機関誌「あきた経済」
秋田県の新車販売の状況について
秋田県における平成23年の新車販売台数は、40,596台と前年実績を14.4%下回る結果となった。同年は東日本大震災の影響による部品供給網の寸断やエコカー補助金の反動減など、販売に関しては特殊な要因が重なった年であった。さらに、過去5年間の推移をみると、本県の販売水準は大きく低下している。所得環境の悪化、人口の減少、自動車の使用年数の長期化、輸送貨物数量の減少などがその要因として挙げられる。
今後の見通しにおいても人口の減少が続き、所得環境も大きく好転することは期待できないことから、業界は厳しい販売環境のなかで、新たな対応を迫られることになると思われる。
1 全国における新車販売の推移
はじめに、全国の状況を概観すると、平成23年の新車販売台数は前年比15.1%減の421万台と大幅に減少、5年前の73%の水準にとどまる結果となった。
過去5年間を振り返った場合、販売に大きな影響を与えた事象が二つある。一つは、平成20年9月のリーマン・ショックに端を発した世界的な金融危機である。これは百年に一度の経済危機と言われ、消費全般が著しく低迷、新車販売も急落する状況に陥った。このため、政府がエコカー補助金などの支援対策を実施すると、その効果が極めて大きかったこともあり、新車販売は大きく回復する。しかしその後は、22年9月上旬の補助金終了により、再び販売が急減する結果となった。
いま一つは、東日本大震災の影響である。震災で製造工場、特に車載向け半導体の生産ラインなどに被害が生じ、部品の供給網が大きく寸断されたため、自動車の生産全体が大幅に落ち込む状況となった。さらに、経済社会情勢が一時的に大混乱に陥り、消費者が支出全般を引き締めたことから、新車販売も大きく減少した。20年9月以降の変化は極めて激しく、今も前年の反動という形で影響が続いている。
2 秋田県における新車販売の推移
秋田県の新車販売台数も大きく変動している。平成23年の販売台数(軽自動車含む)は、前年比14.4%減の40,596台と、前年実績を大幅に下回ることとなった。これは18年の8割弱の水準である。
本県では、国のエコカー補助金に先駆け、秋田県と自動車販売業界の連携(補助金の負担を県と民間で折半)により、県独自の補助金を実施し、21年7月以降、販売低迷からいち早く回復したほか、増加幅も国と県の補助金の相乗効果で全国よりも大きくなった。しかし、その後は全国と同様、補助金終了によって、販売が急落する状況となる。なお、現在は反動が一巡し、前年同期比でみると販売は回復しつつある。
3 販売減の要因
新車販売が短期的に大幅な増減を繰り返した原因は、上述のとおりエコカー補助金など政策的なものが大きい。しかしながら、販売水準を潜在的に大きく落ち込ませた要因としては所得環境の悪化、人口の減少、自動車の使用年数の長期化、貨物輸送数量の減少などの4つがあげられる。
(1)所得環境の悪化
まず、新車販売全体に極めて大きな影響を与える所得の環境が悪化している。平成20年度における秋田県の1人当たりの県民所得は229.7万円と18年度に比べて11.6万円の減少(4.6%減)となった。
新車は小型車もしくは軽自動車クラスでも100万円以上もする高額な耐久消費財であるうえ、購入後の維持費(自動車税・車検費用・自動車保険等)と燃料費も相応の額となり、1人当たりの県民所得の水準を考えると、非常に高価な買い物と思われる。このほか、現在の経済環境のもとでは今後も所得の増加があまり期待できないことも、ローンの利用などを躊躇させ、販売環境を冷え込ませる一因となっている。
(2)人口の減少
第二に、人口の減少である。県人口はこの期間に大きく減少している。人口減少は自動車の需要者の減少であることから、新車販売の減少に直結することになったと思われる。
そのうち特に、20~50歳代の人口が減少している影響が大きい。平成22年における自動車の運転免許保有者の年齢構成をみると、保有者全体692千人に対して、20~50歳代の保有者は481千人と69.4%を占める。12年には536千人(79.3%)であったことを考えると、過去10年で55千人ほど減少した計算となる。秋田県は女性の免許の取得率が高く、そのことが販売には比較的有利に働いているが、それでも自動車を使用する中心的な世代の人口が大きく減少しており、新車販売にはマイナスとして響いている。このほか、免許の取得率(原付含む)は従来と同水準であるが、16~24歳を中心とした若年層の人口が大きく減っていることから、同世代においても免許保有者が減少しており、販売水準の低下につながっている。
(3)使用年数の長期化
第三に、使用年数の長期化の影響もある。これは自動車の耐久性が向上したこと、また、所得環境の悪化により1台の自動車をできるだけ長く使おうとの消費者の意識が強まったことに起因する。各車種の平均使用年数をみると、平成23年における乗用車の使用年数は12年と比べると、2年半ほど長くなっており、販売に関してはマイナスに作用している。
(4)貨物輸送数量減少の影響
