、年後半には、復興事業の本格化とともに、世界経済の下振れリスクが薄まり、海外経済の持ち直しによって輸出が回復し、国内景気は緩やかな景気拡大に向かうものと見られる。
2 県内経済の見通し
(1) 日銀県内短観(企業短期経済観測調査:23.11.14~23.12.14)「業況判断指数―秋田県」(162社―うち製造業57社、非製造業105社)
昨年12月時点の業況は、昨年9月より製造業は2ポイント悪化したが、非製造業の3ポイント改善(9月時点の12月予測に比べると6ポイント トの改善)を受けて、全産業でも1ポイント改善した。
しかし、製造業については、昨年9月時点で3か月後の12月は「良くなる」と見ていた企業の割合が高かったが、12月時点では「悪い」とする企業の割合が高い結果となり、この間の製造業の業況低迷・後退を表わしている。
また、本年3月時点の業況予測についても、全産業、製造業、非製造業とも、「悪い」と見る企業の割合が増え、全国同様、昨年9月時点の業況よりも悪化するとの見方となっている。
なお、鉱工業の生産量を表わす「鉱工業指数」(平成17年=100)の推移をみると、生産量については挽回がはかられている。
(2) 県内主要業界団体アンケート結果
a 「平成23年の業界の業況」および「平成24年の業界の業況見通し」
15団体から回答いただいた「平成23年の業界の業況」および「平成24年の業界の業況見通し」の結果は次のとおりである。
平成23年の各業界の業況については、「やや好況」が3業界に対し、「不況」と「やや不況」が合わせて10業界に達し、23年は総じて厳しい1年であったと言える。
また、平成24年の各業界の業況見通しについては、「悪化」と「やや悪化」と見る業界が4業界ある一方、「やや好転」とする業界が6業界あり、二極分化となっている。
ただし、平成23年の業況が「不況」と「やや不況」の10業界の平成24年の見通しを見てみると、「やや好転」と見込める業界が4業界あるのに対し、さらに「悪化」または「やや悪化」と見込まざるを得ない厳しい業界も4業界あるという対照的な結果となっている。
b 「平成24年の県内景気見通し」
自業界の業況見通しとは別に、「平成24年の県内景気見通し」についても回答いただいたが、その結果は次のとおりである。 「変わらない」とする業界が11業界に対し、「やや悪化」と見る業界は4業界で、「好転する」と見る業界はなく、県内経済全般については厳しい見方をしている。
c 「国内および県内経済・社会における重大関心事」
「業界の重要課題」に加えて、「国内および県内経済・社会における重大関心事」をお聞きした。(自由記述)
回答数の多い事項は次のとおりである。
①県内の人口減少、超高齢化社会への対策 (8業界)
②円高対策およびデフレ対策 (6業界)
③欧州の経済不安、EUの経済危機 (5業界)
TPPへの交渉参加、TPPと農業問題 (5業界)
④消費税増税動向、社会保障と税の一体改革 (4業界)
電力供給の確保、節電対策 (4業界)
これまで懸案とされながら先送りされてきた重要課題・施策のほか、大震災によってもたらされた新たな課題、23年に新たに発生した課題・施策、等々多岐にわたる関心事(=課題)が寄せられた。
どれも重い課題であるが、『ふるさと秋田元気創造プラン』の下、産学官あげて復興需要を取り込んで、景気回復・拡大につなげていきたい。
(松渕 秀和)




