トップ機関誌「あきた経済」トップ秋田県の高年齢者雇用の現状

機関誌「あきた経済」

秋田県の高年齢者雇用の現状

厚生労働省では、平成18年度より、65歳まで高年齢者の雇用を確保するため、企業に「定年の引き上げ」、「継続雇用制度の導入」、「定年の定めの廃止」のいずれかの措置を講じるよう義務付けている。秋田労働局が最近まとめた「高年齢者の雇用状況」によると、希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は、秋田県が全国で2番目に高い結果となった。高齢者を積極的に雇用する企業が増え、県内の高年齢者雇用態勢は着実に進展している。一方で、65歳までの雇用義務化や年金支給開始年齢の68歳引き上げなどの議論が広がっている。本稿では本県の高年齢者雇用の現状について概観する。

1 はじめに

 昨年10月、平成22年国勢調査の確定値が公表され、同年10月1日現在の秋田県の高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は29.6%となり、全国で最も高くなった。県内人口の減少傾向に歯止めがかからない一方で、高齢者が増加することにより、今後も高齢化率は上昇を続けるとみられる。国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、42年には本県の高齢化率は40%を超え、2.5人に1人が65歳以上の高齢者となる。
 本格的な高齢化社会の到来を目前に控え、秋田県が取り組まなければならない課題は多い。医療、福祉、介護、雇用など高齢化対策は多岐に渡り、いずれも容易に解決できない難題ばかりである。
 そうした中、秋田労働局がまとめた「高年齢者の雇用状況」(平成23年6月1日現在、従業員31人以上の企業)によると、希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は、秋田県が全国で2番目に高い結果となった。働く意欲のある高齢者を積極的に雇用する企業が増えており、雇用面における対策は着実に進展している。

2 原則65歳まで雇用確保の義務付け

 厚生労働省では、少子高齢化の急速な進展や年金支給開始年齢の引き上げ等を踏まえ、企業に対して原則65歳まで労働者の雇用を確保するよう義務付けている。
 平成18年4月に「改正高年齢者雇用安定法」が施行され、65歳未満の定年の定めをしている企業は、①「定年の引き上げ」、②「継続雇用制度」(希望者を定年後も引き続き雇用する制度)の導入、③「定年の定めの廃止」のいずれかの措置を講じなければならない。
 「定年の引き上げ」、「継続雇用制度」の導入等の年齢については厚生年金の支給開始年齢引き上げ(定額部分)に合わせて、25年度までに段階的に引き上げられており、今年度における雇用義務対象年齢は64歳となる。

3 65歳以上まで希望者雇用、全国第2位

 秋田県の高年齢者雇用確保措置の実施状況をみると、前述①~③のいずれかの措置を講じている雇用確保措置導入企業の割合は、96.5%(1,234社/1,279社)となった。一部の企業(45社)では、まだ未実施となっているが、県内の多くの企業は雇用確保措置が講じられている。また、65歳以上まで希望者全員が働ける企業の割合は、58.8%(752社/1,279社)となり、岐阜県の60.0%に次ぎ、三重県と同順位の全国第2位となった。平成25年度には雇用義務対象年齢が65歳となるため、前倒しで希望者全員の雇用に取り組んでいる企業が多くみられる。さらに、70歳まで働ける企業の割合は、15.5%と全国計の割合(17.6%)を下回るものの、県内には198社ある。このように、県内の多くの企業では、年金受給開始年齢まで働くことができ、また、65歳以上まで希望者全員が働ける企業が全体の半数を超えるなど、着実に高年齢者雇用態勢が整ってきている。
 一方、東京都の実施状況をみると、雇用確保措置導入企業の割合は、95.0%(22,818社/24,022社)と全国計をやや下回る程度だが、65歳以上まで希望者全員が働ける企業の割合は、38.2%(9,176社/24,022社)と全国最下位である。この割合は、全国的に大企業が集中する大都市圏が低く、中小企業の多い地方が高い傾向にある。東京都の割合が低い要因として、地方に比べ大企業の数が多いことがあげられる。65歳以上まで希望者全員を雇用することにより、賃金面において企業の負担が大きくなると考えられ、企業規模が大きくなるほど、高年齢者雇用態勢の整備が難しくなる一面が窺える。

4 県による高年齢者雇用の普及活動

 県では、高年齢者雇用に顕著な取り組みを行っている事業所に対して、毎年「高年齢者雇用優良事業所知事表彰」の授与を実施しており、今年度は「医療法人緑陽会 笠松病院」(秋田市)が選ばれた。
 この知事表彰は、県で定めた一定割合以上の高年齢者を雇用していることや、65歳までの希望者全員を対象とする継続雇用制度が導入されていることなど、高年齢者の雇用態勢が整っていることが要件となる。
 県によるこうした活動は、企業に高年齢者雇用確保措置の早期導入を促すとともに、高年齢者がより働きやすい職場環境の改善や高年齢者の雇用機会の拡大にも繋がる。また、高年齢者の雇用を確保することで、長年の勤務で培われた技術や経験を後進の指導・育成に繋げていくことができ、企業側にとってもメリットがあると言えよう。

5 労使協定による基準の定め

 秋田県の雇用確保措置実施済み企業のうち、8割以上の企業は「継続雇用制度」(1,016社)を導入しており、「定年の引き上げ」(184社)や「定年の定めの廃止」(34社)を実施している企業は少ない。この「継続雇用制度」は、原則として、希望者全員を定年後も継続して雇用しなければならない。しかし、希望者全員を対象としない制度も認められているため、労使協定により基準を定めた場合(※1)は、継続雇用されないケースが発生する。
 定年到達者の離職者数・継続雇用者数等をみると、本県および全国の定年到達者のうち約75%は、継続雇用を希望しているが、本県では18人、全国では7,623人もの労働者が継続雇用を希望したにもかかわらず、離職を余儀なくされている状況にある。
 平成25年には、厚生年金の定額部分の支給開始年齢引き上げが完了し、同時に報酬比例部分についても引き上げが開始される。同年4月以降に60歳定年に達し、継続雇用されない労働者の一部には、給料も年金収入もない収入の空白期間が生じる。最近では、厚生年金の支給開始年齢を段階的に68歳まで引き上げる案も議論されているが、この案が仮に実現した場合、収入の空白期間はさらに延びることになる。(※1)各企業の実情に応じ、労使納得のうえで策定する。基準例:①働く意思・意欲②勤務態度③健康④能力・経験⑤技能伝承等その他

6 まとめ

 厚労省では現行法をさらに改正し、基準の廃止により希望者全員の65歳までの雇用確保を完全義務化する検討を始めているが、義務化については、高年齢者の人件費負担が増加するほか、新卒や若年層の採用抑制に繋がるとして企業側の反対意見も多い。
 こうした制度の改正論議を機に、年金制度の抜本的な改革や社会保障と税の一体改革に真剣に取り組み、本格的な高齢化社会の到来に備えた社会づくりを急ぐ必要がある。
 秋田県の高齢化率は全国で最も高くなった。制度いかんにかかわらず、働く意欲のある高齢者を積極的に雇用するなど、県民が一丸となってあらゆる高齢化対策に取り組み、高齢社会モデル先進県として全国をリードしていかなければならない。

(山崎 要)

 

あきた経済

刊行物

お問い合わせ先
〒010-8655
 秋田市山王3丁目2番1号
 秋田銀行本店内
 TEL:018-863-5561
 FAX:018-863-5580
 MAIL:info@akitakeizai.or.jp