輸送貨物数量減少の影響もある。これは、主に貨物車の販売についてであるが、販売はこの10年間で約4割減の状況となっている(平成13年3,893台→23年2,361台)。さらに、輸送貨物数量が減少するなかで、軽油価格の高騰および県外事業者との競争激化、貨物数量の更なる減少懸念などの要因が加わったことも、販売の落ち込みを一段と加速させた。
4 県内の自動車保有状況
(1)乗用車の保有台数
新車販売は大幅に減少しているものの、乗用車保有台数は57.5万台と平成17年度に比べて約1,700台の微増(0.3%増)となった。自動車の使用期間の長期化により廃車される自動車も減少したことが影響した。
このほか、注目すべき動きとして、12年度以降の10年間で、乗用車の保有台数全体に占める軽自動車の割合が急激に増加したことがあげられる。これは所得環境の悪化や省エネ意識の向上、節約志向の高まりに伴い、消費者の需要が登録車から軽自動車へとシフトしたことが背景にある。なお、平成22年度末の車種別自動車保有台数を都道府県別に比較すると、保有台数全体に占める軽自動車の割合が最も高かったのは沖縄県で、最も低かったのは東京都であった。どちらかと言えばいわゆる地方で、軽自動車の割合が高くなる傾向がある。本県は44.4%と全国平均を上回っており、全国で19番目に軽自動車の比率が高い。
(2)貨物車および全体の保有台数
一方、貨物車の保有台数は大幅に減少する結果となった。これは、貨物車の販売が減少していることに加え、平成10年以前に販売された貨物車が年数の経過により廃車にされ始めてきたためとみられる。このようなことから、22年度の全車種の自動車保有台数は約81.0万台と17年度に比べて2.4%減の減少となった。
なお、平成22年度の県内市町村別の全車種の自動車保有台数を17年度と比較すると、全市町村で保有台数が減少している。特に人口の減少率が大きな地域において、保有台数も減少する傾向にある。
5 中古車市場の動向
中古車市場においても販売は減少傾向にある。販売減少の要因は基本的に新車販売と同じく、所得環境の悪化および人口減少などが挙げられるほか、中古車の流通量自体が落ち込んでいることも影響している。これまで新車販売台数は減少基調で推移しており、そのことが下取りされる自動車総数の減少につながっている。また、車の使用年数が全般的に長期化していることから、下取り車においても走行距離が長距離化もしくは車齢が上昇しており、ユーザー向けに販売できる中古車が以前よりも少なくなっている。
ただ、中古車の流通量が減少基調で推移しているが落ち込み幅は比較的少ない状況に止まっている。これはディーラー側が品質の高い中古車を比較的安い価格で仕入れることに注力しており、そのことが消費者に価格相応以上の価値があると判断され、底堅い販売につながっているとみられる。なお、平成23年(4~11月)に関しては、震災の影響により、業者間の転売が多くなったことで、県内ユーザー向けの販売は大きく減少する結果となった。
6 自動車販売店の取組み
新車販売の減少によって打撃をうけるディーラー業界であるが、各販売店は厳しい環境を克服すべく様々な対応を行っている。
(1)営業活動の強化
販売店各社は販売のテコ入れを行うべく、営業活動を強化している。このうち、昨年12月に第四次補正予算案へ計上されたエコカー補助金を活用する動きは強く、補助金の実施を見越して既存の顧客を再度洗い直し、特需を取り込もうとしている。エコカー補助金の支給額は10万円(軽自動車で7万円)。年間で販売が最も盛り上がる3月に向けて、良いタイミングで制度が復活される見込みである。各販売店では見込み先の掘り起こしなど、セールス活動を強化し販売台数の底上げに努めている。併せて、燃費性能の高い自動車およびハイブリッドや電気自動車、クリーンディーゼルなどの新型モデルの販売を重点的に行うことで、販売の回復に努めている。
(2)メンテナンス部門の強化
メンテナンス部門の強化も重要な取組みである。販売を増加に転じさせることが難しい状況のもと、高止まりしている自動車保有台数に狙いを定め、点検整備やオイル交換などで収益をあげていこうとしている。消費者が1台の乗用車を比較的長期間乗っていることから、故障や部品の交換などのメンテナンスの必要性が一段と強まっている。また、寒冷地の本県では大雪の時などに破損等ができやすいこともあって、販売店での修理に対する需要は根強い。
ただし、営業やメンテナンス部門での活動を強化しているものの、落ち込み幅の大きい販売を埋めるには力が不足し、各販売店とも新たな対策づくりに苦慮しているのが現状である。
7 まとめ
今後の推移を考えると、県内市場は引き続き縮小する公算が強い。そのなかで、難しいのは販売店の対応であるが、今後は、特に、需要増加が見込まれるEV車やHV車の販売力およびサービス提供力が個々の販売店の明暗を分けることになるものと思われる。いずれ、各メーカーの開発力と販売店の対応力が厳しく問われることになるであろう。
また、国外市場の開拓、特に「日本海側国際コンテナ拠点港」に選定された秋田港と極東ロシアの各港との定期航路就航を視野に入れて、中古車の販売や自社が持つ整備業務および保険やリースなどの優れたノウハウを海外の事業に結び付ける方策(自前か現地法人との連携かを含む)なども考えなければならない時期に来ているように思われる。
(片野 顕俊)